魔法少女リリカルなのは ~The creator of blades~   作:サバニア

21 / 26
ラストパート……突入!!


18話 心と剣と――――

 

 衛宮士郎、クロノ・ハラオウンらは『アースラ』から転移して、プレシアの城である『時の庭園』の外苑部に降り立った。

 既に士郎は赤い外套を、以外の者はバリアジャケットに身を包んでいる。

 

 

 相変わらず寒い所だった。太陽の光が無いからでも、次元空間に漂うからでもない。この寒さは……プレシアの心を映し出しているように感じさせる。

 だが、感傷に浸っている余裕なんて誰にも無かった。

 ガシャンと、音の立てて入り口前を守護している傀儡兵(くぐつへい)たちが居たからだ。

 ゴーレムのような巨体なのが1機。

 それの取り巻きに人形(ひとがた)が12機程。

 

「い、いっぱい居るね……」

 

「この子たちって――――」

 

「ああ、近くの敵を排除するためだけ機械だよ」

 

 ユーノの戸惑いと同調したなのはの疑問に、クロノが答える。

 クロノが言った通り、相手は機械だ。油断さえしなければ、問題は無いし、武装も剣や斧などの近接寄りの武装に甲冑だ。つまり、距離を保てば向こうからの攻撃が当たる心配も無い。

 

「俺が斬り込む。そのまま俺がターゲットになるように立ち回るから、皆はこの距離を維持してくれ」

 

「私もシロウに続くよ。近接なら私にも出来るから」

 

「いや、前衛は俺一人でも十分だ」

 

 フェイトの提案を士郎は遠慮した。

 先の対決によって二人は万全とは言い難いだろう。

 加えて、フェイトの除いて『鎌』や『ナックル』などの近接向けのデバイス所持者は居ない。クロノとなのはは“杖”。ユーノとアルフはサポート役。

 各々のことを考えても、士郎が適任だ。

 彼は皆より前に踏み出す。

 

投影(トレース)――――開始(オン)

 

 士郎の両手に重みが生まれる。干将・莫耶――――黒の刃と白の刃が対となっている“彼らの得物”だ。

 士郎が剣を手にしたのを見たなのはたちも各々に構えを取ろうとしたが、クロノに止められた。

 

「この程度の相手に無駄弾は必要ないよ。大勢で掛かる必要もね」

 

「……そうだな。俺たちだけで十分だな」

 

「君は敵陣へ一直線に突っ込んでくれて構わない。注意が逸れた奴は僕が片付ける」

 

「頼む」

 

 士郎はクロノに短く返した。

 彼の力量は実際に手合わせてした彼もよく解っている。援護をしてくれることに不満や不安は無い。むしろ、心を強いだろう。

 

「――――」

 

 息を吸い込み、思考が切り替わる。

 雑念は消え、剣と同じように感覚が研ぎ澄まされる。

 

 

 それと同時に士郎は足元を力強く蹴り、敵陣の奥に居座る一際巨体な傀儡兵に向かって疾走した。

 彼の動きに反応したスリムな人形(ひとがた)2機が正面から迎え撃つために向かって来る。

 攻撃は向こう方が先に繰り出してきた。1機目が片手直剣を上から垂直に降り下ろす。

 

 

 士郎はそれを横へ体を捻ることで避けた。

 攻撃を仕掛けてきた傀儡兵の体勢が戻る前に双剣を走らせて斬り裂く。兵士はバラされた部位からパーツを散らばしながら、音を立てて倒れる。

 

 

 続いて2機目は警戒してか盾を前に押し出しながら向かって来た。

 だが、“強化”を施して切れ味が増した干将・莫耶は盾に弾かれることなく斬った。守りを突破した二刀は本体へ閃光を描き、解体した。

 

 

 Aランク相当と言われていたが、それ程の脅威を感じる物ではなかった。あくまでも機械ということか。これなら、なのはやフェイトなら大丈夫だろう。9歳の少女の二人だが、その実力は普通の物差しで計っていい物ではないことは先の対決で刻まれた。

 そんな彼女たちにユーノとアルフのサポートが入れば心配なんて無用だろう。

 

 

 手応えから戦闘力を計っていた士郎が巨体な傀儡兵までの距離が残り半分を切る所で、残って他の傀儡兵の注意が一斉に彼へ向いた。

 それでいい。彼に注意が向くということは――――

 

「Stinger Snipe.」

 

「はっ!」

 

 クロノから撃ち出された一本の光弾が螺旋を描きながら、『巨体』の取り巻きである複数の傀儡兵を貫いた。

 その後、上昇して渦巻き状で留まる。

 

「スナイプショットッ!」

 

 再度加速した光弾は残りの取り巻きを順に撃ち抜いてから、『巨体』へ着弾した。

 しかし、他のとは違い直撃しようと瓦解することはなく、どっしりと居座っている。図体は伊達ではないらしい。

 

 

 士郎は着弾により発生した煙が相手の視界を塞いでいる隙に接近する。

 遅くして反応した『巨体』から斧が垂直に降り下ろされる。

 彼は斧の刃に自分が握る片方の剣の刃を当てて、攻撃の軌道を僅かだが、滑らかに逸らした。その隙に懐へ飛び込み、攻撃をするために動かして出来た装甲と装甲の隙間に双剣を差し込んでから、距離を取る。

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

 双剣は内に秘めた“魔力”を爆発させて、傀儡兵を内側から破壊した。

 例え堅牢な装甲で外を覆おうが、内側からの攻撃ならば関係無い。

 

 

 最後の一体も排除され、“城”へ立ち入ろうとする彼らを拒むモノは無くなった。

 これで入り口前の傀儡兵の排除は完了だ。

 

 

「すごい……」

 

 なのはがフェイトたちを代表するかのように呟いた。今の光景を見ていた彼女たちは呆然としていた。

 

「あれが……執務官とシロウの実力……」

 

 フェイトはバルディッシュの柄を握り直して、気を引き締める。

 

「クロノは執務官だから、相当の力量を持っているのは予想出来ていたし……シロウさんも“アーチャー”と名乗っていた時の戦闘からかなりの実力者と解っていたけど――――」

 

「シロウの場合は『それ程の力が無いと』ってことだろうね……」

 

 ユーノとアルフは複雑そうな表情を浮かべている。それほどにまで、士郎とクロノの技量は高かった。

 士郎の敵の動きを見切り、往なした直後に繰り出した閃光の鋭さ。飛び込みながらも、斧をずらした巧さ。初めて見た者を驚かせるには十分であった。

 それはクロノもである。彼は複数の傀儡兵を一本の光弾で貫いた。正確な照準と威力を維持し続けた魔法のコントロールは、同じ【魔導師】でも嘆ずる。

 

「ぼーっとしてないで、行くよ!」

 

 クロノの叱咤が飛んで、気を取り直したなのはたちは士郎とクロノを追う形で入り口である扉を通り抜ける。

 

「シロウ、武器は?」

 

「うん? ああ、大丈夫だ。取り出せばいいだけだからな」

 

 フェイトは徒手空拳になった士郎を気に掛けて声を掛けた。

 彼が干将・莫耶を失ったことで、武器の方はどうするのか気になったようだ。

 

(自分のことで不安が溢れている筈なのに、他者を気に掛ける優しさ。

 プレシア……アンタの娘はこんなにも優しさ女の子なんだぞ)

 

 士郎の心の内で呟きが漏れる中、なのはが疑問の口にした。

 

「あの、この穴は?」

 

「虚数空間……あらゆる魔法が発動しなくなる空間だよ」

 

 所々に“穴”が開いている通路を士郎とクロノを先頭にして走っている中、なのはが上げた疑問にフェイトが答えた。

 

「念のために言っておくけど、飛行魔法も発動しない。

 落ちたら重力の底まで真っ逆さまだ」

 

「だからなのは、気を付けて」

 

「う、うん」

 

 クロノの補足説明に加えて、ユーノがなのはに念を押しした。

 なのはは話を聞いてゾッとしたのか、少し口籠ってから返事をした。

 誰も見え見えの穴に落ちないとは思うが、落ちた時は士郎が引き上げるだろう。鎖が付いた鉄杭のような武器を彼は知っている(持っている)からだ。

 もしもの時はそれを胴体に巻き付けて引き上げる。

 普通に考えれば、鎖を巻き付けられることによって生じる痛みが心配される。しかし、バリアジャケットを纏っている魔導師たちならば大丈夫だろう。

 あれは着用していれば、思い切り殴り飛ばされて背中から壁に叩き付けられようと、死にはしない程の保護力を備えているからだ。

 

 

 暫く通路を走っていると、次の扉が見えてきた。

 クロノはそれを目視すると足を速めて、扉を蹴り開いた。

 扉を開いた先はエントランスホールだった。奥には階段が在る。

 勿論……傀儡兵が待ち兼ねていたのように武器を構えていた。

 素直に進ませる気は毛頭無いらしい。それは全員が解っていたことだが。

 

「ここからは二手に分かれる。

 プレシアの確保もだけど、駆動炉の封印もしなければならないからね」

 

「駆動炉は最上階――――奥の階段から行ける」

 

 プレシアは『ジュエルシード』に加えて、駆動炉を暴走させて、足りない魔力を補おうしているらしい。

 よって、次元断層を防ぐためには両方を抑える必要が有る。

 

「クロノは……プレシアの所に向かうよな」

 

「ああ」

 

「なら駆動炉にはなのはとユーノ。

 その道案内にフェイトとアルフか……封印のことを考えても、それが適任か」

 

 二手に分かれる事態に、士郎はどう戦力を分けるか即座に思考した。

 彼には封印なんて出来ないから、駆動炉に向かってもあまり意味がない。

 それに、彼はプレシアの所に辿り着き、話をしなければならない。フェイトもそれは同じだ。

 だとしても、『時の庭園』を初めて訪れるなのはたちには道案内人が必要だろう。

 

「君の言う通りだな」

 

「そう言う訳でフェイト、お前とアルフはなのはたちの道案内を頼む」

 

「うん……でも、シロウ――――」

 

「解ってる。俺たちの目的は別に在るからな。だから、道案内が済んだら合流してくれ。

 あとここは任せろ。フェイトたちの後は1機足りとも追わせない」

 

「……はい」

 

 フェイトは力強く声を張って返事をした。

 さて……方針は決まった。なら行動を起こすのみ。

 

「道を作る……合図に合わせて階段へ!」

 

「うん!」

 

 なのはが返事をしてからユーノの肩を貸して、飛び立つ準備をする。

 フェイトとアルフもそのタイミングを逃さないために、意識を集中させている。

 

「Blaze Cannon.」

 

 クロノから撃ち出された砲撃が階段への進路上に居た傀儡兵を一掃した。

 その一瞬を逃さず、なのは、フェイトたちの4人は階段へと飛び出した。

 

「クロノ君、気を付けてね!」

 

「シロウも!」

 

 なのはとフェイトから声援を受けたクロノと士郎は二人を一瞥してから、階段の前で傀儡兵たちを立ち塞ぐように陣取る。

 

 

 ここから先は行かせない。

 士郎は一般的な片手直剣を右手に投影する。左手腕にはいつもと同じで“盾”となったウィンディア。その姿はスタンダードな片手剣使いと言われる格好だろう。

 

 

 一番使い慣れている干将・莫耶を使おうか考えたが、爆破に使ってしまったから避けた。無くなった剣を再び手にしたら、『転送で取り出している』と言う説明が引っ掛かるかもしれないからだ。

 この戦闘が終わり時間が経った後なら、『貯蔵し直した』と言う説明が出来る。

 

「……どうやら、他所からここに向かって来るのもいるみたいだな」

 

「だけど、僕たちのやることは変わらない……だろ?」

 

「ああ」

 

 どれだけ数が増えようと彼らがやることは変わらない。

 傀儡兵を排除して、なのはたちへ追っ手を向かわせないこと。

 プレシアの所へ向かうこと。

 

「入り口の時と同じように、俺が前に出る」

 

「僕としては君との噛み合わせは悪くないと思っている。

 正直、味方としてなら心強いな」

 

「それは俺もだ」

 

 敵が来るのを前にしながらも、彼らは会話を交わす。

 互いに不満は無いと――――自分たちの考えを口に出して、傀儡兵を迎え撃つためにエントランスホールを駆けていく。

 

 

 

*********************

 

 

 

 クロノ君と士郎さんとは別行動になった――――私、フェイトちゃん、ユーノ君、アルフさんは階段を通過した。

 その先は、遥か上の天井まで円状に開いているホールで、私たちはそこでクロノ君が言っていた“機械”と戦っていた。

 

「ハッッ!」

 

 フェイトちゃんが素早い動き宙を舞って敵に接近する。

 背中から翼を生やして、二本の足の代わりに尻尾を付けた敵へ、“鎌”が右斜め上から左斜め下まで降り下ろされる。

 黄色い一閃は鎧の上からだったけど……弾かれることも、途中で止まることもなくて、そのまま両断した。

 一撃を繰り出したフェイトちゃんの後ろを今度はスリムな人形(ひとがた)が取るけど――――狼姿のアルフさんが飛び掛かって、鎧に覆われいない部分に牙を立てて、コードを食い千切る。

 

「くっそ~次から次へと……ッ!」

 

「アルフ、大丈夫?」

 

「全然! まだまだ行けるよ!」

 

 フェイトちゃんは『フォトンランサー』を撃ち出したり、“鎌”を振るったりして確実に数を減らしていく。

 アルフさんは牙の他に鋭利な爪でズタズタに引き裂く。

 二人は互いにフォローをしながら、敵へ向かい続ける。

 

「アルフの言う通り……数が多い……。

 なのはは大丈夫?」

 

「“この子たち”だけなら、いいんだけど……!」

 

 ユーノ君は『チェーンバインド』で同時に複数の敵を縛って動きを封じる。

 私はユーノ君の拘束から逃れた敵にピンク色の大きめな球体――――『ディバインシューター』を撃ち出して、撃ち落としていく。

 確かに数は多いけど、私たちはなら大丈夫!

 

「しまったッ! なのは、後ろ!!」

 

 鎖が強引に引き千切られて鳴り響くような甲高い金属に似た音が聞こえた後に、ユーノ君から焦りの声が聞こえた。

 私は直ぐに振り向いた。その目の前には入り口の前に居た一際大きい敵が斧を降り下ろそうとしていた。

 

「サンダー……レイジッッ!」

 

 斧が降り下ろされる前に、雷光が左斜め上から走ってきて、一瞬だけど敵の動きを止めた。

 私はその隙に距離を取る。

 それを見たフェイトちゃんは先の“動きを止めるための雷光”に加えて、本命の雷撃を撃ち込んだ。

 そのニ連撃は近くにいた数機の敵を巻き込んで、一際大きい爆発を生み出した。

 

「ありがとう!」

 

 フェイトちゃんからの返事を聞きたかったけど、私がお礼を言った直後に、壁の一部が大きな音を立てながら崩れた。

 瓦礫と埃が飛び散る中から現れたのは……今まで相手にしてきたのとは比べものにならない程の大きさの子だった。

 私に斧を降り下ろそうとしてた敵がこの子の子供に思えるぐらいには……両肩には砲台を担いでるし……。

 

「大型……防御が固い。

 ――――だけど……二人なら……」

 

「そうだね、私たちならッ!」

 

 近くに飛んで来たフェイトの言葉を聞いた私は笑顔を浮かべて答えた。

 私はフェイトちゃんと協力出来るのが――――これ以上にない程に嬉しかった。

 私とフェイトちゃんは宙を並走しながら進む。

 それを見た敵から魔力弾が撃ち出されるけど、私たちは回避する。

 反撃に私は『シューター』を。フェイトちゃんは斬撃を繰り出すけど、びくともしない。

 

「「チェーンバインドッ!!」」

 

 ユーノ君とアルフさんが円状の魔法陣を展開して、そこから伸びた鎖型のバインドが四肢と胴体を縛り上げて動きを封じてくれる。

 

「行くよ、バルディッシュ……!」

 

「Get set.」

 

「こっちもだよ……レイジングハート!」

 

「Standby ready.」

 

 私たちはそれぞれ足元に魔法陣を展開して、砲撃を撃ち出す体勢を作る。

 

「サンダー・スマッシャー!」

 

「ディバイーン……バスターーーー!」

 

 

 呪文を紡いで、発射直前状態になった愛機を標的に向ける

 そして、同時に掛け声を出す!

 

「「せーのっ!」」

 

 私とフェイトちゃんの砲撃は全く同じタイミングで撃ち出された。威力も速度も十分!

 敵はバリアを自分の正面に張るけど、私とフェイトちゃんの砲撃を同時には防ぎ切れなくて、胴体を貫かれて爆発した。

 爆煙が晴れると敵が居た所のさらに奥まで穴が開いていた。

 もしかして……外壁まで突き破っちゃったかな? 時折、(かみなり)が走ってるような光が見えるんだけど……あれって次元空間のやつだよね……。

 

「――――フェイトちゃん……」

 

「…………」

 

 フェイトちゃんは口を開かなかったけど、少し微笑んでいるような表情だった。

 

「うわー、凄いねこりゃ……」

 

「二人とも魔力の最大値じゃない筈なのにね……」

 

 人形になったアルフさんとユーノ君が感嘆な声を出して近付いて来た。

 

「先へ急ごう。案内をするから付いて来て」

 

 フェイトちゃんを先頭に――――アルフさん、私、ユーノ君の順に駆動炉へ繋がるエレベーターが在るという部屋まで進んで行く。

 その部屋の扉をフェイトちゃんは見ると、1つのフォトンランサーを撃ち出して、扉を吹き飛ばした。

 

「その奥に在るエレベーターで駆動炉まで向かえるよ……」

 

「うん、ありがと!」

 

 少しの沈黙が漂う。

 そうだ……フェイトちゃんはお母さんの所へお話をしに行かなくちゃいけないんだ……。

 私は左手を向かい合っているフェイトちゃんの右手の甲にそっと添える。

 

「私……その……上手く言えないけど――――頑張って」

 

「……うん――――ありがとう」

 

 眼と眼を合わせる。

 フェイトちゃんは柔らかい表情だった。

 

「今、クロノとシロウさんが最下層ブロックに向かってる……少し急がないと間に合わないかも」

 

「フェイト! 行こう!」

 

 エイミィさんと連絡を取ったのかな?

 ユーノ君から別行動になったクロノ君と士郎さんの情報が伝えられた。

 アルフさんの声を聞いたフェイトちゃんは一瞬、また私と視線を交差させてからアルフさんと一緒に、最下層ブロックへ向かって走って行った。

 

 

 フェイトちゃんとアルフさんとも別行動になった私とユーノ君は、エレベーターに乗って駆動炉の在る部屋に辿り着いた。

 そこは人形のと……翼と尻尾を生やした子たちが居た。

 でも、先みたいに大きいのは居ないし、ユーノ君のサポートがあれば大丈夫。

 

「ボクが防御とサポートをするから、なのはは封印に集中して」

 

「うん……いつもと同じだね」

 

 ユーノ君は少し不思議そうな表情で私へ視線を向けた。

 

「ユーノ君はいつも私と一緒に居てくれて――――守ってくれてたよね」

 

「――――――」

 

 少し頬を赤く染める。

 自分のことを言われて恥ずかしかったのかな。

 でもそうだよね……ユーノ君が居てくれるなら安心だよね。

 

「Cannon mode.」

 

「だから、私は戦える……背中を支えてくれるから――――背中がいつも暖かいから!」

 

 モード切り替えが完了したレイジングハートを構えて、標的へ向ける。

 ここは私たちの戦いの場所。みんなも戦っているんだから、私たちも頑張らないと!

 

「いくよ……ディバインシューターフルパワー……。

 ――――シュートっ!!」

 

 解き放たれた光弾は流れ星のように複数の標的へ流れた。

 着弾して、光と音を作り出した。

 それはここでの私たちの戦いが始まりを告げるみたいだった。

 

 

 

**********************

 

 

 

 俺たちを視認した傀儡兵たちの1機はより速く走り出して接近し、得物を振るってくる。

 俺はそれを盾で滑らせるように受け流して、隙が出来た部位に剣を滑らせて斬る。

 傀儡兵はカウンターを受けると、ぐらりと倒れた。

 続いて俺に突進して来る3機。

 俺は構えて、迎え撃つ姿勢を見せるが――――すっと右にステップを切って射線上(・・・)から離脱する。

 

 

 光弾が先まで俺の居た場所を通り過ぎて、3機に命中し、人形(ひとがた)から残骸へ形を変えた。

 今のは単純に俺が“壁”になって視界を塞ぎ、後ろから射撃を入れると言った戦法だ。

 不意の攻撃には反応が遅れる点を突いただけ。シンプルだが、有効な手段なら積極的に使う。

 

「数は多いけど、対応速度は大したことないな」

 

「そうだな。ただ、包囲されたら厄介そうだけどな」

 

 新たに向かってくる傀儡兵。今度は前に3機、後ろに1機とフォーメーションを組んでいる。

 だけど、前衛の3機が横一線で並んでいるのは悪手だぞ。

 俺は片手直剣を投擲して前衛の左の奴の胸中央に刺す。

 回路の中心はそこに在ったのかそれだけで機能を停止した。

 投擲に追う形で疾走した俺は体を右へ捻りながら両手を右側に突き出して、架空の柄(・・・・)を握る。

 

投影開始(トレース・オン)――――!」

 

 出現した大剣の柄をしっかり握り締める。捻った体が元に戻る勢いを乗せた右から左への一振りは鈍器が鉄を叩く鈍い音を出しながら、2機の上部と下部を離れ離れにして、内部に在ったネジやコード類を散乱させた。

 

 

 後ろに居た1機が俺に斧を降り下ろすが、俺は大剣を横に倒して受け止めた。

 押し返して体勢を崩したその隙に、クロノが俺を迂回して傀儡兵に“杖”を接触させた。

 

「Break impulse」

 

 “杖”から送り込まれた振動エネルギーが標的を粉砕する。

 射撃魔法寄りのレパートリーかと思っていたが、しっかり近接魔法も習得していた。

 クロノは十代前半の少年の筈なのに、この力量……俺は舌を巻く。

 

 

 これで一段落。大剣を消す。

 他にも傀儡兵は居るだろうけど、各々の持ち場を守っているのか、現れない。

 

「やっぱり、あの時は手加減をしていたんだな」

 

「それはお前もだろ? この戦闘だけでもそれは十分に解るぞ」

 

「力量についてはお互い様か……それにしてもエミヤシロウ。なのはから正体を隠すためにわざと口調を変えていたらしいけど――――君にはこっちの方がお似合いだ」

 

「それはなのはにも言われた。まぁ……自覚は有ったさ。

 それと――――士郎でいい。フルネームで呼ばれるのはしっくりこない」

 

「そうか……じゃあ、シロウ。即席なペアだけど、宜しく頼む」

 

「俺の方こそ宜しく頼むよ、クロノ」

 

 俺たちは友人と話すような感覚で会話をして、握手を交わした。

 フェイトには“友達”が必要だと言った俺だけど、よくよく考えてみると、十代の友人なんて俺は持っていなかった。ベルたちは成人以上だし……。

 

「取り敢えず、ここは平気か。最下層ブロックへ向かおう」

 

「そうだな」

 

 俺たちはエントランスホールから通路へ走り出して、プレシアが居る最下層ブロックへ向かう。

 所々で傀儡兵と対峙したが、俺とクロノの片方が注意を逸らし、攻撃を入れる。前衛と後衛を即座に切り替えるなどのコンビネーションの前では呆気なく打ち倒されて、残骸と化した。

 それなりの距離を走った所で、建物が揺り動くような振動がここにまで伝わってきた。

 

「向こうも、激戦みたいだ」

 

「ああ。でも、あの4人なら心配いらないだろ」

 

「僕も彼女たちの力量は理解しているつもりだ。

 シロウも信頼しているんだな、彼女たちのことを」

 

「ああ、強い意思を持っている子供たちだ。

 俺たちも遅れを取るわけにもいかないな」

 

 走りながら会話をする。

 その後にクロノの向こうの状況を訊くために、デバイスでエイミィに通信を試みる。

 

「エイミィ、聞こえるか?」

 

「……なんとか」

 

 クロノのデバイスからエイミィの声が聞こえてきた。

 

「向こうの状況は?」

 

「なのはちゃんとユーノ君は駆動炉の封印へ。

 フェイトちゃんとアルフは最下層ブロックへ向かったわ」

 

「俺たちも急ごう」

 

 エイミィから状況を聞いた俺たちは足を速めてた。

 

 

 

 そして、辿り着いた。プレシアが居る最下層ブロックへ繋がる道。

 そこには10機程の傀儡兵が守護している。

 

「悪いが付き合っている時間は無い。強引に突破させてもらう!

 投影開始(トレース・オン)ッ!」

 

 朱色の槍を手にした俺は疾走する勢いのまま、飛び上がって、弓のように上半身を反らしてから大きく腕を振りかぶった。

 だが、宝具の真名解放はしない。それをしてしまったら、『時の庭園』が崩れる恐れがある。結界が張ってあればそんな心配は無いが、それが無い状態での宝具の真名解放は余程の窮地でない限りは避けるべきだ。

 

 

 放たれた朱色の槍は一直線に壁へ。それは通り過ぎただけで傀儡兵を瓦解させてから、壁を突き破り、ポッカリと人ひとりが通れる程の穴が穿たれた。

 

「飛び込むぞ!」

 

「いくら何でも強引が過ぎる!」

 

 クロノから尤もな感想をもらったけど、プレシアが居る所を目の前にして、機械の相手なんてやるつもりは無い。

 俺が飛び込んでからクロノも続く。

 穴から現れた俺たちの姿を見たプレシアの目は大きく開かれた。

 

「……来たのね」

 

「ああ……来たぞ……プレシア……」

 

 俺はプレシアから少し離れた所に着地した。

 それなりの高さからの着地だったけど、足を地面に着く瞬間に畳んで衝撃を出来る限り殺した。

 クロノは俺がより上――――高台に着地して、万が一に備えて“杖”を構えている。

 一方の俺は武器を握っていない。俺はプレシアに“剣”を向けに来た訳じゃない。そこを間違えるな。

 

「プレシア……こんなことはもう終わりにしよう。アンタだって、本当は解っている筈だ……過去は変えられないってことは……。

 悼みを越えて前に進むことが、俺たちに出来る唯一のことだって――――」

 

「……いいえ、『アルハザード』へ辿り着けばそれは可能なのよ。だから……シロウもいらっしゃい。

 あんな悲しい『過去』をやり直して、『未来』を取り戻しましょう」

 

「――――それは出来ない。さっきも言ったけど……『過去』は変えられないし、起こったことは戻せないんだ……」

 

 プレシアの眼はただただ悲しみに染まっていた。

 『過去』を――――大切なアリシアを取り戻したい。

 あるべき『未来』を取り戻したい。

 その気持ちは痛い程に解る。

 加えて仕事が忙しかったために、アリシアと過ごす時間があまり無かった後悔も、彼女を苦しめてもいるのだろう。

 

 

 ああ――――本当にアンタは優しい母親だよ。

 だから、プレシアは許せないんだ……この現実を。

 

「――――貴方も一緒に取り戻せるのよ……『こんなはずじゃなかった』世界の全てを……!」

 

「プレシア・テスタロッサ……貴女の言う通り――――世界は『こんなはずじゃない』ことばっかりだよ……。ずっと昔から……いつだって、誰だって、そうなんだ……」

 

 プレシアの懇願を聞いたクロノから声が飛び出る。

 静かに……自分の心情を込めたような強い声だった。

 

「こんなはずじゃない現実から……逃げるか立ち向かうかは個人の自由だ。

 だけど……自分勝手な悲しみに無関係な人間まで巻き込んでいい権利は……どこの誰にもありはしない!」

 

 誰だって悲しみも傷も抱いている。それをどうしていくのはその人次第……。

 でも、そこに無関係な人を巻き込むことだけは許されない。他の世界の存亡が関わっているのならば尚更だ、とクロノが叫ぶ。

 

 

 クロノの叫びが響く中、プレシアの視線が一瞬、俺の後ろに向かった。

 俺も気になり、後ろへ視線を向ける。その先には、こっちに走って来るフェイトとアルフが姿が在った。

 

 

 ――――そう、フェイトは自分の想いを母親であるプレシアに告げるために来たんだ。

 

 

 

**********************

 

 

 

 駆動炉までの道案内を終えた私とアルフは母さんが居る最下層ブロックに辿り着いた。

 既にシロウが母さんと話をしていて、執務官は上の高台で様子を伺っている。

 

(よかった。間に合った……)

 

 ここから……私は始めるんだ。

 だから……まず、母さんに私の想いを伝えよう。

 私はシロウの一歩前まで進んで、母さんと視線を合わせる。

 アルフはシロウより更に後ろで見守ってくれている。

 

「……母さん」

 

「……何をしに来たの?」

 

「貴女に……言いたいことがあって来ました……」

 

 母さんの視線には、先のような憎悪や嫌悪と言った感情が宿っていなかった。

 どこか……泣いているような眼だった。

 

「私はアリシア・テスタロッサじゃありません……。

 貴女にとって私は――――失敗作で……偽物なのかもしれません」

 

 こうして話している私だけど、取り乱していなかった。

 逆に落ち着いるような気分だった。

 そうだよ……自分の想いを伝えるのに取り乱すことはないよ。だって、自分の心を伝えるだけなんだから。

 

「だけど……私は――――フェイト・テスタロッサは、貴女に生み出してもらって……育ててもらった……貴女の娘です。

 母さんに笑顔を取り戻して欲しい……。

 幸せになって欲しい……。

 この気持ちだけは……偽物ではなく、本物です。

 私の――――フェイト・テスタロッサの本当の気持ちです」

 

 みんなは口を挟むことなく黙っている。

 そんな中、母さんは笑い始めた。それは嬉しさからじゃなくて――――

 

「あ、あははははッ!

 だから何? 今からでも貴女を娘と思えと言うの?」

 

「貴女がそれを望むなら……私は世界中の誰からも、どんな出来事からも貴女を守る。

 ――――私が貴女の娘だからじゃない……貴女が私の母さんだから……」

 

 自分の想いを告げた私は右手を母さんへ向けて伸ばす。

 掴んで欲しい……一緒に『アルトセイム』へ帰りたい……また母さんの笑顔を見たい。

 ……ただそれだけ。

 

「――――――」

 

 母さんは私の手を見詰めている。

 でも私はこれ以上伝えることは残っていない。今話したのが私の想いだから。

 

「プレシア……フェイトは――――アンタの娘は自分の想いをしっかり伝えた。

 だから、次は母親であるプレシアの番だ。

 ああ――――その前に、俺も伝えたいことがあった」

 

 シロウが私の横に並んで、母さんに話し掛ける。

 その瞳には……これから口にする言葉が許されるのか……迷っているのが見えた。

 でも、シロウは口にした。それはきっと……この瞬間まで告げられることが無かった言葉だったんだと思う。

 

「――――義母(かあ)さん、ここから出よう。

 また皆でピクニックに行こう。アリシアとフェイト……リニスやアルフも連れて」

 

「―――――ぅ」

 

 母さんから嗚咽が漏れた。

 両目には涙が浮かんでいる。

 それは色々な感情が籠った母さんの()だった。

 でも――――

 

「――――もう……遅いのよ……。

 今更……私は戻れないッッ!!」

 

 悲痛の声を漏らして、手にしていた杖の先を床に叩き付けた。

 その後に、母さんの後ろを漂っていた11個の『ジュエルシード』が輝き始めて発生した震動で、母さんとアリシアが居る足元が崩れた。

 落ちて行く……母さんはアリシアの入った培養器を抱き締めながら虚数空間へ……。

 

「――――――ッッ!!」

 

 シロウは言葉になっていない声を上げながら、飛び出した。

 鎖の付いた鉄杭を手にして、鉄杭の部分をまだ残っている地面に突き刺して、鎖を持ってお母さんに追い付くために飛び込んだ。

 

 

 私たちも急いで母さんたちが見えるように覗き込む。

 映ったのは――――鎖で母さんをアリシアの入った培養器を固定しているシロウの姿。

 

「鎖を引き上げてくれ!!」

 

 私たちは返事をするのさえ省いて、急いで鎖に手を掛けるようとしたところで、アルフが怒声のように大きな声を出した。

 

「あたしが力一杯引き上げるから!! 二人はキャッチに集中して!!」

 

 言った直後にアルフは足腰を踏ん張ってから鎖を一気に引き上げた。その反動でアルフは尻餅をついたけど……母さんたちを引き上げることに成功した。

 宙を舞う母さんたちを私と執務官で受け止めて、ゆっくりと地面に舞い降りた。

 

「な、なんてことをするんだ!? 虚数空間に落ちたら重力の底まで真っ逆さまだって説明しただろう!!」

 

「考える前に……体が動いたんだ……」

 

「母さん……アリシア……シロウ……」

 

 私は涙を流した。

 三人が居なくなるのが一瞬過っただけでも、頭の中が真っ白になった。

 シロウは私を見て、優しく声を掛けてくれた。

 

「泣くなよ……フェイト。皆、無事なんだから……」

 

 シロウに文句の一つ二つ言おうとしたタイミングで、天井を桜色の砲撃が貫いて、開けられた穴から駆動炉の封印を終えたあの子たちが降りて来た。

 

「皆、大丈夫!?」

 

「なのは、足元は平地じゃないから慌てると転ぶよ!」

 

 降りた場所と私たちが居る場所までのあまり距離が無いのに駆け寄ってくる二人。

 それぐらい心配してくれてるんだと私は解った。

 

「諦めるなんて……一番らしくないことを……」

 

「………………」

 

「――――今日まで……辛い日々を歩いて来たんだろう……なのに……何で、ここで諦めるんだよ……」

 

 シロウが静かに怒ってる。いつも優しい彼が心の底から声を上げている。

 

「フェイトも俺も話したいことは色々有るからな。

 ここを出てから――――」

 

 その時、私たちは異変に気付いた。

 それは先まで母さんが居た場所の後ろに在る『ジュエルシード』だ。それらは輝くを増して、空間に悲鳴を立てている。

 

「クロノ、聞こえて!?」

 

「艦長!?」

 

「私が次元震を防いでいたけど……先の震動で魔法陣が壊れてしまって――――」

 

「つまり……このままでは次元断層が!?」

 

「――――――」

 

 次元断層が起こったら、いくつもの世界が滅んでしまう。

 防ぐためには11個全ての『ジュエルシード』を封印しないと――――

 

「封印さえ出来れば、次元断層は起きないんですよね?」

 

「えぇ――――まさか……フェイトさん、封印をするつもり?

 無茶よ! 万全な貴女でも6つの封印に手を焼いていたでしょ!?

 可能性が有るとしたら……なのはさんと一緒に封印をすることだけど、残っている貴女たちの魔力では足りないわ!」

 

 私の考えが不可能に近いのは解ってる。

 でも……ここで次元断層を防げなかったら――――

 

「次元断層は、起点になる『ジュエルシード』を封印する。あるいは破壊(・・)をすれば防げますよね?」

 

「それが可能ならの話よ。

 破壊は封印より難しいわ。それこそなのはさんたちが束になっても……」

 

「……俺は……それを可能にするだけの武器を持っています」

 

 シロウの言葉にみんなが息を呑んだ。通話をしている艦長さんも息を呑んでいるのが解った。

 

「時間が無いので確認しますよ。『ジュエルシード』を破壊すれば、次元断層は防げますよね?」

 

「そうよ」

 

 シロウの確認に短く艦長さんが答えた。

 

「聞いての通りだ。皆は先に脱出してくれ。

 俺の“あれ”は強力過ぎて周囲に人が居たら使えないんだ。

 だから――――」

 

「士郎さんは大丈夫なの?」

 

「俺ひとりの安全なら問題無い」

 

「でも、シロウ――――」

 

「大丈夫だ……俺を信じろ。

 俺は必ず後を追い掛ける。フェイトだって知ってるだろ? 俺の力量は」

 

「シロウ……貴方は――――」

 

「先にフェイトたちとここを脱出してくれ。話はきちんとする」

 

 私たちの不安に満ちた声を聞いたシロウは、安心させるために柔和な声で言葉を交わしてくれた。

 私たちに出来るのは……シロウを信じることだ。

 それが解っていても、この不安は消えないのは無理がない。

 

「――――シロウにも色々と事情があるのは把握している。それに、プレシア・テスタロッサの件の他にも訊きたいことはある。

 だから……必ず戻って来てくれよ」

 

「ああ……約束する」

 

 執務官は真っ直ぐにシロウの眼を見て約束を交わした。

 ただ、それをしただけだった。

 

「脱出する!

 エイミィ、ルートを!」

 

「了解ッッ!」

 

 執務官を先頭に私たちは脱出をするために『ゲート』が設置されるポイントまで移動をしようした時、シロウがアルフとユーノに声を掛けた。

 

「アルフ、ユーノ! フェイトとなのはを頼むぞ!!」

 

 それは別れの時に、大切な人を託す時に発せられる言葉だと私は思った。

 

「――――ああ、任せなよ!!」

 

「――――はい……」

 

 私とあの子は振り返ろうとしたけど、アルフとユーノに背中を押されて振り返られなかった。

 

「アルフ――――」

 

「ユーノ君――――」

 

「フェイト……先に脱出するよ。母親に肩を貸してやんな……。

 ユーノとなのはは手を貸して。培養器はクロノひとりだと運ぶのはキツいだろうから」

 

「なのは……運ぶのを手伝ってくれる?」

 

「「――――――」」

 

 私は母さんに肩を貸して……アルフたちはアリシアが入った培養器を運びながらここを後にする。

 でも……これじゃ……まるで――――お別れみたいだよ。

 私たちはその感情を抱いて『ゲート』に向かって行った。

 

 

 

**********************

 

 

 皆は『ゲート』に向けてここを後にした。

 残っているのは俺とウィンディア――――そして、この騒動の元凶である『ジュエルシード』だ。

 

(しゅ)よ――――」

 

「言いたいことは解るけど、後にしてくれ。時間が無い」

 

「いえ、解っていませんね」

 

 俺はまた無茶をするのかと、ウィンディアから言われるのかと思っていた。

 しかし、言われたことはそれでは無かった。

 

「安心させるためとは言え、嘘を吐きましたね(・・・・・・・・)

 

「――――――」

 

 俺は必ず後を追い掛けると言った。

 でも、俺がこれからやることが実行されれば、魔術回路にはこれまでに無い程の負担が掛かり、残り魔力もそこを尽くだろう。

 つまり、ここから一歩も動けなくなる。

 

「『ジュエルシード』を始末が出来るのは、今は俺しか居ない。

 どのみち……俺がやることに変わりはないんだ」

 

「貴方の行動は変えようがないのは私も理解しています。

 しかし、嘘を吐いて誰かを悲しませるのは納得が出来ませんし、許しません。

 貴方を――――必要としている人たちがいるのですから」

 

「――――さて……始めるか。

 余波の防御はウィンディアに任せる」

 

 俺は赤い外套を消して、普段着――――青いジーパンに……基本色が白だが、肩から袖口まで紺色のよく市販されているTシャツの姿に戻る。

 これから俺が投影する“剣”には俺の全集中力を込める。

 だから、外套を維持するのに回している集中力もこっちに回さなければならない。

 

「――――投影(トレース)開始(オン)

 

 イメージするのは“アイツ”がギリギリのところで手を届かせた“聖剣”の劣化版である『黄金の剣』だ。

 “アイツ”に出来て、俺に出来ない道理はない。

 しかし――――

 

「ぎ――――くう、う――――」

 

 俺は脳裏で撃鉄を打ち下ろして、体内に在る27本の魔術回路を総動員する。

 ――――が、悲鳴を上げる。

 無理もない。己を完成させた“アイツ”がギリギリのところで出来たことを……未完成な“俺”がやろうとしているのだから。

 流れる魔力が暴れるのを、俺は一心に制御する。

 

 

 創造の理念を鑑定し、

 

 基本となる骨子を想定し、

 

 構成された材質を複製し、

 

 製作に及ぶ技術を模倣し、

 

 成長に至る経験に共感し、

 

 蓄積された年月を再現し、

 

 あらゆる工程を凌駕し尽くし――――

 

「あ――――あ”あ”あ”あ”あ”…………!!」

 

 ここに、幻想を結び剣と成す――――!

 

 脳の奥が灼かれるよう熱くなる。

 左肩に熱せられた鉄板を押し付けられるような痛みが走る。

 思考が途切れそうになる。

 目の前が真っ白になりそうだ。

 だけど――――不可能な筈はない。

 元より俺の身、それだけに特化した魔術回路――――

 

「――――――ぁ」

 

 思考が閃光に埋め尽くされていく最中、不思議な感覚が体の奥から広がった。それは灼くような熱さではない。

 安らぎを与えるような――――包み込む優しさを持った暖かさだった。

 次第に俺の思考はクリアになり、目の前がはっきりと見える。

 

「はぁ……はぁ、はぁ…………」

 

「主……左肩が――――」

 

「……解ってる」

 

 俺が握っていたのは“聖剣”の劣化版である『黄金の剣』の更に劣化させた剣。

 オリジナルの“聖剣”は星の内部で結晶・精製された神造兵装で、最強の幻想(ラスト・ファンタズム)だ。

 “アイツ”はそれを自分が作り出せるレベルまでの劣化版として『黄金の剣』を作り出した。

 今、俺が作り出したのがそれより性能が劣る“剣”であったとしても――――この状況を打開するには十分だッ!!

 

 

 過度な投影により悲鳴を上げている体に、残っている力を振り絞って剣を構える。

 これから俺は宝具の真名解放を行う。そのために魔力を叩き込む程に刀身は輝き、燐光が漂う。

 魔術回路は焼き切れそうだ。だけど、止めることはしない。

 狙いは今にも力を解き放とうと脈動している『ジュエルシード』11個全てだ。天井や壁はそれの影響を受けてか、徐々に崩落を始めている。

 

 一撃で片を付ける――――――

 

劣・永久に遥か(エクスカリバー)――――黄金の剣(イマージュⅡ)!!!」

 

 両手で柄をしっかり握り、天へ掲げた剣に全魔力を叩き込んで、振り下ろした。

 極光の一撃は解き放たれて、その先に在る『ジュエルシード』を含むあらゆる物を飲み込んだ。

 残る物は無い。黄金の極光は全てを両断し、何一つ跡形も残さずに消滅させた。

 

 

 俺はこの時、極光の中に一人の後ろ姿を見た。

 赤い外套を纏った“アイツ”ではない。

 それは白銀と紺碧に輝く甲冑に――――本物の“聖剣”を右手に握った誰か。

 幻影であることは理解している。

 だけど……その後ろ姿を見せる人物とは、何の繋がりもないとはどうして思えなかった。

 

 

 ――――俺は『白銀の騎士』を見据えながら、意識を失った。

 

 

 




前章から繋がることやこの先の話へ繋がることがあった回でしたね。
無印編の完結が迫ってきました……。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。