魔法少女リリカルなのは ~The creator of blades~   作:サバニア

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プロローグをお読みになられた皆様、ありがとうございますm(_ _)m
これからも頑張って行きたいと思います。
ではどうぞ!


1話 ミッドチルダへ

 現在時刻、午後8時過ぎ。

 衛宮切嗣と彼の“師匠”であるナタリア・カミンスキーは、切嗣が“あの夜”で助けた少年――――士郎を養子として引き取ってから病院を後にして、海沿いの公園にいた。

 退院などの手続きにいくらかの時間を要したため彼らが外へ踏み出した頃には薄暗くなっていたが、それも今では完全に日が落ちて、少しばかり肌寒い夜が三人を包んでいる。

 活気のある繁華街ならば人々の熱気で覆い隠していたであろう寒さも、海から吹き渡って来る冷たさと相俟ってより明瞭に感じられた。

 そんな中、かれこれ数十分ぐらい彼らはこの場に留まっている。

 自然による寒暖など、切嗣とナタリアの二人には何てことはない。

 だが、まだ全快していない士郎の体にはその間の寒気が一段と染み入り、身震いした彼はいつまでこのままなのかと、手を繋いでいる切嗣に訊く。

 

「何処に行くの?」

 

「新しい住まいだよ。

 迎えが来る筈なんだけど……」

 

 士郎の疑問に切嗣が答えた。彼らが向かう場所は既に決まっている。しかし、そこへの“移動手段”がまだ整っておらず、立ち往生しているのが現状であった。

 幼い子供を待たせ続けていることの心苦しさが揺れた切嗣は、唸りながらナタリアへと視線を向ける。

 

「遅いな」

 

 切嗣の意図をくみ取ったナタリアは感情の乏しい声ながら受け答えた。

 それから彼女が溜息まじりに時刻を確認しようと腕時計に目をやったその時、周囲に変化が生じ始める。

 光輝く円環。彼らの前方に出現したそれは、物語に出てくるような魔法陣であった。

 そこから湧き出る閃きに切嗣とナタリアは眉を開き、迎えに来た人物を感知する。

 その予定より遅い到着に、ナタリアは声を漏らす。

 

「遅かったじゃないか。何かあったのかい?」

 

「いえ、特に問題は無かったんですが……ここに『転送ポート』を繋ぐのが一苦労で……

 すみません、姐さん。遅くなりました」

 

 光の中から現れたダークブラウン色な少し長めの髪に、神父服のような黒い装いの男性は早々にナタリアへ頭を下げた。

 そんないささか申し訳ない様子の彼に、切嗣は柔らかい声色で言う。

 

「久しぶりだね、ベル。

ここは『ミッドチルダ(向こう)』からだと遠いからね、時間が掛かるのは仕方ないさ」

 

「久しぶり、キリツグ。

 最後に会ったのは3、4年ぐらい前のあの『仕事』だったっけ?」

 

「そうだね」

 

 短い返しで再開の言葉を交わした彼らの間には懐かしんでいる雰囲気の無かった。

しかし、仲が悪いといった感じはしない。少なからず、嬉しさを含んでいる声であった。

 

(……うん?)

 

 話していた互いの口が止まるとベルの目が切嗣と手を繋いでいる士郎へ定まった。

 初めて見るその姿が気になった彼は士郎の前まで歩き寄って、視線を合わせるために片膝を地面に着ける。

 

「キリツグ……その子供は?」

 

「僕の息子だ」

 

「……え?」

 

 簡潔な切嗣の答えに、ベルは驚きを表した。

 目も前に居る少年の風貌から逆算すると、生まれたのは恐らく5年前前後だろう。

 自分より苛烈な”世界”に身を置いているキリツグが子を持っていた? そう思ったベルは切嗣へ顔を上げて尋ねる。

 

「息子って……誰との――――」

 

「…………」

 

 切嗣は表情も視線も変化させず、黙って聞いていた。

 そんな彼からさっきの言葉の意味を理解したベルは途中で口を閉ざし、くぐもった声を発する。

 

「そうか……」

 

 ベルは顔を下へ向けて、唇を噛みながら悲痛な面立ちになる。

 だが、それは一瞬だけだった。

 心中を掠めたモノを押し殺し、戻った表情で彼は再び視線を士郎に合わせて自己紹介する。

 

「こんばんは、俺はベル。キリツグと姐さんの『同業者』ってところかな。名前は?」

 

「衛宮士郎」

 

「シロウか、いい名前だな」

 

 警戒心を持たれないように柔らかくしたベルの挨拶に、士郎は素っ気なく返した。

 自分たちとは異なっている雰囲気に何処からともなく現れた男だが、どうにも”あの”既視感が拭えなかった。とは言え、邪気や殺意などの殺伐さは微塵も感じられない。

 そのため、士郎にとって初対面のベルは、切嗣より年上そうでいながらも柔らかい雰囲気を纏っている青年という感じで、第一印象は”胡散臭い男”であった。

 そんな士郎の心境を知る由もないベルは反射的に彼の頭を撫でようとする。が、右手を上げて伸ばしていく途中で動きを止め、手を引っ込めた。

 ベルは膝を立ち上げて、切嗣へ声を掛ける。

 

「さて、ここに留まっているのもあれだ。

 取り敢えず、”向こう”に行くとしないか?」

 

「ああ、頼む。士郎には”向こう”の生活に早く慣れてもらわないといけないからね」

 

 ”向こう”とは一体、何処のことだろうか? 詳しくは判らないがここではない“何処か”へ向けて出発することを士郎は察した。

 彼は切嗣たちにこれから行こうとしている場所の事を訊こうとしたが、その寸前に彼の肩がナタリアに叩かれる。

 

「ほら、早くその円に入りな。

 坊やが新しい生活に慣れるのもそうだが、私たちにも色々とやることがあるからね」

 

 ナタリアに言われるがまま、士郎は円の中へと連れられた。

 

「よし、3人とも入ったな?

 じゃあ、行くぞ」

 

 ベルは全員が円に乗り込んだことを確認する。

 すると、彼らの足元に在る円は次第に強く発行していき、辺りへ眩い光を放った。

 

 

 光が収まると、その場に居た筈の4人の姿は無かった。

 そう……彼らは異なる世界へ向けて出発したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 彼らを包んだ光が消えると、そこは海沿いの公園ではなく建物の中だった。

 足元には転送装置みたいなものが設置されていた。さっきまで暗い外に居たのに、今は明るい室内だ。壁と天井は白く、肌寒くない空気で空調が回っているここは士郎に入院していた病室を連想させた。

 その突然の変化に驚いた士郎は、キョロキョロと辺りを見回している。

 

「ありがとう、ベル」

 

「いやいや、これぐらい大したことじゃないって。

 それより、シロウの今後もそうだが、『この世界(ミッドチルダ)』についての説明をした方がいいんじゃないか? こうして周囲を見渡しているあたり……まだ説明をしてないんだろう?」

 

「ああ、”こっち”に着いてからするつもりだったんだ」

 

「あー、”外”で“ここ”の話をするは避けるべきだからな」

 

「そう言うことさ。

 士郎、説明が遅くなったね。“ここ”は――――」

 

 切嗣は別段、士郎に説明をすることを蔑ろにした訳ではない。“外”で“ここ”のことは口にするべきではないと理解していたから話をしなかっただけだ。

 外界を気にする必要が無くなったこと。落ち着かない士郎が気になったベルからの指摘もあり、切嗣は説明を始める。

 

 『ミッドチルダ』――――それが、この世界の名称だ。魔法文明が最も発達している世界で、魔法を扱う【魔導師】たちが生活を営んでいる世界の1つ。

 無論、魔法を使えない人々も暮らしている。しかし、学校などの教育機関でも魔法の勉強をするぐらいに普及していている。

 

 

 そして、ここはミッドチルダを『時空管理局』という組織が治安を維持していた。

 『時空管理局』とは、[次元世界の平和維持]を目的に組織された機関で、構成員は【魔導師】だけではなく、あらゆる分野のエリートも含まれる。

 『管理局』を大別すると次元の海をパトロールすることが主体の“海”と各次元世界に駐留して治安維持を担う”陸”の二系統から成り立っており、それぞれの重点や規則に違いが有ったりして一枚岩でない。

 まだ子供の士郎には詳細は難しいだろうと思った切嗣は彼に地球でいう警察のような組織と伝えるものの、あそことは違い『管理局』にはあまり関わらない方がいいと忠告を加えた。

 

「魔法……管理局?

 ……全然違うんだな……詳しいことはよく分からないけど……」

 

「うん。環境も作りも地球とは全く違うんだ。そもそも、世界の定義からして僕らとは異なっているからね」

 

「世界の、テイギ……?」

 

「ああ。『世界』と聞かれたら僕と士郎は地球一つを思い浮かべるけど、“ここ”からだとそうはいかないんだ」

 

 そう言って、切嗣は世界についても述べていった。

 ここでの定義を用いるのならば、世界は『管理世界』と『管理外世界』――――この2つに分類される。

 『管理世界』と呼ばれる世界は、主に次元を渡る技術を有して、他の世界の存在を知っている。その上で『時空管理局』に治安の維持・管理されていることが条件だ。

 ここミッドチルダはその第一世界と切嗣は渋々と言った。 

 もう一方の『管理外世界』と呼ばれる世界はそれらの条件を含まず、基本的に『管理局』は干渉しない世界。

 士郎の生まれ育った地球は『第97管理外世界』されているようだと切嗣は教えた。

 

「まあ、こんなところかな。細かいところは追々知っていけばいいさ」

 

 一通りの説明を終えて、口を休める切嗣。

 それらの話を聞いた士郎には1つ訊きたいと思うことが有った。

 

 「じゃあ、切嗣たちも【魔導師】?」

 

 その質問を訊くと、切嗣は複雑そうな顔になる。

 少し間を置いてから、やや重い口調で切嗣が答えた。

 

「いや、僕とナタリアは違う。【魔導師】なのはベルだけだよ」

 

「……? あ――――そっか、二人は【魔法使い】だもんな」

 

 病室でのことを思い出した士郎は切嗣に目を輝かせて呟いた。まだ彼には切嗣とナタリアが言った【魔法使い】とベルの【魔導師】の違いまでは分からない。

 しかし、そんなことは正直どうでもよかった。【魔法使い】だとか【魔導師】だとかの肩書きに士郎が興味を持つことも湧くこともこの先には無い。何故なら、彼が憧れているのは誰かが成れるそれらではなく、切嗣ただ一人。あの夜のように、苦しむ誰かを救える彼のようになれるだけで少年には十分過ぎる。

 だから、それらは余分。衛宮士郎が羨ましいと思うのは衛宮切嗣だけだ。

 そんな彼の心情が感じ取れたのか、切嗣は口を開き直す。

 

「……僕とナタリアについての話はまたにしよう」

 

 士郎の眼差しを受けた切嗣は少し強張った表情でそう言った。

 確かに切嗣は”あの夜”の中で士郎を救った。それ自体は揺るぎのない事実であるし、そこから士郎が切嗣に憧憬を持つことはおかしくないだろう。

 だが、それは様々な事柄があった上に成り立っていた。青年が”遠い日”から自身が歩んできた道、積み上げられ続けるモノ。それらは少年が思い描く物とかけ離れている事と分かっているからこそ、向けてくれたその目が切嗣の胸を痛ませた。

 そんな言いづらそうな切嗣を見た士郎は、病院みたいに気軽に言えることじゃないんだなと、口を紡いだ。

 

 

 

 

「――――――――」

「――――――――」

「――――――――」

「――――――――」

 

 先程の切嗣の様子の影響か、4人の間では沈黙が続いている。

 加えて、話すことが無いのか、気まずいのか、誰一人として新たに話題を上げることがなかった。

 

(ああもう、調子が狂うねぇ)

 

 会話が停滞したことに、ナタリアは心の内でそう呟く。

 困っている子供が目に入ってしまうと、普段こそ表に出さない彼女の感情が揺さぶられてしまう。泣き顔ならばそんなことは起きないのだが、困っている顔や虚ろでいる顔などだと遠い日に出会った少年を連想してしまうから。

 それは、自身の受け持った事柄の積み重なりであり、遠い日から共にいる彼に向けていた優しさであった

 重々しくなった空気を打ち破ったように彼女は切嗣へと声を飛ばす。

 

「ハイハイ、話はそれぐらいにしておきな。切嗣、まだ行く所があるだろう?」

 

「……ああ、そうだったね。士郎に紹介したい母娘が居るんだ」

 

「え、誰だよ、キリツグ?」

 

 士郎が問うより先に、流れを逃すまいとベルが首を傾けて問い掛けた。

 

「プレシアとアリシアちゃんだよ」

 

 切嗣が口にした母娘の名前を聞いたベルは納得したようで、「ああ」と声を漏らす。

 

「なるほどな。

 でも、今から会えるのか? 確か、プレシア女史は研究員で忙しいんじゃないのか?」

 

「そこで、私の出番さ」

 

 左目でウインクをするナタリアを見て、ベルはどこか遠い目をして、

 

「そういうことね……」

 

 と呟いた。

 

 

 そこから気を取り直したベルは右手を上げて、一足先に退出しようと動き出す。

 今回、彼が切嗣たちに頼まれたのはここまで連れて欲しいという案件であった。それが済んだ以上ここに残る理由が無かったし、彼には彼の都合がある。

 

「まあ、行ってらっしゃい。

 俺はこれからやることがあるから、これで」

 

「今日は助かったよ。またね、ベル」

 

 再度、切嗣からお礼を言われたベルは一足先に部屋を出て行った。

 彼の後ろ姿が見えなくなると、切嗣たちも動き始める。

 

「それじゃあ、僕たちも行こうか?」

 

 切嗣はナタリアが黙って頷いたのを確認すると、前と同じように士郎の手を引いて歩き出した。

 ナタリアも前と同じように二人の隣を歩いて行く。

 白い光に見送られ、彼らは先程名前が上がった二人が居る民間企業――――『アレクトロ社』に向かった。

 

 

 

 

 

 

**********************

 

 

 

 

 

 

 ミッドチルダ中央から少し離れた地区の一つには、無数の工場や研究施設が建ち並んでいる。そこは山と緑の一角を開拓して造られた工業地帯であるため、自然の名残である緑が点々と残っている地である。そのため、夜になっても木々を照らす明かりが絶えることはなく、背高い影法師が立ったままな景観が広がっていた。

 人工物と自然物の双方が存在しているそんな工業地帯に『アレクトロ社』と言う民間エネルギー企業が所在している。

 

 

 そこの一室に、一人の女性の姿が在った。

 彼女が居る室内には無数のホロウィンドウが浮いていたり、自筆で書き留めた資料が置いてあったりと、計算室と思える風景だった。部屋の壁側に設置された棚には、これまでに出力されたデータ用紙をファイリングされ紙媒体で保存されている点から、長く使用されていることが窺える。

 

(早く終わらせないといけないわね……)

 

 女性は椅子に座り、デスクの上に展開したホロモニターへ顔を向けながら、内心でそう呟いた。

 プレシア・テスタロッサ。ここに開発主任として勤めている【魔導研究者】であり、アリシア・テスタロッサの母親だ。彼女は去年に夫と生活のすれ違いから離婚し、今は娘と二人で暮らしている。

 加えて、プレシアの主な仕事は魔導工学の開発・研究であり、常に仕事に追われる身であった。そのため、娘のアリシアと同じ時間をなかなか過ごせずにいる。

 

(まぁ、今晩は戸締りの心配をすることは無いけど……)

 

 プレシアは今日、会社にアリシアを連れてきており、彼女は隣の部屋で一人遊んでいる。

 仕事をしていようと、プレシアの頭の中には幼い愛娘の姿がある。こうして仕事に勤しんでいられるのは、大切な宝物があってこそだ。

 しかし、3歳になって数ヶ月の娘が一人で日々を過ごしている“寂しさ”を思う度、にプレシアは心苦しくなっていく。

 

「…………?」

 

 研究データを順調にまとめて中、呼び出しのアラームが鳴り響いた。

 自分の手元に出揃っているデータ以外にまとめるモノは無い筈だとリストを思い返しながら、プレシアは受話器を取る。

 

「主任、お客様がいらっしゃっておりますが」

 

 丁寧な口調で受付嬢が知らせてくれる。

 

「どちら様?」

 

「ナタリア・カミンスキー様とエミヤキリツグ様です」

 

 その二人の名前が耳に入って、プレシアは驚いた。

 何故ならここ一年、全く連絡が無かった二人が、事前に連絡をくれた訳でもないのにここを訪れたからだ。

 

「お通しして」

 

 受付を通すように告げて、プレシアは受話器を下ろした。彼女は再びモニターに意識を向ける。今取りかかっているデータのまとめは、二人が来るまでには片付けられそうだった……少しばかり急げばの話だが。

 連絡の一本はして欲しいと思っていながらも、久々に二人と顔を合わせられることに、プレシアは喜びを感じていた。

 

 

 

 

 受話器が鳴り響いてから数分後、部屋のドアがスライドして開いた。

 そこから部屋に姿を見せたのは彼女の許を訪れに来た彼らである。

 

「久しぶり、プレシア」

 

 ナタリア・カミンスキー――――プレシアが彼女と出会ったのはこの職場だった。でもそれは、彼女もここに勤めている訳ではない。彼女とは必要な研究材料、及び機材を納品の仕事に来ている際に出会った。本人曰く、それは副業みないなものだとのこと。本来はフリーランスの賞金稼ぎと言っていた。

 ナタリアは子供の面倒を見ることには慣れてると言っていることもあって、プレシアは彼女を頼った。

 プレシアにとってアリシアは初めての子供であり、彼女は子育ての初心者だった。

 そんな子育て初心者の彼女にナタリアは色々とアドバイスをしてくれたし、一時期はアリシアの面倒も見てくれた。ナタリアはプレシアにとって頼りになる友人の一人だった。

 

「ナタリア、来るなら前もって連絡しなさいよ。いきなり来られても、手が空いているとは限らないのよ」

 

「あー、すまない。切嗣がどうしても、って言うもんでね」

 

 プレシアの尤もな声に、ナタリアは切嗣へ目を泳がせる。

 

「そこで、僕に振るのかい? まあ、その通りなんだけど。

 久しぶりだね、プレシア」

 

 衛宮切嗣――――ナタリアの弟子であり、彼女がここへ納品に来る時に手伝いとして来ていた青年。

 何故、こんな若くしてこんなことをしているのかと気になったプレシア訊くと、以前にナタリアに助けられたこと以来、そのまま一緒に行動するようになったとのことだ。

 切嗣は機械に強く、何度か機材を診てもらったりし、アリシアの側に誰も居られない時は彼が面倒を見てくれていたこともあって、切嗣もプレシアが頼ることの出来る人物である。

 

「ええ、久しぶりね、キリツグ。

 それで、今日は貴方の方が私に用があるみたいだけど、どうしたのよ?」

 

「うん、プレシアとアリシアちゃんに紹介したい子が居てね」

 

 そう言って、切嗣は自分の左後ろに居る5歳くらいの子供を前に出して、紹介し始めた。

 

「この子は士郎。僕の息子だ」

 

 士郎と呼ばれた少年は赤銅色の髪の毛に、琥珀色の瞳とあまりこの辺りでは見かけない容姿をしていた。

 それらに加え、年齢的に切嗣の実の子でないことをプレシアは察した。

 だが、そんな事はプレシアに訝しさをもたらすなど決して無いことだ。

 例え、二人の間に血の繋がりが無かったとしても、切嗣が彼のことを自分の息子と言うのならそれが揺り動くこと無い事実だろう。

 

「初めまして、シロウくん。

 私はプレシア・テスタロッサ、これからよろしくね」

 

 プレシアは微笑みながら士郎へ声を掛ける。

 初対面であったこともあり、少し緊張した様子で士郎は、

 

「よろしくお願いします、プレシアさん」

 

 ペコリと頭を下げて、返事をした。

 年相応のその反応はプレシアに嬉しいことであった。

 

「そんなに緊張しなくてもいいのよ?

 あ、そうだわ。隣の部屋に私の娘が居るのよ。よかったら遊び相手になってくれないかしら?」

 

 プレシアの提案を聞いた士郎は切嗣を見上げる。

 

「行ってきなさい、士郎。アリシアちゃんもきっと喜ぶよ」

 

「うん!」

 

 切嗣が了承すると、士郎は隣の部屋へと姿を消した。

 士郎の姿が隣の部屋へ行くのを見届けると、切嗣の雰囲気が変わる。

 

「少し士郎について話をしようと思っているんだけど、聞いてもらえるかい?」

 

 切嗣は真っ直ぐな目でプレシアへ問い掛ける。

 ”何も無い時”は心優しい青年、と言うのがプレシアが切嗣に持つ印象。

 しかし、今の彼はどこか重苦しい。

 

 (聞く聞かないなんて……訊かれるまでも無く決まっているじゃない)

 

 切嗣の話をすることを示した瞬間からプレシアの考えは決まっていた。

 彼が何の連絡も無く、突然ここを訪れた理由も含まれていると感じ取れていたのだ。

 

 

 彼女たちは向かい合わせる形で、椅子に腰を掛ける。

 その眼光は真っ直ぐにしたまま、衛宮切嗣は口を開くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オリジナルキャラ、ベルが登場。彼はこの先にも出てきます。まぁ、当分はないかな……。

プレシア、アリシアについては、漫画版のリリカルなのはThe 1st、及び小説からの情報で書きました。
プレシアが離婚したのがアリシア2歳だったらしいので去年って形をとりました。
リニスは恐らく、アリシアが4歳~5歳で拾ったんじゃないかなと思ったのでまだ居ません。もちろん、登場します。

士郎と切嗣の名前呼びは、地球とあまり関わりがない人からはカタカナで統一と考えています。

お読みになって下さった皆様、ありがとうございますm(_ _)m

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