捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編   作:ローリング・ビートル

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青春の影 ♯38

 

「わぁ……」

 

 人混みの中に響く誰のものとも知れない感嘆の声。

 それが伝染していくように広がり、やがて大きな歓声となった。

 皆一様に空を見上げ、暗闇を照らす蛍のようなスカイランタンを見送っている。生まれて初めて見る光景のはずなのに、これにはどこか懐かしさがあり、つい感傷に浸ってしまいそうになる。

 それを押しとどめてくれるように、優しいメロディーが響いていた。

 今、浦の星学園の屋上では、Aqoursの6人が新曲を歌っている。

 浦の星存続への願い、内浦の良いところを伝えたいという想いが結ばれた歌が、スピーカー越しに、グラウンドに流れ、誰もが耳を澄ませていた。

 

 *******

 

 この数日間……マルはずっと悩んでいました。

 自分の胸の奥にある小さな温かい何かについて。

 それは触れようとしても触れられず、見つめようとしても隠れてしまう、とてもあやふやなものでした。

 でも、マルは決めました。

 この気持ちと向き合うことを。

 この気持ちの名前を知ることを。

 

 *******

 

「東京?」

「そうずら!未来ずらよ!未来ずらよ!未来ずらよ!」

「ずら丸、落ち着きなさい。田舎者と思われるわよ」

「そうだよ、花丸ちゃん。地下鉄とかが走ってて、スカイツリーがあるだけだよ」

「もんげ~~」

「また作品変わってるぞ」

 

 Aqoursは先日撮影したPVがかなりの再生数となり、それがきっかけで、東京で行われるスクールアイドルのイベントに呼ばれたそうだ。楽曲はもちろん、スカイランタンの演出も好評価のようだ。

 朝っぱらからテンションの高い3人に、柄にもなくエールを送りたくなってしまった。

 

「まあ、あれだ……応援する」

「……はいっ」

「…………」

「…………」

 

 視線を一番エンカウント率の高い花丸に合わせていたせいか、そのまま見つめ合う。くりくりした目はいつもと同じはずなのに、どこか違う何かに揺れている気がした。そして、彼女は微笑みは何だか大人びて見えて、その変化が何なのか、確かめたい衝動に駆られる。

 

「あぁ~~~~~もうっ!何よ二人して!!朝っぱらから!」

「善子ちゃん?」

「…………」

 

 津島が割り込んだことで、今が登校中だということを思い出す。いかん、何を考えてんだよ、俺は。

 もう一度花丸の方を見やると、その頬を薄紅色に染め、俯いた。

 その様子に一瞬、ほんの一瞬だけ胸が高鳴り、それを誤魔化すように、しばらくの間は今日も静かにたゆたう海を見ていた。

 

「……花丸ちゃん、もしかして……」

 


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