捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編   作:ローリング・ビートル

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青春の影 ♯36

 いつも通り真っ直ぐ家に帰り、勉強を始めてから2時間くらいでチャイムが鳴った。

 出迎えに玄関のドアを開けると、立っていたのは花丸一人だけだった。小柄な彼女はぽつんと立っていて、普段よりさらに小さく見えた。

 

「こ、こんにちは……」

「おう……あの二人は?」

 

 尋ねると、彼女はもじもじしながら答えた。

 

「善子ちゃんは数学の補習ずら。ルビィちゃんは昨日の宿題の作文ができてなくて居残りずら」

「そ、そうか……」

「ずら」

「…………」

「…………」

 

 小町もまだ帰ってこない。もちろん、親父と母ちゃんは絶賛社畜中だ。つまり……このままでは花丸と二人っきりになってしまう。

 昨日からの気まずい空気は取り払われてない上に、彼女からも緊張が見て取れるので、今日はもうやめておいた方が……。

 そこで花丸が口を開いた。

 

「あ、あの……!」

「?」

「じ、実は、今日スカイランタンを作る予定だったずらが、学校で先生達も乗り気になって……」

「……もしかして全部作った、とか?」

「ずら……授業も中断して、皆夢中になってたずら」

「…………」

 

 まあ、最終的には大人からのチェックが必要なので、効率よく終わったといえばそれまでなのだが、何だこの肩透かし喰らった感じ……いや、別にいいんだけどさ。

 まあ、何はともあれ今日は解散ということで……。

 こちらが口を開こうとすると、花丸が割り込んでくる。

 

「あ、あのあの……!」

「どした?」

「こ、小町ちゃんからの伝言がありまして……」

 

 彼女は制服の裾をぎゅっと握り締め、言いづらそうに続ける。

 

「今日はクラスメイトのお家に呼ばれてくるから、遅くなるそうです。帰りは送ってもらえるとか……」

「おう……そうか」

「な、なので……!」

 

 一度俯いた花丸は、いきなり腹を据えたような表情になり、身を乗り出してきた。

 

「その……マルが八幡さんの晩御飯を作る、ずら!」

「……いや、晩飯は別にカップラーメンでも……」

「カップラーメン……未来ずら~♪じゃなくてダメずら!」

「い、今、食べたそうにしてなかったか?」

「してないずら、してないずら!八幡さんには栄養のあるものを食べて欲しいずら!」

「つっても、俺の家事能力は小学6年生レベルだぞ」

「オラが作るって言ったずら~……」

「…………」

「な、何ずらか?その疑わしそうな目は?オラは料理できるずらよ」

「……食べ専かと思ってた」

「ひどいずら~!おばあちゃん直伝の太巻きやおいなりさんは自信あるずらよ!」

「そ、そうか……」

「今日は別の物を作るけど、楽しみにしてて欲しいずら」

「……手伝いは?」

「いらないずらよ~。八幡さんは勉強してるずら。そ、それでは、お邪魔します……」

「あ、ああ……」

 

 こうして、なし崩し的に花丸の手料理を御馳走になることになった。一抹の不安は残るものの、あそこまで自信満々なら……だ、大丈夫なはず!

 

 




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