捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編   作:ローリング・ビートル

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青春の影 ♯34

 携帯のアラーム音がいつもより大きく鳴り響く。

 目を覚まし、アラームを切るが、カーテン越しに朝の光は見えず、まだ深夜と思える暗さだ。

 身支度をのろのろと整えると、小町から声がかかる。

 

「あ、お兄ちゃん。おはよ~」

「おう、おはよう」

 

 小町は俺よりも早く目を覚ましたのか、既にシャキッとした表情で、この早起きも全然へっちゃらのようだ。

 爽やかな笑顔でこちらに手招きをしてくる。

 

「ほら、早く行こ」

「へいへい」

 

 つい最近まで、遅刻しそうになったら、自転車の後ろに乗っけてやってた妹とは別人のような姿に、嬉しさ半分寂しさ半分の苦笑を送り、その背中を追って家を出た。

 

 *******

 

 夏が近くなると、内浦では海開きの為にゴミ拾いを行うらしい。

 もうじき6月とはいえ、まだ夜明け前の風はひんやりとしていて、頬を撫でていく度に、目が冴えていくのを感じた。

 

「わあ、かなり集まってるね」

「……ああ」

 

 砂浜まで到着すると、既に多くの人がゴミ拾いをしていた。学校指定のジャージを着ている者や、普段着のようなラフな恰好をしている者までいて、その中に見知った奴を何人か見つけた。

 

「あ、小町ちゃん、八幡さん!」

「やっはろ~」

「おう」

 

 こちらに気づいた花丸と挨拶を交わし、俺と小町もゴミ拾いに参加する。

 

「じゃあ、俺はあっちの方を……」

「八幡さんはこっちずら」

 

 さりげなく皆から離れた場所を担当し、さりげなくフェードアウトするという華麗な作戦だったのだが、花丸はあっさり見破った。見破ったか偶然かは知らんが。

 

「なあ、花丸……」

「どうしたずらか?」

「……いや、何でもない」

 

 やはり本人に直接呼びかけるとなると、慣れてないので違和感がある。ていうか違和感しかない。

 

「八幡さん」

「?」

「ゆっくり慣れてくれればいいずらよ」

「……そうか」

「そうずら」

 

 とりあえずまだ名前呼びに緊張しているのは許して貰えたようだ。てっきり「まだまだずら」とか言われると思っちゃったよ……。

 

「は~な~ま~る~!?」

 

 そこで、やたら鳥の羽ばかり集めていた津島が割り込んできた。こいつは何かの素材集めでもしていたのだろうか。

 

「善子ちゃん、どうしたずら?」

「善子じゃなくてヨハネ!何でちゃっかり名前で呼ばれてんのよ!八幡さん、私は!?」

「ああ、ヨハネ」

「ヨハァ……ってなんか軽っ!?てゆーか、ヨハネじゃなくて善子!あれ?でも私は……あれ?」

「善子ちゃん……混乱してる」

 

 ……何とか誤魔化した。我ながら好プレーだ。

 《バックスクリーンに直撃のホームラン!ただし始球式!》みたいな。全然好プレーじゃなかった。

 とりあえずゴミ拾いを再会することにした。

 

「わわっ」

「っ!」

 

 前方不注意のせいで花丸にぶつかる。しかも、足場の悪い砂浜で足がもつれ、花丸を巻き込んでこけた。

 何とか花丸にのしかからぬよう、なけなしの反射神経で砂浜に両手をつく。

 

「ずらっ!?」

「わ、悪い……」

 

 何とかセーフ……

 

「ず、ずら丸!あなた……!」

「ピギィッ!花丸ちゃん……」

「あれ、二人共どうしたの?」

「こ、これは床ドン……いや、砂ドン」

「あわわ……!いきなり過ぎるよ……」

「あ、あなた達!何をしてらっしゃいますの!?」

「あらら~、これは責任とらなきゃ、かな?」

「Oh~!やっぱり二人はステディな関係なのネ~!」

「きゃ~、大胆~!」

「ひゅー、ひゅー♪」

「いいなぁ~」

「チカ」

「あら~、朝から大胆ね~」

「わ、私だって彼氏の一人や二人……」

 

 俺は花丸を砂浜に押し倒すような態勢になっていた。

 そのことに気づくと、ちょっとした賑わいが徐々に周りに拡がっていき、さっきまで静かだった砂浜が謎の歓声に包まれる。

 ただ、それもどこか他人事のように思えた。

 

「…………」

「……ずら」

 

 仰向けに倒れた花丸がキョトンとした顔でこちらを見ている。くりくりした目が、何が起こったのかわからないような顔をしていて、豊満な胸が呼吸に合わせ、浅く上下していた。

 

「……わ、悪い!」

 

 我に返り、慌てて飛び退く。オラ、すげぇドキドキすっぞ……。

 

「だ、大丈夫ずら……」

 

 そっと手を差し出すと、その手をじっと見つめた花丸は控え目に手を握り、立ち上がった。その表情はまだ驚きから醒めきってない気がした。

 

「…………」

「…………」

 

 数秒間、目を合わせたり逸らしたりを繰り返す。朝焼けにさっきより温められた風が、ひゅるりと吹き抜けていった。

 

「……作業、続けるか」

「……ず、ずら」

 

 気を取り直した俺達は、二人して好奇の視線に晒されながら、せっせとゴミを拾った。

 その後、作業中は彼女の顔を見ることができなかった。




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