捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
最近、pixivにて『捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女』のイラストを見つけました。かなりテンション上がりました!
それでは今回もよろしくお願いします。
国木田が黒澤妹と共にスクールアイドル活動を始めて早一週間。まるで最初から決めていたかのようなタイミングで、国木田から会いたいと連絡がきた。
夕暮れに赤く染め上げられる砂浜。
穏やかに寄せては返す波が、不規則なリズムで唄い、そこを突き抜けるように、バスや車の音が通過していく。
彼女はそんな賑やかでもの哀しい砂浜に一人で座り、何やら歌を口ずさんでいた。
「……国木田」
その歌を途切れさせていいかわからず、それでも恐る恐る声をかけると、彼女は振り向き、笑顔をみせた。
「先輩……」
「おう……」
「…………」
「…………」
沈黙が訪れたのは、彼女の言うことがわかっていて、そのことを彼女も気づいているからだろうか。
微笑みは切なさを滲ませ、絡みあう視線は言葉を発するタイミングを窺っていた。
そして、のろのろと走る!車の音が遠ざかった時、彼女の唇が動いた。
「先輩……」
「…………」
「ルビィちゃんは無事にスクールアイドルを始められたずら」
「……そっか」
「これで、マルは満足です。一週間だけど……とても……楽しかったずら」
「…………」
「……先輩、ごめんなさい……マルはもう、スクールアイドルは終わりにします」
「いや……俺に謝る必要は……つーか、最初からそのつもりだったんだろ?」
「……はい」
国木田は心底申し訳なさそうに俯く。
波音が沈黙を縫うように一際大きく響き、話の続きを促すように消えていった。
「オラ……この一週間、夢の中にいたんです」
「…………」
「マルには手が届かない、とてもキラキラして、輝きに満ちた夢……そんな素敵な場所に一週間もいれたから、マルはもう、満足なんです」
こちらを見る国木田の瞳が潤み、潮風が優しく髪を揺らした。
……満足ならそんな顔見せんじゃねーよ。
俺が国木田に対して、してやれる事などたかが知れている。彼女が一発で前向きになるような魔法の言葉など持ち合わせていない。
だけど、今の気持ちを……短いスクールアイドル活動が残した痕跡を知っていて欲しい。
俺は頭をなるべく空っぽにして、口を開いた。
「国木田……」
「はい?」
「……ありがとな」
国木田はきょとんとして、自分が何を言われたかもわからないような顔をしていた。
それでも続ける。
「なんつーか、お前が頑張ってんの見たら……元気でた。多分、いきなり色々あって転校になって……少し落ち込んでたんだろうな」
「ずらっ?」
「その……この前、偶然だが、お前の走ってるの見てたらな」
「み、見てたずらか?」
「ああ……黙ってて悪かった。まあ、あれだ……」
「?」
「すごく……キラキラしてた……」
「え……」
「お前が自分自身のことをどう思ってるかはわからんし、それを俺がどうこうできるわけじゃない……ただ……」
「…………」
「俺にはお前が……キラキラして見える。誰かを元気にするくらいには……」
「先輩……」
「辞める辞めないはともかく……そんなに自分を卑下することはないと思うぞ……お前は、すごいと、思う」
何の考えもないただの本音を言い終え、奉仕部の部室での事を思い出す。あの日もこんな夕暮れの時間だった。
国木田は、はっとした表情から、ゆっくりと笑みを結ぶ。
「……ありがとう、ございます」
夕焼けがまた一段と海を朱く染め上げ、水平線と触れ合う。
彼女のやわらかな笑顔を撫でる一滴も、夕焼け色に染まり、そこから目を離すことができなかった。
*******
翌日。学校に到着したところで、着信がきた。
「あ、あの……もすもす?」
「……国木田か?」
「はいっ……あの……今、大丈夫ですか?」
校舎裏の人目につきにくい場所に移動し、携帯から漏れてくる声に意識を集中する。
「先輩……マルは……Aqoursに加入します」
「……そっか」
「そ、それで、先輩にお願いがあるずら!」
「?」
「あの……マルの……ファンになってください!」
突然の申し出に、電話越しだというのに顔が熱くなる。中学時代なら告白と勘違いして、舞い上がり、叩き落とされていたことだろう。
咳払いして、気持ちを落ち着ける。
「……まあ、別に、応援するぐらいなら」
「本当ずらか!?」
「……その内、な……」
「今がいいずら~!」
背後にはメンバーがいるのか、「花丸ちゃん誰と話してるの?」「千歌ちゃん、聞くのは野暮だよ」とか。賑やかそうで何よりだ。べ、別に羨ましくなんてないんだからね!
俺は電話越しの国木田の笑顔を思い浮かべながら、今日も晴天の沼津の空を仰いだ。
*******
「では、また逢いましょう。我がリトルデーモン達」
少女は高らかに告げ、部屋に灯された蝋燭の火を消す。
そして、すぐにベッドに飛び込んだ。
「またやってしまった~~~~~~~~!!」
少女は自分の行いを恥じ、枕を顔に押しつけ、転がった勢いでベッドから落ちた。
「い、痛い……いえ、それより!変わるのよ、私!そして、サタン……じゃなくて、あの人とリア充ライフを!ウフフフフ……」
少女の笑い声は、母親に注意されるまで室内に響き渡った。
読んでくれた方々、ありがとうございます!