捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
それでは今回もよろしくお願いします。
「そっか~、津島さんに会ったんだね」
「ああ」
「私もまだ1回しか会ったことないからな~、しかも、全然話せてないし」
小町がまだあまり知らないクラスメートに思いを馳せる。こうして登校時間を共にするのはかなり久しぶりだ。まだ千葉ほど馴染んではいないが、それでも前より、小町の背後に内浦の海が広がっている風景は、俺の日常になっていた。
懐かしい風景を、ふと記憶から探り出そうとしてしまう自分にかぶりを振って、鞄を背負い直す。
「あ、花丸ちゃん!ルビィちゃん!」
小町の声に反応し、前を向くと、国木田と黒澤妹がこちらに向かって手を振っている。
「おはようずら!」
「お、おはようございます……」
国木田はいつも通りぺこりと頭を下げ、黒澤妹は少しだけ前よりおどおどした感じが抜けていた。さらに俺を見かける度、国木田の背中に隠れなくなった。
「今日は朝練休みなの?」
「ずらっ。千歌ちゃんが旅館の手伝いで、曜ちゃんが水泳部の朝練ずら」
「……結構忙しいんだな」
「お兄ちゃんも見習わなきゃね」
「ばっか、お前。俺めっちゃ忙しくしてんだろうが」
ラノベを読み、アニメを観て、小説を読み、日本文化の知識を日々深めているというのに。
「先輩、それじゃあマルとお寺で……」
「ああ、いつかその内な」
「まだ全部言ってないずら~」
国木田は今日は至って普通のテンションだ。昨日、不機嫌に思えたのは、やはり気のせいらしい。彼女は隣に並び、控え目な笑顔を向けてきた。
「じゃ、じゃあ、今度本屋に「ちょっと待ったぁーーーーーーーー!!!」ずらっ!?」
昨日と同じような登場で津島善子があらわれた!
「あの、八幡さん?私の登場シーンの描写、薄くないかしら?」
「……地の文読むんじゃねえよ」
間違いなく余所行きのテンションになっている津島に、小町がにぱっと笑顔を向けた。
「お~!津島さん、久しぶり!」
「あ、あら?あなたはクラスの……」
「比企谷小町だよ。こっちが兄の……」
「妹!!?」
くわっと目を見開いた津島は、すぐさま小町に詰め寄る。
「妹!?今、妹って言った!?」
「わわっ!どうしたの!?」
「ピギィっ!」
余りの剣幕に、隣にいた黒澤妹までもが怯えていた。
「はっ…………うふふ、そうだったの?お兄さんとは先日、運命の……偶然の出会いで、知り合ったばかりだけど、とても良くしてもらってるわ。改めて、よろしくね」
「とても良くしてるずらか?」
「いや、何もしてない」
したのは挨拶くらいだ。あとストーカー扱い。何より、昨日がほぼ初対面みたいなものだ。
どう対応したものかと逡巡していると、国木田が先に話しかけた。
「善子ちゃん」
「善子じゃなくてヨハネっ!」
「ようやく学校来たずらね」
「……な、何よ。当たり前でしょ!今日から私のリア充ライフが始まるのよ!……フォローお願い」
「任せるずら」
「さあ、八幡さん行きましょうか」
「いや、俺は……」
「はち……先輩は浦の星の生徒じゃないから諦めるずら、善子ちゃん」
さすがに女子4人に混ざって登校できるほどリア充への耐性がついていないので、適当な場所で別れを告げ、いつも通りのボッチ登校へと切り替えた。
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「……そっか、津島が」
「はい……」
その日の夜に国木田から告げられた、やや衝撃のニュース。
なんと津島がAqoursに加入したらしい。これはキュアエース登場くらいの衝撃だ。いや、キュアムーンライトくらいか。わかる人だけにわかればいい。
彼女の堕天使キャラに目をつけた高海がスカウトした事がきっかけらしい。いや、それより……
「堕天使……」
何かを彷彿とさせるワードだが、もしや……
「善子ちゃんは幼稚園の頃から、自分の事を堕天使だと言ってるずら」
「……そ、そうか」
薄々感づいてはいたのだ。
「善子じゃなくてヨハネっ!」などと反論していたり、なんか日常会話に、無理矢理良い子ぶったような違和感があったり……。
しかし、まさかあの材木座と同じ属性とは……いや、俺も中二病の時期はあったが……。
何故か知らないが、急に奴の顔が思い浮かんだ。
『おい、材木座』
『材木座じゃなくて剣豪将軍っ!』
「ぐあっ……」
「ど、どうしたずら?」
「いや、何でもない……一瞬悪魔が見えただけだ」
「何だか非常事態ずら!」
くだらんものをイメージしてしまった。まあ、あれだ。ヨハネという名前はダークフレイムマスターや、邪王心眼。モリサマーみたいな愛称(?)だと思えばいい。
このあと、続くと思っていた津島の話は割とすぐに打ち切られ、あとは30分くらい晩御飯のおかずについての話をした。
読んでくれた方々、ありがとうございます!