捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
それでは今回もよろしくお願いします。
休憩を終えた渡辺と別れた後は、俺達も水族館を出て、海沿いの歩道を歩いていた。別に人混みに耐えられなくなったわけではない。例えば……
『おい、見ろよ。あの子めっちゃ可愛い』
『アイドルばりじゃね?』
『あんな可愛い子連れやがって……ボッチの癖に』
とか言われたりはしてない。おい、最後の奴何なんだよ。
「八幡さん、どうかしたずらか?」
「いや、あれだ……まあ、楽しかった」
「ほ、本当ずらか!?」
国木田は目をキラキラさせ、こちらを見上げてくる。その本当に嬉しそうな表情に、つい頬が緩み、ちらついた過去の映像が呼び覚ました痛みを遠ざけた気がした。
「あ、あの……八幡さん」
「どした?」
「お願いがあるずら……」
「?」
国木田はそわそわして、しかし、それを悟られまいとしているのか、上着の裾をぎゅっと握りしめ、またしっかりと俺の目を見据えてきた。
「あの……その……また、オラに案内させて欲しいずら……今度は、もっと調べますから」
「あ、ああ……」
「それで……!例えば、今日みたいに人が多い場所に行くと、国木田って呼んでもわかりにくいと思うずら……ほら、国木田って名字、多いから……」
「……多いか?」
俺が知ってる国木田は、小説家とお前だけなんだが……。
「多いずら多いずら!だから……」
彼女はまた目を伏して、言葉を溜めた。意外なくらい長い睫毛が、普段幼く見えるその容姿から、女性を意識させてきて、つい魅入ってしまう。
やがて彼女は顔を上げた。
「オラのことは…………名前で呼んで欲しいずら」
「…………」
「……駄目ですか?」
「……わかった」
「本当ずらか!?」
すんなり了承した自分に対し、これもここでの出会いがもたらした変化なのか、なんて思いながら、国木田をじっと見てしまう。
その視線がこそばゆかったのか、国木田……彼女は歩き出した。
「じゃ、じゃあ行くずら!八幡さん」
「ああ、国木田……」
「…………」
そんな捨てられた子犬みたいな目はやめて欲しいんですが……。うっかり拾ってお世話始めちゃったらどうすんだ。
まあ、とにかくここで落ち込んだ顔を見るのも、いい気分はしないので、意を決して口を開いた。
「……は、はなまりゅ」
「…………」
「…………」
慣れないことはするもんじゃない。
軽率な行動をとった自分を心中で戒めていると、国木田はクスクス笑いながら、自分の口元に人差し指を当て、ウインクして、アイドルみたいなポーズをとりながら言った。
「やり直し、ずら♪」
「……国木田」
「そこからじゃないずら~!」
「……………………花丸」
「……はいっ!」
彼女は……花丸は名前の通りにぱあっと笑顔を咲かせ、俺の隣に並んできた。
赤く沈み行く夕焼けが二つの影を長く伸ばし、じんわり溶け合わせ、しばらくそのまま進み続けた。
読んでくれた方々、ありがとうございます!