魔法少女リリカルなのは ~The creator of blades~ 作:サバニア
*****ここからは前と同じ前書き*****
やっとクロノの出番ですね。リンディ艦長とエイミィの出番は次回です。
戦闘シーンはUBW√、柳洞寺でのアーチャーVSキャスターをイメージしました。Vita版のOPにもなっていたり、自分の好きな戦闘の一つです。もちろん、基本的Fateシリーズの戦闘シーンは好きです。
FGOの方は━━━━うん、サントラ購入確定。プレイされた方は分かるんじゃないかなと思います。ストーリーも素晴らしかったです。グッと来ました。今年はFGOアニメ。来年はExtraアニメ、劇場版HF、プリヤが有りますね。Fateは止まることを知らないですね、嬉しい限りです。加えて、なのはもReflectionが有りますね。早くも楽しみがいっぱいだ。(既に後、一週を切っている……)
前書きが長くなりましたが━━━では、どうぞ!
今日の学校を終えた私は、海鳴臨海公園に居た。家に帰る途中でジュエルシードが発動するのを感じ取ったから、封印するためにここに来たんだ。
そこには覚醒した『ジュエルシード』を取り込んで、“動く樹木“に変貌したものの姿があった。
「封時結界、展開!」
ユーノ君が結界を敷いて、周囲の安全を確保する。
私も続いて準備しなきゃ。
「レイジングハート。治ったばかりだけど、また一緒に頑張ってくれる?」
「All right,my master!」
私の姿が学校の制服からバリアジャケットに変わる。レイジングハートを“動く樹木“ に向けて戦い始めようとした時に、私の頭上を越えて無数の雷弾が“動く樹木“に降り注いだ。でも、バリアが展開されて攻撃は防がれた。
私は誰が攻撃をしたのか、確かめるために後ろへ振り向く。そこにはフェイトちゃんとオレンジ色の狼のアルフさんが立っていた。
「バルディッシュ、どう? 調子は大丈夫?」
「Recovery complete. No problem.」
「にしても、今度のは生意気にバリアまで張るのかい」
「うん。今までのより強いね。それに――――」
(よかったフェイトちゃんの方も治ったんだ)
ほっと胸を撫で下ろす。大切なパートナーが壊れたら誰だって悲しいもんね。私もレイジングハートのことをすごく心配したし――――
「なのは! 前!」
ユーノ君から注意を促す声が聞こえた。視線を“動く樹木“に戻すと、目の前には樹木の根っ子が迫ってた。
ここで気を緩めたのは失敗だった。急いで空に飛び上がろうとしたけど、間に合ないと思った。直撃されるのを覚悟したけど――――迫り来る根っ子は白と黒の閃光にバラバラに切り裂かれて、私は無傷だった。
「全く……戦いの場で気を緩めるとは何事かね? ぼさっとしていないで早く空へ飛んだらどうだ。君はそっちの方が本分なのだろう?」
私を庇ってくれたのはアーチャーさん。また私はこの人に助けられた。
「あ、あの――――この前に続いてありがとうございます!」
「……礼はいい。それより、君は早く自分のことに集中しろ」
お礼を言って私は空へ飛び上がる。やっぱりアーチャーさんはいい人だ。きっとフェイトちゃんとも話が出来るはず。そのためにも今は集中しないとね!
空に飛び上がって下を見ると、アーチャーさんに切り裂かれた根っ子は再生を始めていた。初めて私が『ジュエルシード』の封印した時に見た光景と同じことが起こっていた。
「今度は再生ときたか……はぁ、次から次へと――――だが、再生ならばこちらには対抗策がある。
アーチャーさんの両手から白と黒の剣が空気に溶けるように消えて、代わりに黄色の槍が握られる。
根っ子が今度はアーチャーさんに襲い掛かるけど、槍の一閃が切り裂いた。
そして、今度は切られた部分が再生されてない。
「一体、何者なんだ……この前の『ジュエルシード』の魔力を打ち消した紅い槍に、今度は再生阻害の黄色い槍。あれらも『ロストロギア』なのか?」
ユーノ君が怖いものを見るような小さな声色で言葉を漏らした。でもそれは、フェイトちゃんの声に掻き消された。
「“アーク・セイバー”……行くよ、バルディッシュ!」
「Arc saber.」
フェイトちゃんから飛ばされた“刃“と黄色の槍を手にしたアーチャーさんが根っ子を切り裂いていく。二つの黄色い軌跡が根っ子を切り裂き、“動く樹木“の注意が二人に引き付けられている。
私はその隙を見逃さない。杖先を“動く樹木“に向けて『ディバインバスター』を撃つ準備をする。私の動きに合わせてレイジングハートがシューティングモードに切り替わる。
「Shooting mode.」
「いくよ、レイジングハート!撃ち抜いて――――ディバイン!」
「Buster!」
撃ち出された私の一撃が真っ直ぐに“動く樹木“へ突き進む。でも、それは本体に届く前に、バリアに衝突して拮抗した。
「貫け轟雷!」
「Thunder smasher!」
続けてフェイトちゃんからも砲撃魔法が撃ち出されるけど、それもバリアに防がれて本体にまで届いていない。上と横。その二方向の攻撃でもバリアを貫けていない。
「――――――――――――ッッ!!」
「確かに今までのと比べ、強力だな。少しやり過ぎかもしれないが、結界も張られていることだし、爆破さえしなければ大丈夫だろう」
えっ? 今、爆破って物騒な単語が聞こえたんだけど?
そう思った時には、アーチャーさんの手にしていた黄色の槍が消えていた。
「――――
今度現れたのは黒い弓と捻れ曲がってる剣(?)。
アーチャーさんは左手に弓、右手に捻れ曲がってる剣(?)を持っていた。
流れるような動作で、弓にそれを番えさせて――――
「
アーチャーさんの口から紡がれた言葉と一緒に力いっぱい剣(?)が引分けられると、剣(?)は“矢“みたいに細く、鋭く形が変わった。
「――――“
解き放たれた“矢“は回りの空気を捻りながらもの凄い勢いで飛び出してバリアにぶつかると、まるで薄い紙に針を通すような感じで簡単に貫通して、幹の右側を抉った。
バリアが崩れると私とフェイトちゃんの砲撃も追い討ちのように“動く樹木“に殺到した。二つの光が残っていた本体を呑み込む。
砲撃が止まると、3つの『ジュエルシード』が樹木から取り出されて、地上付近に静かに漂う。
「Sealing mode.Set up!」
「Sealing form.Set up!」
私のレイジングハート。
フェイトのバルディッシュ。
その両方の形が変化する。
「ジュエルシード、シリアル7」
「封印!」
順番に言葉を放った。
辺りが光に包まれる。『ジュエルシード』からの光が小さくなった。これで封印は終わり。
フェイトちゃんは封印された『ジュエルシード』をその場に残したまま、私と同じ高さまで飛び上がって向かい合う。
「『ジュエルシード』には衝撃を与えたらいけないみたいだ」
「うん。この夕べみたいになったらレイジングハートも、フェイトちゃんのバルディッシュも可哀想だもんね」
僅かに顔を上げるフェイトちゃん。
「……だけど、譲れないから」
「Device form.」
バルディッシュを私に向ける。
昨日の続きになっちゃうみたい……。
「私はフェイトちゃんと話をしたいだけなんだけど……」
「Device mode.」
私は真っ直ぐにフェイトちゃんを見る。
そしてまた、夕べのように話し掛ける。
「私が勝ったら……ただの甘ったれた子じゃないって分かってもらえたら……私のお話し、聞いてくれる?」
地上ではユーノ君、アルフさん、アーチャーさんが私たちを見上げている。フェイトちゃんが私の言葉に答えるように頷く。
――――視線がぶつかり合う。
私たちは一気に距離を詰めて、同時にデバイスを振り上げる。
振り落とされる寸前に、私とフェイトちゃんの間に青い魔法陣が現れる。そこから出て来た人物に、私たちの一撃が受け止めれた。
「ストップだ!! ここでの戦闘は危険すぎる。
僕は『時空管理局執務官』、クロノ・ハラオウンだ。詳しい事情を聞かせてもらおうか」
黒いコートのバリアジャケットを着た私より少し歳上に見える男の子が居た。
突然のことに私とフェイトちゃんはビックリしてた。だって、私たちの他にも魔法少――――じゃなくて、魔法を使う人が来るなんて!!
**********************
ひとときの沈黙が訪れた。
昨日みたいに『ジュエルシード』が暴走状態に陥ることはなく、封印は完了した。木から取り除かれた元凶は中に浮いていた。
あの激流となった魔力の感触は未だに覚えている。あれが収まらないで吹き荒れて続けたらと思うと、背筋が凍る。だけど、この場ではその心配は杞憂だ。
俺は安堵の息を吐き、フェイトに引き上げようと声を掛けるために視線を上げる。
フェイトはなのはと同じ高さまで上昇していた。二人の距離は6、7メートルぐらいか。
距離を保ったまま会話を始める二人。俺の耳に彼女たちの会話が聞こえながった。共闘したことへの感謝でも伝えているのかと思った瞬間、二人の会話は終わり、互いにデバイスを構えた。
その場面を見た俺の内心では疑惧が広がっていた。
(ジュエルシード付近で戦う気か? それはまずいだろ)
フェイトへ念話を繋げようと意識を研ぎ澄ます。しかし、俺たちの念話が開通するよりも、二人の動きの方が早かった。猛然と空を蹴り、空気を切り裂きながら直進する。
振るわれるのは互いの愛機。斧と杖は引き合うように奔る。振り切られて、火花と甲高い音が辺りへ伝わると直感した瞬間、青い魔法陣が現れた。
(誰だ? こんな時に転移して来たのは?)
現れた魔法陣は転移関係だろう。以前、フェイトが使っていた物に似ていた。魔法が普及しているミッドチルダの住人なら、それと同系統の魔法を使用することは珍しくはない。だから、注意を向けるのは“誰”が来たかと言うことだ。
魔法陣から出てきたのは黒いコートを纏った少年。背丈から見て、11~12歳ぐらい。フェイトとなのはよりは年上であるのは間違いないだろう。
「ストップだ!! ここでの戦闘は危険すぎる。
僕は『時空管理局執務官』、クロノ・ハラオウンだ。詳しい事情を聞かせてもらおうか」
その少年は二人の攻撃を受け止めてから、自分の正体を明かした。
俺は耳を疑った。『時空管理局』の活動範囲は基本的に『管理外世界』だ。ここ……地球は『管理局』からは『第97管理外世界』とされていて、彼らは不干渉を貫く世界。にも関わらず、こうして『管理局』の先兵は来た。
(『時空管理局』――――よりによって執務官か……正直良くないな。下手に関わると後々面倒になるし、どうする――――)
俺が現状を認識して、対処を思考する。穏便に事が済むのがベストだ。ここは彼らが治める世界でもないから、過ぎ去ってくれないかと僅かな期待を持つ。
だが、それは楽観視のし過ぎと切り捨てる。場所的にはグレーだろうけど、目の前に在るのは『
停滞する事態の中、再び執務官は口を開く。
「先ずは二人とも武器を引くんだ」
言われた通りに、なのはとフェイトは執務官を間に挟んで地上にゆっくりと降りた。
なのはがその場で立ち尽くす一方で、フェイトは降りて間もなく『ジュエルシード』に飛び掛かった。その思考の切り替えは大したものだ。しかし、この局面では相手を刺激する悪手だった。
フェイトの動きを見た執務官は彼女へ向けて杖を翳し、魔力弾を放った。その素早い判断は“執務官”を名乗ることが飾りではないことを示していた。
針のような鋭い光がフェイトへ疾駆する。致命傷を避けた正確な射撃。おそらく、さっきの忠告無視に対する牽制だと予想は出来た。しかし、それらはフェイトの右腕を貫き、鮮血を散らすだろう。
それは……見過ごせない。もう俺には考える余地なんて無かった。
俺は“スイッチ”を切り換えた。生成した魔力で足に強化を施して、脚力を爆発的に引き上げる。足裏を地面に叩き付けて、縮地じみた動きでフェイトと魔力弾の間に疾走する。その間に手にしていた弓を破棄して、代わりに一般的な片手剣を投影する。
右腕を滑らせて、右手に握った剣を薙いだ。鈍い銀の刃が、針の群れを弾き落とした。
「――――!? 武器を引けと言った筈だ!」
「今のは彼女に非があったことは私も理解できる。君の忠告を無視しての行動だ。やむを得ず攻撃をしたのは仕方がない。
だが、私も誰が傷付くのを黙って見ている訳にもいかないのでな。別段、君に刃を向けるつもりはない」
「分かっているならその武器を仕舞うんだ」
取り敢えず、言われた通りに剣を下げる。“消す”瞬間を見せる訳にはいかないので、背後に回してから消す。
「まず、君は何者なんだ? 彼女を庇ったからには君も『管理世界』の住人なんだろう?」
「一つ目の『何者か』と言う質問だが、私は訳あって素性を明かせない。不満に思うは解っているが目を瞑ってくれ。
二つ目の質問だが、私はその『管理世界』とやらの住人ではない。あくまでも私はここの住人だ。彼女を庇ったのは協力体制を敷いているからだ。
『ジュエルシード』と言ったか? あれのせいで私も被害を受けてな。その時に回収に来た彼女と出会い、それから行動を共にしている。自分の住まう地にあのような危険物が在ると知って放置は出来ないだろう?」
「確かに危険物が自分の身近に在ったら放置が出来ないのは理解できる。
でも、本当にそれで君が『管理世界の人間ではない』と言う証明には残念ながらならない。その仮面を外して、名前を明かしてもらいたい」
『仮面を外して、名前を明かしてもらいたい』か……
別段、俺は『次元犯罪』を犯した犯罪者でもなければ、『管理局』と敵対する理由も持っていない。ここで素性をばらしても逮捕とはいかない。
でも、ここで素性を明かすとなのはに俺のことがばれる。それは正直言って避けたい。地球での暮らしで関わる分には問題ないが、“向こうの事“を知っても彼女のプラスになるとは思えない。『ジュエルシード』の件で既に巻き込まれているのに、更に余計なことを知る必要性はどこにもないからな。
なのはは本来、普通の小学生。これを壊すことは誰にも許されない。
「ああ、君の言う通りだな。私が嘘を吐いていないとは限らないからな。だが、こちらにも理由がある。先も言ったが素性は明かせない」
「その理由って言うのは?」
「すまないが答えられない。何故ならそれ自体が答えになるからだ」
「なら、これだけは教えてくれ。君の目的は何なんだ?」
「君の言う『ジュエルシード』の回収。あれによって平穏な日々を暮らしている人々に災いが及ぶのは耐えられん。私にも関係あることだからな」
俺の回答に執務官はどこか安心したようだ。
周りの緊張感は抜けないが。
「君の正体は取り敢えず置いておこう。そっちの君は?」
「…………」
今度は俺の背後に居るフェイトに声を掛ける執務官。
フェイトは黙ったままだ。彼女はここで自分について語らないだろう。"テスタロッサ"の姓は『管理局』などの組織では有名だ。直ぐに足が付く。
こうなったら仕方がない。ここは俺が泥を被るか。
(フェイト、そこの『ジュエルシード』を回収してアルフと一緒に先に引き上げてくれ。
多分、追跡があるだろうから振り切るようにな)
(ア……シロウはどうするの!? もしかして――――)
(ああ、俺はコイツの足止めをする。心配するな、俺一人なら逃げるのも容易だ。
だから、先に二人は引き上げろ)
(で、でも――――)
(早く行け!)
俺はチラッとフェイトを視界の隅に収めて念話を繋げ、この場を離脱するように伝える。フェイトはどうしたらいいか迷っていたが、俺が半ば強引に言い包める。
フェイトは迷いながらも『ジュエルシード』を手に納めた。それを見たアルフが彼女へ近寄って行き、アルフとこの場を離脱しようとする。
「待て!!」
執務官はフェイトとアルフに杖を向けるが、再度俺がその間に立ち塞がって射撃の邪魔をする。
その隙にフェイトはアルフに股がって臨海公園から離脱した。流石は狼、疾風のように去ることは様になってるな。
「また抵抗したな……残念だけど、これで君を拘束する理由は出来た。"公務執行妨害“、これだけでもこちらの名分は十分だ」
「私は君と刃を交える理由はないのだが……ここで捕まってしまったら『ジュエルシード』の回収が出来なくなる。悪いとは思うが抵抗させてもらう」
「『ジュエルシード』の回収は僕らがやる。それを気掛かりに思っているなら、心配しなくていい」
「そう言ってもらえるのは素直に喜ぶべきなのだろうな。
しかし、自身から始めたことを投げ出すのは性に合わない。私は私で『ジュエルシード』の回収をする」
ここでの俺たちの意見は決して交わらない。『執務官』の言うことは理解できる。『法と秩序』を守る。彼もその一人だ。でも、俺にも譲れない物がある。
「なら――――」
「ああ――――」
空気が一変する。話し合いはここまでだ。これからは互いの“技術“を使った争いだ。例えそれが本心で無くとも……。
これで俺は“執行官”と対峙することになる。これは遠回しに『管理局』とも向かい合うことを意味する。
(まあ、些細なことだ。『ジュエルシード』による被害と俺一人。どちらを優先するかなんて考えるまでもない)
俺は腰後ろに手を回して干将・莫耶を投影する。
執行官も杖を構える。
闘志が漏れ始める。闘いの幕が降りるまで……あと僅かだ。
**********************
僕は今、“仮面の人物“と向かい合っていた。これから戦闘になる。事情を訊いた上で解決出来ればこの上なかったけど、そうはならなかった。理由は互いにある。それは僕も同感だ。でも、だからと言ってこっちも引き下がれない。
協力体制を敷いていると言う金髪の少女と、使い魔と思われるオレンジ色の狼の追跡は『アースラ』の方でやってくれる筈だ。よって、僕が今やるべきは目の前の人物の確保。
……にしても、何者なんだ?
相手の正体を探るために一心に視線を向ける。
(赤い外套に、仮面。両手に白と黒の剣が握られていて、左腕には盾を着けているが、どれがデバイスなんだ?
魔力は感じるけど、【魔法】を使っている様子はない。なら、あれらはこの世界の武具なのか? 判らない。判らないけど僕のやることは変わらない。ここで捕らえて話を聞き出すだけだ)
緊張感が漂う最中、動きがあった。
“仮面の人物“は真っ直ぐに僕へ向かって突っ込んで来た。速い! 魔導師でもこの速さはそうそうに居ない。
加速魔法を使って加速しているのかと疑ったが、魔法の発動を感じ取れなかった。向こうの速さは“奴“自身の筋力ゆえのものか、魔力で肉体を強化をしているかのどちらかだ。
防御魔法の『プロテクション』を展開して防御しようと杖を構える。触れた物を弾き返す性質を持った防御バリア。だから、物理攻撃の耐性は高い。
“奴”は守りを見抜いたのか、寸前で僕の左側を回って背後を取るように軌道を変えた。
背後を取った“奴“から白と黒の二連撃が僕の背中を襲い掛かる。振り返らず、斜め前に空へ飛び上がって回避した。
空に停滞して“奴“の様子を伺う。
追撃の一つはしてくるかと思ったが、“奴“はただ見上げている。
「どうした? 追ってこないのか?」
「…………」
反応なし。【魔導師】全員が飛行魔法を使えるわけじゃない。奴もそうなんだろう。
先の動きには驚かされたが、空に上がれないのなら、今度はこちらに分がある。このアドバンテージを最大に使わせてもらおう。
「“スティンガーレイ”!」
杖先を“奴“に突き出すように構えて、そこから無数の高速な“光の弾丸“を発射する。威力はあまり強くない直射型の攻撃魔法だが、その分速さとバリアの貫通性能は折り紙付きだ。対魔導師用としては非常に使い勝手がいい。
そんな攻撃が“奴“の斜め上から雨のように降り注ぐ。
(防御魔法で防ぐならしてみろ。それを貫いて君を襲うぞ!)
僕は“スティンガーレイ”が通ったと思った。この攻撃は迎撃も防御も許さない。無数の降り注ぐ“光の弾丸“を目に捉えることは困難なので迎撃はハードだ。
加えて、防御を貫通するものだからだ。防御も仕切れないだろう。範囲も広めにして放った。例え数発の“光の弾丸“を避けることは出来ても、避けた先にも攻撃は待っている。
それに対して、“奴“は僕の予想を越えた行動をした。降りかかってくる“スティンガーレイ“を“奴“は回避可能の物は避け、その先で体に当たる物は手にした双剣で弾き、
“光の弾丸“と白と黒の二刀がぶつかり合い、ギンギンと音を鳴らす。その度に鉄と鉄が衝突して発生する火花の代わりに、燐光がキラキラと飛び散る。
(なんて……デタラメなことを……)
そんな光景を見て僕は唖然とした。あの速さで撃ち込まれた物を目で捉えて、正確に打ち落としたと言うのか!? そんな芸当が出来る人物は普通ではない。僕の警戒心は一気に上がった。
今度は連射数、速度を上げて放つ。
対して“奴“は疾走しながら回避し、当たる物は打ち落とすの繰り返しだ。
しかし、段々と難しくなってきたのだろう。“奴“は手にしていた双剣を地上に降り注ぐ前の“光の弾丸“の集団を事前に落とすために、空に向けて左右から振り切るように投擲した。その双剣は回転しながら空に密集している“光の弾丸“を落として空高く飛んで行った。
これで“奴“は徒手空拳だ。だが、僕の攻撃はまだ続く。
再度、杖先を向けて、撃ち放つ。今度こそ“光の弾丸“は“奴“に降り注ぐかと思われたが――――次は
(今度はなんだ!?)
慌てて地上に居る“奴“を見据える。
目に映った“奴“の左手には黒い弓、右手に矢を持っていた。
(いつの間に取り出したんだ? それにしてもあの大きさの弓をどこに隠し持っていた? 矢筒も見当たらないし、矢の方もどこから取り出したんだ?)
判らないと、疑問が僕の頭を圧迫する。
が、考えている場合じゃあないと思考を破棄して、再び現実に意識を割く。
戦闘は次の段階へ移行する。
引き続き地上に降り注ぐ“光の弾丸“に対して“奴“は新たな行動を起こした。そう、弓を構えて、こちらの攻撃を迎撃しようとした。その動きには一切の雑念も無く、流れるような動作で複数の矢を同時に弓へ番えさせて引き絞る。
その後、解き放たれた矢は空へ向けて疾駆して、“光の弾丸“と衝突する。その度に空中では夜空に輝く星々のような光華が生み出される。戦いに似合わない美しい輝きが辺りに散乱する。
その光景に僕は言葉を飲んだ。正直に言って魅了された。もしこのように対立していなければ、素直に相手の技術を称賛し、拍手の一つでも贈っていた。それぐらいの技量を“奴“は示した。
(君のような人物が悪人では無いはずだ。弓のことを全く知らない僕でも分かることはある。一切の淀みすら感じさせない清流を連想させる動作は、邪気のある者には出来ないことだ)
ここにきては僕は対峙している人物が悪人ではないと悟った。ただ一人として仮面で顔を隠しているのは以前に次元犯罪に関わっていたからとも思ったが、その可能性は低そうだ。
今もなお、僕の撃ち放つ“光の弾丸“と“奴“の放つ矢は衝突し続けている。僕の方は魔力が続く限り、撃ち続けることは出来るが向こうは違う筈だ。矢はあくまでも実態のある物質だ。数に限りがある筈なのに、全く勢いが衰えない。
それに集中力もだ。魔法は術式を通して発動させるものだが、弓は射る度に指先だけなく、体全体を使う。それにも関わらず、疲労している様子もない。むしろ、こちらの方が魔法の連続行使で疲労が溜まっていくのを待つだけだ。
このまま長期戦なると不利になるのは僕の方だと判断した。
「“スティンガースナイプ”!」
僕は攻撃手段を変える。“スティンガーレイ”とは違い、“スティンガースナイプ”は僕の意思で軌道を変えられる『誘導制御型』だ。
その4発を“奴“に目掛けて真っ直ぐに突き進むように撃ち放つ。“奴“が弓に矢を番えて迎撃をしようとした瞬間に――――密集していた4発は相手を覆い被さる様に広がる。
それを見た“奴“は迎撃を中断してバックステップを取って避ける。でも、この攻撃は相手に当たるまで追いかける! 引き続いて“奴“に食らい付こうと軌道を変える。
「誘導弾か!」
空中にジャンプして4発の“スティンガースナイプ”を自身の下に密集させて、一射線上に収めて迎撃しようとする。そこに、僕は追加に新たな“スティンガースナイプ”を4発を“奴“に放った。これで、空中に居る“奴“の前方と後方からの同時攻撃が可能になった。
いかに優れた弓の技量を持っていたとしても、この状況を引っくり返すのは不可能だ。しかし――――
「
突如として“奴“の周囲に出現した8本の剣が前方と後方に4本ずつに別れ、射出された。剣弾と化したそれらは僕の“スティンガースナイプ”を全てを、自身が砕けるのと引き換えに相殺した。
「―――――――」
これは流石に想定外だ。あの状況を“奴“は凌いだ。それに、今までの戦闘で魔法陣を使っている様子がない。突如として出現した剣、無限にあるように感じる矢。底が見えない。
だけど、僕の攻撃はこれで終わりじゃない。“奴“が“スティンガースナイプ”を迎撃している内に次の魔法を組み上げていた。
“奴“が飛べない以上は重力に引っ張られて空中から地上に落下する。どんな人物であろうと着地の瞬間は動きが止まる。なら、その隙に大火力の一撃を叩き込んで終わらせる。
「“ブレイズキャノン”!」
熱量の伴う大火力の一撃を放つ。それは流星の如く疾駆して着弾した。
地表に衝突したことによって大量の土煙が舞って視界を悪くする。念のために無数の“スティンガーレイ”を降り注がせて、止めを確実にする。これは流石に決まっただろうと確信した。
だが、土煙が晴れるとそこには――――
一体、それほどまでに強固な物をを何処から出したんだ? 物質の転移かと思ったが、僕には判断が付かなかった。どうあれ、“奴“は健在だ。なら再度魔法を組み上げて、攻撃をするだけだ。
「――。――――――――――」
“奴“の口が僅かに動いたが何を言っているのか聞き取れなかった。
もしかしたから、仲間の逃げる時間稼ぎはもう十分だから――――あるいは敗北を認めて投降する、と言っているのかと思って僕は問いを投げた。
「投降するならまず、武装を解いて――――」
「――――たわけ! 躱せと言ったのだ、クロノ・ハラオウン!」
その怒気が含まれたような言葉に、僕は理解が出来なかった。
そんな時に僕の上から白と黒の刃が回転して弧を描きながら到来した。それは先に“奴“が投擲した双剣だった。咄嗟に反応した僕は愛機の『ストレージデバイス』――――S2Uを突き出して、「“プロテクション”!」と、唱えてバリアを張って防御した。
でも、その二撃は硝子を砕くようにバリアを壊した。そして、バリアを突破した二刀は僕の体を掠めた。バリアジャケットは斬られたけど体に傷を負うことは防げた。
『プロテクション』が間に合っていなかったら、今の二刀がバリアジャケットを切り裂き、僕の肉を断っていただろう。気を取り直して僕は体勢を直しながら、“奴“の居る地上に視線を向け直した。しかし、姿が見当たらない。
(しまった! 逃げられたか!?)
そう思って辺りを見回す中で聞こえた。ギギギ、と何かを引き絞る音が――――
それが弓に矢を番えさせる音だと分かった時にはもう遅かった。そう、“奴“は僕より上の空に居た。
けれど、飛行魔法を使っているようには感じられなかった。まさか……あの高さまでジャンプしたのか!? どこまでデタラメな奴なんだ、と考えてる暇なんてなかった。
黒い弓から力いっぱいに引き絞られた矢が解き放たれて、真っ直ぐに僕へ向かって来る。
今度は防御が間に合わない。バリアジャケットを着ているから、余程の威力でなければ致命傷は負わないはずだ。
でも、あの力強く解き放たれた矢ならバリアジャケットを貫通して、僕の体を貫くだろう。矢が僕の目の前に迫った時に――――肉を貫く筈の矢は爆発した。
「うわっ!!」
爆発によるダメージはバリアジャケットのお陰で大して負わなかったが、爆風に押し出されて僕の背後に在った海に叩き落とされた。
「思いのほか時間を取られてしまったな。すまないが少しばかり、季節外れの海水浴でも楽しんでくれ」
追い討ちと言わないばかりに無数の弓が海中に居る僕の回りに撃ち込まれて、順に爆発して海水を掻き回す。それによって人為的に作られた荒れた海水の流れは、僕が海上に出るのを妨害する。
遅れて何とか海上に出た時には、大剣のバリケードは消えていて、“奴“も居なかった。
「やられた……まさか海を使ってくるなんて……」
色々とこちらの予想を越えてくる人物だった。それにしても、疑問が残る。
剣や弓、矢を取り出していた方法が判らない。転送魔法かと思ったけど、魔法陣を展開している様子が無かった。
加えて、僕を正確に射抜くコースを辿っていた矢の爆発。あれは僕を負傷させるのを避けるためだったのか? 「少なくともこちらは自身の身を守るだけで、自分から相手を傷付けるつもりはない」と、言う意思表示だったのか?
(何者だったんだ……“奴”は……)
逃げられただけでは無く、最後の攻撃はわざと外した節がある。手心が加えられていた結果だと言うことが否めない。不意を突いての強襲も勧告してきたんだから……。
一度、目を閉じて思考を切り替える。
公園の隅で僕らの戦いを見ていた白い少女なら知っているかもと考え、事情も訊くため公園に降り立り、彼女へ歩き寄って行った。
次回はなのはたちは『アースラ』へ。士郎たちは今後について話し合いになると思います。
お読み頂きありがとうございましたm(_ _)m