捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
それでは今回もよろしくお願いします。
いつも通り真っ直ぐ家に帰り、勉強を始めてから2時間くらいでチャイムが鳴った。
出迎えに玄関のドアを開けると、立っていたのは花丸一人だけだった。小柄な彼女はぽつんと立っていて、普段よりさらに小さく見えた。
「こ、こんにちは……」
「おう……あの二人は?」
尋ねると、彼女はもじもじしながら答えた。
「善子ちゃんは数学の補習ずら。ルビィちゃんは昨日の宿題の作文ができてなくて居残りずら」
「そ、そうか……」
「ずら」
「…………」
「…………」
小町もまだ帰ってこない。もちろん、親父と母ちゃんは絶賛社畜中だ。つまり……このままでは花丸と二人っきりになってしまう。
昨日からの気まずい空気は取り払われてない上に、彼女からも緊張が見て取れるので、今日はもうやめておいた方が……。
そこで花丸が口を開いた。
「あ、あの……!」
「?」
「じ、実は、今日スカイランタンを作る予定だったずらが、学校で先生達も乗り気になって……」
「……もしかして全部作った、とか?」
「ずら……授業も中断して、皆夢中になってたずら」
「…………」
まあ、最終的には大人からのチェックが必要なので、効率よく終わったといえばそれまでなのだが、何だこの肩透かし喰らった感じ……いや、別にいいんだけどさ。
まあ、何はともあれ今日は解散ということで……。
こちらが口を開こうとすると、花丸が割り込んでくる。
「あ、あのあの……!」
「どした?」
「こ、小町ちゃんからの伝言がありまして……」
彼女は制服の裾をぎゅっと握り締め、言いづらそうに続ける。
「今日はクラスメイトのお家に呼ばれてくるから、遅くなるそうです。帰りは送ってもらえるとか……」
「おう……そうか」
「な、なので……!」
一度俯いた花丸は、いきなり腹を据えたような表情になり、身を乗り出してきた。
「その……マルが八幡さんの晩御飯を作る、ずら!」
「……いや、晩飯は別にカップラーメンでも……」
「カップラーメン……未来ずら~♪じゃなくてダメずら!」
「い、今、食べたそうにしてなかったか?」
「してないずら、してないずら!八幡さんには栄養のあるものを食べて欲しいずら!」
「つっても、俺の家事能力は小学6年生レベルだぞ」
「オラが作るって言ったずら~……」
「…………」
「な、何ずらか?その疑わしそうな目は?オラは料理できるずらよ」
「……食べ専かと思ってた」
「ひどいずら~!おばあちゃん直伝の太巻きやおいなりさんは自信あるずらよ!」
「そ、そうか……」
「今日は別の物を作るけど、楽しみにしてて欲しいずら」
「……手伝いは?」
「いらないずらよ~。八幡さんは勉強してるずら。そ、それでは、お邪魔します……」
「あ、ああ……」
こうして、なし崩し的に花丸の手料理を御馳走になることになった。一抹の不安は残るものの、あそこまで自信満々なら……だ、大丈夫なはず!
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