捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
最近、お土産にMAXコーヒーをもらいました。甘い!
……福岡でも販売して欲しいです。
それでは今回もよろしくお願いします。
「先輩……相談があります」
「……どした?」
放課後。ボッチらしく、いつものように真っ直ぐ帰宅していると、国木田に捕まった。Aqoursに加入してからは、帰り道に遭遇することはもうないと思っていたのだが。
とことこ歩く彼女に案内されるまま、いつものベンチに腰を下ろす。
一息ついたところで隣を見ると、彼女の表情には不安の色が見られた。スクールアイドル関連でまた何か悩みがあるのだろうか。
黙って待っていると、やがて彼女の唇が小さく動いた。
「実は、最近……誰かに見られている気がして……」
「…………」
予想だにしない悩みに、つい膝の上で強く拳を握ってしまう。ここは田舎とはいえ、怪しい奴が全くいないわけじゃない。はっきり言って、国木田はかなり見た目はいいし、その上本人はどこか抜けているというか、無防備に見られる部分もあるように思える。最近はスクールアイドルを始め、動画を上げているので、熱烈なファンや、あまり考えたくはないが、ストーカーじみた奴がいても、おかしくはない。
ピリピリとした緊張を何とか押し殺し、ひとまず国木田の現状を確認する。
「周りの奴は知ってるのか?」
「いえ、まだ誰にも……勘違いかもしれませんし……」
「……とりあえず、今日は家まで送る」
「あ、ありがとうございま……「ちょっと待ったぁーーーーーーーー!!!」ずらっ!?」
突然会話に割り込んできた大声に、二人して慌てて振り向く。
するとそこには、水色のコートにサングラスを着用した、いかにもな不審者が仁王立ちしている。サングラスの下から、鋭い眼光を向けられた気がした。
「……ずら?」
「あ、おい……!」
警察に電話するべきか、国木田を連れて逃げるべきか考えていると、あろうことか、国木田は不審者と距離を詰め、じぃ~っと凝視し始めた。
「国木田っ「善子ちゃん?」……?」
「善子じゃなくてヨハネっ!」
国木田から親しげに名前を呼ばれ、反論する不審者。
つーか今さらだが、こいつ何処かで見たことあるような……。
不審者(?)は、サングラスとマスクを外し、その素顔を見せた。
「ずら丸っ!私の愛しい人から離れなさい!」
「どうしたの?学校で皆待ってるずらよ」
「あ、明日から行くわよ……ってそうじゃな~い!!」
「ずらっ!」
善子と呼ばれたその少女は「元気いいねえ、何か良いことあったの?」なんて聞きたくなるくらい大きな声で、国木田を威嚇する。さっきまでのシリアスな空気は何だったんだ……いや、別にいいんだけど……うん、問題解決。
「なあ……」
「は、はいっ」
「とりあえず……場所変えないか?ここだと人目につく」
「は、はいっ、喜んで♪」
何故にこの女子は、こんなに満面の笑みを向けてくるのだろうか……。
「むっ……」
*******
「……あー、一応確認しておくが……国木田と津島は、幼稚園以来の再会を果たした幼馴染みで間違いないんだな」
「そうずらよ」
「それで、津島は最近国木田の後をつけてた奴なのか?」
「ええ……それより私のことは名前で呼んでもいいのよ?」
「…………」
隣にいる津島が、妖艶に細めた目を向けてくる。国木田と同い年の割には、妙な色気がある。自分の魅力の使い方をわかっているというか……顔も、さっきまでの残念な言動がなければ、普通に美人に分類できるくらいに整っている。
だが、何かおかしい……。
まず、この位置関係。俺と国木田はテーブルに向かい合うように座り、津島は何故か俺の隣に座っていた。ちなみに、国木田の隣には鞄が3つ置かれている。
「善子ちゃん、先輩に失礼ずらよ。それと、マルに何か用があったずらか?」
「あなたの名前、教えて戴けないかしら」
「聞いてないずら……」
「……比企谷、八幡」
「それでは、八幡さん。念の為、私と連絡先を交換していただけませんか?」
「八幡さん?」
「……え?あ……」
今、さらっとファーストネームで呼ばれたんだが、何この子……俺の事好きなの?
「善子ちゃん、何で、はち……先輩と連絡先を交換する必要があるずら?」
「ね、念の為よ念の為!」
「念の為?じぃ~……」
「な、何よ!ずら丸はこの人の何なの!?」
「……アイドルとプロデューサーずら」
「嘘だ!」
「嘘じゃないずら~」
「じゃあ、私もプロデュースしてもらうもん!」
やめて!仲良くして!あと作品が変わっちゃうから、プロデューサーのくだりもやめて!
「ギラン」
「ずらん」
国木田と津島が睨み合う。今、国木田は俺を何と呼ぼうとしたが気になるが、まずはこの二人をどうにかしなければならない。
「あ、すいますん。はしたなかったですね。うふふ」
ふと肩が接触した津島から、ふわりと甘い香りが漂う。国木田のようにほのかに香るのではなく、トロンと甘い、女の子らしさみたいなのを強調してくる感じがする。
「先輩、何デレデレしてるずら」
「……い、いや、し、してねーし」
「違うわよ、ずら丸。これは、彼が堕天使の……私の魅力に靡こうとしているのよ!」
「明日から学校に来るずら」
「聞きなさいよ!あっ、もうこんな時間!八幡さん、ずら丸、失礼するわ!」
時計を見て驚愕した彼女は近くのバス停へと、全速力で走っていった。
嵐のように訪れ、去っていった彼女の背中を、俺と国木田はポカンと見送り、どちらからともなく目を合わせた。
「……帰るか」
「……はい」
店を出た俺と国木田は、とぼとぼと並んで歩き出す。
道中、横顔に国木田の視線が何度かチクチク刺さった気がした。
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