魔法少女リリカルなのは ~The creator of blades~   作:サバニア

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お読みになられたまた、お気に入りに入れてくださった皆様、ありがとうございますm(_ _)m

未だに前章ではありますが、お読み頂ければと思います。
では、どうぞ!


2話 交わる運命

 プレシアが使用している一室の空気は引き締まっていた。彼女は職業柄、研究伴うので緊張感にはそれなりの耐性があるが、この空気はそれとは違った。

 その理由はプレシアと向かい側に居る衛宮切嗣。彼女が知る誰よりも優しい青年だ。

 彼の“師”であるナタリア・カミンスキーがその後ろに立っている。が、彼女の雰囲気はさっきから変わっていない。それは、今日の話は切嗣が主体であることを意味していた。

 

 

 切嗣が話に入る前に、ナタリアが先に口を開いた。

 

「じゃ、私はここまでだ。

 切嗣、後の説明は任せたよ。私は先に“仕事”へ戻る」

 

「ああ、ありがとう、ナタリア」

 

「プレシア、あまり無理をするなよ。もし倒れたりしたらアリシアが悲しむ」

 

「わかっているわよ。ナタリアも無理をしないでね」

 

 ナタリアはプレシアへ声を送ってから、部屋を後にして行った。

 これで、部屋に残っているのは椅子に座りながら、向かい合うプレシアと切嗣の二人だ。

 

「それじゃあ――――――」

 

 最初に切嗣は士郎について語り始めた。

 士郎の出身地が切嗣と同じ『第97管理外世界(地球)』であること。

 士郎の生まれ育った町が【魔導師】の賊によって焼け野原にされたこと。

 そんな中で自分が士郎を助けて、養子として引き取ったこと。

 

 

 それらを聞いたプレシアは思わず悲鳴を上げるところだった。

 まだ五歳の子供が想像を絶する過酷なことに見舞われていたとは思いもしていなかった。

 

 

 同時に“何故”とも疑問に思った。『第97管理外世界(地球)』となれば、理由もなく【魔導師】が訪れる世界ではないからだ。あそこは『ミッドチルダ(ここ)』からも遠い。『管理局』でさえ、基本的に不干渉な世界だ。

 プレシアが不自然に感じたことを切嗣に言うと、表情を曇らせた。

 

「……宝を探していたらしいんだ」

 

「宝?」

 

「ああ……リーダー格の男が言っていたから間違いないだろう。ただ、何の宝かまでは聞き出せなかった。聞く前に、始末してしまったからね」

 

「僕もまだまだ未熟だな」と、言葉を漏らしながら額に手を添える。

 

 宝――――その単語がプレシアの中で引っ掛かる。

『管理外世界』に【魔導師】が求める宝なんて、そうそうに在る筈がない。

 何故ならば、そう呼称される世界では基本的に魔法技術が発達していない。つまり、【魔導師】が求める物は存在する訳がない。

 あるとすれば、発達していた世界から住民が(・・・・・・・・・・・・・)移住した(・・・・)ことぐらいしか――――――

 

 

 プレシアの脳裏にある“コト”が浮かび上がる。

 衛宮切嗣が【何の技術】の使い手であり……本来、【何と呼ばれる者】なのか。

 

「キリツグ、貴方は【魔術師】なのよね?」

 

「……!?」

 

 切嗣は顔を強張らせて椅子から立ち上がる。

 直後、静かに怒るような声でプレシアを問い質す。

 

「何故、ここでそんな話をするんだ。誰が聞いているか判らない所では言い出さない約束だろう?」

 

「大丈夫よ、録音もカメラも回っていないわ。

 ここは私の部屋。外部からの干渉は心配しないで、平気よ」

 

 プレシアは自分の迂闊さ感じながらも、強張った切嗣を落ち着かせるように説明をする。

 切嗣は緊張の糸を弛めることはなかったが、プレシアの説明を聞いて再び椅子に座る。

 

「すまない……」

 

「いえ、私が悪かったわ。ごめんなさい。

 話を戻すけれど、キリツグ……貴方は【魔術師】なのよね?」

 

「ああ、そうだよ」

 

 プレシアの確認に切嗣は肯定する。

 そう……彼はプレシアたちとは“異なる者”である。

 

 

 『ミッドチルダ』などの『管理内世界』には“魔法”を扱う【魔導師】が存在する。プレシアもその一人だ。

 “魔法”と呼称されているが、その実態は自然摂理や物理法則をプログラム化し、それを“編集”して事象を引き起こす技法である。“攻撃魔法”には非殺傷性が含まれており、純粋な魔力ダメージで敵の魔力を削り、戦闘力を奪うことも出来る。物理ダメージに切り替えることもでき、殺傷・破壊を行うことも可能。しかし、【魔導師】は基本、非殺傷設定を施している。

 

 

 “魔法”の運用には“魔力”を用いる。“世界”によって名称は異なるが、ここでは【リンカーコア】と名付けられている器官が空中を漂う魔力素から“魔力”を生成し、貯蔵している。【魔導師】の全員はそれを持っている。

 その素養は先天的に有していることが多い。両親や先祖が偉大な【魔導師】であれば、子孫はそれを受け継いでいく。無論、例外はある。稀にだが、親が優れた【魔導師】であっても、子に受け継がれないことがある。

 プレシアの娘であるアリシアがその例だった。プレシアは【大魔導師】と名を馳せる程の人物だが、アリシアには【魔導師】の素養があまり強くなかった。

 また、血統に【魔導師】が居なくとも、突然変異や後天的に【リンカーコア】を持つようになる者も居る。

 

 

 

 これが“認知されている者たち”が扱う技術。

 だが、“世界”にはそれとは異なる技術を担う者たちもいる。――――それが【魔術師】

 

 

【魔術師】とは【魔術】を扱う人たちであり、“かつて存在した技術”を目指す者たちの総称。【魔術】の運用にも“魔力”が必要不可欠だ。【魔術師】は【魔術回路】と言う疑似神経を用いて、外界の生命力(マナ)から生成している。

【魔術回路】は【リンカーコア】とは違い、後天的に生じることは無い。同じく“魔力”を生成する器官であっても、その過程は別物なのだ。

【魔術】には非殺傷性などと言う要素は無く、人へ向ければ簡単に相手の命を消すことが出来る。が、【魔術師】は余程のことが無い限り、そんな愚行(・・)はしない。何故なら、【魔術師】にとって【魔術】とはあくまでも探求する物。“かつての存在した技術”へ到達するための手段に過ぎないからである。

 

 

 そして、【魔術】は秘匿されるべきモノでもある。一般人に知られても混乱を招く火種に成りかねないし、自分たちの手の内を曝すことに繋がるからである。故に人前で使用することは厳禁。仮に使用するとしても、【魔術】の存在を悟られてはならない。

 

 

 プレシアが知っている【魔術師】は切嗣とナタリアの二人だけ。そもそも、【魔術師】の存在自体を認識している人など極めて稀だ。あの『管理局』ですら、知ってはいないだろう。『無限書庫』になら手掛かりは有るかもしれないが、直接的には指し示す文献も無い筈だ。

 もし、【魔術師の家系】でない者がその事を知るならば、【魔術師本人】から聞くしかない。

 プレシアは以前、ある出来事の際に切嗣から【魔術】について教えてもらっていた。

 

 

 古代ベルカで、【聖剣】が治めていた国には独自の技術が存在していたと言う。それは国の発展にだけではなく、戦場においても、重宝されていたこと。

 理由は隠密性の高さとその規模だ。大戦に投入された技術の正体は敵国の誰一人として解らなかったみたいだ。

 

 

 突然に発生する強風、雷、氷結などの【魔法】以上に強力で不可思議な現象に当時の兵士がどれだけ苦戦したのかは容易に想像が付く。

 だか、扱うのは所詮人だ。血を流せば死ぬし、何より戦いが長引けば、それだけ疲労は溜まっていく。それに、使い手自体があまり多く居なかったらしい。

 

 

 結果、大戦末期にはその技術を扱う者たちの多くが戦死し、それに関する知識の大半が失われた。

 故に、『かつて存在した技術』は歴史に遺すことなく消えていった。

 しかし、国から逃げ延びた人々の中には技術を伝える者がいた。そして、移住したその先で生き残りたちが再び作り出したものが【魔術】である。

 

 

 彼らは失われた力の再現、取り戻すことを目指した。

 故に【魔術師】はかつて存在したものを取り戻すべく、力を注いでいった。だが、『失われた技術』を取り戻すこと一つの代では容易ではなかった。

 

 

 よって、【魔術師】は自らの“研究の結晶”を【魔術刻印】として刻み込み、ひっそりと次の世代……次の世代へと継承していった。それが代を重ねる毎に重みを増す刻印であることは、当然のことであった。

【魔術刻印】とは……その一族のいつの日か、自分たちの力を取り戻したいという“願いの結晶”でもあるのだから。

 

 

 それを継承者する一人が衛宮切嗣なのだ。

 つまり、【聖剣】の治めていた国の生き残りが辿り着いた場所は――――――

 

 

 

「おそらく……賊が探していた宝って、【聖剣】の聖遺物よ」

 

「なんだって?」

 

 自身の予想外のことを言われて、驚きを露にする切嗣。

 プレシアは彼の驚きで口を止めること無く、自分が思い至った仮説を唱え続ける。

 

「貴方が自分で言ったのよ。【魔術】は【聖剣】が治めていた国の技術が元だって。

 その通りなら、貴方が【魔術】を受け継いでいることから、生き残りが地球に流れ着いたことになるじゃない。

 それなら、“【聖剣】の聖遺物(たから)が在るかも”って話に繋がるでしょ?」

 

 プレシア・テスタロッサの仮説を聞き、思考を回し続ける【衛宮切嗣(魔術師)】。

 

「でも……そんなことは、父さんが遺した書物には書いていなかった」

 

「【魔術】を受け継いだのは”貴方の一族(エミヤ)”だけではないのでしょう?

 他の家に伝わっている可能性はあるんじゃないのかしら?」

 

「その可能性は確かに有り得る。……だけど、そうなると探しようがない」

 

 【魔術師】は余程のことが無い限り他の人々と関わることを避けていた為に、横での繋がりが無い。

 同じ【魔術師】だからといって、他の家系と手を取り合うことはなかった。“自分たちだけが取り戻せればいい”と、でも考えていたのだろう。

 だから、切嗣自身も他の一族については何も知らない。

 

「それにしても、すごい洞察力だね、プレシア。

 正直、驚いてばかりだったよ」

 

「そうかしら? 集められた情報から推測するのには十分だと思うけれど」

 

「いや、恐れ入った」と笑みを浮かべる。

 しかし、それはすぐに消えた。

 

「だとすると……この情報をあの賊に流したのは一体誰なんだ?」

 

 そう、ここで問題になってくるのは、情報を発生源だ。

 おそらく、【魔術】の存在は知らないだろう。

 彼らは宝探しと言っていた。それは、情報を流した何者かは、大戦を生き延びた人々が地球に流れ着いたことを知っていたということになる。

 もし、その何者かが【魔術】の存在に気付いたとしたら――――

 そう考えると、とても危険な人物になってくる。

 切嗣は楽観的に考えるのは危険だと思考を巡らす。

 

「また、何かやるのね?」

 

 切嗣の目付きの変化を目にしたプレシアは声を掛ける。彼女は【魔術師】では無いが、研究者をはじめとして養った観察力から、切嗣の考えていることが僅かながら予想できた。

 

「ああ、決まった」

 

「そう……でも貴方も無理をしないようにね。

 貴方に何かあれば、シロウが悲しむわよ」

 

「分かっているさ」

 

 そう言って椅子から立ち上がるが、

 

「あっ、忘れてた」

 

 立ち上がって早々に、とても大切なことを思い出したような声を漏らす。

 

「今度は何よ?」

 

「いや、こっちが本題なんだ。士郎を預かってもらえないかい?」

 

 突然の頼み事に今度はプレシアが驚く番だった。

 

「“預かって”って……私は仕事で忙しいのよ?」

 

「判ってる。でも、そうしたら、アリシアちゃんも一人にならなくて済むだろう? それに、暫くは僕も面倒を見るつもりだ。

 でも、こうなってしまった以上は……ずっと居られるとは限らない……」

 

 確かに切嗣の言うことは一理ある。

 プレシアは仕事で多忙だ。その為に幼いアリシアを一人にすることは多々ある。

 それならば、彼女の遊び相手も含めて士郎と一緒に居てもらった方が安心できる。

 

 

 加えて、アリシアと同様に士郎も一人にさせてしまうことになったら――――とそれは寂しいだろうとプレシアは考えた。

 だから、プレシアはその頼み事を受けた。

 こうして、テスタロッサ家に一人の少年が来ることになった。

 

 

 

 

**********************

 

 

 

 

 

 俺が隣の部屋に入ると、一人の少女が遊んでいた。

 ツインテールにまとめられた長く豊かで輝く金色の髪に、赤い瞳を持った可愛らしい少女だった。

 少女は俺が部屋に入って来たことに気が付くと、こちらを向いて声を掛けてきた。

 

「あなたは、だぁれ?」

 

 当然の質問だった。

 見ず知らずの人間が母親の研究室を通り、入って来たのだから疑問に思うだろう。

 

「俺は、衛宮士郎。

 俺の親父が君のお母さん――――プレシアさんの友達みたいでさ。今日は挨拶に来たんだ」

 

「そうなんだ」

 

 名前を告げ、ここに来た理由を言う。

 それを聞いた少女と言って納得してくれたみたいだ。

 

「私は、アリシア・テスタロッサだよ。

 ねぇ、シロウ? 遊ぼ?」

 

「いいよ。何して遊ぶ?」

 

 俺に歩み寄って来て、遊ぼっと誘ってくるアリシア。

 返事を聞くと嬉しそうに笑って、俺の袖を引っ張りって部屋の奥の方へと連れ込んでいく。初対面なのに物怖じする感じが無かった。アリシアは子供らしい子供だった。

 

 

 そこで、俺はアリシアと遊んだ。

 部屋の隅に置かれていた玩具箱から人形を取り出して、小さな劇をした。おままごともした。遊び相手が増えて嬉しかったのだろう。ずっと彼女は盛り上がっていた。一人で遊ぶには限界があるし、常に寂しさがアリシアの心にちらついていた筈だ。

 俺と遊ぶのに心踊っていたアリシアだけど、彼女が一番好きだったのはお絵かきだったと思う。俺が来たときも、床には描きかけの画用紙が在った。描かれていたおそらくプレシアさん。女性の姿が画用紙の中心に居た。それは、幼いながらのつたない絵だったけど、頑張って描いたのがよく分かる出来だった。

 

 

 

 どれくらい遊んでいたのだろう? あそびに夢中になるあまり、全然気にしていなかった。切嗣がまだ現れないことを考えるに、時間の心配は不要か。

 

「士郎」

 

 ドアが開く音に続けて、俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

 俺とアリシアは不意に響いた声の方へ視線を向ける。

 

 

 そこには切嗣が立っていた。プレシアさんとの話が終わったようだ。

 切嗣がこちらに近付いて来て、アリシアに話し掛ける。

 

「こんばんは、アリシアちゃん。僕のことは、覚えてるかな?」

 

「うん、覚えてる! キリツグだ!」

 

 そう言って切嗣の脚にしがみ付くアリシア。

 切嗣は笑顔を浮かべ、アリシアの頭を撫でながら、

 

「元気そうだね、アリシア。士郎とは仲良く遊べたかい?」

 

「うん! いっぱい遊んでくれたよ。キリツグの子供なんでしょ?」

 

「そうだよ。これからも仲良くしてくれると、僕も嬉しいな」

 

 切嗣は久々の再開に喜んでいるアリシアの相手をして、俺へ手招きをした。

 やっぱり、そろそろ帰る時間だよな、と考えながら俺は切嗣たちの所へ足を進めた。

 

「士郎、今日から君はね、プレシアたちの家で暮らすんだ。だから、アリシアちゃんと仲良くするんだよ?」

 

 そう言われて、俺は一瞬だけど戸惑った。

 もしかして、今ここを訪れた話の内容って俺の住まいのことだったのか?

 

「切嗣も来るんだよな?」

 

「ああ、一、二週間は居られると思う。

 でも、その先は判らない。“仕事”が入るかもしれないからね」

 

 切嗣は申し訳なさそうな表情で言ってきた。

 ベルといい、切嗣といい、こう言う所は似ているな。

 

「分かったよ、切嗣。

 じゃあ、これからもよろしく、アリシア」

 

「うん、よろしくね! シロウ!」

 




Fateでは【魔術師】は【根源】を目指して【魔術】を研究していきますが、
この作品ではかつて存在した技術の再現、取り戻すのが目的になっています。
また、切嗣はプレシアに【魔術師】と言いましたがそれは余計な混乱を防ぐためです。切嗣自身は研究ではなく、使うことを目的にしています。そこはFateと同じく【魔術使い】ですね

次は、テスタロッサ家のピクニック回かな。多分、前章での最後の日常だと思います。あとは無印に入ってからになるかと……
無印以降は戦闘シーンが出てくるので大変だなと感じています。イメージをどう文で表すか……

お読みに頂きありがとうございましたm(_ _)m


―追記―
6/26、魔法と魔術についての説明を詳しくしました。

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