捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
それでは今回もよろしくお願いします。
携帯のアラーム音がいつもより大きく鳴り響く。
目を覚まし、アラームを切るが、カーテン越しに朝の光は見えず、まだ深夜と思える暗さだ。
身支度をのろのろと整えると、小町から声がかかる。
「あ、お兄ちゃん。おはよ~」
「おう、おはよう」
小町は俺よりも早く目を覚ましたのか、既にシャキッとした表情で、この早起きも全然へっちゃらのようだ。
爽やかな笑顔でこちらに手招きをしてくる。
「ほら、早く行こ」
「へいへい」
つい最近まで、遅刻しそうになったら、自転車の後ろに乗っけてやってた妹とは別人のような姿に、嬉しさ半分寂しさ半分の苦笑を送り、その背中を追って家を出た。
*******
夏が近くなると、内浦では海開きの為にゴミ拾いを行うらしい。
もうじき6月とはいえ、まだ夜明け前の風はひんやりとしていて、頬を撫でていく度に、目が冴えていくのを感じた。
「わあ、かなり集まってるね」
「……ああ」
砂浜まで到着すると、既に多くの人がゴミ拾いをしていた。学校指定のジャージを着ている者や、普段着のようなラフな恰好をしている者までいて、その中に見知った奴を何人か見つけた。
「あ、小町ちゃん、八幡さん!」
「やっはろ~」
「おう」
こちらに気づいた花丸と挨拶を交わし、俺と小町もゴミ拾いに参加する。
「じゃあ、俺はあっちの方を……」
「八幡さんはこっちずら」
さりげなく皆から離れた場所を担当し、さりげなくフェードアウトするという華麗な作戦だったのだが、花丸はあっさり見破った。見破ったか偶然かは知らんが。
「なあ、花丸……」
「どうしたずらか?」
「……いや、何でもない」
やはり本人に直接呼びかけるとなると、慣れてないので違和感がある。ていうか違和感しかない。
「八幡さん」
「?」
「ゆっくり慣れてくれればいいずらよ」
「……そうか」
「そうずら」
とりあえずまだ名前呼びに緊張しているのは許して貰えたようだ。てっきり「まだまだずら」とか言われると思っちゃったよ……。
「は~な~ま~る~!?」
そこで、やたら鳥の羽ばかり集めていた津島が割り込んできた。こいつは何かの素材集めでもしていたのだろうか。
「善子ちゃん、どうしたずら?」
「善子じゃなくてヨハネ!何でちゃっかり名前で呼ばれてんのよ!八幡さん、私は!?」
「ああ、ヨハネ」
「ヨハァ……ってなんか軽っ!?てゆーか、ヨハネじゃなくて善子!あれ?でも私は……あれ?」
「善子ちゃん……混乱してる」
……何とか誤魔化した。我ながら好プレーだ。
《バックスクリーンに直撃のホームラン!ただし始球式!》みたいな。全然好プレーじゃなかった。
とりあえずゴミ拾いを再会することにした。
「わわっ」
「っ!」
前方不注意のせいで花丸にぶつかる。しかも、足場の悪い砂浜で足がもつれ、花丸を巻き込んでこけた。
何とか花丸にのしかからぬよう、なけなしの反射神経で砂浜に両手をつく。
「ずらっ!?」
「わ、悪い……」
何とかセーフ……
「ず、ずら丸!あなた……!」
「ピギィッ!花丸ちゃん……」
「あれ、二人共どうしたの?」
「こ、これは床ドン……いや、砂ドン」
「あわわ……!いきなり過ぎるよ……」
「あ、あなた達!何をしてらっしゃいますの!?」
「あらら~、これは責任とらなきゃ、かな?」
「Oh~!やっぱり二人はステディな関係なのネ~!」
「きゃ~、大胆~!」
「ひゅー、ひゅー♪」
「いいなぁ~」
「チカ」
「あら~、朝から大胆ね~」
「わ、私だって彼氏の一人や二人……」
俺は花丸を砂浜に押し倒すような態勢になっていた。
そのことに気づくと、ちょっとした賑わいが徐々に周りに拡がっていき、さっきまで静かだった砂浜が謎の歓声に包まれる。
ただ、それもどこか他人事のように思えた。
「…………」
「……ずら」
仰向けに倒れた花丸がキョトンとした顔でこちらを見ている。くりくりした目が、何が起こったのかわからないような顔をしていて、豊満な胸が呼吸に合わせ、浅く上下していた。
「……わ、悪い!」
我に返り、慌てて飛び退く。オラ、すげぇドキドキすっぞ……。
「だ、大丈夫ずら……」
そっと手を差し出すと、その手をじっと見つめた花丸は控え目に手を握り、立ち上がった。その表情はまだ驚きから醒めきってない気がした。
「…………」
「…………」
数秒間、目を合わせたり逸らしたりを繰り返す。朝焼けにさっきより温められた風が、ひゅるりと吹き抜けていった。
「……作業、続けるか」
「……ず、ずら」
気を取り直した俺達は、二人して好奇の視線に晒されながら、せっせとゴミを拾った。
その後、作業中は彼女の顔を見ることができなかった。
読んでくれた方々、ありがとうございます!