魔法少女リリカルなのは ~The creator of blades~   作:サバニア

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先に謝っておきます。全国のルヴィアファンの皆様ごめんなさい!彼女の士郎への呼び方を使わせてもらいました。だってなのはの父親も『高町士郎』で名前が同じだったので……
最初は『シロくん』と考えたのですが、15歳の、それに髪の毛も白くないのでボツに……
結果、案が浮かばなかったのでこうなりました。

話は変わりますが、お気に入り登録者様が388名様などなど、未だに無印に入っていないのに多くの方々の目に止まって頂けるとは…………感激です。
誤文字報告をして下さった皆様もありがとうごさいます。一応、自分でも確認しているのですが、自分で書いたものだと見逃しやすいんですよね…………感謝です。

こんな感じの当作品ですが、引き続き楽しいで頂けると自分も嬉しいです。

では、どうぞ!


7話 地球へ

 

 

 

 ベルに呼ばれて、新たな戦地に赴いた俺の戦いも遂に終わった。

 その戦いは連絡に書いてあったように、小火の内に消し止めたい事柄だった。次元犯罪者の【魔導師】連中がエネルギープラントを占拠した挙げ句、駆動炉を暴走させようとしていたからだ。

 何でも、自分達の活動に莫大なエネルギーを欲していたらしいが、そんなことが実行されれば駆動炉に過負荷が掛かって最悪自爆……爆発による周辺地域への被害など想像するまでもない。下手をしたら、環境汚染による二次被害も有り得ただろう。

 だから、『アルトセイム』で連絡を受けた俺は急いでベルたちと合流することを選んだ。そんなことで、何の罪も無い人たちが苦しむような惨劇を引き起こさせる訳にはいかなかったし、そのことを知ってじっとしてなんて居られなかった。

 

 

 戻ることを決めて緑豊かな地を飛び出した俺は、至急ベルたちとの合流を果たした。

 現地で皆と久々に顔を合わせられたけど、その時は再会を喜んでいる暇は無かったから早々に作戦会議を開いたのだった。

 その雰囲気は今でも覚えている。緊張感の中、皆があれこれ考えていた。

 前衛、後衛、サポーター……グループを作って対処するのが普段の彼らと同じやり方だったけど、どう戦力を分けるかが一番の焦点になった。

 制圧目標は二つ。エネルギープラントを占拠した実行犯と駆動炉。最初は戦力を半々にしようかと案が上がったが、駆動炉の方に多くの人員を割く必要があったので今回は比重を傾ける方針は寸なり決まった。

 

 

 けど、それで一つの問題が発生した。それは残った戦力で実行犯を制圧する方法。

 駆動炉の守りを固められると状況が厳しくなるので、先にある程度の実行犯を排除する必要があった。

 ただ、問題点があった。それはどうやってバレずに実行犯を先に排除するかだった。

 先行するのが少数ならば【魔導師】から漏れる魔力が探知されることを幾らかは誤魔化せるけど、魔法を使えば即座に察知される。だから、魔法を使わずに実行犯を押さえることが条件になった訳だが、相手も【魔導師】……魔法が使えない条件下の戦闘は同じ【魔導師】の彼らには厳しかった。

 

 

 だからその問題点は、俺一人が担当することで解決させた。

 俺の主力は剣に弓だから魔力反応を誤魔化せるし、生粋の【魔導師】じゃない。加えて、単独行動は“俺”の分野でもあったからな。

 それに、自身の特性を踏まえても、ここに居る誰よりも俺が適任だっただろう。

 そう言う理由から俺が受け持つとベルたちに言ったが、ベルは真っ先に「負担が掛かり過ぎだ」と、心配染みた声で言ってくれた。

 でも、俺が「魔法抜きで戦線を張れるのは俺しかいないだろ?」と、言うと口を鈍らせた。

 それを見た俺は他に案が有るかとベルたちに訊いたけど、いい案は返ってこなかった。

 

 

 よって、制圧方法はシンプルにまとまった。

 ベルたちのグループは駆動炉を、単独行動の俺は実行犯を担当。

 双方が別々の別々の場所からエネルギープラントに侵入し、駆動炉と実行犯たちの制圧することになった。

 

 

 しかし、方針が定まっても、他の方面で一番の大きな問題が残っていた。それは、タイミングだった。

 この手の奴らは錯乱したら何をやり始めるのか解らないところが怖いからだ。下手に刺激して取り返し付かない惨劇を引き起こされたから作戦を立てた意味も無くなる。

 その危惧は皆して共通だったから、俺たちは近場で張り込みをして時を待った。多分、そうやって待っている時間が一番長かっただろう。ベルたちも”アイツ”を模倣している”俺”も戦場では待つことも”戦い”だ。

 その”戦い”で僅かでもタイミングを逃したら失敗。全てを救うどころか全てを落とすことになる。そんな結末だけは何が有っても認められなかった。

 

 

 緊張の糸が張り続ける日々を過ごしていた中、突然と相手側が動きを見せ始めた。恐らく、そうなった理由は『管理局』が動くのを察知したからだろう。治安維持組織とそうでない連中……目を付けられたその先は誰でも大体の予想が出来る。

 それに、こちらとしても『管理局』と接触するのは避けたかった。今回の”仕事”は『管理局』からの依頼ではなかった。下手に関わったとされて、事情聴取などされても面倒だった。

 

 

 そうして、周りの空気と思考は鋭くなった。

 向こうの動き……『管理局』……タイミングが重なったと同時に、俺たちは相手の動きに合わせて行動を開始した。

 

 

 俺の制圧はいつもと同じように干将・莫耶による近接戦闘。

 奇襲を仕掛けて相手のデバイスを破壊したりして無力化させる戦法を取っていた。

 バレてからも最後にデバイスを破壊することは同じだったけど、手間は増えた。相手は普通に魔力弾を撃ってくるから、俺はそれらを切り落としつつ距離を詰め、自身のレンジに敵を収めるしかなかった。

 

 

 でも、懐に飛び込んでしまえばこっちのものだ。

 俺の握る二刀から繰り出される白と黒の軌跡を相手に叩き込んでいった。

 例え相手がバリアジャケットを着ていても、衝撃はしっかり届いていた。その手応えはその都度あったのだから間違えない。

 そのようして俺は、作戦通りに巧く役割をこなしていた。

 

 

 ベルたちの方も予定通り上手くいってくれた。

 向こうの方も少し戦闘があったらしいけど、俺以外のメンバーが揃っているから心配は無用だった。

 それはそうだろう。彼らの方が俺より実戦経験があるだろうし、戦闘に慣れているだろうからな。

 

 

 そうして互いが事を上手く進められた結果、制圧自体は簡単に済んだ。

 その後は即座に撤退。危険の排除や人命救助などはベルたちも俺もやるけど、治安の方は『管理局』の案件だ。後のことは彼らがしてくれるだろう。

 

 

「――――――――」

 

 と、ベルたちと一緒に彼らの“ホーム”へ“移動中”の俺は今回の経緯を思い出していた。

 それが短い間だったのか……長い間だったのかはよく分からない。いや……俺が戦いに身を投じる時間を考える必要なんて無いか。

 だって俺は……“あの時”に戦う覚悟を決めているし、苦しむ人を助けられるならそれでいいんだから。

 

「ベル……その後の状態はどうなってる?」

 

「『管理局』が治安維持に奔走中。まあ、それを含めて彼ら(組織)の設立理由だから当然だな。

 ま、俺たちは当面、様子見をするさ」

 

 その返事を聞いて、俺は視線を自分の右手に向けた。

 俺もベルたちも治安維持を担っている組織じゃない。被害を減らしたり、苦しむ人々を救うことなどが俺たちの行動目的だ。

 だから、火種を消す為にも、救う為にも素早く動く。

 

(『管理局』……か……)

 

 今回のような事柄の制圧、解体はベルたちがしなくても彼らがやってくれていただろう。ベルの言った通り、それが設立理由なんだから。

 けど、彼らの行動は少し遅い感じがする。大きな組織である以上、一枚岩とは限らないから急に行動を起こすのは大変なんだろう。

 別に、そのことを責めるつもりは無い。彼らだって治安維持の為に戦っているのは知っているし、守りたいって志は理解できる。

 だから俺は『管理局』を否定するつもりも無いさ。別段、賛同する訳でもないけどな…………。

 

(ま、俺としてもあまり関わりたくないから気にしてもだけどさ……)

 

 俺の”能力”は特殊だし、個人に見られるならともかく、どんな人が居るか判らない組織には見られたくない。まあ、見られても正体が知られなければ最低ラインは守れると思うけど、【魔法】みたく表向きの”技術”じゃないから能力自体を知られないのが一番。

 けれど、万が一注目を浴びたら積極的に能力の高い人員をスカウトしている彼らからの声が掛かることは考えれる。

 周りから見れば、それはいいことかもしれない。『管理局』に属せば安定した収入に加えて、名誉、名声などが得られるかもしれないんだから。

 

(でも、俺はそんなモノが欲しい訳じゃない。金銭は生活に必要だけど、それは報酬ってことでベルから貰っているから十分で困ることはない。

 それに、組織に入ったら――――――)

 

 ――――『組織』に入ったら現場では上からの命令が原則的に優先される。集団を纏めるルールは必要だろうから、それが必要な事柄なのは分かる。けど、それを思うと……不安が付きまとう。

 もしその命令が「目の前で苦しんでいるを見捨てて他の任務を優先しろ」って内容だったら? 大きな組織だからと言っても、それで全てを救える訳じゃないだろうし、それなりの“事”を見てきている局員ならそんな内容の命令をしないとは言い切れないだろう。

 ……そんなのはご免だ。どんな説明を受けたとしても、目の前の人を見捨てて他を優先することなんて耐えられない――――――

 

 

 それらの事が理由で俺は『管理局』を避けている。好き嫌いというより、肌に合う合わないと言った方が正解かもしれない。

 切嗣は個人的に嫌っているみたいだけど、組織のやり方が気に入らない人は少なくないだろう。

 ベルたちは【魔導師】だから正式に依頼を受けたりしているらしいが、そうでない時との区別はしっかりしている。

 

 

 それにしても……やっぱり組織って難しいんだな。

 そう思ったところで、俺は思考を止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 今回の件の振り返りをしている内に“ホーム”の近くまで来ていたらしい。

 見慣れた風景が俺の目を入ってきた。

 

 

 ベルたちが“ホーム“に入っていく中に俺も紛れて、会議室に足を踏み入れた。

 ここではミーティングに使われたり、報酬の配分をしたりと様々な用途で使われる。

 そんな場所でみんなから数歩前に立って、こちらを向いているベルが口を開く。

 

 

「みんな、今回もお疲れ様。何とか大事にならずに片付けることが出来た。

 報酬の配分は休憩後にまたここで、取り敢えず解散だ。各自休息を取ってくれ」

 

「お疲れー」

 

「疲れたな」

 

「まぁ、いつも通りこっちは死者は居ないし。

 怪我人は居るが命あるだけ儲けもだろう」

 

 などなど、言葉を残して皆それぞれと会議室を出て行く。

 ドア付近に人が少なくなった頃を見計らって、俺も会議室を出ようしたが、ベルに呼び止められた。

 

「あ、シロウは残ってくれ。ちょっと話がある」

 

 ドアに向かっていた体を反転させて、ベルの元へ歩き寄る。

 

「前にも言ったけど、報酬の割り当ては等分でいいぞ? 俺が単独行動だからって多めにしなくても――――」

 

「いや、そっちじゃない。まぁ、そっちも言いたいところだけどな。報酬関係は皆の了解を取ってあると前々から言ってるだろう。

 あ、だからそうじゃなくてだな。シロウ、お前の今後の事についてだ」

 

 うん? と、頭に疑問符が上がる。

 じゃあ、何か問題事でもあったかと記憶を探るが――――

 

「一応言っておくが問題事でもないからな。

 シロウ、お前は暫くの間ここを離れて地球で暮らしてもらう。ここ数年ずっと戦いやら修行やら負担が掛かりすぎだ。住む所はこっちで用意するから。ゆっくり普通の生活をしてろ」

 

 突然の提案に俺は驚いた。

 ”地球”――――それは俺の故郷であり、切嗣に救われた場所だ。冷凍睡眠を含めるとかれこれ20年以上も過ぎている。

 興味が無いとは言わないが、ここを離れるって言うのは少し納得がいかなかった。

 

「『離れろ』って、別に俺は平気だぞ。まだまだ――――」

 

「ダメだ。これ以上、負担が掛かったら痛い目に遭うぞ。そもそも、あの5年間の修行の時点でさえ、オーバーワーク気味だったんだ。魔術などを使うなとは言わないが、"仕事"はダメだ。

 それにまだ15歳だろ、大人しくゆっくりと日々を過ごしてこい。あ、言っておくがこれは皆の総意でもあるからな。お前の頑張りは誰もが認めてる。そこを心配してるなら気にするな」

 

 反論しようした考えは真っ先に潰された。

 行き場を失った言葉の他に、断れそうな事柄を引っ張り出そうとしたけど――――

 

「シロウが壊れたら、キリツグから預かってる俺が申し訳なくなるからさ。『俺のために』と、思って行ってくれ」

 

 そう言われると、こっちが困る。ベルに迷惑を掛ける訳にはいかない。

 だから、渋々ながらも俺はその提案を受けた。

 

「……わかった。その提案を受け入れるよ。

 でも、何かあったら連絡くれよ? 直ぐに向かうからさ」

 

「だからさ、その心配は要らないと――――」

 

 その後も少しばかり話が続いたが、結果は変わらず俺はベルに送られて地球へ行くことになった。

 故郷……あまり実感が湧かないけど、静かで穏やかな場所というのはなんとなく思った。

 

 

 

 

 

 

     ━━━地球・海鳴市━━━

 

 

 ベルの手により地球に繋がれた『転送ポート』を通じて、俺は海鳴市と言う町に来ていた。

 その町は海に面していて、潮風が香る美しい町だ。

 ベルがここを選んだ理由は俺の故郷と同じく海があったかららしい。

 なお、俺の故郷は20年以上も経った今では無いとのこと。

 正直言って、その事はさして気にならなかった。

 あの出来事の前の記憶は正直に言って曖昧だ。

 覚えているのは暑かったこと。誰もが助けを求めていたこと。そして、切嗣に救われたことだ。

 

 

 そんなことを考えつつ、俺は地図を見ながらベルの用意したと言うマンションへ向かっていた。

 その途中で車道の隅っこに停車している車が目に入った。その周りには小学生の女の子とその姉と父親と思われる3人が立っている。

 車にトラブルでも起きたのだろうか? そう思って俺は声を掛けるために近寄った。

 

 

 

 

 ――――この出会いが今後の俺の人生に大きく関わるとは思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

**********************

 

 

 

 

 

 

 休日の買い物から帰る途中の私たちは、トラブルの真っ只中です。

 家が経営している喫茶店――――『翠屋』で発売しているお菓子などに必要な材料をお父さん、お母さんと一緒に買いに出掛けたのですが、その帰り道で突然と車が止まってしまったのです。

 けど、このまま道端に止まってはいられません。末っ子の私は店番より二人と一緒に、とここに居ますが、翠屋にはお兄ちゃんとお姉ちゃんが待っている早く帰らないと……。

 今、お父さんとお母さんが業者さんに連絡するか相談しています。

 

「何か、トラブルですか?」

 

 そんな時、一人のお兄さんが声を掛けて来ました。

 短めでくすんだオレンジ色っぽい髪の毛に、茶色に黄色が混ざったような色なのに透明感のある瞳。背はお兄ちゃんより低くお姉ちゃんより高いから、高校生ぐらいかなって私は感じました。多分、これから何処かに出掛けるのか、帰り道の途中だったと思います。だって、動きやすい服装で大きめのバックを背負っていましたし。

 お兄さんが車の近くまで来た所で、お母さんがさっきの質問に答えます。

 

「ええ……車が動かなくなってしまって……」

 

「そうなんですか……。

 よろしければ、少し診てみましょうか? 工具は有りますし、応急修理ぐらいは出来ると思います」

 

 そう提案して、バックから工具箱を取り出すお兄さん。

 緑色をした長方形のそれは長いこと使い込んでいそうですが、しっかり手入れがされているようで黒ずみとかは見られません。

 お兄さんに言われて、工具箱を見たお母さんはお父さんに訊いてみます。

 

「どうしましょう?」

 

「工具はしっかりしてそうだし、診てもらえるなら頼もうかな

 えっと、頼めるかい?」

 

 お父さんとお母さんのお話がまとまると、お兄さんは車の下へ潜って行きました。

 その動きは用務員さんを思わせるぐらいで、修理事に慣れていそうです。

 

「……これなら修理材は――――で、工具は十分だな……」

 

 途切れ途切れの声が聞こえてきます。

 ……どうも、少し診ただけでお兄さんは壊れた箇所と必要な物が分かったみたいです。

 それから一旦、お兄さんは車の下から出て来ましたが、早々に工具箱から色々と取り出すとまた潜って行きました。

 すると、作業着が似合いそうなガチャガチャとした音がリズミカルにこっちに届いてきます。

 どうしたらそんな音が出せるのかと見たくなりますが、邪魔をしたらいけないのでグッと我慢。興味を持ったのはお父さんとお母さんも同じみたいで関心の目をしていました。

 

 

 

 

 暫くして、

 

「一先ずこれで大丈夫だと思います。エンジンを掛けてみて下さい」

 

 そう言ってお兄さんは出て来ました。

 修理が終わったことを聞いたお父さんは、運転席に向かって鍵を回してエンジンを掛けます。

 そうしたら、さっきまでの鈍い音ではなく、聞きなれた連続音が車から鳴り渡りました。

 

「おお、動いた!」

 

「よかった。でも、これは応急修理ですからきちんと業者に診てもらって下さい」

 

「ありがとう……すまない、名前を聞いていなかったか」

 

「あ、すみません。俺はエミヤシロウと言います」

 

「エミヤシロウ……? 『シロウ』は剣士の『士』に、新郎の『郎』かい?

 俺も士郎って言うんだ。高町士郎と言う」

 

「ええ、俺もそう書きます。一緒ですね」

 

 お父さんたちの会話を聞いて、私とお母さんもハッとなって気付きます。

 そうでした……私たちは最初にするべき自己紹介をしていませんでした。突然のことにビックリしていたから、し忘れていました。

 でも、このお兄さん――――士郎さんは進んで修理を請け負ってくれました。お兄ちゃんたちもそうだけど、手先が器用な人は優しい人が多いのかな。

 エミヤ士郎さん、かあ……。お父さんと同じ士郎(なまえ)だけど名字はどう書くんだろう?

 来年度で小学3年生と小学校の半分になるけど、今までに『エミヤ』って名字の人は居なかった。江宮? 絵美屋? 私が知っている字を当てはめていくけど、やっぱり分からない。

 きっと珍しい名字なんだ。名前に『エミ』って付く人は聞くことがあるけど、名字の方は無いし。

 ――――と、私が思っている内にお話は進んでいました。

 

「――――で、こっちが妻の……」

 

「高町桃子です。

 士郎くんって呼ぶとややこしいから――――シェロくんって呼んでいいかしら?」

 

「はい、大丈夫ですよ――――って妻!? 娘さんじゃなくてですか!?」

 

「あら、嬉しい事を言ってくれるわね♪ こっちが娘よ」

 

 驚いている士郎さんに見てから、お母さんは私を見て来ました。

 続けて士郎さんもこっちに向いたので、私も挨拶します。

 

「高町なのはです。こんにちは!

 名字だとお父さんたちと分からなくなると思うので『なのは』って呼んで下さい」

 

「なら、そうさせてもらおうかな。改めてこんにちは、なのは。

 俺のことも士郎でいいよ。なのはなら名前でも紛らわしくないだろうからさ」

 

 姉妹じゃなくて親子ということの驚きをしまった士郎さんは、柔らかい表情で返してくれました。

 名字じゃなくて名前を勧めてくれたけど、それに理由があるのかな? 『エミヤ』を漢字で書くと悪い印象があるとか。

 ちょっと気になったので、訊いてみます。

 

「あの、『エミヤ』ってどう書くんですか? 珍しい名字ですよね」

 

「珍しい……かな?」

 

 確認を取るような士郎さんの声に、私は頷きました。

 

「そうか……あ、漢字にすると衛星の『衛』に、王宮の『宮』で『衛宮』って書く」

 

「……なるほど」

 

 『宮』はさっき考えた中にあったけど、『衛』は思いもしませんでした。

 ただ、学校で習っているのとニュースで見たりしている漢字だったので、言われてしまえば頭に思い浮かべることは難しくありません。

 やっと知ることの出来た名前を、心の中で呟きます。

 

(衛宮……士郎さん……)

 

 ――――この時は、士郎さんとの出会いが私にとっても大きく関わることだとは思っていませんでした。

 彼の珍しい赤銅色と琥珀色は、これからの新たな出会いを告げる“新色”だったのかもしれません。 

 

 

 

 

「ところで、シェロ君はもうお昼を食べているのかしら? よかったら御礼にご馳走しよう思っているんだけど……」

 

 自己紹介が終わったところで、今度はお母さんが士郎さんに提案しました。

 

「いえ、そこまでしてもらうのは――――」

 

「そうだな、助けてくれなかった食材がダメになったかもしれないし。士郎くん、是非来てくれ。席は後が空いているし、帰りも送ろう」

 

 遠慮しようとする士郎さんに、お父さんも是非にと勧めます。

 その息の合った二人の誘いを受けた士郎さんは少し迷ったようですが、

 

「では、お言葉に甘えさせて頂きます」

 

 と応じてくれました。

 こうして、衛宮士郎さんは『翠屋』に来ることに。

 この後に彼の姿を見て驚いたのは、私だけでは無かったはずです。

 

 

 

 

 トラブルに遭いながらも再び走り出した車は無事に翠屋に到着。

 入口から店内に入った途端に聞きなれた声が飛んできました。

 

「あ、お帰り」

 

「やった、ここで応援が!」

 

 お兄ちゃん――――高町恭也さん。

 お姉ちゃん――――高町美由希さん。

 とっても仲良しな兄姉(きょうだい)が出迎えてくれました。

 いつもなら走り寄って行くのですが、今日は店内が――――

 

「凄い賑わい」

 

 なので出来ません。

 私が思った事と同じ事をお母さんが呟きました。

 確かに今は昼時ですが、お母さんの言った通り普段より大勢のお客さんが居ます。

 手は足りるかしらと、お母さんが考えていると士郎さんが右手を上げました。

 

「俺で良ければ手伝いますよ。裏での調理はレシピを知らないので出来ませんが、オーダーとかの表は出来ますから」

 

なんと! お手伝い宣言! 車の修理に、接客って士郎さん何者?

 

「え? 大丈夫?」

 

 きょとんとした表情をお母さんは浮かべます。

 私も今日初めて来店した人には雰囲気を掴むので手がいっぱいだと思いました。

 けど、その心配は必要有りませんでした。だって……

 

「お待たせいたしました」

 

 数分後には翠屋で人気の高いシュークリーム、アイスティーなどを流れるようにお客様が居るテーブルへ運んでいく翠屋のエプロンを着こなした士郎さんの姿がありました。

 それだけじゃなく、

 

「2番テーブルに食後に珈琲を。

 後、3番テーブルはお持ち帰りにシュークリーム4つ」

 

 などなど、早く、正確にオーダーを取って来ます。

 

 

 え? 士郎さん、本当に何者なの? 執事さん?

 驚きの連続に私の頭はパンク寸前です。修理屋さんと喫茶店の仕事内容は全然違う筈なのに士郎さんは慣れた手付きでこなしています。

 店内はシンプルな形でも混雑時は入れ替わり立ち代わりが激しくなるので、新しく入った店員さんが慣れるのが一苦労なことなのに……

 車の修理もそうだったけど、士郎さんのは要領がいいって言うのか『経験がある』って感じがします。

 

「新人さんなのに凄いわね」

 

「高校生ぐらいかしら? にしても、アルバイトと思えないぐらい達者だわ」

 

 オーダーが運ばれた各々のテーブルから称賛の声が聞こえてきます。

 私もお客さんだったら似た事を言うと思いますが――――すみません、新人さんどころかアルバイトさんでもありません。

 

「なのは、おしぼりのストックって何処にあるんだ? 3番テーブルが切らしそうだ」

 

「士郎さんはそのままで大丈夫です。補充は私が」

 

「ん、分かった」

 

 空のトレンチと次のオーダーが乗ったトレンチを取り換えながら、士郎さんは教えてくれました。

 細かいところまでしっかり見てるなあ……。これなら昔からやっているお母さんたちと同じレベルなのは間違いないと思います。

 

「喫茶店をやっているとは車で聞いたけど、いい店だな。あまりお茶をしない俺でも、お客さんの反応を見て実感できるよ」

 

「えっ、しないですか!?」

 

「いやまあ……出される側じゃなくて出す側の方が俺には合ってるんだよ、うん」

 

「じゃあ、やっぱり経験があるんですね」

 

「喫茶店の経験と言っていいかは微妙だけどな。似たことならやってた」

 

 懐かしむような声を出すと、士郎さんはトレンチを片手にテーブルの方へと戻って行きました。

 喫茶店に似たことが何だかは分からないけどイメージとしてはお給仕辺りだよね。

 そんな経験があって修理事も出来る……その広さを考えると、友達の家で会ったことがあるから自然と執事さんを連想してしまう。

 でも、高校生ぐらいの執事さんって居るのかな?

 ここに来てふと思いながらも、私はおしぼりの補充へと向かいました。

 

 

 

 

 士郎さんの活躍も有って、賑わいに溢れていた店内は何とか一段落付けることができました。

 店内にはまだ数組のお客さんたちが居ますが、もう店員さんの手が足りなくなることはないでしょう。

 

「シェロくん、凄いわね! 驚いちゃったわ!」

 

「いえ、お役に立てたなら良かったです」

 

 ピークが過ぎて落ち着きを取り戻す筈のお母さんですが、今日はテンション上昇中です。

 お父さんとお兄ちゃんたちはそこまで行きませんが、驚きを隠せずにはいられない様子。 

 

「正直驚いた……。

 あ、俺は高町恭也。3人兄妹の一番上で高校3年生だ」

 

「私は高町美由希。高校1年生よ。

 衛宮士郎くんだっけ? 余り年が私と変わらないと思うんだけど……あの動きはどこで習ったの?」

 

「衛宮士郎で合ってますよ。年は15歳です。動きは知り合いの所で手伝いとかやっていたので、自然と身に付いた感じです」

 

 そう説明しながらも何処か考え事をしていそう士郎さんに、お母さんは話し掛けます。

 

「シェロくん、もしよかったらここで働かない? あ、学校もあるでしょうから出来る限りで大丈夫よ?」

 

「いえ、学習課程は大学レベルまで終えてるので心配は要りません。

 俺でよろしければお願いします。働き場所は探さないと、って考えていましたし」

 

 その言葉に、お母さんは一瞬固まります。

 まあ、私もです。士郎はどこのエリート執事さんなのかな……もはや、思考破棄手前です。

 

「そ、そうなんだ……凄いわね……。もしかしてだけど、シェロ君って帰国生徒?」

 

「5歳ぐらいまではこっちにいましたけど、色々と学んだのは外でなんでそうなるのかもしれません。あ、給仕もその一環です」

 

「そうなの。じゃ、昼食と仕事についての話しがあるからこっちに――――」

 

 そう言われて士郎さんはお母さんの後に続いて行きました。

 二人の姿が見えなくなると、残ったみんなが口を開き始めます。

 

「父さん、彼は執事の経験でもあるのかな? 外での一環って言っていたし、なんか凄く様になってたと思うんだけど?」

 

「そうだなー。初めて来てあれだけの動きをこなしていたからな……海外ではその手の教えもあるみたいだから、齧ったことがあるのかもしれないな」

 

「それにしても動きが綺麗だったよねー。見惚れちゃったかも」

 

「おいおい――――」

 

 と、本人の居ないところでどんどんと士郎さんについて話が進んで行きます

 今日の私はあの中に入れそうにありません。次から次の事柄で頭が一杯になりつつあったからです。

 

 

 

 

 ――――――士郎さんとの出会いはこんな感じで驚きだらけ。

 この時は、士郎さんの抱えている"事"なんて全然知りません。私がその事を知るのはもっと先になるのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




現実の車があんな感じで治るかは自分は知りません。ただそれっぽく書いただけです。大目に見てください。
士郎の新たな住まいはA’Sでリンディ艦長が来たマンションと同じところです。(別室)
ガラクタ弄り(修理)とバトラー性が無いと自分のイメージ中の士郎がしっくり来なかったのでこんな形にしました。まぁ、なのはと接点を持てたしよかったよね!


次は士郎の宝具などについての簡単なまとめを出そうと考えています。
その後に無印編に突入します。

お読み頂きありがとうございましたm(_ _)m


10/6 士郎のパートの文を整理しました。
追記 会話の追加、記号など整理しました

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