捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編   作:ローリング・ビートル

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青春の影 ♯30

「マジか」

「うん……マジだよ」

 

 夕食中に小町から告げられた衝撃のニュース。

 

「生徒が集まらなかったら、来年度に浦の星は沼津の高校と統廃合するんだって」

「…………」

 

 このご時世、きっと珍しい話ではないのだろう。現に浦の星の一年は一クラスしかないらしいし、来年度からいきなり生徒が増える見込みも、おそらくほとんどないだろう。

 しかし、統廃合か……その頃俺は何事もなければ卒業しているだろうから、小町に俺みたいな兄がいるとバレる心配はない。しかし、共学になるとしたら、目を光らせないといかんし……。

 

「Aqoursの皆は統廃合阻止の為に何かするらしいよ」

「……そんなのできんのか?」

「μ'sが5年前にやったんだって」

 

 小町の言葉に、内心すごく驚いてしまう。

 そんな夢みたいな話が実在すんのか。

 部活動で統廃合阻止とか。

 

「花丸ちゃんは最初『未来ずら~』って言ってたよ。可愛かった」

「…………」

 

 いつか千葉に連れていってやりたい。切実に。

 

 *******

 

「あ、八幡さん!」

「……おう」

 

 学校帰りに本屋に寄って行こうと、商店街に足を踏み入れると、商店街の入り口付近にジャージ姿の国木田が、というかAqoursのメンバーが固まり、何やらわちゃわちゃしている。

 

「今、学校のPVを作ってるずら!」

「……学校の?」

「浦の星女学院と内浦の良いところを撮影して、入学希望者をまるっと増やすずら」

「そっか……まあ、頑張れよ」

 

 我ながらスマートな立ち振る舞いでその場を去ろうとしたら、両脇から拘束される。

 右腕は国木田に、左腕はいつの間にか隣にいた津島に、がっちりホールドされていた。

 

「お、おい……」

 

 そうやって思春期男子のピュアな精神を刺激するのはやめてくれませんかね……なんか柔らかいし、いい匂いがするし……国木田の……何だ、このやわらか……

 

「千歌ちゃん。最近、引っ越してきた八幡さんを確保したずら」

「八幡さん、どう?この後、私と……」

「え!?インタビュー受けてもらえるんですか!?」

「邪魔しないでよ!」

 

 高海がマイクを持ってぐいぐい寄ってくる。そのすぐ後ろで、渡辺がこちらにカメラを向けていた。

 

「じゃあ、最近引っ越してきたという比企谷さん!内浦に住んでよかったと思うところを1つ!」

「え?あー、あれだ……千葉より人が少ないから、静かでいい」

「「「「「「…………」」」」」」

 

 急に暗闇に閉じ込められたような重い沈黙が訪れ、6人からジト目を向けられていた。

 

「……何だよ」

「も~っ、それじゃあ内浦が寂しい場所みたいじゃん!」

「千歌ちゃんもさっき『何もないです!』って言ってたような……でも、比企谷さん。もっとPRになるようなの、お願いします」

「言いたいことはわからなくもないけど……言い方の問題ですね」

「うゆ……先輩、がんばルビィ……」

「八幡さん……」

「やっぱり捻くれてるずら」

 

 おい、やめろ。女子6人から一斉射撃とか、雪ノ下の毒舌に鍛えられていなかったら、うっかり死んじゃってたよ?何故か黒澤妹からは慰められてるし……あと、国木田。俺は捻くれ……てるな。うん、そこは間違っていない。

 

「つーか、引っ越してきた奴なら、小町でもいいんじゃねえの」

「小町ちゃんは、生徒会活動で放課後声をかける機会がなかったずら」

「…………」

 

 我が妹の出世ぶりに、少し目が潤みそうになっていると、高海が再びマイクを向けてきた。

 

「じゃあ、比企谷さん!テイク2!」

 

 この後、テイク7でようやくOKがでた。

 PV撮影、難易度高すぎだろ。

 

 *******

 

「は、八幡さん!お待たせずら!」

「いや、そんなに待ってない……大丈夫か?」

「だ、大丈夫ずら……」

 

 とことこ走ってきた国木田がはあはあ息を切らし、膝に手をつく。こりゃあ、ガチで急いで来たな。てか、国木田が遅刻というのも珍しいが、まあそこは言わないの方がいいのか。

 

「もう少し休んでていいぞ」

「は、はい……」

 

 土曜日の昼、何故わざわざ待ち合わせをして、遊びに行っているかというと、先日の一件が原因である。

 要するに、内浦のいいところについて勉強しろ、ということだ。

 まあ、受験勉強のリフレッシュも兼ねて、大いに勉強……結局勉強じゃねえか。

 国木田はやっと息が整ったのか、ぐっと拳を握り、力強く宣言した。

 

「じゃあ、八幡さん!今日はマルに任せるずら!」

「わ、わかった……そういや、津島は?」

「善子ちゃんは最初学校行ってなかった分の補習ずら」

 

 *******

 

「何でこうなるのよ~~~~!!」

 

 *******

 

「あー、なるほど……」

「今日はオラ一人で我慢して欲しいずら」

「いや、そんなんじゃねえよ。なんつーか、こうして二人になるのが久々な気がしてな……」

「そうかもしれないです……」

「…………」

「…………」

 

 何故かその場で見つめ合ってしまう。

 くりくりした瞳でこちらを見上げられると、時が止まったような錯覚に陥り、言うべき言葉はどこか遠くに飛んで行ってしまった。

 

「「えーと……っ!」」

 

 今度は二人して同じタイミングで話そうとして、ハモってしまう。

 だが、一応年上として、この程度の事でいつまでも狼狽えているわけにはいかない。

 

「……い、行くか」

「ずら……」

 

 こうして、国木田による内浦案内が始まった。





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