捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
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それでは今回もよろしくお願いします。
「あ……」
「……おう」
小町に頼まれた買い物を終え、帰路についたところで、津島と正面からばったり遭遇する。
「我が主……いえ、は、八幡さん!あ、その……」
「とりあえず落ち着け。キャラ崩壊しかけてんぞ」
「うぐぅ……」
最後は天使になってるし……。一体どうしたというのだろうか。
津島は俯き、首をブンブン振った後、何かを吹っ切ったように、俺の隣に並んだ。
「さ、行きましょう!」
「…………」
確認もせずに言う津島に、つい頷いてしまう。この辺りの押しの弱さに定評のある俺としては、そのまま歩き始めてしまった。
「……今日は練習休みだったのか?」
「え!?あ、その……」
何の気なしに聞いてみただけだが、彼女は急に慌てふためく。
やがて、それも収まり、ぽつりと口を開く。
「私……Aqours辞めたの」
「…………」
「驚かないんですね」
「いや、少しは驚いてる……」
昨日まであんなにノリノリだった奴が、いきなり辞めるとか、余程の事だろう。
彼女はしばし瞑目した後、夕焼けに染まる海を見つめ、囁くように言った。
「堕天使なんて……いないのよ。それを……改めて思い知っただけ……」
「……そっか」
一応、中二病にかかっていた俺にも、その感覚はわかる。ありもしない力を信じたり、この世界のどこかに自分をスカウトしにくる組織があると信じてみたり、そして……そんなのはただの幻想・妄想だという事に気づいたり……多分、津島もその境目で揺れているのか。
彼女は寂しげに笑った後、歩道の縁石に飛び乗り、振り返った。
「だから、もう堕天使はおしまい!明日からは、普通の女子高生!だから、改めて……よろしく、ね?」
「……いいのか?」
俺の問いに、彼女は一瞬だけはっと目を見開き、それをなかったことにするように、かぶりを振った。
「あ、当ったり前でしょ?八幡さん、私はこれからリア充になるんですよ」
「お、おう……」
「あっ、いけない!バス来ちゃう!また明日!あとこれ、私の連絡先です!」
駆け出した彼女の背中にかける言葉もなく、俺はしばらくメモを片手に、その場に立ち尽くしていた。
*******
「あの……もしもし、八幡さん」
「……おう」
その日の夜に国木田から電話がかかってきた。まあ、実際予想はしていた。とはいえ、何ができるというわけでもないが。
「実は……善子ちゃんが、Aqoursを辞めちゃったずら」
「ああ……実は……」
津島に直接聞いたことを話す。
国木田は小さな相槌を打ち、話を聞き終えると、独り言のように呟いた。
「何だか、わかる気がするずら……」
「…………」
「……比企谷先輩、マルは善子ちゃんに辞めて欲しくないずら」
「……引き留めるのを津島が望んでいないとしてもか……」
俺の言葉に、国木田が少し考えるような間が訪れる。
「はい……オラ、善子ちゃんにAqoursで自分らしくいて欲しいずら」
「そっか……じゃあ、俺も手伝う」
*******
翌朝、千歌ちゃん達と一緒に、よく先輩と待ち合わせをするベンチまで行きました。
すると、そこには善子ちゃんが一人で座っていて、オラ達を見ると、驚いて立ち上がったずら。
「あ、あんた達……」
自分がどうして呼び出されたのかに気づき、すぐに逃げ出した彼女を皆で追いかける。
「何でここにいるのよ~!!」
「待つずら~」
足の遅いオラはすぐに皆から離され、道に迷いそうになったずら。
すると、見慣れた人影が、マルの進むべき道を教えてくれていました。
「……津島達なら、そこを右に曲がって行ったぞ」
「あ、ありがとうずら!」
八幡さ……比企谷先輩に頭を下げ、一生懸命走ると、皆が立ち止まっていました。
マルが到着すると、善子ちゃんは何ともいえない表情を向け、目を逸らしてしまいました。
「よ、善子ちゃん……」
「ずら丸……」
「善子ちゃん、マルにライバルって言ったのに……」
「べ、別にAqoursのメンバーじゃなくても勝負は……」
「そんな事ないずら。善子ちゃんが辞めたら……マルが……取っちゃうずら」
自分で自分の言ったことが信じられず、顔が熱くなり、胸がどくんと高鳴り、手が震える。
そんなオラに、善子ちゃんはキッと視線を鋭くしました。
「なっ……何を……!」
「……堕天使でもいいから……」
「…………」
「堕天使のままでもいいから、Aqoursにいてほしいずら……」
「そうだよ!善子ちゃんは堕天使のままでいいんだよ!」
「善子ちゃんの『好き』を善子ちゃんなりに表現できればそれが一番なんじゃないかな?」
「私達は堕天使にはなれないけど」
「うゆ!」
皆からの言葉に善子ちゃんの目が潤み、また俯く。朝の風は、涙に濡れた頬をそっと撫でていった。
「…………ありがとう」
そう言って顔を上げた善子ちゃんは、幼い頃のような無邪気な笑みを浮かべ、マルを指差してきた。
「Aqoursには入るわ!でも、勝負に手は抜かないからね!」
「ずらっ!?」
「クックックッ、下等な人間が私を本気にさせた事を後悔するがいい」
「な~に?勝負って、私にも関係あるの?」
「千歌ちゃんにはまだ早いから、ねっ?」
「そうそう、早く練習しましょう?」
「え~!なんかバカにされてる~!」
「あはは……花丸ちゃん、がんばルビィしなきゃね」
「ル、ルビィちゃんまで……あ」
皆の驚いた声を背に受け、オラはすぐに走り出した。今ならまだこの近くにいるかもしれないから。
真っ先にお礼を言いたいから。
自分の本当気持ちの、名前を知りたいから。
来た道を戻ると、すぐにその背中は見つかりました。
そして、マルはいつもより大きな声で呼んでみました。
「せっ、先輩…………八幡さん!」
慣れない呼ばれ方なのか、驚いて立ち止まり、ゆっくりと振り返る姿に、マルの頬はつい緩んでしまいました。
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