現在、午前5時半。まだ早朝のお風呂場にて提督に危機が迫っていた。
「やっぱりそこに誰かいるんでしょう?」
加賀さんが近づいてきた。
(ど、どうすれば…このままだと変態のレッテルを貼られた挙句、ここを追い出されてしまう…)
とそう思っていると自分の隣にいた妖精さんが出て行った。
最初こそは驚いたが、ここにいたのは妖精さんだったということにすればそのまま出て行ってくれるだろうと思い、妖精さんに任せた。
「あら?妖精さん、おはようございます。ところで私が言うのもおかしいのだけれど、どうしてこんな時間にお風呂場に?」
俺は祈った。お願いだ妖精さん!うまくごまかしてくれ…!
「アサノオフロハ,サイコウ!」
おぉ、納得できるいい感じの返答だ。このままいけばごまかせるぞ…!
「確かにそうね。私もこれからは毎朝起きて朝風呂を楽しみたいわ。」
よし!うまくごまかせたぞ。ナイスだ妖精さん!あとは加賀さんが出ていくのを待つのみ。遠征組の子たちが帰ってくるのは6時~6時半の間だし、それまでには何とかなりそうだな。
そう思っていると加賀さんが
「ところで、岩の後ろのあなたは誰なのかしら?少し肩が見えてるのだけれど。」
…え?
よく見ると岩から少しだけ肩が出ていた。成程、だから加賀さんは誰かがいると分かったのか。
とかそんなこと思っている余裕はない。どうすれば逃れられるんだ、この危機的な状況…
すると妖精さんが目で訴えてきた。だいぶ長い間の付き合いなのでアイコンタクトでも多少の会話ができるのだ。
『テートク,オンナノコノフリ!』
『女の子の真似!?そんな単純なもので引っかかるのか!?』
『イイカラ,ハヤク!』
あぁ、もう!こうなったらヤケだ!大学時代、知らぬ間にエントリーさせられ、なぜか女装コンテストの優勝者となった俺の実力、見るがいい!
「わ、わ、私は別の鎮守府の提督で、今日はここの提督さんとのお話があったので来ました。(裏声)」
「あら、そうだったの。私はここの鎮守府の加賀よ。どうぞよろしく。」
おぉ?なんかごまかせたぞ…?
と、安堵していると加賀さんがこっちに来る気配がした。
「うわぁぁ!ストップ、ストップ!」
と思わず地声で叫んでしまった。
「え?男の人…?」
やばい!何とかごまかさねば…
「お、おほん…い、いや何でもないです。でも私、人見知りなので…」
「それはごめんなさい。気に病んだのなら謝るわ。」
「い、いえ…大丈夫です…」
ふぅ。何とかごまかせたな。さて、これからどうしようか
…そうだ。せっかくだし加賀さんに俺の印象を聞いてみよう。普段は怖くて聞けないけど他の鎮守府の提督が印象を聞くのなら幾分か自然だろう。
「あ、あの…ここの鎮守府の提督ってどんな感じの人なんですか?今日はたまたま仕事で来ただけなので知らなくて…」
まぁ、自然な流れで聞けたほうだと思う。だがそんなことよりもうちの主戦力、加賀が俺にどんなことを思っているのか。もしかしたらとても嫌われているんじゃないかと不安でいっぱいだった。
「提督…?そうね…最初あったときはこんな人が提督で大丈夫なのかしらと思ったりしたわ。」
やっぱり頼りないと思われているのか…予想できたことではあったがはっきり言われるとなんか悲しいな…
「でも、提督と接しているうちに提督は私たちを艦娘として尊敬していて、娘のように大切に思ってくれていると気づいたの。気付いた時にはもう最初のころの頼りなさなんて感じなくなったし、今では私…いえ、皆が慕っているわ。」
「…そうですか。とても素晴らしい提督なのですね。私もここの提督のように艦娘達に信頼されるよな提督になりたいです。」
正直、こんな回答が来るなんて思わなかった。
もっと『頼りない』『信頼するに値しない』などと言われるとばかり思っていたのでとても嬉しい。俺の頑張りは皆に伝わっていたんだ。もっと頑張らないとな。
「あらもうそろそろ点呼の時間ね。では私はこれで。提督は6時~6時半は遠征組の子たちを出迎えるために母港にいると思うからそこに行けばいいと思うわ。あなたも信頼される提督になれるよう、頑張ってね。」
「あ、ありがとうございます。」
危ない危ない。あまりの嬉しさにボーっとしてた。とっさに出た声だったし、裏声が出ないかと思った…
「よし。加賀は出て行ったな。あとは着替え終わるのを待って外に出るだけだ。」
と、ここまでは順調(?)だったが塀の外に出した服を取りに行くためにパンツ一丁で必死にステルスしていたのはまた別のお話。
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「フゥ…アブナカッタ…」
いったい何を危なかったと言っているのかというと、提督が加賀に見つかるかもしれないという危険性があったことである。だがそれは提督が見つかって加賀が提督を殺してしまうという心配ではなく、提督が見つかって加賀に襲われるという心配であった。
ここの艦娘達は皆、提督のことが好きだ。中にはチャンスさえあれば既成事実を作ろうと目論む者もいる。
加賀もその一人であり、もし提督と同じお風呂、しかも提督はパンツ一丁という状況で行動に移さないわけがない。それを心配していたのだ。
「ハァ…テイトク,ドンカンダカラナァ…」
さっきも加賀さんの話の最後、とても小さい声で「いつかは私、提督と関係を持ちたいぐらいです」などと言っていた。提督は褒められたことに浮かれてボーっとしていたため聞こえなかったからよかったが…
「ドウシタモノカナァ…」
提督への心配は続く。
妖精さんの声と半角のカタカナにしてみたので、読みやすいようセリフにするのが意外と難しかったです…