ここは鎮守府付近の海域。いつもは艦娘達が哨戒しているため穏やかだが今日は少し穏やかな雰囲気ではなかった。
「うぅ~まさかあの鎮守府を追い出されるなんて思わなかったぴょん…」
今この海域を進んでいるのは卯月。元は他の鎮守府の艦娘であったが、とある理由でこの鎮守府に移動することになった。
「まぁいいぴょん。あの鎮守府には飽きてたし、そろそろほかの鎮守府に移動したいと思ってたぴょん。ふふふ…次の司令官はどれくらいうーちゃんを楽しませてくれるかなぁ~?」
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秘書官はいつも仕事がない。というよりも提督仕事をさせてくれないのだ。
しかし、そんな秘書官にも唯一の仕事がある。それは電話受けだ。
艦娘達が提督に仕事をさせてくれとお願いした結果、電話受け係だけをお願いされた。
艦娘達は仕事を渡されたには渡されたがあまりにも最低限過ぎる仕事を渡され、不満の一つでも言おうとしたが、提督は変なところで意地を張るところがあり、これ以上言ったら電話受けさえ提督が引き受けるような気がしたため素直に電話受けをしている。
「といってもまぁ、電話のおかれた机の前で待つだけなんだけどね~」
「鈴谷?暇なら別に外に行って皆と遊んだっていいんだぞ?」
「いや、それはいやかな~だってせっかくの秘書官だよ?秘書官の日はできるだけ指令室に居たいって。」
「そういうもんなのか?」
「そういうもんなの。それよりなんか話そ?」
「あぁ。と言っても最近は平和で何も話すことがないな…」
「そそ。平和なのはいいんだけどこう平和な日々が続くと暇だよね~」
「まぁ、平和なのはいいことだ。このままこの戦争も終わればいいのにな。」
「そうだね~」
と話してると電話が鳴った。
「お、やっと電話だ。こちら秘書官の鈴谷です。はい。はい。」
鈴谷がいつもとは違うしっかりとした雰囲気で電話に出ている。いつもは軽い感じなのにしっかりとメリハリはついてるんだな。
「提督、今なにか失礼なこと考えてたでしょ?」
「…顔に出てたか?」
「顔に考えてることが字として浮き出てくるくらいにね~。全く、鈴谷はいつもしっかりしてますよ~だ。」
「わ、悪い。」
「ま、いいよ。ほら、大本営から。提督に変われってさ。」
「大本営から…?なんだろう。いやな予感しかしない…」
最近は大本営からの電話なんてなかった。まぁ大本営が電話してくるのは緊急の時か、何か厄介事を押し付ける時しかないのだから電話が来ないのは大歓迎だったのだが…
「今回はどんな要件だろうな…もしもし。ただいま変わりました。」
『やぁ、忙しい時にすまないね。』
「いえいえ。で、用件とは?」
『他の鎮守府の艦娘が問題を起こしてね。処分といて解体でもよかったんだが、それでは大切な戦力がそがれる。なら君に任せようと思ってね。』
「なるほど。確かに私は艦娘の解体は賛成できませんし、分かりました。その艦娘引き受けましょう。ところでその艦娘は今どこに?」
『あぁ、君なら賛成してくれると思っていたよ。だからもう移動させている。今は君たちの鎮守府付近じゃないかと思っている。』
なんとすでに拒否権はなかったのか…まぁもともと拒否する気はなかったけど。
『どうせ着任したら自己紹介すると思うが一応その艦娘についての情報を教えておこう。その艦娘の名は卯月。普通であれば多少のいたずらを除いてしっかりと働く上、その容姿から提督からの人気が高い。』
成程。今こちらに向かってきているのは卯月か。最後の情報はいらないような気がするが…
「わかりました。ところでその子は前の鎮守府で何をしたんですか?」
『あぁ、それか。先ほども言ったように卯月はいたずらが好きだ。まぁいたずらと言っても子供だまし程度の可愛いものなのだが、いま君のもとに行っている卯月はそれを軽く超え、提督にいたずらを仕掛けている。だからそこの提督がここに泣きついてきたのだ「お願いします!あの悪魔をどこか別のところに!」とな。』
成程。でも艦娘を悪魔と言い、さらにいつも厄介ごとを押し付けてくる大本営に泣きつくほどとは…これは荒れそうだ。
電話を終え、受話器に電話を戻すと、鈴谷が心配そうな顔をして聞いてきた。
「て、提督…?もしかして今のって…」
「あぁ、そうだ。新しい艦娘が来る。ただ、他で問題を起こした曰く付きの子だがな。」
「大丈夫なの?それー」
「あぁ。問題ないさ。曰く付きでも大切な艦娘には変わりない。しっかりと接してこうと思ってるよ。」
「提督カッコいいー!…でも気を付けてよ?提督が傷つくのは見たくないしー」
「心配してくれてありがとうな。大切な娘から心配してくれるのはとても嬉しい。」
「へっへ~ん。ちょっとは軽い鈴谷のこと見直した?」
「ま、まださっきのことを根に持ってるのか!?」
「ふひひひっ♪ジョーダンだって~」
ほんの少し暗い雰囲気だった司令室が明るくなった時、司令室のドアをノックする音が聞こえた。
「いいぞ。」
「失礼します。大淀です。新しい艦娘を連れてきました。」
「よし。通せ。」
そして大淀の後ろから小さい子が出てきた。卯月だ。
「しれいかん、こんにちわ!睦月型駆逐艦四番艦卯月だぴょん!」
「おぉ、元気がいいな!こちらこそこれからよろしくな。」
こんな子が度を越えたいたずらをするなんて思えないな…と思いながら卯月に軽い日程表を渡そうと近づいたとき、
「うわっ!?」
「うお!?提督!?」
俺は盛大にこけた。よく見ると床には大量のビー玉が転がっていた。
「ぷっぷくぷ~!引っかかった、引っかかったー」
「う、卯月…?」
「どうせ大本営から連絡いってるだろうし、どうせ警戒して引っかからないと思ってたぴょん。けど、なーんだ。しれーかん、意外とおばかさんなんだね~」
急に卯月は人が変わったかのように話しかけてきた。すると鈴谷が
「なんだかよく分からないけど提督はバカじゃないし!まず、なんで急にこんなことするのか、意味不明なんですけどー」
と怒ってくれた。その気持ちは嬉しいが艦娘同士のケンカはあまり見たくない。
「痛てて…俺は大してケガもしてなし大丈夫だ。ありがとうな鈴谷。」
「ちょっと、本当に大丈夫なの?」
「あぁ、問題ない。それと、ほら卯月、軽い日程表と、ここの地図だ。君の部屋はそこに書いているから日程の詳しいことは同じ部屋の子にでも聞いてくれ。」
「…しれいかん、あまり怒らないぴょん?」
「あぁ。君もここに来たからには俺の大事な娘だ。これくらいで怒ってどうする。」
「ふ~ん…まぁいいぴょん。これから楽しませてもらうぴょ~ん♪」
と卯月は司令室を飛び出て自分の部屋へと向かった。
卯月が見えなくなった時、大淀が不安そうな顔で聞いてきた。
「提督、あまり言いたくないのですがあの子を他の子と同じ部屋に入れてよかったのでしょうか?」
「それなら問題はない。大本営からの話を聞くに、あの子のいたずらは全て俺、つまり提督にだけにするらしい。」
「成程。まぁそれもそれで良くは無いんですけどね…」
「まぁな。でもまぁ、どうにかやっていくさ。」
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「ふぅ~ん…しれいかん、まだまだ余裕そうだぴょん。これは楽しめそうだぴょん♪」
とこっそり仕掛けた盗聴器の音を聞きながら卯月は次のいたずらを考えていた。
またまた前後編です。(もしかしたら中編もあるかも?)
いつもグダってしまいすみません…