捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編   作:ローリング・ビートル

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青春の影 ♯24

 

「小町ちゃんの作るごはん、美味しかったずら~」

「……ならよかった」

 

 満足そうにお腹をさする国木田に、つい頬が緩んでしまう。

 朝から三杯もおかわりする元気があるなら、スクールアイドルの練習も耐えられるだろう。

 

「今日も頑張るずらよ~」

「……黒澤妹の方はどうなんだ?」

「ルビィちゃんは大丈夫ずらよ。本人は運動とかは苦手なんて言ってるけど、練習にもついていけてるずら」

「そっか」

「……これでマルの目的も果たしたずら」

「?」

 

 国木田のぽそりとした呟きは、何といっているのかはわからなかったが、寂しげな響きだけが、風に流されていった。

 

 *******

 

「ふぅ……」

 

 お昼休み。

 ルビィちゃんから借りたスクールアイドルの雑誌から顔を上げると、途端に現実に引き戻されたかのように、図書室の静寂がマルを包み込む。

 最近、このページを見ては溜息を吐いてしまう。

 『星空凛』。

 彼女がドレスを着て微笑むその姿が、マルの心をきゅうっと締めつけてくるのです。

 それはきっと……手が届かないから。

 マルにはこんなキラキラ輝いた舞台に立つことなんて……。

 比企谷先輩には何だか申し訳ないずら。あんなに手伝ってもらったのに……。

 オラは静かに雑誌を閉じ、引き出しに仕舞い、図書室を後にした。

 

 *******

 

「チャオ~♪」

「……ど、どなたでしょうか?」

 

 はて、こんなテンションの高い金髪美人が俺の知り合いにいたかしら?

 俺の首を傾げる姿が不満だったのか、金髪美人は頬を膨らませ、ずんずん距離を詰めてきた。

 

「マリーだよぉ!浦の星の理事長!」

「あ、ああ……」

 

 近い近い!心臓に悪い!ふわりといい香りが弾け、鼻腔を優しくくすぐる。

 そういや、Aqoursのライブで会ったな。いや、覚えてたよ?本当だよ?

 

「八幡は今帰り?」

「……見ての通りだ」

 

 いきなりの名前呼びに、何故か顔が熱くなる。本名を呼ばれているので、『そんな恥ずかしい名前の人は知らない』なんて誤魔化して逃げることもできない。いや、別に逃げたりはしないけど。

 

「じゃあ、ちょっと付き合わナイ?」

「……いや、ちょっと用事が」

「八幡がそういう時は用事がない時だと小町が言ってたヨ?」

「…………」

 

 既に退路は断たれていたようだ。

 この押しの強さは千葉にいる誰かさんに通じるものがある。つまり、逆らうだけ無駄ということだろう。

 

「……まあ、いいけど……小原の家は真逆じゃないのか?」

「マリーだよぉ!」

「……お、小原の家は真逆じゃないのか?」

「も~、意地っぱりなんだから。まあ、今回はそれで良しとシマス」

「てか、どこ行くんだ?」

「ふふふ、行ってからのお楽しみデース♪」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべ、こちらにウインクしてくる小原を見ながら、やはりこいつは油断ならないと、首筋をかいた。

 

 *******

 

「あれは……」

「ふふっ、毎日一生懸命に頑張って感心感心♪」

 

 小原に連れてこられた喫茶店の窓から見えたのは、階段を昇るAqoursの姿。そして、何より目を引きつけたのは、高海達よりかなり下を、時折休みながら昇る国木田と、彼女を気遣うように一定の距離を保つ黒澤妹だ。普段とは違う役割になっていて、国木田の小さな背中は、より小さく見えた。

 そんな彼女の様子を見て、やはりと思いながらも、言いようのない何かが胸の中に湧き上がる。砂糖やミルクを十分に入れたはずのコーヒーも全然甘く感じない。

 

「彼女、悩んでるみたいデス」

「…………」

 

 ぽつりと洩らす小原に、俺は沈黙で続きを促した。

 

「八幡は花丸とステディな関係でしょ?」

「ぶはぁっ!!げほっ!げほっ!」

 

 急すぎる話題転換に、コーヒーを吹き出して、思いきり咽せる。

 小原はきょとんとしていた。

 

「違うの?」

「……ち、違うっての……」

「そっかぁ、よく二人でいるところを見たから、てっきり……ソーリー♪」

「……いや、つーかそんな話するために、声かけてきたのか?」

「さあ?私は小町のお兄さんがどんな人か気になっただけだよ♪それと……」

 

 彼女は再び、窓の外に目をやる。その眼差しは何故か寂しげに揺れ、遠いどこかを見ているようだった。

 

「彼女と仲の良いあなたに、彼女がシャイニーしてるとこ、見せたかったのかも」

「…………」

 

 何かはぐらかされたような気しかしないが、今はどうでもよかった。

 小原と別れ、家に帰ってからも、あの小さな背中が頭の中で、ゆっくりと階段を昇っていた。

 時折休みながら、でも確かに昇っていた。





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