魔法少女リリカルなのは ~The creator of blades~   作:サバニア

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今回こそ、"彼"との邂逅です。
やっと無印が近付いてきました。
では、どうぞ!




5話 邂逅

 吹き荒れる風が俺の全身を打ち付けてくる。

 それは体だけではなく、魂さえも鍛えそうな超風だった。

 前に進むことは叶わない。押し寄せるソレはこの先に誰かが立ち入るのを防ぐ壁なのかもしれない。

 

「――――――――――」

 

 多分、人間にはこの風に抗う術を持たないだろう。

 感じ続けているソレはただの風じゃない。

 鉄……鋼……とにかく、人間の耐えられる領域なんて超えた圧力を誇る風だ。

 ソレに打ち付けられているのに、未だに吹き飛ばされずに立っていられていることは不思議だった。

 

「――――――――」

 

 全霊でその場に踏み留まる。

 体が飛ばされても終わり。

 意識が崩されても終わり。

 魂が溶かされても終わり。

 

「――――――」

 

 耐える最中、何故かそれらは分かった。

 けど、だからと言ってソレに抗う術が解った訳じゃない。

 辛うじて僅かに開く眼で前を見ても、吹き荒れる白いソレが映るだけだ。

 それもその筈……ソレに潰れてるのが人間の末路だろうし、ここにはソレしか存在しないのだから。

 

「――――」

 

 だと言うのに……次第とある(うた)が聞こえてくる。

 それは、男の生涯の詩だった。

 

 

体は剣で出来ている。

Iam the bone of my sword.

 

血潮は鉄で心は硝子。

Steel is my body,and fire is my blood.

 

幾たびの戦場を越えて不敗。

Ihave created over a thousand blades.

 

ただ一度の敗走もなく、

Unaware of loss.

 

ただ一度の勝利もなし。

Nor aware of gain.

 

担い手はここに独り。

Withstood pain to create weapons,

 

剣の丘で鉄を鍛つ。

waiting for one's arrival.

 

ならば我が生涯に意味は不要ず。

Ihave no regrets. This is the only path.

 

この体は、

My whole life was

 

無限の剣で出来ていた。

“unlimited blade works“

 

 

 

 詩が終わると風は弱まっていた。

 今のはまるで……迎い入れる声みたいだったな。

 少なくとも拒む声色ではなかったと感じる。

 なら、前に進もう。

 

 

「――――――――――」

 

 

 気が付くと、俺はそこに立っていた。

 赤く染まった空。荒野には無数の剣が突き刺さっている。

 光輝く程に美しく装飾された剣。

 一切の装飾も無くただ武器として素朴な剣。

 同じような剣でも見た目は様々。

 他にも大剣、曲剣、短剣――――種類を数えるだけでも一苦労しそうな数が在った。

 

 

 ……そもそも数えることが間違ってるか。

 だって剣たちは俺の周りだけではなく、見渡す限りの荒野――――いや、この世界の何処までも続いていたからだ。

 まさに、無限。そんな光景が広がっていた。

 

「無限に剣を内包した世界……か……」

 

 言葉にすればそれだった。

 周辺を見回して口にしたけど、俺はこの世界に驚くと一緒に、剣たちに釘付けになった。

 ここに在る剣はいずれも光を保っている。空から降り注ぐ赤い光を受けて、刀身に煌めきさせていたんだ。

 初心を忘れない心……人に例えるならそんなところか。

 きっと、どれだけ時間が経とうが持ち合わせているその輝きは薄れることはないのだろう。

 

「―――――っ!」

 

 突然、一陣の風が吹いて舞った砂塵に対して俺は反射的に目を閉じた。

 今度のは普通の風だけど、そこに砂埃が含まれていて剣たちを見ることが中断させられた。

 

 

 それが遠い向こうへと吹き抜けて行ったのを肌で感じ取ってから、目を開き直した。

 同じ風景が見えるかと思っていたが、一つだけ変わっていた。

 

 

 

 地形は変わっていない。

 ただ……一人佇む男の姿があった。その風采は特徴的だった。

 全体的に白いが、一部薄い赤銅色を残した髪。

 浅黒い肌で偉丈夫に、赤い外套を身に纏っている姿。

 その人から感じられるのは気高さ。一人で居ようとも、そこには寂しさや悲しさは無かった。

 

 

「まさか、今度は俺の世界(・・・・)(じぶん)が来るとはな……前は"あいつ"の世界に俺が立ち入ったが、今回は自分が立ち入られる番か……。

 しかし、幼いな、七、八歳ぐらいか? まあそれにしても……よく人の身に【英霊の魂】を降ろそうと考えたものだな。俺たちのような例外でない限り、普通なら死ぬぞ」

 

 そんな男はそう言葉を漏らしながら真っ直ぐにこちらを見ていた。

 それからもう一度俺を一瞥すると、男は軽く握った手を顎に当て始める。

 その身振りから何を考えているのは分かるけど、俺だって知りたいことがある。

 

「アンタ……誰なんだ?」

 

 考えている人に質問するのは少し気が引けたから、少し間を開けて問い掛けた。

 俺の声が耳に入ったのか、男は顎から手を話して再び俺へ視線を合わせてくる。

 

「うん? 俺か?

 そうだな……大切な二人に支えられながらも『正義の味方(理想)』を張り続けた者かな」

 

 違う、俺が聞きたいのはそう言うことじゃない。この男の正体だ。

 なんだか、この男を見ていると不思議な感覚になる。まるで鏡に映る自分を見ているような――――――

 

「名前は……何て言うんだ?」

 

 内心で震えながらも訊いた。

 男の声は穏やかだったのにどうして俺は、こんな気持ちになったのか。

 

 

 ……いや、その反応は当たり前のことなのかもな。

 男を見た瞬間、“妙な感覚”を覚えてしまった。

 だから、俺は……もう男が何者なのか薄々と気付き始めていた。

 でも……それを自分の口にするのは戸惑った。

 だって、これは……本来ならばありえない出会いだろうから……。

 

「……………………」

 

 男は俺の見て察したのだろう。

 男から考え事に傾けていた雰囲気が完全に消えた。

 在るのは俺の問いに答えようという眼差し。

 

 

 そして明らかになった男の名は――――――

 

 

 

 

「衛宮士郎。ある二人に支えられながらも走り続けて、『正義の味方』になった男だよ。

 と言っても、平行世界での話だけどな。俺とお前は同じ『衛宮士郎』であっても、始まりも、理想も違う別人さ」

 

 その解答を俺は素直に受け入れた。

 でも、本来なら反発の一つでもする場面なんだろう。目の前に居るのが世界が違うと言っても同じ『衛宮士郎』だ。自分の未来を姿を見せられて何事もなくいられる方がおかしい筈だ。

 

 

 ――――けど俺は……その()に安心していた。

 

「さて、お前の身に何が起こってしまったのか。そして、俺は何をしてきたのかを話そう。

 ああ、こんなところで立ち話になるのは許してくれ」

 

 そう言って、アイツは語り始めた。

 俺の身に起こったことを――――――

 『正義の味方』の物語(生涯)を――――――

 

 

 

 

 

**********************

 

 

 

 

 

「まずは、お前の身に何が起こったのかを教えよう。そっちの方が気になるだろうからな」

 

 そう『衛宮士郎』は切り出した。

 俺の身に起こったこと――――そうだ……俺に一体何が起きたんだ?

 俺は切嗣たちに会うために地図に記された場所へ向かっていた筈だ。

 なのに、俺が居るのは無限に剣が存在する世界。

 大体、俺はどうやってここに来たのか。

 その答えは彼が教えてくれた。

 

「端的に言えば、お前は”英霊”を身に降ろしたんだ」

 

 その単語を聞いた瞬間に”知識”が頭の中を駆け巡る。

 

 ――――――”英霊”

 伝説や神話で語られている“英雄”が死後に、信仰、知名度の下に人々に祀り上げられて、精霊化した存在。

 その後、世界の法則の枠からはずれ世界の外側にある”英霊の座”と呼ばれるところに”記録”される存在。

 ”英霊”にも種類があり、数種類に分類が出来る。

 

 生前に偉業を成し遂げて、人々に祀り上げられてなる【英雄】。

 

 反対にその【英雄】たちに打ち倒される側、悪行が人間に対して善行となるもので本人の意思に関係なく救いの手(・・・・)として祀り上げられてなる【反英雄】。

 

 あるいは、生前に自分の死後を『星』に売り渡して、【英雄】としての力を手に入れてなる【守護者】。

 

 他にも信仰や知名度によっては【架空の人物】や【現象】などもなり成り得る。

 

「一口に”英霊”と言っても様々な種類があるが、大きく分ければ3つか。

 歴史に名を残した『アーサー王』や『クー・フーリン』をはじめとした【英雄】。

 人々から憎悪され『ペルセウス』に打倒された『メドゥーサ』をはじめとした【反英雄】

 “世界”と契約して“英霊”になる【守護者】

 いずれも“英霊の座”に至る者たちだ。それぞれ経緯は違ってもその事実は変わらない」

 

 その説明を聞いて俺は少し引っ掛かった。

 なんで【守護者】については具体例を挙げないのか。

 口振りから彼はソコに居る誰かを知っていると思った。

 

「【守護者】には……誰が居るんだ?」

 

 俺がそうを言った瞬間、今まで躓くことなく話していた彼が初めて止まった。

 それから何とも言えない表情で口を開く。

 

「俺の知る限りは"あいつ"だけだな。まあ、お前が俺に会ったからには、”あいつ”に出会うかもしれないか。

 だがそれは、俺が口にするべきことじゃないだろう。”あいつ”に会ったなら、お前自身で確かめてみろ」

 

 半ばはぐらかされるような形になってしまった。

 出来るなら一例ぐらい上げて欲しいけど、「ここが本題だ」と言うと、彼の目付きがより真剣なモノに変わって質問する機会が失われた。

 

「お前が降ろしたのは【英雄】である俺のものだ。さっき説明したことから解っていると思うが、【英霊】は人を超えた存在だ。そんな者の魂を【人の身】に降ろせば、降ろされた者の魂は押し潰され、廃人になるのがオチだろう」

 

「……? じゃあ、何で俺はこうして自分を保っていられるんだ?」

 

「そのお前の疑問は尤もだ。本来なら自我の崩壊をしているだろうな。

 けど、俺とお前は例外なんだ。何故なら『俺』と『お前』が平行世界の別人だと言っても【同じ魂】を持つ者だからな」

 

 そうだな……と、彼は再び考える身振りをする。

 そこには子供を気遣う者の表情があった。

 

「例えを上げるとしよう。

『人物A』は『魂A』を持つ。これは当たり前だ。『人物A』が『人物B』の『魂B』を持っていたら、生きていられるわけがない。『人物A』が持つことの出来る魂は『魂A』だけなのだから。

 『アーサー王』が持つ魂を『魂C』、降ろされる側が『魂D』を持つ『人物D』とするならば、合わないことは理解出来るだろう」

 

 始まった説明は理解し辛い事柄だっただろう。

 魂がどうとか一般的に判らない。

 だけど、俺はその話に付いていけた。

 

「また、人に“英霊”の魂を収めることは出来ない。人を超えた“英霊”の魂は、人が収めることの出来る“魂の器”の許容量を超えるからな。

 水瓶に入れられる水の量が決まっているように、魂も収められる量は決まっている」

 

 ここで再び疑問が上がる。

 俺たちが『同じ魂E』を持つとしても、人である俺には“英霊”であるアイツの魂は許容量を越えているはずだからだ。

 その疑問を問うと、こう返してきた。

 

「ああ、確かにお前の言う通りだ。だが、そちらの方は『魂の大きさ』が器に収まるサイズになれば大丈夫だからな。違う魂を降ろせば、異なる血液型で輸血を行うと拒絶反応が起こるように廃人になる。

 しかし、『情報量』が多くて降ろせないならば、収まる量にまで減らせばいい」

 

 そう、”型”が合っていて、情報量が多いだけならば減らせばいい。

 情報量がメモリースティックに収められる許容力を超えてしまって記録出来ないのならば、収められる量にまで要らないところを削ればいいように。

 

 

 つまり、俺は――――

 

「気付いたようだな。そうだ、お前は"俺の全て"を降ろしたのではない。お前の魂に降ろされたのは『戦闘技術』・『交渉術』などの知識だ。いや、降ろされたと言うより"刻まれた"の方が正しいか」

 

 確かに、魂に刻まれたと言う方が正しいかもしれない。だって、このように考えていられている(・・・・・・・・・)という時点で、俺はすでにアイツに引っ張られているのだろうから。

 

「お前の身に起こったことはそういうことだ。つまり、俺と同じことが出来るようになった、そう捉えてくれて構わない。

 もちろん、未熟な体と心のままでは俺には遠く及ばないがな」

 

 そうだとしても、”英霊”の力の一端が使える。これがどれだけ異常なことか。

 もし、使いこなすことが出来ればそれは――――

 

 

 と、結論を出す前に空から赤い光が目を差して思考が切り替わった。

 そう言えば、まだ説明されて無いけどここはどこなんだ?

 無限に剣が存在するこの世界は一体…………。

 

 

 気になって辺りを見回す俺を見て、彼は俺が何を気にしているのか気付いたようだ。

 

「ここは俺の心象風景だ。固有結界……

unlimited blade works(無限の剣製)】と言う」

 

 

 【固有結界】――――――

 術者の心象風景で現実世界を塗りつぶし、世界を侵食する【魔術】の大禁呪。その結界内部ではあらゆる法則が異なる。なにせ、術者の心が形になった世界だ。そうなるのは道理だろう。

 無論、誰もが使える物ではない。世界を”改変”するなど、本来なら【悪魔】と呼ばれる存在が持つ異界常識であり、それを扱う者などそうそうに居る訳がない。

 

「言っておくが、お前の固有結界(せかい)も俺と同じものにはならないぞ。同じ魂を持つ者だからと言っても、『心の在り方』が違うからな。

 ”あいつ”と俺の世界が違ったように」

 

 つまり、俺の固有結界(せかい)は俺自身の心が決まらない限り定まらないという訳か……それ以外にもあるだろうけど。

 

「じゃあ、次だな。

 もうあまり時間が残っていないだろうから手短にいくぞ」

 

 そうして、彼は自分の生涯を語り始めた。

 月下の夜に、『正義の味方』に憧れていたと漏らした男の代わりに自分が『正義の味方』になると誓ったこと。

 その数年後に”ある戦い”に巻き込まれたが、一人の剣士と憧れを抱いていた少女と共に戦い抜いたこと。

 戦いを終えた後、その二人と共に自分の国を出て、【魔術】を学んだこと。

 そこで【魔術】を学び終えた後、『正義の味方』を目指し、世界へ旅立ったこと。

 

「ああ……今でも鮮明に覚えている。

 あの誓いを……。

 剣士との出会い(あの夜)を……。

 俺が間違っていると言いながらも、支え続けてくれた彼女のことを……」

 

 目を瞑りながらそう語る。

 表情は綻んでいて、その声は懐かしみに満ちていた。

 

「世界を周り始めてからの数年間は、彼女たちと共に色々な国へと渡った。苦しむ人全てを助けるために」

 

 ボランティア活動、サバイバル技術などの生き残る術を教える戦闘教官などを通して、彼は多くの人々を助けていった。”ある戦い”を戦い抜いた事や自国の外での学びの日々を過ごしていた彼は、そういった事に長けていたそうだ。

 だが、活動内容はそういう事だけではなかったらしい。活動で一躍有名になると他にも様々な依頼が来たと言う。本人の戦闘技術の高さもあって”戦い”の依頼が――――

 ある組織が多くの子供で実験を行おうとしているからその子供たちを救って欲しい。ある人物の悪行を止めて欲しいなど。

 それの報酬は共に居てくれた【赤い女性】が貰っていったと言う。

 

 

 そんな活動も有ったために彼はより多くの人に頼られて、より多くの命の救っていった。だが、その一方で多くの命を奪うことにもなっていた。

 それはそうだろう……誰かを助けるということは、誰かを助けないということなのだから。

 

「なに……それは幼い頃から言われていたことだったし、その道を歩くことは知っていた……。

 それでも、俺は、このユメを張り続けたんだ――――」

 

 自身の道のりを口にしている彼の口調は力強かった。それは、とっくの昔から先に待っているモノを知っていてもなお、それを正しいと思ったから信じ、張り続けたことの証明。

 例え叶えられないユメだとしても、求めていたものが何一つ無いとしても、誓いを胸に秘めて諦めなければ、その”地点”に辿り着けると。

 だけど、そう自分を張り続けて活動をしていくある時、彼は二人の女性に別れを告げることにしたと言う。『これからはもっと、俺の道は険しくなる。だから、これ以上は付き合わなくていい』――――と。

 だって、それは彼自身のモノだ。一緒に歩いてくれたとしても、その結末(旅の終わり)まで付き合わせる訳にはいかない。

 そんな彼の気持ちを分かっていた二人だったが、当初はその言い分に納得しなかったらしい。

 だから、彼はそれぞれと約束を交わした。

 

【赤い女性】とは、『絶対に"あいつ"の辿り着いた先まで往くこと』を。

 

【剣士の少女】とは、『いつの日か、三人で再会を果たすこと』を。

 

 

 そうして男は一旦、二人と別れた。

 

 

 その後はより激化した戦場に赴いたりして、多くの命の救っていった。

 救った人々に感謝もされたし、協力者も多く得たと当時を思い出したかのように彼は言った。

 けれど、ある事件のきっかけに彼は命を落とすことになったらしい。

 

 

 市民の多くが人質に捕られ、一歩でも間違えればその人々全ての命が失われてしまうことに繋がる出来事が起こった。

 協力者たちと打開策を講じ、どうにか人質の誰一人を死なせずに済んだ。だが、それは彼が咄嗟に一人の子供を庇ったからだ。

 武装集団全員を無力化するはすだったが一人が制圧に失敗してしまったために、錯乱した男が発砲した。それから子供を守ろうと、彼は身を挺した。

 

 

 結果、彼は致命傷を負い、彼の危機を知って駆けつけた彼女たちに看取られながら息を引き取ったらしい。

 彼の存在は広く知れ渡っていたため、多くの人がその死を悼んだ。

 ”自分達の窮地を救ってくれる人”――――物語に出てくる『英雄』……周りの人々はそう感じていただろう。

 一部からは変わり者だと思われていたかもしれない。だけど、”苦しむ人を救いたい”という胸の裡は美しいモノだと理解してくれた人達もいた。

 

 

 だからこそ、彼は【錬鉄の英雄】として世界に名を遺した。

 

 

 その生涯で得たモノが無かったとしても、彼は何一つ後悔はないと言った。

 自分は『正義の味方(理想)』を張り続けたのだから。

 最期には彼女たちと再会して、看取られながらその生涯を終えたのだから……と。

 

 

 自身の生涯を語った彼の姿が誇らしく見えていた俺だったけど、どうしようも無く気になったことがあった。

 それは――――

 『正義の味方』になるという『誓い』を誰と交わしたのか。

 『巻き込まれた戦い』とは一体なんなのか。

 話が一段落ついたところで、俺はその二つを訊いた。

 だが彼は、

 

「それはあくまでも俺自身の『誓い』と『戦い』だ。お前の事ではない。お前はお前自身の道を進め」

 

 と言って教えてくれなかった。

 

 

 

 

「さて、時間のようだな」

 

 辺りを見ると、風に溶けるように消え始めていた。

 ああ、俺は元の世界に戻るんだな――――そんな哀愁じみた感情が胸に溢れていた。

 

 そして、最後にアイツはこう言った。

 

「衛宮士郎、お前の物語(歩み)はまだ始まってすらいない。この先、お前は何を目指し、どうなっていくのかも分からない。

 だが、これだけは言おう。どれだけ辛い道であったとしても、それが自身の裡から選んだ道であるならば最後まで歩き続けろ。俺が言えるのはそれだけだ」

 

 

 『最後まで歩き続けろ』…………ああ、そうだな、アイツと違って俺はまだ始まってすらいない俺の物語(歩み)だろうけど、いつの日か始まる日が来るだろう。

 そして、始まったのならば、少なくとも旅の終わり(その日)が来るまでは歩き続けよう。

 

 

 ――――――そのアイツの言葉を胸に、俺はここを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




"彼"と言うのはUBW Good√後の衛宮士郎でした。
公式で凛が居る限り士郎は"エミヤ"にはならないと言われてます。これは"守護者"である彼には成らないという意味だと自分も思いました。なので、『答え』を既に得ている士郎が歩み続けたら【英雄】になるのではないかと。TV版UBWで凛も同じ道でも"あいつ"の先に往けるかもしれないと言っていましたし。
能力の方も【魔術】は凛、【戦闘技術】はセイバーに指導されれば、かなりの腕になるでしょうし。
『誓い』を切嗣と交わした事と、『聖杯戦争』について詳しく話さなかったのは、余計な事を知ってしまって"方向性を固定してしまうのを防ぐため"です。
余計な事を知ってしまったために選択肢が狭まることってあるじゃないですか。それを防ぐためにあえて話しませんでした。


【英霊】の降ろすことは、ドライの美遊兄をイメージして頂くと分かりやすいと思います。
美遊兄はクラスカードを通りして、"エミヤ"と繋がり、彼の戦闘技術を手に入れました。後にカード無しで力を行使した際には髪が白髪、肌は変色していきました。
これは急ピッチで力を行使したために起こったことだと思いました。本人も【魔術回路】を先取りしただけで入れ物はポンコツって言ってましたし。
あるいはクラスカードに【英霊】の力を行使する際にある種の緩衝材の役割を果たしているのかなとも思いましたが。

また、降ろされたのは戦闘技術・知識だけと言うのは、もし、"エミヤ"の記憶も知ったのならば、凛に【アインツベルン】などの家を知っているかと問われた際に知っていると答えたでしょう。しかし、彼が知っていたの【間桐】だけでした。よって、記憶の方は降ろされなかったと思いました。


この作品の士郎は時間掛けて【投影】などをものにしていきます。なので、美遊兄の様に早々と変化は訪れません。それは次回で。

あとタグの一部設定変更有りを独自設定有りに変更。
UBWを追加しました。


お読み頂きありがとうございましたm(_ _)m

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