捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
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それでは今回もよろしくお願いします。
待ち合わせ場所に行くと、もう国木田が到着していた。ベンチにちょこんと座り、赤く注ぐ夕陽を浴びながら、静かにたゆたう海を眺めるその姿は様になっていて、一枚の絵画を見ているかのようだった。
しかし、その横顔は……優しすぎる瞳は、少し寂しさを滲ませていた。
声をかけるタイミングを窺っていると、彼女がこちらに気づいた。
「あ、先輩。こんにちは」
「……おう。悪い、待たせた」
「マルも今来たから大丈夫ずら」
「じゃ、行くか」
「はい、今日もよろしくお願いします!プロデューサーさん!」
*******
「♪~~~~」
「…………」
国木田が鼻唄を口ずさむのを聴きながら、ゆっくりと小説を読む。そこだけ取り上げると心休まる癒やしの時間に思えるが、今は少し……ほんの少しだけ緊張している。
現在、俺達二人がいるのは比企谷家の……俺の部屋だ。
国木田の家が遠いのと、自由に音楽を流せる場所が思いつかなかったので、こうしている訳だが……
「先輩、マルはこの曲好きずら!」
「そっか」
曲を聴き終えた国木田が、やたらと明るい笑顔を向けてきたので、内心を悟られないように頷く。
さほど広くはない部屋に男女二人。しかも、家族は誰もいない。いや、それだけなら俺ほどの精神力があれば動じることなどない。問題は……
「むむっ、先輩……泉鏡花好きとは……オラも好きずら!」
「お、おう……」
「じゃ、じゃあ、マルはお茶のおかわり入れてくるずら!」
「……俺が入れとくからとりあえず落ち着け」
「ずらっ!」
そう。国木田の方が無駄に緊張していて、一曲聴き終える度に、わたわたと忙しなく部屋の中を動き回り、その緊張感が、こちらにも伝染してしまうという負のスパイラルが誕生していた。まあ、曲はしっかり聴いているから、目的は果たしているのだが……。
ひとまず急須から日本茶を湯飲みに注ぎ、国木田に差し出す。
「あ、ありがとうございます……」
緊張を飲み下すように茶を啜る姿を微笑ましく思いながら、俺は気になったことを口にした。
「……そういやお前、歌上手いんだな」
今日一番の驚き。
国木田は歌が上手い。いや、本当に。
彼女がスクールアイドルの楽曲に合わせて、何の気なしにメロディーをその口から奏でた瞬間、心を捕らえられた気がした。DAN DAN心魅かれてく感覚がした。
今は遠慮して声量を押さえているが、声が透き通るような美しさで、耳から心に反響していく。もっと聴きたいと思えた。
俺の言葉に、国木田は顔をさらに紅くし、小さな身体をさらに小さく縮こませた。
「実は、マルは幼稚園の頃から聖歌隊に入ってるずら。最近は週に1回だけですけど……」
「おお……すげえな」
「いえいえ、そんなことは……」
国木田は謙遜しているが、それだけ歌えるなら立派な特技といえるだろう。
「じゃあ、歌の方は心配しなくていいな」
「そ、そうずらか?」
「専門的なことはわからんが、今は高海達みたいに歌って踊れるのが、第一目標だろ。なら残りの時間は体力作りとか別のことに集中すればいい」
「わかりました。じゃあ、次は……」
「次の曲は……」
こうして着々と黒澤姉のおすすめ曲を聴きながら、国木田の鼻唄を聴くという少し贅沢な時間を過ごした。
「やっぱり……緊張するずら」
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