魔法少女リリカルなのは ~The creator of blades~   作:サバニア

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投稿開始からまだ1週間も経っていないのに、UA2000越え、お気に入り登録者42名様と驚いています。
引き続き当作品をお読み頂ければ嬉しい限りです。


今回は予告通りピクニック回です。TV版、漫画版The 1stで画かれていたのをベースにしています。
では、どうぞ!


3話 新しい家

 外はすっかり暗くなっていた。道路沿いに建ち並んでいる街灯が家へ帰っていく人々の道を照らしている。プレシアも仕事を終えて、その道を歩く一人であった。

 子供たちが待っている自宅へ足を進めている彼女の視界に、帰路の途中に在る洋菓子店が映る。

 

(今日も遅くなってしまったわ……お土産にクッキーでも買って帰ったら許してもらえるかしら?)

 

 遅くなってしまったお詫びに買って帰ろうと思ったプレシアは入店した。プレシアは早々にクッキーが並べられている商品棚へ向かい、クッキーが入っている二袋を自宅の帰りを待っている子供たちを思い浮かべながら、手に取る。

 士郎は帰りが遅くても不機嫌にならないが、アリシアは「むぅ~」っと不満を露にする。

 二人ともプレシアが仕事で忙しいことは認識している。それでも、アリシアはプレシアと一緒に賑やかな日々を過ごしたいのだ。彼女の不満は母親を想う心の表れであった。

 

(シロウが居るから危険の心配はしなくても大丈夫なんだけどね)

 

 士郎がテスタロッサ家に来てからは、彼が料理をはじめとした家事を受け持ちつつ、アリシアの面倒を見てくれている。新しい生活を過ごす家で「何もしないのは悪いから」と、引き受けてくれていたのだ。

 しかし、それ以外の要因も士郎を家事へと駆り立てていた。彼はプレシアが仕事で多忙なことを前から知っていたので、身近なことはやろうと考えてはいた。

 一番の要因となったのは“引っ越しした”頃、プレシアの留守中に士郎とアリシアの世話をしてくれていた衛宮切嗣であった。彼は致命的に家事が出来なかったのである。食事に関しては、切嗣自身は外でジャンクフードを頬張っていたし、二人にはコンビニで購入した弁当類が――――

 

 

 士郎の目の前に広がる事態は、明らかに“ダメ”の範疇だった。それを打開するべく、彼は料理をはじめとした家事を受け持とうと決めたのである。

 行動は早かった。調理器具は子供用の買い揃えてもらい、簡単な料理から作るようにして腕を磨いていった。

 材料の買い出しは主に切嗣と仕事帰りのプレシアが担当した。子供の体力と力を考慮しても、その判断は正しいことだっただろう。

 その結果はまずまず。手頃な料理なら上手く作れる。

 

 

 プレシアの視点から見ても、士郎が作る料理は色鮮やかなで、栄養バランスが取れていた。実際に、彼の料理をアリシアは喜んで食べていたし、プレシア自信も美味しいと実感していた。

 

 

 掃除と洗濯の方は士郎一人ではなく、アリシアも協力していた。家事をこなして居る彼の姿に影響されたのだろう。同じ家に住み、遊んでくれる士郎と同じ事をしてみたいという好奇心があったかもしれない。

 

 

 また、士郎は家事の他にもやるべきことがあった。それは切嗣から与えられた課題である。内容はミッドチルダにおける文字と地球の勉学。生活していく上でも必須の知識だ。

 リビングのテーブルに教材を広げてペンを握る士郎の姿を、アリシアは不思議な物を見る目で見ていた。“他の世界の文字”で書かれている教材は『ミッドチルダ』で生まれ育っている彼女の興味を引くには十分なモノであった。

 そのアリシアの様子を見た士郎が「アリシアもやるか?」と誘ってみたところ、彼女は教材を手に取った。が、にらめっこした末に、うなりながら「解らない……」と教材を士郎へ返した。

 今でもあの時の光景を思い出すと、プレシアの表情は綻ぶ。

 

 

 士郎は家事、勉学共に頑張っている立派な子供であった。性格も優しく、真面目で、プレシアが安心するのにあまり時間は掛からなかった。

 それに、誰かが困っていたら、自分に出来ることは“何か”を一生懸命に考えて、助けの手を出す姿も印象に残っていた。それはプレシアの知り合いであり、彼の養父である切嗣に似ていた。

 

(血が繋がっていなくても、“親子”なのよね……)

 

 

 プレシアの頭の中を切嗣の顔が過り、士郎が『ミッドチルダ』に来た経緯を思い出すと、彼女は胸を痛める。

 士郎は“かつてのこと”を口しないが、心の何処かでは思い続けているのではないかと時折、プレシアは哀愁を誘われる。

 しかし同時にこうも思う。それだけの酷い目にあったのなら、この先は楽しく過ごしていけばいいと。

 

(アリシアもシロウに懐いているから、大丈夫よね)

 

 士郎が家事や勉強で手を離せない時以外では、アリシアが一人で遊ぶことは無くなった。一日の多くを彼女は士郎と過ごしている。

 そんな日々を過ごしていく内に、アリシアは段々と士郎に懐いていった。今ではまるで兄妹(きょうだい)のように仲が良い。そのことはプレシアにも嬉しいことであった。

 最近では、アリシアがプレシアの勤める研究所付近で拾った山猫――――リニスが居るのでより賑やかな日々が彼女たちの間で流れていた。山猫は本来、人にはあまり懐かないが、テスタロッサ家に居る三人には懐いた。

 そして、仕事が休みの日は子供たちと愛猫を連れて山へピクニックに出掛けることが、プレシアにとって至福の時であった。

 

(次の休日は、久しぶりにピクニックに出掛けられるって伝えないとね)

 

 クッキーの代金を支払い、プレシアは店を後にした。

 再び帰路に着いた彼女の足は、少し速度を上げていた。

 

 

 

 洋菓子店を出てから数十分。プレシアは家に到着した。

 玄関ドアを開き、

 

「ただいま~!」

 

 と帰って来たことを伝えるが……返事が無い。

 

(……あれ?)

 

 いつもなら元気な声と鳴き声が返ってくるのだが、今日はそれが無かった。

 しかし、家の明かりは点いているので、子供たちはプレシアの帰りを待っている筈である。

 

「アリシア? シロウ?」

 

 今度は二人の名前を呼びながら、プレシアは通路を通ってリビングへ向かう。辿り着いてリビングを見回すと、相変わらずの子供たちの姿は在った。返事が無かったのは、ソファーの上で寝ていたからだった。

 士郎の膝の上でリニスが丸くなって眠っていて、アリシアは士郎の右肩に頭を預け、心地よさそうに眠っていた。

 そんな光景を見たプレシアに自然と笑みがこぼれた。

 

(いつもありがとうね、シロウ)

 

 プレシアは感謝しながら穏やかに眠っている子たちに毛布を掛ける。その後、彼女の視線がふとテーブルに止まる。そこにはラップに包まれたオムライスが置かれていて、側にメモが在った。

 

『ママ、いつもお仕事お疲れさま。いっぱい食べてお仕事、頑張ってね!

 でも、たまには早く帰って来て欲しいな』と、書かれていた。

 

 

「えぇ……アリシア。ママ、頑張るわ。早く家族で過ごせるように」

 

 娘の想いが母親の胸に響いた。母娘は常に互いを想いながら日々を送っている。それは紛れもない愛情の証であった。

 

 

 

**********************

 

 

 

 休日が訪れた。予定通り、プレシアは子供たちと愛猫を連れて山へピクニックに出掛けていた。

 天気は晴れ。いくつかの雲が青い空を流れ、日差しは暖かく、辺りの動物たちは日向ぼっこをして気持ち良さそうにしている。誰もが想像する絶好のピクニック日和だろう。

 

 

「次の休日は山へピクニックに出掛けましょう」

 

 プレシアがそう言うと、アリシアはとても喜んだ。

 ここ暫くピクニックに出掛けられないことを残念がっていた分、大いにはしゃいでいた。

 

 そうして今、三人と一匹は昼食をとる緑豊かな丘へ向かっていた。

 意気揚々なアリシアはリニスと一緒に、プレシアと士郎より先を走って、奥へ進んでいく。

 小さな体なのに、その一歩一歩は力強く、どれだけ待ち遠しい日であったのか語っていた。

 

 

「シロウー、ママー。早くー早くー」

 

 少しずつ距離が開いていっているにも関わらず、アリシアの声はしっかりとプレシアたちの所まで届いていた。

 士郎も負けじと声を返す。

 

「アリシアー、走ると危ないぞー」

 

「平気ー、平気ー」

 

 士郎は注意を促すが、アリシアは得意気に進んで行く。家に居ることが多く、外で遊ぶことが少ない分、広い場所を走り回りたい気持ちはよく分かる。

 元気溢れる娘の姿を見たプレシアは“来てよかった”と改めて思った。

 

「シロウも行ってきていいのよ?」

 

「いや、プレシアを一人にして行くのは――――」

 

「私のことは気にしなくて大丈夫。 折角来たんだから、走ってきたら?」

 

「……うん。じゃあ、行ってくる」

 

 プレシアから勧められた士郎はアリシアを追い掛けて、走って行った。

 

 

「プレシア……ね……」

 

 たまに我がを言ってプレシアを困らせることがあるアリシアに対して、士郎は遠慮しがちであった。こうして考えてみると、二人は似ていないのかもしれない。

 それでも、心優しい子供であることは二人とも同じであった。だからこそ、二人は兄妹みたいに親しくなったのだろう。

 そのこともあってか、プレシアは士郎のことを義息子(むすこ)に等しいぐらい大切に思っていた。

 

(ママ、あるいは義母(かあ)さんと呼んで欲しいのよね……)

 

 それが叶わないかもしれないことは彼女は解っている。士郎はあくまでも切嗣から預かっている子供だ。

 その現実を感じなから、プレシアは彼らが走って行った道を進んで行った。

 

 

 目的地の丘には既にアリシアたちは待っていた。

 プレシアが到着したところで、全員揃って昼食の準備に取り掛かる。レジャーシートを敷き、ランチボックスを広げる。

 彼らの今日のお弁当はサンドウィッチ。プレシアと士郎が一緒に作った料理だ。キャベツ、ハム、トマトなど色とりどりな具材を挟んだパンがランチボックスの中に並んでいた。

 

「「「いただきます!」」」

 

 澄んだ青空と空気の下、三人揃って合掌をしてから食べ始める。

 ここまで来るのにお腹を空かせていたのか、アリシアの手の動きが早い。着々とサンドイッチを平らげていく。

 

「どう、美味しい?」

 

「ん~、おいしい♪」

 

 美味しいそうにサンドイッチを食べ、頬を緩ませているアリシアを眺めていたプレシアが感想を訊くと、彼女は弾んだ声が聞こえてくる。

 士郎の方はというと――――手にしたサンドウィッチを食べ終えて、リニスと遊んでいた。

 

 

「にゃ~ん♪」

 

 嬉しそうな鳴き声を出すリニス。

 そんなリニスの相手をしている士郎にプレシアが声を掛ける。

 

「シロウもどうだったかしら? 美味しいかった?」

 

「うん、美味しいかったよ。やっぱり、プレシアの作った方が美味しいかった」

 

「そう? シロウの方も美味しかったわよ。本当に料理が上手になったわね」

 

「そう、かな?」

 

 嬉しいのか士郎は少し頬を赤くし、人差し指で頬を掻く。

 プレシアに続けて、アリシアも自分の感想を伝える。

 

「シロウのも美味しいかったよ。ね~、リニス?」

 

「にゃ~♪」

 

 相槌を打つかのようにリニスが鳴く。

 母娘と愛猫から称賛された士郎は、

 

「そっか。なら、よかった」

 

 みんなが喜んでくれたことを嬉しく思っていた。

 

 

 プレシアは相変わらずの家族を目に納める。アリシアは暖かい笑顔をしているし、シロウもリニスも嬉しそうでいた。その光景を彼女は想い出に刻み込む。

 彼らは残り僅かになった昼食に手を伸ばして、昼の団欒を過ごしていった。

 

 

 

 

 昼食を終え、プレシアたちとは草原に移動していた。

辺りは木々が緑の葉を身に付け、若草色の絨毯のような芝が辺り一面に広がっている。

 風が吹く度に草木が揺れる。その度に安らかな音が生まれて、ここに居る全ての心を落ち着かせてくれる。

 

 

 自然の音響に耳を澄ませながら、プレシアは近くに生えていた白い花を摘んでいく。必要な数が揃うと茎同士で編み始めて、完全した花の冠をアリシアの頭の上に乗せる。

 

「ふふ、似合ってるわよ、アリシア」

 

「ありがとう! ママ!」

 

 娘の可愛らしい声にプレシアは満足げに微笑んでいた。

 続けてもう一人にも花の冠を作ろうとする。

 

「シロウにも作ってあげるわよ。こっちにいらっしゃい」

 

「いや、俺は――――」

 

 プレシアの招きに士郎は遠慮しようとしたが――――

 

「今度はわたしがシロウに作る!」

 

 それより先に、アリシアは花を持って士郎の側にまで向かって行った。彼女は隣に座って間も無く、花の冠を作り始める。

 プレシアがやったように茎同士を編んでいく。器用に指を動かしていく様は小さな職人であった。

 

「出来た!」

 

 少し時間が過ぎるとアリシアの手には花の冠が握られていた。彼女は完成したばかりの花の冠を士郎の頭へと被せる。

 

「ありがとう、アリシア」

 

 士郎は恥ずかしそうにしていたが、アリシアの顔を見て、お礼を言う。

 それを聞いたアリシアは一層笑顔になり、士郎の胸に飛び込む。そのまま抱きついて、嬉しそうな声を漏らす。

 いきなりのことに士郎は驚いていた。でも、自分に抱きつくアリシア姿を見て、背中をトントンと叩く。

 すると、アリシアは顔をよりシロウの胸に押し付ける。

 

「――――お兄ちゃん」

 

 その光景を見ていたプレシアは、この先もずっと子供たちの側で見守っていきたいと願った。

 互いに慕い合う二人――――そんな二人に寄り添うリニス。

 彼女の望んでいる“幸せ”が確かにそこにあった。

 




次回は彼が登場し、士郎が【力】を手に入れます。
また、時期は『ヒュドラ』の一件にまで飛びます。
『ヒュドラ』の一件の際にはアリシア5歳過ぎ、士郎7歳過ぎになっています。

お読み頂きありがとうごさいましたm(_ _)m

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