捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編   作:ローリング・ビートル

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青春の影 ♯32

 

「未来ずら~」

「そ、そうか……」

 

 俺達は水族館へと来ていた。最初は人が多そうなので躊躇していたが、うん、やっぱり多かった。まあ、休日だしね!これで人がいない方が、八幡心配になっちゃうよ!

 色とりどりの魚が気ままに泳ぐ水槽は、見ているだけで癒されると共に、過去を鮮明に引きずり出した。

 

『なんか花火みたいだね』

『私は……』

 

「っ!」

「八幡さん……?」

「……いや、何でもない……!」

 

 ひんやりとした小さな手が、俺の手を優しく包んだ。

 

「大丈夫、ずらか?」

「あ、ああ……」

「少し休憩するずら」

「……そうだな」

 

 国木田が手をさらにぎゅっと握ってきて、心音が聞こえそうなくらい胸が高鳴ったが、不思議とその温もりには居心地の良さがあった。

 

 *******

 

「はい、どうぞ」

「……ありがとう」

 

 軽食等を販売している売店がある休憩所で、国木田からソフトクリームを手渡される。

 

「美味しいずら~、疲れた時には甘い物が一番ずら~」

「…………」

 

 ここまで幸せそうにクリームを頬張る姿を見ていると、お前が食べたかっただけだろ、と思わなくもないが、まあありがたくいただくとしよう。奢りだし。タダで食うのが、一番美味いし。あと……

 

「どうしたずら?」

「いや……」

 

 なんかこう……落ち着く。

 

「八幡さん」

「?」

「クリーム、ついてるずらよ」

 

 国木田は、俺の口元を指で拭い、その指を自分の口まで持っていった。

 

「…………」

「ずら?」

 

 この子、今自然な流れでとんでもない事をしましたよ。俺みたいに鍛えた奴じゃなかったら、一発で落ちてただろう。しかも、当の本人は「甘いずら~」なんて言って、全然気にしていない。

 

「あれ、花丸ちゃん?」

「あ、曜ちゃん」

 

 振り返ると、スタッフの恰好をした渡辺がいた。

 

「それに、比企谷さんも。ヨーソロー!」

「ヨーソローずら!」

「お、おう……」

 

 ビシッと敬礼を決めてくる渡辺に、少し気圧されながら会釈する。危うく、つられて敬礼するところだったぜ……。

 渡辺は気を悪くした風もなく、了解をとってから、俺と国木田が使っているテーブルまで椅子を運んできて、腰かけた。

 

「曜ちゃんはどうしてここに?」

「バイトだよ。たまにここでやってるんだぁ♪今、休憩に入ったところ」

 

 渡辺は俺と国木田を見比べ、何か意味ありげに笑った。

 

「お二人は……デート?」

「ずらっ!?」

「いや、観光案内だ」

「ああ、なるほどね。この前、全然内浦の良いとこ言えなかったですもんね」

「いや、言っただろ……俺にとって最高の良いところを」

「あれは……ちょっと……」

 

 苦笑いした後、彼女はこちらに身を乗り出し、自分の口元に手を添え、ヒソヒソ声で話しかけてきた。

 

「あの……比企谷さん、本当に付き合ってないんですか?」

「嘘言う理由もないだろ」

「まあそうだけど……」

「ふぅん……」

 

 てか近いっての、何なの、Aqoursのメンバーって男を死地に追いやる精鋭が揃ってるの?安全圏は桜内と黒澤妹だけか。いや、黒澤妹は慣れてくれるまでのリアクションは、別の意味で死地に追いやられる。

 

「むぅ……」

 

 国木田は急にハイスピードでコーンをかりかり削り出した。そのリズムは不機嫌さを表している気がするんだが……。

 

「あっ、花丸ちゃん……ごめんね?」

「別にいいずら」

「今度のっぽパンあげるね」

「ありがとうずら!」

 

 あっさり懐柔された……。

 俺も国木田が不機嫌になったらやろう。

 

「あ、そうだ!内浦のいいところなら、伝統行事とかどうですか?」

「へえ、どんなのがあるんだ?」

「そうずらね。ここは海があるから……」

「おふねひき、か」

「違うずら」

「違います」

 

 だよね。今のところ、エナがある人に出会ってないからね!

 こうして、しばらく3人で内浦と千葉についての深イイ話をした。

 

 

 




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