魔法少女リリカルなのは ~The creator of blades~   作:サバニア

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タイトルから分かると思いますがBパートが有ります(Cパートは無いです)
元々は一つの話でまとめて、次回は海上での一件を予定していたのですが……流石に重すぎと判断したので分割・調整などをしました。
なのは側の方は先に調整が済んだのでアップすることに。士郎側も大まかには出来ているのでFGOアニメを見る前には上げたいなーと思ってます。


14話 選択 Aパート

 私は公園の隅に、じっと立ったままでいた。

 目の前で繰り広げられた戦いをただ見ていただけだった。

 

「……なのは」

 

「う、うん。大丈夫だよ」

 

 ユーノ君の声で気を取り戻して、何が有ったのか整理する。

 今日もここ数日と同じように『ジュエルシード』を集める筈だった。フェイトちゃんとお話が出来るかなって思ってた。

 けど、それは出来なかった。黒い服を来た同い年ぐらいの男の子――――クロノ・ハラオウンって言ってたかな? 私とフェイトちゃんの戦いは、その子に注意されて止められた。 でも、フェイトちゃんは止まらなかった。地上に降りて直ぐに『ジュエルシード』へ飛び出した。

 クロノ君は注意を無視したフェイトちゃんに攻撃した。突然の動きに驚いて、私は茫然とするしかなかった。動こうと思った時には、アーチャーさんが攻撃からフェイトちゃんを庇っていた。

 

 

 そのあとは、クロノ君とアーチャーさんがお話を始めた。最初の方はクロノ君の質問を、アーチャーさんが受けると平和的に話は進んでた。ただ、私にはその内容がよく解らなかったし、アーチャーさんの応答はイマイチだったけど。

 その中で、フェイトちゃんはまた『ジュエルシード』へ飛び出して、掴んだ。そのまま、狼姿のアルフさんと何処かに行ってから、暫くもしない内にクロノ君とアーチャーさんはそれぞれ武器を持ち上げた。

 

 

 二人の戦いは、アニメや映画のワンシーンみたいだった。空へ飛び上がって、アーチャーさんへ魔法を撃つクロノ君。地上を走りながら、小太刀のような得物で弾き続けていたアーチャーさん。

 私とフェイトちゃんの戦いとは何もかも違ってた。クロノ君の正確な狙いで、規模の大きな魔法に、アーチャーさんは大小様々な剣を次々用意して、迎え撃っていた。

 無駄の無い動作に、感じたことのない空気。お兄ちゃんとお姉ちゃんが道場で稽古をしてるのは見ていたけど、それとも違う何かが在った。

 

 

 だから、唖然とするしかなかった。目の前で繰り広げられた戦いを遠くから見ることしか出来なかった。

 でも、それはもうおしまい。戦いはアーチャーさんが姿を消して、終わった。

 そして、クロノ君は私たちの前に居る。話をしたいのは、私たちにも有ったみたい。

 まず、簡単な自己紹介を互いにした。自己紹介が済むタイミング見計らったかの、スクリーンにプロジェクターを向けて映し出すようにパッと映像が浮かんだ。

 

「クロノ、お疲れ様」

 

「すみません、艦長。片方には逃げられてしまいました。それに、『ジュエルシード』の回収も……その追跡の方は?」

 

「先に逃げた二人は多重転移で逃走したみたいで追いきれなかったわ。これはオペレーターでも捉え切れないのも無理ないわ。

 仮面の方は――――最初は捕捉出来ていたのだけど、途中で反応が消失。何かしらの道具や技術を持っているみたいね」

 

「そうですか……」

 

「でも過ぎたことを気にしてもどうにもならないわ。これからのことに集中しましょう。

 でね、ちょっと聞きたいがあるから、そこの子たちを『アースラ』に案内してくれるかしら?」

 

「了解です」

 

 映像に映るのはクロノくんの上司なのかな? 緑色の髪の毛を持った綺麗な人だった。

 それに、会話を聞く限り、私はこれから何処かに連れていかれるみたい……。

 

「すまない、君たちには『次元船アースラ』へ同行してもらう。少しだけ話を聞かせてくれ」

 

 ここで話をする訳にもいかないと、私とユーノ君はクロノ君に連れられて、その『アースラ』って言う船に行くことになった。

 クロノ君の提案を私は聞くことにした。お話するなら断る理由もないし、訊きたいこともあったからね。

 

 

 

 

 

 クロノ君に連れられて辿り着いたのは長い廊下の端ッこ。後ろの壁には魔法陣が書かれているからここが『転移門』なんだと思う。

 

 

 私たちの前をクロノ君が歩く。

 クロノ君に付いていくために、私たちはゆっくりと歩き始める。

 歩いて進んでいくと、見たことない物が目に映る。そうだ、ユーノ君は何か知ってるみたいだし、念話で訊いてみよう。

 

(ユーノ君……ここって何なの?)

 

(『時空管理局』の次元航行船の中だね)

 

 ――――ごめん。ちょっと解らないかな。航行船って“船“って意味だよね?

 でも、私の知ってる船とは全然イメージが合わない。長い廊下はまだ分かるんだけど、全体的にテレビアニメとかに出てくるオーバーテクノロジーの塊みたいな――――

 

 

 私の反応がイマイチだったのを感じ取ったのか、ユーノ君は更に詳しく説明してくれた。

 

(ええと……簡単に言うと、いくつもある“次元世界“を自由に行き来するための船だよ)

 

(あ、あんまり簡単じゃないかも……)

 

(そうだね――――なのはが暮らしている世界の他にもいつもの“世界“が在るんだ。『次元世界』って言うのはその総称って思ってくれればいいかな。

 で、その狭間を移動するのに使うのがこの“船“。そして、彼ら“時空管理局“はそれぞれの世界で干渉する出来事を管理してるんだ。でも、本来ならなのはの住む“世界“には不干渉を貫く筈なんだけど……)

 

(どうして?)

 

(大間かに説明すると、『時空管理局』が定義する“世界“は2種類に分けられるんだ。

 まずは『管理世界』。これはボクの住む“世界“が当てはまるね。要するに、『時空管理局』の法の下にまとめられた“世界“で【魔法文明】が発達してる。

 もう一つは、なのはが住んでいる『管理外世界』。こっちは存在は認知しているけど、『時空管理局』は基本的には干渉しない。【魔法文明】の発達が無い“世界“でわざわざ管理する必要が無い場所って思ってくれれば大丈夫』

 

 ――――よく解らないけど……ユーノ君たちの世界は、私たちの世界で言うお巡りさんみたいな人たちがまとめてる世界で、【魔法】が一般的ってことなのかな?

 そんなことを考えている内に私たちは大きな扉――――ゲート(?)を通り抜けた。そこでクロノ君は一旦、足を止めて私たちの方へ振り返る。

 

「ああ、君もバリアジャケットとデバイスは解除して平気だよ。ずっとそのままの格好と言うのも窮屈だろう」

 

「あ、はい……それじゃあ――――」

 

 私はバリアジャケットからいつも着ている制服に戻る。レイジングハートもスタンバイモードにして手に納める。

 

「君も元の姿に戻ってもいいんじゃないか? それが本来の姿ではないんだろう?」

 

「あ、そうですね。長い間この姿で居たので忘れてました」

 

 え? 元の姿? 長い間? ユーノ君ってフェレットじゃないの?

 視線をユーノ君に向けると、ユーノ君は光出して――――光が収まるとそこには私と同い年ぐらいの金髪の男の子が…………え?

 

「…………えーーーーーーーっ!!??」

 

「ど、どうしたの?そんなに慌てて?」

 

『どうしたの?』じゃあないよ! 嘘……ユーノ君って人間だったの!? 初めて会った時もフェレットだったし、家でも外でもずっとあの姿だったよね!?

 

「ユ、ユーノ君って普通の男の子だったの!?」

 

「あれ……ボクとなのはが出会った時ってこの姿だったよね?」

 

「違う、違うっっ! 最初からフェレットだったよ!?」

 

 私は頭をぶんぶん左右に振って違うと言った。それは髪の毛が頬を叩くぐらいに。あれ? つまり、海鳴温泉の時は――――止めよう。ここで記憶を呼び覚ましたら、私は暫く立ち直れなくなるかも…………。

 

「……君たちの間で見解の相違でもあったみたいだけど、そのことはまた後でにしてくれないか?

 こちらは君たちの事情を訊きたいし、艦長を待たせているので、早めに話をしたいんだが……」

 

「あ、すみません」

 

「なのは……ごめん。よく思い出してみると、最初からフェレット姿だったね……この話は後でしよう」

 

「……そうだね」

 

 ここで私たちの誤解が明らかになったけど、取り敢えず置いておこう。今はクロノの言う通りお話が優先だよね。

 気持ちを切り替えて、私たちは再び歩き始めるクロノ君の後に付いて行った。その先には一つのドアの前に立った。さっきのはとは違って、今度のは一つの部屋にあるようなサイズのドア。

 クロノ君が入室したのに続いて私たちも入室する。そこは――――――

 

 

 

 

 

 そこは一言で言うなら『茶道部の部室』って言うのが一番近いかも……結構広めのだけど。

 だって、部屋の端っこには盆栽棚が在って、いくつもの盆栽が置かれていたし、反対側には獅子脅しが在ったんだもん。

 その部屋の奥には畳が敷いてあって、その上にクロノ君の言う『艦長』さんが居る。隣にはお湯を沸かす釜を添えてある。ここって『京都』なのかな? って一瞬思ったところで私たちは声を掛けられた。

 

「お疲れ様~。ま、お二人とも、どうぞどうぞ――――楽にして」

 

「あ、は、はい……」

 

 ニコっと微笑みながら私たちは案内された。私の内心は色々と整理が付かなかったけど、ユーノ君と一緒に向かい合うように畳へ正座で座る。

 それからクロノ君の時と同じで、自己紹介を始めた。

 

「まずは自己紹介からよね。私はリンディ・ハラオウンです。この次元航行船――――『アースラ』の艦長でもあって、『時空管理局提督』も務めています」

 

「ユーノ・スクライアです。そして、僕の隣に居る彼女は――――」

 

「高町なのはです。ユーノ君のお手伝いをしています」

 

 

 それから私たちは今回のこと――――『ジュエルシード』について話し始めた。

 

「そうですか……あの『ロストロギア』――――『ジュエルシード』を発掘したのはあなただったんですね」

 

「はい……」

 

 目を閉じて下を向いたまま言葉を続ける。

 しょんぼりとしている感じはフェレットの時と同じだった。

 

「それで、ボクが回収しようと……」

 

「立派だわ」

 

「だけど、同時に無謀でもある」

 

 リンディさんがユーノ君の行動を誉めるけど、後ろに立っていたクロノ君はそれは無謀だって責めた。

 私はずっと疑問に思っていた『ロストロギア』について質問した。

 

 

 リンディさんたちの説明をまとめると――――昔に繁栄し過ぎた“世界“の技術・科学で自分たちの世界を滅ぼしてた後に残った危険な遺産。私たちが探していた『ジュエルシード』はその一つ――――『次元震』を発生させる物で、最悪、『次元断層』を引き起こすものらしい。

『次元震』って言うのは前に私とフェイトちゃんがぶつかった時に起こった爆発と震動らしい。あの時、アーチャーさんが物凄く焦っていたのはこのことを知っていたからなのかな?

 

 

 続いて聞いたのは『次元断層』。以前にもあった出来事で、いくつもの世界を壊す災害。

 『ジュエルシード』によって引き起こされれば、私の住む世界(地球)も、それ以外の世界も崩壊するって話を聞いた時、私の頭は真っ白になった。もしこのまま『次元断層』が起こったら、私の家族も、友達も、皆が――――だから、私はこれまで通りに『ジュエルシード』を集めようと考えた。

 

 

 だけど、リンディさんは――――

 

「あのような事態は繰り返しちゃいけないわ。

 だから……これより『ジュエルシード』の回収は『時空管理局』が全権を預かります」

 

「君たちは今回のことは忘れて、それぞれの世界に戻って、元通りに暮らすといい」

 

 そんなこと言われても、私もユーノ君もそんなこと出来ないよ。

 私が自分の意思を告げようと口を開こうとした時、リンディさんが先に声を出した。

 

「まぁ、急に言われても気持ちの整理も付かないでしょう。今夜一晩……二人で話し合って、それから改めてお話をしましょ」

 

(ユーノ君……)

 

(ごめん、なのは。こんなに大事になっちゃって……)

 

(取り敢えず、今夜は一緒に考えようよ)

 

(うん……)

 

 ユーノ君と念話で話し合うのは今夜にしようと約束する。意識を自分の中から外へ向け直したんだけど、目に飛び込んで来たリンディさんに言葉を失った。

 ここで話は一区切りと、リンディさんは、お茶を口に運ぶ。それは普通なんだけど、その前にお茶入れた白い正方形が私の頭を埋め尽くした。

 

(……ちょっとまって!? なんで角砂糖を入れるんですか! それ、珈琲じゃなくて、お茶ですよね?)

 

 内心で質問した。家は喫茶店をやっているけど……多分、今のを見たらお父さんたちも私と同じ反応をすると思う。

 

 

 リンディさんは違和感を感じさせないような自然な流れで飲んだ。その後に「にがっ」って漏らしてた。

 今度は先のより多くの角砂糖を入れた。まあ……人の好みなんて人それぞれだよね……。

 

「本当ならここでお話は終わりなんだけど、一つだけ訊きたいことがあるのよ。もう少しだけ時間を頂戴ね」

 

 茶碗を置いて、真っ直ぐにこちらに視線を合わせるリンディさん。先まではどこか穏やかな感じが残っていたけど、今は消えた。鋭い空気が周りに満ちる。

 

「あの仮面の人物について、知っていることはあるかしら?」

 

「アーチャーって名乗っていました。彼――――でいいのかな? 取り敢えず、彼と呼ばせてもらいます。

 彼の目的はこちらと同じ『ジュエルシード』の回収による事態の収拾です。『ジュエルシード』の危険性は彼も認知していましたし、自分で災害を防ぐのが目的と言っていたことに加えて、行動からも悪用するとは考えにくいです」

 

「私も何度かアーチャーさんに助けてもらいました。あの人が嘘を言っているようには思えません」

 

 私たちの言葉に一つの懸念が消えたような表情をするリンディさんとクロノ君。今度はクロノが質問してきた。

 

「それにしても、彼のあれは【魔法】なのか? 魔法陣を展開している様子が無かったし、デバイスも使っている気配がなかった」

 

「ボクにもそれは解りません。そもそも、【魔導師】なのかさえ……彼が『ジュエルシード』と遭遇したのは偶然で、そこで会った彼女と行動を共にしていると言っていましたし」

 

「それが本当ならな。あの戦闘技術は普通じゃない。剣や矢を取り出していた方法を除いても、それらを扱う技量は並みじゃない」

 

 ユーノ君とクロノ君は互いに考えて唸ってる。確かに、アーチャーさんのことって解らないことが多いんだよね。私やフェイトちゃんみたいに魔力弾を飛ばしてる訳でも、空を飛んでる訳でもないから【魔導師】とは判断が出来ない。

 仮面で顔を隠してる理由も解らないけど、あの人も周りを守るために戦ってるのは解ってる。だって私を助けてくれた。他人のことがどうでもいい人なら、そんなことをする必要はないし。

 

「ちょっと思ったんですけど、“地球“での特殊能力者と言うのは考えられないでしょうか?

 なのはは【魔法文明】の無い“地球“出身ですけど、こうして魔力を持っていて、【魔法】を使っていますし」

 

「確かにその可能性も無いとは言い切れない。現に『管理局』には『管理外世界』出身の方も居る。

 だけど、『管理外世界』の出身者にしては戦い慣れが過ぎる。君の世界はそんなに戦いが頻繁に起こっているのか?」

 

 クロノ君が私に訊いてきた。

 

「いえ、昔では頻繁に戦いが有って、子供も参加させられていましたが、今では減りました。私の国では戦いなんてありません」

 

 また唸り始めるユーノ君とクロノ君。

 私もアーチャーさんについて考えるけど、二人のヒントになるようなことは思い付かない。

 

「今集まっている情報では、解りそうにありませんね。

 なのはさん、ユーノ君、長く引き留めてしまってごめんなさい。今日はもう帰った方がいいわ。クロノ執務官、二人を送ってあげて」

 

「元の場所でいいね。僕が送るから付いてきてくれ」

 

 今日のお話はお開きと言うリンディさんの言葉で、私とユーノ君はクロノ君に連れられて、先までは居た海鳴臨海公園に戻ることになった。

 

 

 

 

 

 私たちは海鳴臨海公園に戻った後、そのまま家に帰って自分の部屋で身支度をしていた。

 それを始める前にお母さんと少しをお話をした。“自分のしたいこと“のために少し家を空けないといけないことを……。

 お母さんはとても心配してくれた。危ないことはして欲しくないと言っていたけど――――「自分で決めたことなら、後悔をしないように頑張ってきなさい」って背中を押してくれた。

 

 

 私は選んだんだ。

 これからも『ジュエルシード』集めをすることを――――フェイトちゃんともう一度お話はすることを。

 それは私自身が決めたこと。

 だけど――――――

 

(どうして私は……こんなにフェイトちゃんが気になってるんだろう……)

 

 ふと思い返した。

 ユーノ君と出会ったことが『ジュエルシード』を集めることになった理由だけど、今はフェイトちゃんのことも理由になってる。

 

(……小さい頃の私にフェイトちゃんが似ているように思えたから……?)

 

 初めて見たときの……フェイトちゃんはどこか寂しそうだった。私が小さい頃……お父さんが仕事で大怪我してお母さんたちが大変だった時期に、ただただ一人寂しくいた私に少し似てた気がする。

 その時、私が一番して欲しかったことは優しくしてもらうことじゃなくて――――

 

 

 ああ……そうだ……同じ気持ちを分け合えること。それがあの頃の私がして欲しかったことだったんだ。

 寂しい気持ちも……悲しい気持ちも……私はあの子と分け合いたいんだ。

 

(――――――――)

 

 その為には、何から伝えればいいのか。何から始めるのがいいのか。

 その方法を私は知っていた。

 

 

 ――――――だから、まずはそれを伝えたい。

 

 

 

 

 

 支度が終わった私にユーノ君が確認してきた。

 

「本当にいいの? なのは?」

 

「うん、もう決めたんだ。最後まで頑張るって」

 

 真っ直ぐにフェレット姿のユーノ君の眼を見る。

 今の私の眼は今までの中でも一番真剣で、真っ直ぐな眼をしていたんだと思う。

 ユーノ君はそれを見て決めた。

 

「分かった。じゃあ、『管理局』に連絡するね」

 

 ユーノ君は机の上に在るレイジングハートで『管理局』に連絡を繋げようと動いた。

 きっと明日は早く家を出発することになる。お母さんに“行ってきます“って言えないかもしれない。

 そう思って、私は手紙を書くことにした。上手く書き切れるは解らないけど、“ありがとうって気持ち“を伝えるために書き始めた。

 

 

 

 

 

**********************

 

 

 

 

 次元航行船━━━━『アースラ』の一室に三人の人物が居た。この船の『艦長』であるリンディ・ハラオウン。

 彼女の息子であり、『執務官』であるクロノ・ハラオウン。

『通信主任』兼『執務官補佐』であるエイミィ・リミエッタだ。

 彼らは今、ユーノ・スクライアとホロスクリーンで通信を交わしていた。その内容は高町なのはと自分が『ジュエルシード』の回収に協力するとい申し出だった。

「『ジュエルシード』の回収とあの子たちへの牽制。ボクはともかく――――なのはの力の方は、そちらとしても便利に使えるはずです」

 

「ふむ……なかなか考えていますね」

 

 リンディは顎に指先を添えて思考する(・・・・)ふりをする。高町なのはの【魔導師】としての素質は彼女の目に止まっていた。

 しかし、騒動が起こっているのは『管理外世界』であり、(くだん)の相手は本来【魔法】に関わりが無いはずの人物に『管理局』側から協力を求めるのは後々問題になる恐れがある。

 ようは立場の問題だ。彼女がなのはたちに考える時間を与えたのは、向こう側から協力を申し出るような流れを作るためでもあった。それでも怪しいことではあるが、自分たち側から求めるよりはまだマシではある。

 

「それなら……まぁ、いいでしょう」

 

「か、母さ……艦長!?」

 

 予想外の発言に気が動転して、職場では使わないようにしている単語が出そうになったクロノ。

 

「手伝ってもらいましょう? こちらとしても切り札は温存したいもの。

 それに、なのはさんの潜在能力には目を見張るものがあるのは貴方も分かっているでしょ?」

 

 リンディ艦長の言い分はクロノにとっても同意するしかなかった。戦力の問題は無論。加えて、なのはの潜在能力を無視することは出来ないのが現状だ。

 それを再認識したクロノは額に手を添えて、ため息を吐いた。そんな彼の肩をエイミィは「まぁまぁ」と、言った感じで叩く。

 

「ただし、条件は2つよ。二人の身柄を一時的にこちらで預かるとすること。それから私たちの指示を必ず守ること」

 

「はい……分かりました!」

 

 通信を終え、ホロスクリーンが消える。

 再び訪れた静寂に、3人はある話を再開する。

 

「では、話を始めますね」

 

 口を開いたのはエイミィだ。

 

「まずはなのはちゃん。魔力値の平均値は127万で魔力量と瞬間出力――――遠隔制御能力が優れていますね。現在の『管理局』でも全体の5%に満ちない稀有な才能の持ち主かと」

 

「一方で設置系や時間差系などの小技は余り得意では無いか……でもこれだとスピード特化などの素早い相手だと分が悪くなるな」

 

「確かに細やかな動きは少ないけど、その分“攻撃“と“防御“に集中しているみたいね。

 でも、彼女なら、いくらかの攻撃に耐えて、一撃を相手に与えれば逆転が可能な威力がある。即席だからこそのスタイルね……【魔法】と出会って一ヶ月も経っていないからでしょうけど」

 

「ええっ!?」

 

 なのはの戦闘データから彼女の能力値を測る三人。エイミィが驚くのも無理がない。なのはは“魔法学校“で【魔法】の勉学をしていた訳でもなければ、クロノたちのように“士官学校“に通っていた訳でもない。

 そんな物とは無縁の地――――無縁の生活を過ごしてきた……どこにでも居るような極普通の少女だったのだから。

 

「なのはさんは……このままの生活を過ごすのは難しいかもしれないわね……偶然とは言え、これほどの【魔導師】の素養を示してしまうと――――」

 

『管理外世界』ましてや“地球“では【魔法】の存在は認知されていない。ただ魔力を持っているだけならば、問題は無いかもしれない。それは体質みたいな物だ。周りに害を与えないし、【魔法】の露見によって混乱を招く恐れもない。

 しかし、この場合は違う。彼女の莫大な魔力やまだ荒削りの【魔法】は『管理局』としても看過できないのだ。

 

「そうですね……正式な認可を得ないままでは“地球“での滞在は難しいですね」

 

「……その件の対応は本件が落ち着いてからゆっくりと。協力を得た以上、相談をする時間もあると思いますから」

 

「そうね、今は『ジュエルシード』のことに集中しましょ」

 

 なのはの“これから“について頭を悩ませていた三人は一先ず、その案件を後回しにして、話の続きを始める。

 

「黒い子の方は魔力の平均値143万。なのはちゃんとは違ってスピード寄りですね。“鎌“による近接戦闘、【魔法】も高速な直射弾です。総合的に考えれば、なのはちゃんより上ですね」

 

「やっぱり二人とも凄いわね。これだけの魔力なら、『次元震』が起こるのも頷けるわ」

 

「あと、【魔力】は大したことない“仮面の人物“についてですが――――」

 

クロノとリンディ艦長から緊張感が放たれる。そう、今一番の議論すべきことは……正体不明の仮面(アーチャー)についてだ。

 

「魔力の平均値と言うか――――魔力自体が高くないです。レーダーで捉えることは出来ますが、戦闘で使用しているかは判らないですね。あの白と黒の剣も、弓矢も存在する物質と判断するしかありません。つまり、あの戦闘技術は――――」

 

「彼自身の技術か……でも、何も無い所から取り出していた。こちらで考えると転送魔法があるが、それはどうなんだ?」

 

「転送魔法なら、大体の【魔導師】が魔法陣を展開するのはクロノ君も知ってると思うけど、彼にはその反応が無いの。

 魔力を持つのは、なのはちゃんと同じだと考えられるわ。だから、魔力を持つだけで『管理世界』の住人とは限らない。

 やっぱり、ユーノ君の言った“地球“の特殊能力者って予想が一番有り得るかな」

 

 現在の情報から仮面の人物について考えを続ける。

 まず判らないのはその能力。何も無い所から武器を取り出すあの光景は【魔導師】から見れば、転送魔法と判断するのが自然な流れだ。

 だが、魔力反応は薄く、魔法陣も展開しない。この2点が彼らに引っ掛かっている。

 このままでは一向にその正体が解らないだろう。何故なら、【魔法】に着目している時点で既に間違っている。“認知されている彼ら”だけでは決してそれを明らかには出来ない。根本的に、“在り方”が相違しているのだ。

 

「出来れば彼らともコンタクトを取りたいわね。

 目的は『ジュエルシード』の回収による事態の収拾……私たちが争う理由は無い筈なのよね……」

 

「戦闘になってしまったのは、クロノ君の牽制が原因ですからね。

 あ、クロノ君、海水浴はどうだった?」

 

「あの場では最善の行動を取った。『ジュエルシード』が確保されるのを黙って見ている訳にはいかない。

 それと、海水浴は関係無いだろ」

 

「えー、もしかしたらこの先、“地球“で海水浴をする機会があるかもしれないじゃない?

 だから、感想を訊いておこうかなって」

 

「はいはい。余計なことは後で二人で話してね」

 

 手を打ち鳴らして、話の主旨を戻すリンディ艦長。彼女の言う通り、話を脱線させている場合ではない。

 

「彼の能力はよく判らないけど、戦闘能力は高いわね。魔力弾を寸分違わず迎撃する正確さ、胆力もね。

 あまり考えたくは無いけど、このまま正面からぶつかるような戦闘は危ういかしら。こちらの戦力も余裕が有るとは言い難いし……」

 

「応援を呼べばいいんじゃないですか」

 

「エイミィ……管理局の魔導師は年中人手不足なのは君も知ってるだろう。今直ぐに用意できる戦力はない」

 

呆れるように言ったクロノに対して、エイミィは「クロノ君こそ忘れてない?」と、言った表情を浮かべていた。微笑みとは違って、何かを企んでいるような……。

 

「クロノ君の言う通り、『管理局』にはそんな人員はないけど、それ以外なら私は二人思い当たるわよ。優秀な【魔導師】がね」

 

「おい……まさか――――」

 

「確かに、“あの二人“なら申し分無いわね。最前線には向かないかもしれないけど、サポートに回ってもらえば、この上ないくらいね。クロノも安心でしょ」

 

 三人が思い浮かんだ二人とは、“魔法学校“を飛び級して優秀な成績を修めて卒業した二人。彼女たちはその後『管理局』などには属さなかった。しかし、リンディ艦長からして見れば是非とも欲しい人材だ。

 実際に面会をして、『嘱託魔導師』だけでも成らないかと声を掛けたが二人は同意しなかった。いや、正確にはもう少しだったと言うべきか。もし『嘱託魔導師』に成れば、“これだけの報酬が“っと見せたところで、姉は手を伸ばそうとした。ギリギリのところでしっかり者の妹に止められた訳だが。

 結局、自分たちのメリットがある場合の相談なら受けると言う形に収まった。

 

「でも、この件で彼女たちのメリットになるかと考えると……」

 

「高額な報酬で釣るのはだめなんですか? 実際、それで後一歩で引き込めたんですよね?」

 

「それはそうなんだけど、それは最低条件で、後一つ欲しいわね……」

 

「僕としてはあまり賛成したくないな。腕が十分なのは僕も理解しているけど」

 

「えー、なんで?」

 

(エイミィと一緒に居られると君が悪乗りするからだよッッ!)

 

 ここの誰しもが知らないことだが、もし衛宮士郎の顔が割れていた状態で二人に協力を仰いだら、多少の報酬をケチっても得られただろう。それだけの“価値“が、彼女たちにとっては有ったのである。

 

「取り敢えず、言うだけは言ってみようかしら……彼女たちも何かと忙しいみたいだから、返事が直ぐに貰えるとは限らないけど」

 

 

 

 彼らの話は現状の把握で一段落した。高町なのはとユーノ・スクライアの協力を得られただけでも十分な成果と言えばそうなるだろう。戦力は大いに越したことは無い。先の見えないことならなおのこと、切れる手札は可能な限り増やしておきたいのは、管理局員としても妥当な判断だ。

 

 

 なお、リンディたちの協力要請が彼女たちの目に届いたのは『ジュエルシード』事件が終えた頃だった。その結果、衛宮士郎が被害(?)に遭うのはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 




追加キャラクターについては実際に登場した際に設定集を作ってまとめます。無印~A’Sの間での初登場を予定しています。余り早い段階で出すと戦力バランスがぶっ壊れるので……立場もありますからね。


お読み頂きありがとうございましたm(_ _)m

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