捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編   作:ローリング・ビートル

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青春の影 ♯23

「もう、電話くらい恥ずかしがらないで自分ですればいいのに……」

「いや、ほら……夜だから」

「はいはい、中学時代のお兄ちゃんに聞かせてあげたいよ」

「さり気なくお兄ちゃんのトラウマ抉るの止めてくんない?」

 

 まあ、確かに高校3年の兄が、妹の友達の様子を窺うために電話してもらう姿はみっともないが……。

 小町は、数秒してから電話に出た国木田の家族らしき人と話し、彼女に取り次いでもらい……

 

「ほい」

 

 その流れで俺の手に受話器を握らせる。

 

「……は?」

「大丈夫、お兄ちゃん!ファイトだよ!」

「いや、お前……」

 

 どっかで聞いたことあるような無いような励ましの言葉を残し、小町は自室へと逃げていった。

 このまま無言で切るわけにもいかないので、落ち着いて話しかけてみる。

 

「…………あー、もしもし?」

「え!?あの、こ、小町ちゃんじゃないずら!?」

「……悪い、俺だ。つーか、用があったのは俺の方なんだが……」

 

 ここまできてしょうもない嘘をついても仕方ないので、正直に白状する。

 

「そうずらか……」

「……まあ、その、あれだ。今日……どうだった?」

「あ、はい……入部して、もう練習も始めてます」

「そうか……」

 

 声のトーンが沈んでいる気がするが、どうかしたのだろうか。あまり考えたくはないが、上手くいかなかったのか……いや、まだ初日だろ。

 

「……どうだった?」

「えっと……その……ランニングの時は少し遅れ気味だったんですけど、ダンスは意外と早く覚えられて、褒められたりしました」

 

 褒められた、という言葉に安堵の息を吐く。小町を心配する時のような感覚になっているのは気のせいだろうか……。

 

「あの……」

「?」

 

 国木田の少し重たい声が受話器から聞こえてきて、俺はつい居住まいを正した。

 

「その……」

「…………」

「や、やっぱりいいです!お休みなさい!」

 

 唐突に挨拶と共に電話を切られ、俺はしばらくその場に立ち尽くし、窓の外の真っ暗な景色を眺めていた。

 それは、道路を走る自転車のライトがやけに目立つくらいに、暗く塗りつぶされた街並みだった。

 

 *******

 

「「あ」」

 

 翌日。

 珍しく眠れずにいたので、明け方の海でも見ようかと砂浜へ行くと、国木田が一人でポツンと座っていた。

 何でこんな朝早くから?と聞こうとすると、彼女の方が先に口を開いた。小さな身体を精一杯折り畳むその姿はいつもより小動物らしく見えた。

 

「お、おはようございます、先輩」

「……おう」

 

 制服姿なので、練習をしていたわけではないようだ。彼女が早朝からここにいる理由を黙考していると、国木田がいきなり頭を下げた。

 

「昨日はごめんなさいずら!」

「……へ?」

 

 急な謝罪に対し、何の事かと考えていると、すぐに思い至った。

 

「もしかして電話の事か?」

「あ、はい……本来なら真っ先に先輩に報告すべきなのに、オラは……」

「……ああ、そっちか。いや、別に……謝る必要は……」

「それでも……ごめんなさい」

「……じゃあ、受け取っとく」

「……はい。それと……ありがとうございます。先輩のお陰で、ルビィちゃんの後押しが出来たずら」

 

 親友を想う真っ直ぐな双眸が優しく細められ、その儚げな雰囲気に、ほんの一瞬だけ胸が高鳴る。波音が遠のいた気がした。

 結局俺は、その姿から目を逸らし、彼女に祝いの言葉をかける。

 

「その、何だ。よかったな」

「は、はい……そういえば先輩」

「どした?」

「……き、昨日、ダイヤさんといましたか?あの海岸沿いの道路にあるベンチで……」

「あ、ああ……偶然会ってな」

「そうですか……」

「…………」

「…………」

 

 突然やってきた何ともいえない気まずい沈黙。

 別にやましい事など何もない。それ以前に、俺と国木田は付き合っているわけでは……何考えてんだよ、俺。

 心の中の防衛センサーが発動し、強制的に話題を変えた。

 

「練習、あまり無理すんなよ」

「……むぅ」

 

 国木田はどこか不満顔に見えるが、それはきっと陽が昇りきっていないので、彼女の顔がそこまでよく見えていないからだろう。そうに違いない。

 

「……そろそろ行くか」

「あ、はい……」

 

 ぐぅ~。

 間の抜けた音が鳴り、緊張の糸があっという間に緩む。

 国木田はお腹を押さえ、見る見るうちに赤くなる顔を、昇り始めた朝焼けがはっきりと照らしていた。

 

「……朝飯は?」

「うぅ……今日は食べてないずら」

「……うちで食ってくか?」

「ずらっ!いいんですか?」

「……むしろ小町は喜ぶと思うぞ」

「じゃ、じゃあ……お言葉に甘えて……」

 

 国木田は柔らかく微笑みながら、隣に並んでくる。

 砂浜に刻まれる足跡が、来た時は一人分だったのが、帰る時は二人分になっている。そんな些細な出来事が、何だかとても不思議なことに思えた。





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