捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
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それでは今回もよろしくお願いします。
……何故だろう。落ち着かない。
授業中も昼休みも帰りのホームルームも本屋への寄り道の間も、ずっとそわそわしてしまっている。
今日、国木田は黒澤妹を誘い、スクールアイドル部に入部する予定だ。果たしてどうなっているのか、いや心配とかじゃなく気になると言いますか……。
「何をしていますの?」
「……ああ、黒澤姉か」
「失礼な反応ですわね。しかも、黒澤姉って呼び方……どうにかなりませんの?」
「……善処する」
「それはする気のない者の言葉ですわね……話が逸れましたわ。こんな所でキョロキョロと落ち着きがないと、不審者に見られますわよ」
「……そんなに不審者に見えたか」
「はい」
そこまできっぱりと肯定されると、思春期男子の心は傷つくのだが……。
何か言い返してやろうと、思いついたことを口にした。
「今日は手紙ならいらんぞ。人に見られたら誤解されるからな」
「……あ、あなたは私をからかっていますの!?」
「い、いや、悪い。冗談だ……」
俺はからかい上手な比企谷君にはなれないらしい。
「そういや……ありがとな。色々教えてもらって、助かった」
「礼には及びませんわ。私がしたいようにしただけですもの」
「……そうか」
「花丸さんの方はどうですの?」
「まあ、何もしないよりはマシだったんじゃねえの?専門的な事はよくわからん」
「そうですの……」
黒澤妹のことを言わないように注意しながら、黒澤姉の様子を窺う。彼女は腰まである長い黒髪を風にさらさらと靡かせ、機嫌よさそうに微笑んだ。その大人びた微笑みの前には、俺と国木田の秘密なんてあっさり見透かされている気がした。
「ふふっ、あなたは意外と優しいのですね」
「……意外は余計だ。てか、その言葉はそっくりそのまま返す」
「……私が何故このような回りくどい事をしているのか、理由は聞きませんの?」
「俺は意外と優しいらしいからな。聞かれたくない事は聞かない」
「そう……じゃあ、先日の御礼に飲み物でも奢ってもらおうかしら」
「……ちょっと待て。会話が繋がっていないんだが」
「あら、私の珠玉のスクールアイドル情報ですわよ?本来なら、もっと高値がついてもおかしくありませんわ」
「いや、まあいいんだけど……」
悪戯っぽく笑う黒澤姉が自動販売機の前で飲み物を選ぶのを見ながら、俺はまた国木田の事が気がかりになった。
……夜、小町に自宅に電話してもらうか。
*******
「花丸ちゃん、大丈夫?」
「はぁ……はぁ……大丈夫、ずら」
数歩先を走るルビィちゃんがこちらを気遣い、振り向いて心配そうな顔を向けてくれる。やっぱり、1週間じゃ……いや、やっていなければ、まだきつかったはずずら!
スクールアイドル入部初日。マル達は千歌先輩達と共に、学校の周辺を走っていた。曜先輩曰く、「スクールアイドルは体力づくりから!」らしく、先輩の言っていたことと同じずら。
……今度、お礼をしなくちゃ、ずら。
でも、この感覚は何だろう?
オラだって、究極の人見知りのルビィちゃんほどじゃないけど、自分の身内以外の男の人とはあまりお話ししたことはないのに。でも、あの人にはつい話しかけてしまうずら。
それに、あの人……比企谷先輩が他の女の人と話していると、妙に胸がざわつき、荒波のような何かが心に巻き起こり、自分が自分じゃないみたいな感覚がする。
もしかしてこれは……
い、いやいや!多分、違うずら!現実はそんな簡単に恋に落ちたりしないずら!それにマルにはまだ早いというか……。
自分の思考を打ち消すようにかぶりを振り、前方に視線を向けると、視界の隅にいるベンチに座った二人組に目が止まる。いや、離せなくなる。
「はあ……はあ……え?」
こちらから見えるのは後ろ姿だけ。でも、見間違えるはずもない。
そこで並んで座っていたのは、ルビィちゃんのお姉さんのダイヤさんと……比企谷先輩だった。
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