捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編   作:ローリング・ビートル

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青春の影 ♯4

 夕方5時半を過ぎた頃、俺達は喫茶店の前で別れる事にした。

「じゃあ二人共、また明日ね!」

「バイバイ、小町ちゃん!……比企谷先輩」

「おう」

 まだ黒澤妹は俺に対しては声をかけづらそうだ。まあ、仕方ない。黒澤姉曰く、男と話した事がなかったのどから。黒澤妹は俺の声に頷くと、自分より僅かに背の低い国木田の後ろに隠れてしまった。

「小町ちゃん、また明日。比企谷先輩、また作品読ませてくださいね」

「いや、作品とかじゃないから……」

 あの文章のどこに文学的な、もしくは娯楽的な要素があったのだろうか。教師に見られたら、うっかり部活に強制入部させられるレベルである。しかし、国木田のほんわかするような笑顔を見ていると、案外あの作文も捨てたもんじゃないような気がしてくる。

「う~ん、どうしたものか。花丸ちゃん、ケータイ持ってないからなぁ……」

 小町が一人でうんうん唸るのを横目に、国木田にも別れの挨拶をする事にした。

「じゃ、気をつけてな」

「はい、それでは」

「ちょ~っと待った~!!」

 いきなりど真ん中に小町が割り込む。おい、今黒澤妹がめっちゃ飛び跳ねたぞ。

「花丸ちゃん、ルビィちゃん。今度のお休み、一緒にお出かけしない?」

 突然割り込んだにしては普通の話題だった為、すきま風に晒されたような寒い沈黙が訪れたが、二人は笑顔を返してくれた。

「うん!いいよ!」

「オラも大丈夫ずら」

「じゃ、そろそろ行くか」

 小町に友達が出来た事を心の中で喜びながら、自宅の方角へ体を向けると、小町がジト目でこちらを見ていた。

「何他人事みたいな顔してんの、お兄ちゃん。お兄ちゃんも一緒に行くんだよ」

「…………え?」

「お兄ちゃんは荷物持ち!」

「いや、俺受験勉強が……」

「最近、家ではずっと読書してばっかじゃん」

「ぐ…………」

「ど、読書も勉強ですよね?」

 国木田のナイスフォローが入るが、俺が勉強をサボっているのは事実だ。ここ最近ドタバタしていたから、というのは言い訳にもならない。両親は引っ越してからもしっかり働いている。

「それに、気晴らしも大事だよ?」

「…………」

「ルビィちゃん、こんなに可愛いよ?」

「ぴぎゃっ!」

 隠れちゃって姿が見えないんですが…………ていうか、怖がられてんじゃねえか。

「花丸ちゃんみたいな可愛い文学少女もいるよ?」

「オ、オラ、比企谷先輩の別の作品読みたいずら!」

「……もしかして食べたいとか?」

「な、何言ってるずら!…………オラは確かに食いしん坊だけど」

「わ、悪い……」

 うっかり会う度に物語を書く羽目になるかと思った。

「よし決まり!ルビィちゃん、花丸ちゃん、また明日!」

 小町の言葉を合図に解散する。特に振り返る事はなく、遠ざかる足音だけが微かに聞こえていた。

 まあ、どうせ荷物持ちだけだし、マネキンみたいに突っ立っとけばいいか。

 …………そう思っていた時期が私にもありました。

 

「…………」

「すぅ……すぅ……」

 当日の朝。

 俺の隣で国木田がすやすや寝息をたてていた。




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