捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編   作:ローリング・ビートル

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青春の影 ♯6

 

 オ、オラ……なんてはしたない事を……。

 顔がほんのりと熱を持っている。

 きっとそれは朝陽のせいじゃなくて……。

 本当に眠かっただけなんです。

 今日は朝四時からお寺の掃除をしていて、そのあと朝御飯を沢山食べたから……かな?

 そして小町ちゃんに頼まれて先輩を起こしに行ったら、先輩が気持ちよく眠っていて……。

 さらに、先輩の隣がちょうどいいくらいに空いていて……。

「花丸ちゃん、どうしたの?」

「な、何でもないずら!」

 軽く手を振り、何でもないと伝える。

 あの後、五分くらいで正気に戻ったルビィちゃんは、いつもの穏やかで少しオドオドした可愛い女の子に戻っている。やっぱり男の人にはまだ緊張するみたい。

 ルビィちゃんが言いづらそうに口を開く。

「あ、あの……」

「?」

「花丸ちゃんって比企谷先輩と結婚するの?」

「ずら?……………………えぇぇぇぇ!?」

 思わず大きな声が出てしまう。

 先輩や小町ちゃんを含む他の乗客の目がこちらに向いた。皆一様に驚いた顔をして、何があったのかと探る目つきをしている。

「ご、ごめんなさい……」

 頭を下げると、すぐに何事もなかったように、バスのエンジン音だけが聞こえてくる。

「花丸ちゃん、どうかしたの?」

 前の席の小町ちゃんが、ひょこっと頭だけ出して、心配そうな目を向けてくる。先輩の方は座り直したので、こっちからは見えない。

「いきなり大声出すからびっくりしたよ」

「あ、ごめん!ルビィが変な事聞いたから……」

「変な事?」

「な、何でもない何でもない!」

「そっか、わかった!」

 小町ちゃんは納得したのか、座り直す。

「ご、ごめんね……」

「いきなり何を言い出すの?」

「だって……一緒に寝るって事は夫婦じゃないの?」

「あ、あれはたまたまずら!」

「…………」

 ルビィちゃんが疑わしげな視線を向けてくる。……確かに無理がありすぎるずら。こうなったら……

「すぅ……すぅ……」

「あ、花丸ちゃん、ずるい!」

 

 つい最近オープンしたばかりというデパートは、開店セールをしているからか、かなりの人口密度になっている。

「わあ~、未来ずら~♪」

 国木田は目をぱあっと輝かせ、新しく出来たばかりの広い店内を眺め回している。

 さて、本屋はどこかなっと……。

「ん~」

 気がつくと、国木田も一生懸命にフロアマップを見ていた。

「……何か探してんのか?」

「あ、はい。本屋さんを……」

「……五階みたいだな」

「あ、ありがとうございます」

「いや、いい。どうせ俺も行くところだったし」

「そうなんですか?」

「ああ、こういう場所に来るとつい……」

「あはは……実は私も……」

 何だ?吸血鬼なのか?んなわけないか。

 国木田は洋服より本派らしい。

「じゃあ、私達はアクセサリーとか見てくるから、お兄ちゃんは花丸ちゃんをよろしくね♪」

「あわわ……」

 小町はそう言うと、俺の返事も聞かずに、黒澤妹の手を引き、奥の方へと行った。黒澤妹はされるがままに、小町に誘導されていく。

「……行っちゃったずら」

「ああ……」

 しばし顔を見合わせた後、とりあえず本屋まで向かう事にした。

 

「わあ~♪」

「結構広いな」

 見た感じ、フロアの四分の三くらいは様々なジャンルの本で埋め尽くされているようだ。そして、残りはCDやDVDの売り場になっている。

「せ、先輩……」

「どした?」

「こ、これは……」

「ああ、本が検索できるんだよ」

 書籍名と作者名を入れると、画面にはその本の詳細とどの棚にあるかが表示される。

 国木田は目をぱちくりとさせた。

「み、未来ずら!未来ずらよ~!」

 本屋でここまで感情表現豊かになるやつも珍しい。

 その様子は微笑ましくもあり、同時に人目を引くので恥ずかしくもあった。





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