魔法少女リリカルなのは ~The creator of blades~   作:サバニア

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19話 託されたもの

 ――――――夢を見ている。

 

 

 

 彼は普段あまりユメを見ることはないのだが、見る時はいつも同じものだった。

 在るのは常に剣。双剣、片手剣、大剣など――――ありとあらゆる剣たちだ。

 当たり前だ。衛宮士郎にとって、(それ)は自身を構成してる因子に他ならないのだから。

 

 

 だが――――今回は違う。

 在るのは一本の剣。

 それは、衛宮士郎と“彼”が振るった『黄金の剣』ではない。形状などの見た目は似ているが、装飾も在り方も異なっている。

 

 

 士郎は揺れる世界(ユメ)の中、柄を握ろうと手を伸ばしてた。が、剣は黄金の粒子となり、握ることは叶わなかった。

 煌めく粒子は暗い風景に溶け込んでいき、辺りを白に変えた。

 だからと言って、彼の目には新しく映るモノは無い。剣の一本も無ければ、誰一人として居ない。

 その筈なのに声だけが響き渡る。

 

「―――――――! ■■■■■!!」

 

 青年の声だろうか。誰かを呼び止めようと叫び声を上げている。

 けれど、彼には言葉が聞き取れなかった。強風で言葉だけが掻き消されたように、青年が口にしている詳細までは分からないのだ。

 

「■■■■、■■■■――■■■■■――――――」

 

 呼び止められた者からは凛とした声が発せられる。

 そこの声には震えも、迷いも、荒れることも無い。

 自身の責務――――いや、自身の理想を貫かんとする者の真っ直ぐな意思が込められいるのは、言葉が聞こえなくとも分かるだろう。

 

「――――、――――――ッッ」

 

「――――――――――――――――――?

 ――――――――――――――――――――」

 

「――――――――――。――――――!!」

 

 青年は煮え切らないままでいながらも、言葉を放ち続ける。

 本当は分かっているのだ。青年が呼び止めようとしている者が何故、自分たちと離別することになると分かっていながらも、決して彼方へと足を踏み出すことを止めないと。

 それが分かっていても、青年は自分を抑えられなかった。

 目の前に居る者はいつもそうだと……。如何なる時でも揺るがない意思を秘めた“騎士達の王”であることを理解していようとも――――

 

「■、――――」

 

「――、――――」

 

 二人とは違う声が響いた。それは忠実深いの近衛の一言。

 騎士は短く返答してから再び青年に言葉を放った。

 

「■■■■、――――――――――――――――。

 ――――――――――――」

 

 騎士の言葉を聞いた青年はそこで口を閉ざした。

 言葉が出なかったからではない。唇を噛み締めて、自身の感情を押し殺すのが精一杯だったのだ。

 そんな青年にこれ以上は声を掛けることはなく、騎士は近衛を引き連れて、その場を後にした。

 

 

 

 

**********************

 

 

 

 目を開くと、視界に映ったのは白い天井。背中にはベッドのクッションの弾力が感じられた。

 この二点から考えるに病室に近い部屋だろう。

 だって、天井には鮮やかな装飾は無い。明かりが付いているだけの簡素だったし。

 首を右にずらして、視線を移動させると、真っ白で清潔なベッドの端が見えるんだからな。

 

(またか……意識を失ってから目を覚ますと何時も同じような風景ばっかり見てる気がするぞ……)

 

 始めて見る筈の風景に既視感を覚えながらも俺は上半身を起こして、思考を回し始めた。

 

(今のは夢か? それにしても不思議な夢だったな。何だったんだ……あれは?)

 

 今までに経験したことがない夢を不思議に思って、見ていた夢を思い起こそうとしたが――――左肩から火傷を負った時のようなジンジンとした痛みが伝わって来たことによって、現実に引き戻された。

 

(――ッ! そうだ……俺は――――)

 

 俺は『ジュエルシード』を破壊するために、“アイツ”が使っていた『黄金の剣』の劣化版を投影したんだっけ……。

 自分がやったことを再認識してから、襟元から覗き込んで肩の肌を診る。

 そこには焼け付いた跡――――痣みたいに浅黒く変色している肌が在った。

 これは過度な投影の代償だ。

 解っていたことだ。何故“アイツ”が俺と似つかない容姿をしていたのか。

 背丈は兎も角――――一部を残して色素が抜け落ちて白くなった髪に、琥珀色でなくなった瞳。それらは投影の代償に他ならない。

 

 

 そもそも『宝具』を“投影”して複製するのは人の身に余る行為だ。それを続けていたから、“アイツ”の容姿は変化したんだろう。

 それに“未完成”な俺が『黄金の剣』を“投影”したんだ。自身に何一つ変化が訪れない訳がない。

 その代償が肌の変色に止まったのだから、安すぎるのも良いところだ。死にかけなかっただけでも僥倖だろうに。

 

「それにしても……ここは何処なんだ?」

 

 俺は“切り札”を解き放つために、残っていた魔力を全てが注ぎ込んだ。

 だから、あの『時の庭園』から脱出するどころか、身動き一つ取れなかった筈だ。

 安堵の息を吐く前に、ここに至る経緯を考えよとしたところで、自動ドアが開く音が聞こえた。

 視線をそちらに向けると、なのはと少年の姿をしたユーノが居た。

 

「士郎さん! 大丈夫なの!!」

 

 駆け寄って来るなのは。

 ユーノも驚きの表情を浮かべて、なのはに続く形で駆け寄って来た。

 

「何とかな……。

 なのはたちがここに居るってことは、ここは『アースラ』の中なのか?」

 

「うん。リンディさんたちが士郎さんを何とか助けてくれたんだよ。

 エイミィさんが士郎さんの座標も把握してたみたい」

 

「そっか……」

 

 皆に脱出ルートの案内をしていたのに、俺の座標まで捉えてくれていたのか。後でお礼を言わないとな。

 

「シロウさん、リンディ艦長とクロノがここに来るそうです。話がしたいと……」

 

「だろうな。

 ……ユーノ、俺が意識を失っていたのはどれくらいだ? フェイトたちは?」

 

「意識を失ってからだと、そろそろ24時間になります。

 彼女たちのことは……クロノたちから聞いてください。きっとその話も有ると思いますから」

 

 フェイトたちの様子を聞いた途端に、二人の表情から明るさが消えた。

 その二人の表情は悲しそうで、何かを堪えていると言った感じだった。

 

「分かった。話はクロノたちから聞くよ。

 なのはたちも疲れているだろう? 俺のことはいいから、部屋で休んでろ」

 

「でも――――」

 

「リンディ艦長たちと話をする時は、二人は席を外すようにってなると思う。

 だから、気にしなくていいぞ」

 

 俺の言葉になのははハッと息を飲んだ。『時の庭園』に赴く前に、彼女たちも俺の過去の全貌を知った訳ではないが、自分たちの想像を越える日々を過ごしていたことは薄々と気付いている。

 これからリンディ艦長たちと話をすることには、それも含まれているのだということも――――

 

「なのは、部屋に戻ろうか……」

 

「……うん」

 

 数分前に駆け寄って来た雰囲気とは対照的に、重い足取りで二人はスライドして開かれたドアから通路へ足を踏み出して行った。

 まだ10歳にもなっていないなのはにとって、俺の過去の話は重すぎる話だ。ユーノの年齢は聞いていないけど、見た目から考えれば恐らくなのはと同い年ぐらい。

 どうあれ、この話は幼い二人には聞かせない方がいいのは客観的に考えても普通だろう。俺も勧んで話したいと思うことじゃないからな。

 

 

 

 

 

 ――――なのはとユーノがここを後にしてから数分後。ドアがノックされた。

 俺の返事をした後、ドアがスライドして開き、リンディ艦長とクロノが入って来た。

 二人がそのままベットの隣まで足を進み終えたところで、話は始まった。

 

「ごめんなさい。エミヤさんもまだ体力を回復しきっていないとは思うけど……あまり残された時間がないことも話に含まれているから――――」

 

「気にしなくて大丈夫ですよ。

 戦闘は出来ませんが、話をするぐらいの体力は有りますから」

 

 リンディ艦長はベッド付近に置かれていた椅子に腰掛ける。

 クロノはその斜め後ろに立っている。

 

「順を追って話をするけど、いいかしら?」

 

「構いません。むしろそちらの方が助かります」

 

 そう、話を聞くなら順を追っての方がいい。

 今の状況を把握しない限り方針も固まらないし、あの後どうなったのかを知るためにも、流れに沿ってことを進めるのが近道だ。

 

「まずは『ジュエルシード』ね。

 エミヤさんのお陰であの場に在った11個全ての『ジュエルシード』は消滅。それに伴って次元断層の発生も防げたわ。

 ただ、次元震の影響で次元空間が安定していないの。なのはさんは近い内に地球へ戻れると思うけど、ユーノ君の故郷……ミッドチルダ方面は少し時間が必要と言ったところね」

 

「そうですか……。でもよかった、次元断層を防げて」

 

 俺は安堵の息を吐いた。

 次元断層が発生したら、どれだけの被害が出るのかなんて解っている。

 複数の世界の崩壊――――平穏に暮らす人々の日常が突然として壊されることを防ぐことは出来た。

 だけど、そこで話に一区切りが付く訳もなく……。

 

「エミヤさん……貴方が使ったあの剣。あれは一体何なのかしら……?」

 

 『ジュエルシード』に関することを伝え終えたリンディ艦長は俺に質問を投げてきた。

 それは強い眼光と共に静かながらもしっかりと声を纏っていた。

 正直、その質問が来ることは予想出来ていた。エイミィが俺の座標を捉えていたのだから、その場の様子も把握していたのは考えるまでもない。

 

 

 『ロストロギア』である『ジュエルシード』を両断した一本の剣。

 それも1個だけではなく、11個を一振りで消滅させたことの異常さ。

 『管理局』に勤めていなくとも、【魔導師】ならば見逃す訳がない。

 だが、俺も正直に答えることは出来ない。悪いとは思っているが、誤魔化させてもらおう。

 

「あれは俺の“切り札”ですよ。一度限りの大技です」

 

「一度限り? それではもう手元には無いのかしら?」

 

「はい。使用した“あれ”は崩れ去ってしまいました。もう俺が手に入れることもないでしょう。だから、レアスキルで物を取り出している“場所”に貯蔵し直すことも出来ません。

 俺だって、本当は使うつもりなんてありませんでしたけど、次元断層を引き起こすのを“あれ”一本で防げるということだったので“切り札”を切りました」

 

 リンディ艦長の表情は凛としたままだ。

 ただ俺の話を聞いて自分の内で情報をまとめているのだろう。

 その間にクロノが質問してくる。

 

「シロウはあの“剣”は用意出来ないと言ったが、似たような剣なら用意出来るのか?」

 

「いや、無理だな。あれと似たようなと言うより、同等な剣なんて無い。

 言葉通り、最初で最後の一撃だったんだ」

 

 クロノの質問は鋭いものだった。同じ剣ではなく、似たような剣か……。

 あの“剣”に同等な剣なんて無い。オリジナルの“聖剣”は俺の“剣”を遥かに越える精度と威力を備えているし、“アイツ”の『黄金の剣』と比べても俺の“剣”は劣る。

 他に性能面で同等の“剣”の存在を問われても、無いとしか解答出来ない。

 『劣・永久に遥か黄金の剣(エクスカリバー・イマージュⅡ)』と同等の剣は同じ銘のそれだけだ。

 それに、クロノたちは知る訳がないけど、『宝具』の効果と威力なんて千差万別なんだしな。

 

「そうか……そんなに貴重なモノだったのか、あれは」

 

「ああ。逆に“あれ”と同等でも似たような剣が在った方が恐ろしいだろ」

 

「……確かにな。簡単に用意されても困るな」

 

 うっすらとだが苦笑いを浮かべるクロノ。

 俺も“投影”で『宝具』を複製出来ることには苦笑いの一つでもしたくなる。

 自分がデタラメなんてことは、“アイツ”を通しても、自身を通しても理解している。

 

「リンディ艦長、フェイトたちはどうですか? クロノの先導で先に脱出した筈ですけど?」

 

「……………………」

 

 俺がテスタロッサ一家の様子を訊くと、リンディは言葉を詰まらせた。それに沈痛な顔を見せ始めた。

 クロノも似た表情を浮かべている。

 

「……フェイトさんとアルフさんは元気よ。今は眠っているプレシア・テスタロッサの側に居るわ。

 けれど……彼女は重体……。今は何とか安定しているけど……それも一時的なものよ……」

 

 

 ――――その言葉を聞いた瞬間、俺の頭の中は真っ白になった。

 

 

「……プレシアが……重体だって…………?」

 

 リンディ艦長は重々しく頷いて、俺の漏らした言葉を肯定した。

 僅かに色を取り戻した俺は防波堤が決壊したかの如く、口を開いた。

 

「どういうことですか!? 一体何が!?」

 

「クロノたちが『アースラ』に帰還した直後、彼女は吐血したの。それも少量じゃないわ。明らかに病に冒されていて、末期を連想させる程の……」

 

 それを間近で見たフェイトは悲鳴を上げたことも続けて教えてくれた。

 当たり前だ。突然目の前で母親が吐血なんてしたら、悲鳴を上げる。

 フェイトも一時期は錯乱状態に陥ったらしいが、アルフが側に居たことで今は落ち着いているとのこと。でもそれは錯乱することを抑えることが出来ただけで、不安と恐怖で心が占められているのは、誰もが容易に想像出来る。

 

「医療スタッフからの報告だと――――彼女の呼吸器は末期レベルまで冒されている状態だと……。それはここに来る前からみたい。

 それによって体力も魔力も失われ続けていたそうよ。にも関わらず、彼女は次元跳躍攻撃を行った。それも二度……それがどれだけ体への負担を増加させていたのか、医療スタッフでない私でも判るわ」

 

「……………………」

 

 それがプレシアが焦っていた理由か。

 彼女は自分に残された時間(いのち)が残り僅かだと悟っていた。

 だから、残された時間(いのち)が尽きる前に『アルハザード』へ至ろうと、フェイトに『ジュエルシード』を至急集めろと命じたのか。

 

「だから、エミヤさんも話が終わった後は……彼女の側に居てあげて。

 突入前のプレシア・テスタロッサとの会話から何となく予想が出来るけど……貴方にとって彼女は義母なのよね?」

 

「俺は一時的に預けられただけなので、テスタロッサ家の養子と言う訳ではないのですけど――――そうですね……そうなりますね」

 

 俺は切嗣が仕事であまり面倒を見ることが出来ないからと言う理由でプレシアの所へ預けられた。

 そこでの生活は極普通の一家の生活と変わらなかった。優しいプレシア。娘のアリシア。愛猫のリニス。

 彼女たちは俺を家族として接してくれたのだから。

 

「でも、そうなると時間が合わないわ。彼女は貴方のことをアリシアの『兄』だと言った。駆動炉――――ヒュドラの暴走事故が起こったのは26年前。それを踏まえると、貴方と彼女の娘のアリシアちゃんが面識を持っているのはおかしい……。

 だって、エミヤさんはどう見ても10代半ばの少年。エイミィも貴方とは同い年だって言っていたし……この状況になるとしたら、貴方の成長がどこかで止まったとしか――――――」

 

 リンディ艦長は自分で口にしている中で気付いたみたいだ。

 彼女の考えている通り、俺がアリシアと面識を持っているならば、俺は26年前には既に生まれていたことになる。でもそうなったら俺は30歳を越えている。

 しかし、俺は16歳だ。そうなるのは場合は一つしかない。

 衛宮士郎()の『時間』が一度静止したが、『世界』の時間は変わらず進み続けた。その後、衛宮士郎()の『時間』は再び動き始めた。それだけの単純な話だ。

 

「リンディ艦長の思い当たったそのままですよ。

 プレシアが言っていましたよね。俺が魔法事故に遭ったって」

 

「ええ」

 

「彼女の言った通り、俺はヒュドラ駆動炉暴走事故の少し前に魔法事故に遭ったんです。その時、即座に治療が出来なかったことに対して、ベルは冷凍睡眠――――と言うより冷凍保存による延命を施しました。

 俺の年齢が“時間”と合っていない理由はそう言う訳です」

 

 息を呑む二人。

 話の中で薄々だが、この可能性は考えていただろう。しかし、実際に聞くと動じずにはいられなかったみたいだ。

 俺も、この話は容易に受け止められることではないとは理解している。

 

「……それと、ヒュドラ駆動炉の事故についてですけど、『管理局』の認識は事実と異なる可能性があります」

 

「何? それはどう言うことなんだ、シロウ?」

 

「エミヤさん、詳しく教えてくれるかしら」

 

 戸惑っていた二人の表情が怪訝な顔付きに変わる。

 

「目覚めた俺にベルが言っていたんです。あの事故は本社の強行によって引き起こされたことだと。

 プレシアは研究者だが、安全管理には一際厳しい人物であったのは周知の筈だと。

 このことはベルの方が詳しいので、本人に連絡を取って下さい」

 

「もしそれが事実なら、この騒動に影響が出るわ。

 元を辿れば、ある意味あの事故が原因……クロノ、至急彼と連絡を取って」

 

「分かりました!」

 

 リンディ艦長に命じられたクロノは急ぎ足でここを出て行った。

 これで時期にベルからの事実確認は取れるだろう。

 

「プレシア・テスタロッサの意識が戻ったら、彼女自身からも話を聞きたいわね……」

 

「ベルも当事者ではないですからね……プレシアから本人から聞くことが出来ればいいですけど……」

 

 一通りの話を終えた俺たちの間で沈黙が漂う。

 話をして疲れた訳ではない。あまりにも衝撃的なことの連続で、情報を整理に思考を回しているだけだ。

 でも、俺はベッドの上に座ったままとはいかない。テスタロッサ一家の居る部屋へ行かないと――――――

 

「――――ッ」

 

 少しだが体が軋んだ。体は素直で休息を求めている。

 それを踏み倒して、俺は足を床に付けて、ドアから通路へ向かおうとした。

 が、フラッと体勢を崩したところで、誰かが俺に肩を貸した。いや、この場には俺以外には一人しか居ないので誰だか考えるまでもないか……。

 

「彼女たちが居る部屋は判らないでしょ? 案内するわね」

 

「……ありがとうございます」

 

 立ったことが影響したのか、声も普段と比べても弱かった。

 まだまだ修行不足ってことか……。

 内心で自身に苛立ちを募らせながらも、俺はリンディ艦長に案内されながら、プレシアたちの居る部屋へ向けて足を進めた。

 

 

 

 

 

 俺はリンディ艦長に案内されて、プレシアたちが居る部屋のドア前まで辿り着いた。

 リンディ艦長はドア付近に付けられているパネルに手を押し当てると、軽い電子音が鳴り、ドアがスライドして開いた。

 

 

 ドアを潜ると、そこは先程まで俺が居た部屋と同じような場所だった。ただ、俺の所とは違い、プレシアが眠っているベッドの周囲には――――脈拍数、血中の酸素濃度、呼吸数などの数値化しているモニター。その他にも医療機器が設置されている。

 そんな無数の機材が在る部屋、フェイトはプレシアが眠っているベッドの隣に置かれた椅子に座りながら、彼女の手を両手で包み込んでいた。

 

 

 他にも人が居た。

 アルフはフェイトの斜め後ろで立って、心底心配している雰囲気を醸し出しなから、二人へ視線を向けている。

 三人から少し離れた所には、なのはとユーノが立っていた。どうやら、俺が居た部屋を出て行った後は自室ではなく、ここへ向かったみたいだ。優しい二人だ。フェイトたちを放っておくことなんて出来なかったのだろう。

 

「もう大丈夫です。ここまでの歩きでバランス感覚も落ち着いてきましたから」

 

 俺はリンディ艦長へお礼を言って、一人でフェイトたちの所まで歩いて行った。

 足音は意識しないと聞き取れないぐらい小さい音だったが、アルフには聞き取れたのかこちらへ振り向いた。

 

「シロウ……大丈夫かい? 意識が戻ったってさっきなのはから聞いたんだけど……」

 

「大丈夫だ。アルフたちは?」

 

「外傷は無いよ。ただ……見ての通りさ……」

 

 アルフはくいっと視界を二人が収まるように向け直した。それは、俺が視線を向けることを促すための動作でもあった。

 視線の先には依然としてプレシアは眠ったまま。フェイトの変わらずそこにいる。

 

「……フェイト」

 

 名前を呼ばれてやっとフェイトは首だけを振り向かせてこちらへ視線を移動させた。

 俺はようやくフェイトの顔を見ることが出来た。でもその表情は控え目にいってもいいモノではなかった。

 一睡もしていなかったのか顔色が普段と比べると悪い。瞳も赤みが残っていた。

 

「……シロウ……」

 

「……話は……リンディ艦長から聞いたよ……」

 

 俺はフェイトの隣まで移動して、視界にプレシアを収めた。

 眠っている彼女だけど、健康とは言えないのは一目で分かった。顔は青く、昔と比べて呼吸は弱々しい。

 彼女はそれを、俺たちに隠し続けながら今日まで歩いてきた。

 それを思うとギリっと奥歯が擦れる。何故俺は気付くことが出来なかったのか。彼女が容態を悪くしたのは最近のことではないと、少し前に知らされた。

 

 

 これは予想に過ぎないが……恐らく、『アルトセイム』に居た頃には既にその兆候はあったのだろう。フェイトたちがプレシアの“おつかい”をしていた時期を考慮すると、その可能性が高くなる。

 約2年の期間になるが、『アルトセイム』には俺も居た。プレシアは側に居た。なのに、彼女の病に気付くことも、苦しみに囚われていたことを感じることも出来なかった。

 プレシアが研究で自室に籠っていて、顔を合わせる機会があまりなかったのだから仕方がないと言われればそうなのかもしれない。

 だが、どうあれ、俺は見落としていた。それがどうしようもなく頭に来るんだ。プレシアは目に映る範囲に居た。なのに俺は――――――

 

「…………アリシア……」

 

「「「!?」」」

 

 弱々しい声だけど……今の言葉は確かにプレシアの口から漏れた。

 

「母さんっ!!」

 

 ぎゅっと少し包み込む力を強くして、フェイトは母親へ声を掛ける。

 それで意識が戻ったのか、プレシアの目蓋がゆっくりと開かれた。

 そして、こちらへ視線を向けて、俺たちの顔を捉えた。

 

「……シロウ」

 

「ああ」

 

 プレシアは俺の顔を見据えてから、名前を呼んだ。それはアリシアが居た頃の柔らかい声色だった。

 

 

 続けてフェイトの顔を見るが……口籠った。

 娘の想いを聞いた今となって、フェイトに対する考えが変わって、どう言葉を掛けていいのか分からないのか――――

 それとも、娘の想いを聞いても考えは変わらず、話ことなど無いと思っているのか――――

 

 

「……母さん」

 

 (フェイト)は再び(プレシア)を呼ぶ。

 それは親子の間ならば当然として行われることだ。

 

「……フェイト、ごめんなさい。

 私は今まで貴女を否定し続けた。でないと、私が壊れてしまうから……」

 

 フェイトは黙って聞いていた。母親の手を包み込む強さを緩めずに。

 自分は想いを告げたのだから、今度は自分が聞く番だと。

 

「罪の意識と後悔に狂ってしまわないために……。貴女の否定することで、私は自分を誤魔化し続けた。

 そんな私を貴女は恨むわよね……」

 

 自身の感情を押さえていたフタが取れたのか、ここにきてプレシアの顔が歪んだ。それは自嘲的な表情だった。

 

「……私が母さんを恨むとすれば、一つだけです」

 

 フェイトは力強い瞳で、プレシアの瞳を見る。

 恨むと言ったが、瞳は闇を覗かせていなかった。ただ悲しそうだった。

 

「――――それは本当のことを言ってくれなかったこと。私が生まれた理由と真実を告げてくれなかったこと。言ってくれれば、もっといい方法を探せたかもしれないし、母さんはこんなにも辛い思いをしなくて済んだかもしれないから……」

 

 罵る訳でもなく、怒りをぶつける訳でもなかった。

 ただ、こうなってしまったことがとてつもなく悲しいと――――

 

「フェイトの言う通りだ。そうすれば他の選択肢だって見つけられたかもしれなかっただろう……」

 

「…………心は押し殺した筈だのに、まだ何処かで迷っていたのかもしれないわね。何と引き換えにしても取り戻したと思っていたけど……本当は――――」

 

 結局、どれだけ自分を誤魔化そうとしても、それが出来たのは表面上だけだった。完全に自分の心を殺し切ることがプレシアには出来なかったんだ。

 そう。彼女が昔から持っていた優しさは今でも心の底で根付いている。

 だけど、悲しいことにその優しさが彼女を苦しめた。

 

「……本当に私は愚かね……いつも私は気付くのが遅すぎる……」

 

「……そうだな。でも、今なら気付けているんだろう? ならこれからのことを精一杯やっていくべきだ。そのための一歩が何なのかは――――」

 

 俺が直接は口にしなくても、プレシアなら理解出来ている筈だ。

 本当の二人の物語はまだ始まっていない。歩み出すためにまず、何から始めるべきか――――

 

 

「フェイト……何を今更って解っているけど――――」

 

 プレシアは言おうとしたが、そこで一度言葉を詰まらせた。

 ほんの僅かだけ間が開いたが、彼女は口にした。

 

「――――こんな私を……許してくれるかしら……」

 

「――――――――」

 

 フェイトは両目に涙を浮かべながらも頷いた。その後、自分の額プレシアの太腿に押し付けて嗚咽を漏らす。

 プレシアは抱き締めるようにフェイトの頭を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 どれだけの時が過ぎたのか。嗚咽が止まったフェイトは他にも人が居ることを思い出した途端に、頬を少し赤く染めた。

 ようやく二人の想いが通じたことは嬉しいことなのだが……まぁ、見られていたら恥ずかしいよな。

 離れた所に居たなのはやユーノたちは安堵の表情を浮かべている。なのはの方は僅かだけど目尻に涙が溜まっている。

 そして、なのはたちの側に居たリンディ艦長はベッドの上に居るプレシアの所まで歩き寄って来た。

 

「プレシア・テスタロッサ。病に冒されているのは承知していますが、いくつか確認したことがあります」

 

「私も、貴女たちには言っておくことがあるわ」

 

「母さん……体は――――」

 

「これだけは言っておかなければならないの……。

 それに大丈夫よ、話すぐらいなら」

 

 リンディ艦長の真っ直ぐな視線に射抜かれたプレシアは、臆することなく向けられた視線と同じモノを返した。

 フェイトはそんなプレシアを心配したけど、優しく言葉を返されて口を閉じた。

 

「『管理局』の認識ではヒュドラ駆動炉の暴走事故は安全不備によるものだとなっているわ。

 でも、エミヤさんに魔法を指南した魔導師によると、それは本社の強行が原因で、加えて貴女の安全管理は厳しかった筈だと」

 

「ええ、あれは本社による強行が引き起こしたわ。安全確認に必要な項目の大半は本社から派遣されてきたスタッフによって削られた。それに加えて安全処置はこちらに任せてください、とまでね」

 

 その光景を思いだと同時に苛立ちも蘇ったのか、プレシアは歯を食い縛った。

 それでも口を動かし続ける。

 

「爆発の危険がある駆動炉をあらかじめ確保していた安全地区へ転送する準備をしていたわ。でも、実験当日は上層部によって抑えられた。

 そして何故か原因究明には管理局が立ち入らなかった。上で何のやり取りがあったかまでは知らないけど。

 結局のところ……事件の記録は“安全よりもプロジェクトを優先した”という形で残った。

 管理局の記録はそれを汲み取ったからでしょうね」

 

 プレシアの説明を聞いたリンディ艦長は顔をしかめた。話を聞く限り、事実と記録が異なっているのは判る。加えて、当時の『管理局』が何故か原因究明に踏み込まなかったのか不可解でしかたがないのもあるだろう。

 同じ部屋に居るなのはたちも同じく疑問に思っているようだ。

 

「やっぱり……ベルの言う通りなんだな。仕事に熱心なのは俺も知っていたし、安全管理を疎かになんてする訳がないって思っていた」

 

「もう一つだけ訊きますね。エミヤさんは貴女の所に預けられていたと聞いていますけど?」

 

「ええ、2年ぐらいの期間だったかしらね。忙しいからシロウの面倒を見てくれって頼まれて――――」

 

 ヒュドラ駆動炉の件。俺との関わりを訊いたリンディ艦長は一先ず質問は終わりと話を切った。

 次はプレシアが口を開く番だ。

 

「今回の騒動――――ジュエルシードの回収は私がフェイトに無理やりやらせたことよ。詳細の説明も、目的も、なに一つとしてフェイトには知らされていないわ。

 責任は全て、私にある」

 

「か、母さん――――」

 

 慌ててフェイトはプレシアに声を掛ける。しかし、プレシアの眼を見ると、口を閉じた。

 プレシアはこの件の責任を全て自分が背負うつもりだ。娘を守るために。

 

「なのはさんたちにはもうクロノから説明が有ったと思うけど……フェイトさんの行動を考慮すると無罪放免という訳にはいかないわ。一歩間違えれば次元断層を引き起こすところだったのだから」

 

 リンディ艦長の言う通りだ。理由はどうあれ、今回の騒動は大災害を引き起こす一歩手前までの規模だった。

『管理局』として黙っていられない。

 

「ただクロノの報告にも有りましたが、フェイトさんは貴女の思惑も、真実も知らない。彼女は利用されただけと――――情状酌量の余地はあります。

 加えてヒュドラの暴走事故の一件も有ります。……裁判は避けられないでしょうけど、そちらの場合によっては――――」

 

 この後もリンディ艦長とプレシアの会話は続いた。

 二人の裁判について。後は『アルハザード』について。

 今となっては『アルハザード』の存在は曖昧で伝承にすぎないというのがリンディ艦長の考えだった。

 対してプレシアは『アルハザード』は次元の狭間にあると。そこへ至るために『ジュエルシード』を欲していたと。

 

 

 正直、その辺りの話は俺にはよく解らなかった。一通りの知識は備えているが、専門的なことは全てを知っている訳じゃない。俺が『アルハザード』について知っていたのは、既に失われた都で、いくつも秘技が在るかもしれないということだ。

 

 

 ともあれ、『ジュエルシード』の騒動はこれで終わりだ。

 まだ全てが解決した訳ではないけど、それは少しずつでも片付けて行けばいい。

 フェイトとプレシアはこれから一緒に歩いていくことが出来る。

 ……病に冒されているプレシアのことを考えると、その時間はあまり残されていないかもしれないけど――――その短い時の中でも出来る限りのことをしていけばいい。

 

 

 

 ――――そう……俺たちは思っていた――――

 

 

 

 

 

 

**********************

 

 

 

 

 

 

 ――――話を終えた後、なのはとユーノは『アースラ』で間借りしている部屋へ戻った。

 リンディ艦長は職務へ戻るためにブリッジへ向かって行った。

 フェイト、アルフ、衛宮士郎は再び眠ったプレシアの側に残った。

 今はアースラの医療スタッフたちもここに居る。来る際、有難いことに毛布を3枚用意してくれていた。じっとしている彼らのことを気遣ったのだろう。

 

 

 今、プレシアは寝ているが、目を覚ませばまた話が出来ると子供たちは思っていた。話したいことは山程ある。それこそ、一晩でも…………一日を掛けても足りない程だ。

 

 

 ――――だと言うのに、それは突然として降り懸かった――――

 

 

 

 

 

 

 プレシアが眠ってからどれくらい経ったのだろうか……俺たちは時間の経過すら把握が出来ていなかった。

 何故なら――――プレシアの容態が急変して、医療スタッフたちが慌ただしく行き来している光景が、俺たちの思考を消し飛ばしたからだ……。

 

 

 医療スタッフが緊迫な足音が立てている最中、部屋をドアが開く電子音が響いた。

 部屋に入って来たのは――――なのは、ユーノ、クロノ、リンディ艦長たちだった。

 プレシアの容態を知らされて、ここに駆け付けたんだろう。

 彼女たちは張り詰めた表情で、プレシアたちを見据えている。

 

「……出来る限りのことはしていますが……もう彼女は――――」

 

「何で……重体とは聞いていますけど、こんな……急に……」

 

 医療スタッフの一人が現状を伝えてくれた。

 俺は蒼白する中、掠れた声を絞り出して訊いた。

 

「彼女の病である肺結腫は既に末期です。他の臓器にも転移していて、もう処置の施しようがありません。そんな体で魔法の酷使――――次元跳躍攻撃とロストロギアの制御を行っていたことの方が驚きです。

 自分の体が限界に近付いているのは承知でいたでしょう。正直……アースラ(ここ)に来た時点で、いつこの時が来てもおかしくなかった……」

 

 医療スタッフの重々しく、僅かに震えた声で容態を伝えた。

 それを耳にしたフェイトは、プレシアの手を包み込んで祈る。

 

 

 その祈りが届いたのか、プレシアの目蓋がゆっくりと上がった。

 しかし、目は朦朧としていた。顔色も一層青くなっている。呼吸も一定のリズムではない。

 

「―――……―――――……―――……」

 

 プレシアから途切れ途切れの言葉が漏れる。それは儚く、聞き取れなかった。

 俺たちは聞き取ろうと耳を寄せる。

 

「シロウ……フェイトを……頼むわ……」

 

 それは――――“願い”。

 

「何言ってんだ! これから一緒に歩いて行くって決めたんだろう! また諦めようとするのか!!」

 

「私の……時間が……残り……少ないのは……判っていたのよ……」

 

「だから! その残り少ない時間を精一杯歩けっててんだ!」

 

「……そうね……それが……可能なら……」

 

 口籠るプレシア。悔しそうに一度目蓋を閉じる。でもそれは一瞬。再び目蓋を開けると力強い光を宿した瞳で俺たちを見る。

 

「フェイト……(シロウ)の話を……よく聞くのよ……。彼なら……大丈夫……。私の分まで……貴女の……側に居て……くれるわ……」

 

「……母さんっ!!」

 

「……幸せにね……貴女の……ことは……貴女のお姉ちゃん(アリシア)と……一緒に……ずっと……見守って……いるから……」

 

 フェイトの手に力が籠る。決してプレシアを離さないように――――彼女を繋ぎ止めるために――――

 

 親子を見ている中、裡から込み上げる感情が俺を締め付ける――――

 何やってるんだ俺は……。“目に映る人を助けたい”と願っていながらも……目の前に居るプレシア一人助けてやれてないじゃないか……。

 俺には彼女の病を治すことなんて出来ない。悪夢から連れ出すことは出来たかもしれないけど、彼女を助けることが出来ていない……。

 俺は何のために、剣を手にして歩いてきた…………。目に映る苦しんでいる人を救うためだろう。なのに……実際はそれが出来ていない。剣を握るこの手は――――目の前で零れ落ちそうな命こそを救えていないじゃないかッ!!

 

「……シロウ……頼んだわよ……」

 

 フェイトを真っ直ぐと見た後、続けて俺に瞳を向ける。

 そこに宿っているのは“願い”。アリシアの妹を――――自分の大切な娘を俺に託したいという“願い”。

 

 

 ……一心に俺へ向けられた彼女の願い。自分の命を削りながらも、辛い現実と戦い続けた先でも、残ったモノ。

 その願いは……俺なんかに託されていいモノなのか……?

 プレシアの病にも……苦しみに気付けず……救うことも出来ていない俺なんかに――――

 

 

『選んだ道であるならば最後まで歩き続けろ』

 

 

 信じるように俺へその言葉を向けたのは誰だ?

 その言葉は誰が誰の胸に刻み込んだ?

 

 

 現実が苦しく、悲しいことであったとしても――――自分を曲げることをしてはならない。

 だって俺は『(ここ)』までを歩いてきた。悲しかった過去(こと)をただの傷跡にしない為に、“苦しんでいる人を助けたい”という“理想”を胸に秘めて。

 プレシアも諦めることなく、突き進んできた。それが正しくない手段を取っていたとしても、彼女を突き動かした“願い”は尊いモノだった。

 

 

 なら、やるべきことは既に決まっている――――

 命が救えないのであれば――――せめて……その“願い”を受け継げ――――

 彼女の“願い”を――――ここで絶やすことは……してはならない――――

 

 

「……ああ……まかせろ……。アリシアの妹は――――義母(かあ)さんの娘は……俺が――――――」

 

 精一杯の“強がり”を込めて、答えた。

 それを聞くと、プレシアは今までにない程の柔らかく、安心に満ちた微笑みを俺たちへ浮かべてくれた。

 

「――――――」

 

 それが最期だった。

 義母さんはゆっくり眠るように目蓋を閉じた。

 

 

 母親を看取ったフェイトは嗚咽を漏らしている。両目からは雫が溢れて、頬を伝って零れ落ちていく。

 それでも、フェイトはプレシアの手を包み込み続けている。

 自分が母親の温もりを忘れることがように――――

 母親が自分の温もりを忘れることがように――――

 

 

 義母さんを見届けると……俺の両目は熱を帯びた。

 けれど、嗚咽を漏らすことはなく、その場に立ち尽くしていた。

 ――――ただただ……数滴の涙が零れ落ちて行く。

 

 

 

**********************

 

 

 

「……ああ……まかせろ……。アリシアの妹は――――義母(かあ)さんの娘は……俺が――――――」

 

 

 その言葉を聞いて、私は目蓋を閉じた。

 目蓋の裏に映るのは――――穏やかな家族。

 フェイトの姉(アリシア)――――

 アリシアの妹(フェイト)――――

 リニス――――

 シロウ――――

 

 『アルトセイム』の緑豊かな草原を姉妹は駆けていて、私たちはそれを眺めている。

 穏やかで、ささやかな幸せ。これが本当に私が夢みた風景。

 

 

 山へピクニックに出掛けてたある時、アリシアは『妹』が欲しいと願って、私は約束した。

 一緒に聞いていたシロウも、それは賑やかになりそうだなっと表情を綻ばせた。

 それを“形”には出来なかったけど――――“想い”には出来たと思う……。

 

 

 後悔が無いと言えば嘘になるけど――――

 最期の最期で得たこの安堵を胸に秘めて、私は眠りについた――――

 




無印編も残すはあと1話になりました。
なので少し、物語についてお話ししようと思います。

まず最初に考えたのはプレシアについてでした。彼女が取った手段は誉められたことではありませんが、アリシアを――――幸せを取り戻したいという願いは本物でした。
その願いを無駄にしないこととフェイトとのすれ違いをどうするのかが最初に考えたことです。
後者に関しては親子の会話で。
前者に関しては士郎が願いを受け継ぐという形で。
SN士郎は切嗣から『正義の味方』という理想を受け継ぎ、彼に安堵をもたらしました。
士郎の理想は命を救うことですが、切嗣や桜のことから命だけではなく、心も救うことが出来る。
心を救うことも士郎の在り方の一つだと自分も思っているのでこのような形にしました。


またこの話の流れによって、クロノの出番が減ってしまうのでないかと懸念される方も居ると思いますが、大丈夫です。むしろ増えています。
ここまで読んで頂いている方々にはもう名前を隠す必要は無いと思っていますが……例の姉妹との関わりを持っているので、その部分でも出番が増加しています。
あと、StrikerS編もクロノ、ユーノ、アルフ辺りの出番は増やす構想です。TVでの出番の少なさは自分も気になったので。舞台がミッドチルダに移りますが、彼らは元々ミッドチルダ組ですからね。

無印~A’S編はA’S編への繋ぎ。
例の姉妹の登場、ちょっとした日常などを書こうと思います。

A’S編は士郎が道を決める章でもあります。
プレシアからフェイトを託された彼は、例えるなら美遊兄のような感じです。
元々持っていた理想に加えて、託されたモノがある。それらを踏まえてどのような道を選ぶのか――――A’S編で定まります。

StrikerS編は――――Fateの創造神が「士郎は20代が~」と発言していたり、アーチャーの容姿から20代後半が絶頂期だと思い、そんな彼も書きたいなと思っています。
士郎の年齢を無印編の時点で16歳にした主な理由これです。他にもありますが……。

こんな感じの当作品ですが、引き続き頑張っていこうと思います。

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