魔法少女リリカルなのは ~The creator of blades~   作:サバニア

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予告通り、温泉回です。当作品では士郎、フェイト、なのはが同じ場所に集まるのが初になる回です。ここを越えた辺りから戦闘シーンが増え始めますね。


では、どうぞ!


10話 海鳴温泉

 日本国内は連休の最中、とある団体を乗せた2台の車が温泉旅館へと向かっていた。

 とある団体とは、一家の大黒柱である高町士郎とその妻の桃子。そして二人の子供たちで上から順に恭也、美由希、なのはたち『高町家』。

 続いて高町恭也の恋人である月村忍、彼女の妹のすずか、その姉妹の家でメイドをしているノエル、ファリンたち『月村家』。

 そこに高町なのはと月村すずかの友人であるアリサ・バニングスと高町家が経営している喫茶『翠屋』で働いている衛宮士郎を加えた計11名。

 

 

 移動している車に乗り合わせている組み合わせは次のような感じだ。

 高町士郎が運転している三列シート式の車には――――助手席に妻の桃子。二列目の右席に美由希、左席に衛宮士郎。最後尾の三列目になのは、アリサ、すずか。

 月村忍が運転している4人乗りの車には――――助手席に高町恭也、後ろにメイドのノエルとファリン。

 

 

 何故、温泉旅館へと向かっているかというと、『高町家』は連休の際には年中無休で営業している喫茶『翠屋』を従業員の皆さんに任せて家族旅行と称し、家族一 同で出かける。加えて、高町恭也と月村忍は恋人同士。『月村家』が同行しているのはそう言うことだ。そんな感じで両家には繋がりもあるので「じゃ、ご一緒に」と、なるのも不思議ではない。

 

 

 アリサが居るのは、恭也の妹であるなのはと忍の妹であるすずかの親友だからだ。学校の登下校もいつも一緒だし、学校内でも彼女たちはよく一緒に居る。楽しい思い出を作るなら親しい友人が多い方がいいだろう。

 

 

 衛宮士郎は高町桃子から声を掛けられてこの旅行に参加していた。彼は『翠屋』で働いているので、高町家とは関わりを持っているし、なのはたち小学生3人組とも知らない間柄ではない。

 忍は『翠屋』のウェイトレスを勤めているため、新人であった士郎の働きを目の当たりにした際は、目が点になった。月村家のメイドであるノエルとファンリは、すずかからウェイターとしての士郎の働きぶりを聞いた時は、唸らされたものだ。

 

 

 そんなこんなで、注目されている士郎は桃子から誘われた。

 折角の誘いを断るのを悪いと思った士郎は、彼女の言葉に甘えて参加することにした。彼にとっても帰郷した理由が体を休めることであったので、丁度いい機会でもあっただろう。

 

 

 高町家と月村家の旅行といっても、観光スポットを回る訳でも、派手なイベントに参加する訳でもない。日々の疲れを癒し、友好を深める慰安旅行のイメージに近いだろうか。

 目的地である海鳴温泉へ移動中の車内は、話が弾んでいた。

 士郎の座る後ろの席からは、なのはたちの楽しげに話している声が生まれている。話題は彼女たちの学校での出来事やこの旅行中はどう過ごそうかなどなど。小学生がよくするような内容だった。

 

 

 対して、士郎は特にすることが無かったので、窓を通して外を眺めて居た。目に映るのは山の緑と青い空。風が髪の毛を揺らし、肌を撫でる。

 

(こうして何処かへ行くのって、いつ以来だろう?)

 

 言葉に漏らさず自分に訊いた。彼の中で緑豊かに青い空といったら、彼女たちの一家が好んでいたあの地方。母娘がピクニックに出掛けていた山々。

 だが、思い出すのを止めた。あの頃と自分は変わり過ぎている。あの頃みたいに、もう暖かい場所以外に関わっているのだからと。

 

 

 ふと士郎は車内に視線を戻す。すると、彼の目に高町美由希が持っているバスケットが映った。バスケットの形状が弁当などの食べ物を入れ物とは少し違っていた。食べ物を入れるというより、玩具などを入れるのに使う感じの物だ。

 興味ありげな士郎の視線に気付いた美由希は、その中身を教える。

 

「ああ、これね。この中にはフェレットが居るの。

 なのはがこの前、預かって来たのよ」

 

「そうなんですか。フェレットかぁ……」

 

「見る?」

 

 美由希は蓋を開けて、士郎へ中身を見せる。そこには彼女の言う通り、フェレットが居た。

 士郎は少しばかり新鮮に思って見詰めていた。彼が世話をしたことのある動物は、アリシアが拾って来た山猫のリニスのみ。だから、珍しい目で観察する。

 

 

 高町家と月村家以外の人物からの視線が気になったのか、フェレットの方も首を上げて、士郎へ目を合わせてくる。

 その様子を見たのか、なのはたちも前の席に居る彼らに声を掛ける。

 

「士郎さん、ユーノ君が気になるの?」

 

「ユーノ君? ああ、フェレットの名前か。

 俺さ、山猫以外に動物を見る機会ってあまり無かったんだよ。だから、ちょっと気になったんだ」

 

「士郎さんって、山猫を飼っていたんですか?」

 

 質問してきたのはすずか。彼女の家には多くの猫が居るからか、山猫の単語に反応した。

 

「昔な……まぁ、正確には俺が飼っていた訳じゃないけど」

 

 二人の後にアリサが続く。

 

「前にすずかの所の猫がユーノを追いかけていたわよね。猫の獲物を狩る本能ってフェレットでも刺激されるのかしら?」

 

「それはどうだろうね……わたしもあの時は少しビックリしたかも。いつもは大人しい子だったから」

 

「あの時は私もビックリした。ユーノ君が全力で部屋の中を逃げ回ってたんだもん」

 

 再び盛り上がって行く三人の会話。旅館に着いたらもっとはしゃぐだろうな、と士郎をはじめとした誰もが感じていた。

 実際、この後も車内には楽しげな声が絶えなかった。旅行の時の移動時間としてはいい感じに過ごせていただろう。退屈とは無縁で、少女たちは車内を過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

 旅館に辿り着くと、恭也、士郎の男手とノエル、ファリンの月村家に仕えるメイドたちは、手分けして荷物を車内から取り出して運んでいった。

 宿の名前は『旅館山の宿』。日本に在る昔ながらの木造で落ち着いた雰囲気の旅館だ。確かにここなら日頃の疲れを癒すにはピッタリな場所だろう。

 

 

 荷物を運び終え、男性陣と女性陣は二手に別れて温泉へ向かおうとしていた。なお、男女比は2:7…………

人数の偏りが一目で分かるぐらいだ。

 

 

 高町夫婦は辺りを散歩してくると言って、夫婦仲良く行ってしまったのでここに居ない。

 早速と、士郎は恭也と一緒に、男湯へ足を向けようとしたとタイミングに、

 

「キュー!? キュー!?」

 

 と、何かの鳴き声が彼らの耳に響き渡った。

 

 

 その主を見つけるために、士郎は視線を鳴き声が聞こえて来た方向へ移動させる。

 そこには、なのはの手の中でジタバタと暴れているフェレットのユーノの姿が在った。

 

(まさか、女湯に入るのが恥ずかしいのか? いや、フェレットだよな、そんな訳はないか。大方、水が嫌いだから抵抗しているんだろう)

 

 猫や犬――――ペットの動物は総じて水が嫌い、と士郎はさして気に止めないで男湯へ向かっていく。

 折角の機会だ。今日はゆっくりと温泉に浸かって日頃の疲れを癒そう。

 

 

 

 

 

「「おお……」」

 

 士郎と恭也の前には点柄の石床に、檜で縁取りされた湯船を薄緑色のお湯が満たしている浴場が広がっていた。

 

「広いですね」

 

「ああ、俺も少し驚いた」

 

 目の前光景に言葉を漏らし、二人は足を進めた。

 最初にかけ湯をして、湯の温度に体を慣れさせる。次に体を洗って、汚れを落とす。

 一通りの行程を終えた二人はゆっくりと湯船へ。

 

「「――――――――」」

 

 身を包む温かさに、自然と息を吐く。全身が弛緩されていき、心が和んでいく。

 ちゃぽん、と水の鈴音がより安らぎを与えてくれる。

 この安楽の地を実感し始めた矢先、

 

「キュー!? キュー!?」

 

「こら、ユーノ!動かないの!」

 

 アリサの声が仕切りの向こう側から響き渡ってきた。ユーノの鳴き声も聞こえることから考えるに、彼女が洗っているのだろう。

 今更ながら、ここで士郎はふと思った。

 

(……動物を温泉に入れるのはありなのか?

 いや、ダメだったら旅館の人に止められただろうから、大丈夫か)

 

 日本には温泉に浸かる動物は少なくない。そのことにも思い至って、士郎は思考を中断した。

 が、程無くしての新しい声が、彼の思考を揺り動かす。

 

 

「お姉ちゃん、背中、流すね」

 

「ありがとう、すずか」

 

 月村姉妹の声。続いて――――

 

「じゃ、私も」

 

「ありがと、なのは」

 

 

 水音の反響に混じって高町姉妹の声も響く。彼女たちの兄である恭也は眉根を動かさずに、平然と温泉に腰を座らせたままでいる。士郎も同様だ。

 恭也は剣術を修め、士郎は剣を握る者――――精神統一はお手の物である。よっぽどのことでない限り乱すことはない。

 

「――――、――、―――――♪」

 

 かすかな誰かの鼻歌が二人の居る領域に侵入してくる。続けて、賑やかな声だったり艶っぽい声なども、恭也と士郎の鼓膜を揺らす。

 どうやら、仕切りの向こうは相当盛り上がっているようだ。別段、親睦をより深めるのに楽しく過ごすのは悪くない。ただ、男子二人は温泉に身を委ねて、心身ともにリラックス出来ると思っていた。

 しかし、このままでは彼らの安楽の地は粉砕され始めるだろう。

 士郎は同じく温泉に浸かっている恭也へ話し掛ける。

 

「……恭也さん」

 

「なんだい?」

 

「出ません?」

 

「……そうだな」

 

 じっとここに居ても、正直言って落ち着かない。予想以上に音の響きが清澄だったのだ。

 士郎と恭也は温泉から立ち上がると、早々に撤退行動を取る。

 とは言っても、旅行はまだまだ始まったばかりだ。時間はまだ十分に残っている。だから、ゆっくりと温泉を堪能するのは後でにしよう。

 そう二人は気持ちを切り替えて、更衣室へ向かった。

 

 

 

 

 士郎と恭也の二人は更衣室で浴衣に着替え、別れた。

 恭也は恋人である忍と団欒のひとときを過ごしに、彼女の許へ。

 一方の士郎は、なのは、アリサ、すずかの3人組が来るのを廊下で待っていた。卓球の相手をして欲しい、と彼は頼まれていたのだ。確かに、タッグ戦のこと考えると、メンバーがあと1人欲しくなるのは判る。

 

 

(――――今はこの旅行を満喫しよう。『ジュエルシード』の方は早めに済ませないといけないけど、あまり根を詰めすぎるのは良くないし)

 

 そう考えながらも、士郎の頭の隅には『ジュエルシード』のことがちらついていた。

 士郎がフェイトと模擬戦をしたあの日、彼女は『ジュエルシード』を集めに来たなのはと遭遇した。その時がくることは想定していたが、起こって欲しくなかったのが彼の本心である。自分の正体をなのはに明かせば、彼女を説得して、『ジュエルシード』から遠ざけることは可能かもしれない。

 しかしそれは、彼女がより【魔法】に関わることになる恐れがある。なのはが【魔法】の深みに嵌まる必要はない。それは同じ地球出身で、【魔法】を知ってしまった士郎が出した結論。自分勝手な理由だとしても、彼女には【魔法】と関わって欲しくないのだ。

 

 

 そして、フェイトの話では、なのはは【魔導師】としてはかなりの初心者らしい。士郎の予想通り、何者かによって巻き込まれたのは確定である。

 因みに、フェイトはなのはとの戦闘の際に『ジュエルシード』を1つ回収。

 これにより現在、士郎が把握している『ジュエルシード』の総数は21個中5個。フェイトが2個、なのはが3個だ。もしかしたら、なのはは他にも回収しているかもしれないが、確認する手段がないので、保留だ。

 

 

 士郎がしばらく待っていると、仲良し3人組は足並みを合わせて歩いて来た。彼女たちも浴衣姿だ。

 彼女たちの姿を捉えた士郎の視線が、なのはの肩に止まる。そこには、ユーノがグッタリとしていた。

 

(一体、何をされたんだ?)

 

 アリサがユーノを洗うことはさっきの声から推察が出来たが、それだけで疲れ果てた姿になるだろうか。

 士郎の内心で小さな疑問に気付く筈のないなのはが、代表して口を開く。

 

「士郎さん、お待たせ」

 

 士郎は以前に、自分と話す時は敬語じゃなくていいと、彼女たちに伝えてある。彼女たちぐらいの子供から敬語で話を掛けられるのに、違和感が彼にはあったのだ。

 

「いや、俺も今来たところだから。で、卓球だよな?

 俺はいつでもいいぞ」

 

「ありがとうございます。

 アリサちゃんもお土産みたいって言ってますし、早速行きましょう」

 

 おっとりとした声で答えのはすずか。これからする卓球を一番楽しみにしているのは、運動神経がよく、スポーツが好きな彼女である。

 早速と言った具合に、すずかたちが卓球台が置かれている部屋を目指して歩き出す。

 その彼女たちの後ろに士郎が付いて歩く。周りから見れば、彼は保護者の立場にあると理解出来るだろう。士郎からそんな風柄がしていた。

 

 

 その途中で赤髪の女性がなのはへ近付いて来るのを、士郎は逸早く気付いた。

 それは彼の知っている顔だった。何故、ここに居るのか? 士郎が理由を念話で訊こうとタイミングで、向こうから先に来た。

 

(あれ? なんでシロウが居るんだい? あ、話は後で。今はこっちのチビッ子が先だから)

 

 赤髪の女性――――アルフは士郎からの返事を待たずに、なのはへ接近していく。

 声が届く距離になると、彼女は肉声で話しかけて始める。

 

「はぁ~い、オチビちゃんたち♪」

 

 あたかも知り合いような陽気な声を出して、アルフはなのはへ歩き寄って行く。そのまま近距離まで詰めると、なのはを見詰める。

 先の声色に反して、目は愉快げではなかった。

 

「ふむふむ。君かね。うちの子とアレしてくれちゃってるのは」

 

「え? え?」

 

 脈の無いアルフの話に、なのはは戸惑った。無理も無い。アルフの方は相手を知っていても、なのはは知らない。加えて、敵意が含まれた視線を向けられれば、なのはでなくとも同じ反応をするだろう。

 

「あんま賢そうにも、強そうにも見えないし。ただのチビッ子にしか見えないんだけどなぁ……」

 

 更にズイッとアルフがなのはへ踏み込もうした時に、アリサが二人の間に割り込んで、赤髪の方を睨み付ける。

 

「なのは、この人とお知り合い?」

 

「う、ううん」

 

 アリサの確認になのはは頭を左右に振って否定する。

 

「この子、アナタを知らないようですが、どちら様ですか?」

 

 逆に訊かれたアルフは一瞬、ニヤリとした表情を浮かべる。だが、視線はなのはへ向けられているままで、視線に含まれている敵意も変わらない。

 

「どちら様は知りませんけど、彼女の言う通りだと思いますよ。この子も知らないようですし、人違いかと」

 

 彼女たちのやり取りを後ろで見ていた士郎が、ここで動いた。穏便に会話が進むならば、彼は口を挟もうとしなかった。

 士郎はアリサの肩に手を当てて、敵意ある視線を塞き止めるべく、自身が前に立つ。

 それから目で訴える。“その物騒な視線は止めろ”と。

 

「う~ん、言われてみるとそうかもね。ごめんね、知ってる子によく似てたからさ」

 

「なんだ……そうだったんですか」

 

 打って変わったアルフの様子に、なのはは胸を撫で下ろした。

 

「いきなり声をかけちゃって悪かっね。さぁって、あたしはもうひとっぷろ行ってこようっと」

 

 何事も無かったように、アルフは士郎の隣を通り、なのはの横を通り過ぎて行く。

 その瞬間、彼女は士郎に聞こえない“声”をなのはへ飛ばす。

 

(今のところは挨拶だけね。忠告しておくよ。子供はいい子にしてお家で遊んでなさいね。お痛が過ぎると、ガブっといくわよ)

 

 突然の念話を受信したなのはは、振り返ってアルフの後ろ姿を見る。

 そのことにアルフは気付いているだろうが、彼女は振り向きもせず、そのまま廊下を歩いて行った。

 

(ユーノ君、今のって――――)

 

(うん、多分――――)

 

 今度はなのはとユーノの間で念話が繋がる。

 この前、自分が戦った相手の協力者だと思い至った二人は、念話続けようとしたが――――

 

「――は? なのはってば!?」

 

「えっ? な、何、アリサちゃん?」

 

「大丈夫? 今、固まってたわよ。

 それにしても、今のなんなのよ! 腹立つ~」

 

「落ち着いて、アリサちゃん」

 

 現実に引き戻されたなのはは庇ってくれたことに感謝しつつ、アリサを静める。

 同時に、前に出てくれた士郎にもその気持ちをつたえる。

 

「アリサちゃん、士郎さん。さっきはありがとう」

 

「友達なんだから当たり前でしょ」

 

「別にお礼を言われる程のことでもないぞ。

 あと、あまり気にするなよ?」

 

 口ではそう言っている士郎だが、視線を進んできた反対方向へ向ける。

 

「ゴメン、先に行っててくれ。財布を更衣室に忘れたっぽい」

 

「えぇ!? それって大変なことなんじゃ……」

 

「いや、大丈夫だろ。まだそんなに時間は経ってないし、直ぐ戻るからさ。すずかたちは心配しなくて大丈夫だ」

 

 士郎は走らず一歩一歩、アルフが居るであろう場所へ向かって行った。

 遠ざかって行く士郎の後ろ姿を見たなのは、彼がいつもとは何が違うような気がしていた。

 

 

 

 

 アルフを追い掛けた士郎は、休憩スペースに在る自動販売機でジュースを買いながら、彼女と念話を繋いで居た。なのはとのやり取りに文句の一つは言おうかと迷いはしたが、アルフがここに居る意味の方が彼には重要だった。

 アルフが居るということは、彼女の主であるフェイトが居ることを示す。二人はなのはみたいに旅行へ来ている訳でないことは、吟味するまでもなく事実だ。彼女たちが“地球”を訪れた理由は『ジュエルシード』の回収なのだから。

 

(先の質問だけどさ。よくよく思い出して見れば、何処かに出かけてくるとは言ってたっけ?)

 

(……その反応だと忘れてたな、アルフ。ここに居る理由はアルフの言う通りだ。

 じゃあ、次はこっちな。アルフがここに居るってことはフェイトも居るのか?)

 

 念のため、士郎は確認を取る。アルフはフェイトと行動を共にすることが多いが、たまに手分けをして捜索に当たっていることもあるからだ。

 

(正解だよ、フェイトも近くに居る。この付近でジュエルシードの反応が在ってね。まだ未覚醒状態みたいだから、細かいポイントは判らないけど)

 

 フェイトが居るのは正解だった。正否を確かめたと共に、看過できない事柄が混じっていた。それは、『ジュエルシード』が近くに在るという話だ。

 士郎は心の声を固くして、詳細を訊く。

 

(それって……いつ頃に覚醒するか解っているのか?)

 

(うーん……多分、夜だよ。少なくとも昼間はないね。覚醒するまでには、今よりかはポイントを絞るようにはするってフェイトも言ってたよ)

 

(フェイトと話がしたいけど、俺は相手の居場所が分からないと念話が出来ないし。具体的には念話を繋ぐ時に相手を視界に納めないと)

 

(まぁ、あたしはシロウがここに居るって分かったからさ。もしもの時はこっちから迎えに行くよ)

 

(頼む)

 

 最低限の確認をして、念話を終了をする。アルフはさっき言っていた通りに温泉へ向かい、士郎はなのはたちへのお詫びのジュースを買い揃え、休憩スペースを後にする。

 

 

 今の念話で士郎の警戒心は一気に跳ね上がった。『ジュエルシード』が近くに存在する。彼はそのことに全く気付いていなかった。彼は空間の異常に敏感であっても、素での魔力感知には疎い。だから、見落とした訳ではないのだが、それで士郎は気を収められなかった。

 

(『ジュエルシード』の覚醒は夜……か)

 

 歩きながら士郎はアルフから得た情報を確認していた。人が寝静まる夜なら目撃者の心配は薄くなるので都合はいい。士郎の視力を持ってすれば、月が雲に覆われ、暗闇に視界が閉ざされても障害にはならない。だが、使い魔であるアルフはともかく、フェイトには月明かりぐらいは無いと影響が出るだろう。

 『ジュエルシード』は『ロストロギア』だ。各々、何が起こっても対処出来る環境が望ましい。天候に関しては操作しようが無いので、自然に任せるとしても、それ以外のことは自分たちで手を打つことになる。

 

 

 士郎に力が籠る。今夜で『ジュエルシード』を目撃は2回目になるが、覚醒をする現場を実際に見るのは初めてだ。

 1回目は既に裏山の中にクレーターが出来ていた。人的被害は無かったものの、それがずっと続くなんて軽率な判断は出来ない。今日の封印は、判断材料としての価値も高くなってくるだろう。

 

「あんなことだけは……二度とご免だ……」

 

 唐突なコトの巡りにか、あの“地獄”が脳裏に浮かんだ。あの時もそうだった……何事も無かった平穏が、なんの前触れも無く崩れ去った。

 人為的災害でなくとも、同じようなことが起こるのだけは、防がなければならない。それは、生き残った衛宮士郎が、自身に課した責任であった。

 

 

 

 

**********************

 

 

 

 

(もしもし、フェイト? 聞こえるかい?)

 

(聞こえるよ)

 

 森で『ジュエルシード』を探していた私に、アルフから念話が届いた。

 私たちの間にはそれなりの距離が開いている思うけど、“契約”で繋がっているから結界で遮断でもされない限り問題無く行える。

 

(見てきたよ、シロウの知り合いの白い子)

 

(……どうだった?)

 

(まぁ、大したことないね。フェイトの敵じゃないよ)

 

(そう。こっちも進展があったよ。『ジュエルシード』の位置が大分絞り込めた。今夜には回収できそう)

 

(さっすがあたしのご主人様だよ、フェイト♪ こっちもいい知らせが有るよ。シロウがここに居る。ただ、今は白い子と一緒にね)

 

(…………え?)

 

 一瞬だけど、気を取られた。

 いい知らせと言えばそうだけど……ちょっと不味いかもしれない。

 

(アルフ、シロウは“ここに”って言って無かったよね?」

 

(ごめんね、フェイト。そもそもあたしはシロウが出かけるってこと自体忘れてたからさぁ……)

 

(せめて、シロウと念話が出来れば……)

 

(あ、それはシロウも言ってた。まぁ、相手の居場所が判らないと念話が繋がらないもの無理はないよね。フェイトとあたしみたいに精神リンクしてないし)

 

(それはそうなんだけどね……どうしよう……)

 

(取り敢えず、フェイトはそのままで居なよ。あたしシロウの居場所に近いし、もしもの時はフェイトの所に連れて行くからさ)

 

(ありがとう、アルフ。じゃあ、夜に落ち合おう)

 

(はーい)

 

 アルフとの念話を終えた私は、木の枝に立ちながら周囲を見渡して居た。

 探索魔法で次のターゲットの『ジュエルシード』が在る大体の場所は絞れたけど、ピンポイントじゃない。

 でも、封印することを考えると、これ以上の魔力消費は避けたい。あとは地道に探すしかない。

 

 

 それに加えて、もう一つの朗報がアルフから伝えられた。それは、シロウがこの近くに居ると言うこと。正確には旅館に例の白い子と一緒に居るらしい。シロウが出かけること聞いていたけど、ここに居るなんて思ってもいなかった。それも、白い子と一緒なんて――――

 

 

 たまにだけど、シロウは大切なことを言い忘れていると思う。シロウの中じゃ大したことじゃないから今回のことは誰と何処に行くのか伝えなかったのかもしれないけど、結果としては色々とタイミングが悪い。

 もし、『ジュエルシード』の封印の際に、シロウのことが向こう側に知られてしまったらと後々の二人の関係が崩れてしまうかもしれない。

 彼はあくまでも協力者。ここ(地球)での生活は大切だろうし、何よりシロウの生活環境は壊したくない。

 

 

 本来なら、こうして頼っている時点でダメだと思う。でも、シロウからしてみれば、自分の暮らしている場所で災害が起こるかもしれないと判断したから、その可能性を取り除くためにこうしてくれているんだと思う。

 確かに、シロウは強い。私も強くなったけど、彼には及ばない。だからと言って、頼りすぎるのは良くない。

 取り敢えず、今は『ジュエルシード』の場所を特定しよう。白い子が『ジュエルシード』の封印に来る前に私たちが回収してしまえば、シロウには負担がかからないから。

 そう決めて、私は木から飛び降りた。

 

 

 

 

 

 ――――――夜になった。

 夜空には星々と月が輝いている。森の中で街灯はないので辺りを照らしているのは月明かりのみ。でも、視界を得るにはそれだけで十分。

 

 

 そして、橋がかかっている川の中にそれは在った。母さんが探している『ジュエルシード』だ。

 今、私は橋の上に立って、アルフがシロウを連れてくるのを待って居た。覚醒までは少しだけ時間が有りそうだったのでまだ大丈夫。

 

 

 暫くすると、スタッと橋に着地する音が私の耳に届いた。

 音がした方を見ると、アルフとシロウの姿が在った。

 

「悪いな……ほとんどフェイトに任せちゃったな」

 

 着いて早々と申し訳なさそうな声で話しかけてくるシロウ。

 

「元々私たちのことだから。シロウは気にしなくていいよ。それより、抜け出してきて大丈夫だったの?」

 

「ああ、大人たちは酒盛りしてたし、子供たちは寝に入ってたし。皆それぞれ夜を過ごしてるさ。

 で、アルフから『ジュエルシード』が見つかったって言われて来たんだけど、どうだ?」

 

「まだ覚醒してないよ。取り敢えず、準備だけでしておいて」

 そう言ってシロウに準備をするように促す。

 すると、シロウの服装が変わった。私と模擬戦の時に着ていた赤い外套に、仮面とカツラが一体になった物で顔を隠す。

 

「シロウのそれは便利そうだね。魔法じゃあ、フェイトに劣るって言ってたけど、それはそれでいいものなんじゃないかい?」

 

「見方によってはアルフのように考えられなくはないけど、俺には“これしか出来なかった“って言うのが正しいかな」

 

「アルフ、シロウ。そろそろ『ジュエルシード』が覚醒するみたい」

 

 私の言葉に緊張が走る。

 私たちがジュエルシードに意識を集中させると、空に向かって光の柱が伸び出した。これが『ジュエルシード』の覚醒。膨大な魔力が空気を伝って感じられる。

 

「うっはー。凄いねぇ、こりゃあ。これがロストロギアのパワーってやつ?」

 

「ずいぶん不完全で、不安定な状態だけどね」

 

「魔力感知があまり得意でもない俺でもここまではっきり感じられるほどの魔力量だな。『ジュエルシード』……これを放置するのは危険過ぎる」

 

 感嘆な声を出すアルフ。

 対して、シロウは驚きとジュエルシードの危険性を認識した声を出した。

 確かに、魔力量も凄まじいし、危険性を感じ取るのも可笑しくないと思う。

 

「あんたのお母さんは、何でこんなもんの欲しがるんだろうね?」

 

「アルフの言うとおりだ。何でこんな物をプレシアは探しているんだ。明らかにヤバイ物だぞ、これは」

 

 二人が疑問を口にする。

 でも、私はそう思わなかった。

 

「さあ、判らないけど、理由は関係ないよ。母さんが欲しがってるんだから、手に入れないと」

 

「…………」

 

 シロウは黙って『ジュエルシード』を見つめている。その眼は正体不明の物を見極めるように鋭いものだった。

 剣を手にしている時とも、弓を手にしている時とも違って、目の前に在る物を警戒しているのがはっきりと解る眼だ。

 

「フェイトは封印の準備をしなよ。

 あとシロウ。例の白い子が来るだろうけど、あんたの呼び方はどうするのさ? 名前を呼んだから変装の意味がないと思うだけどねぇ?」

 

「あれ? 言って無かったか?」

 

 シロウは既に言っていたつもりだったみたい。

 アルフが指摘してくれたけど、私たちは聞いていない。

 このままじゃあ、シロウのことがバレちゃう。でも、シロウは直ぐに自分の呼び方を私たちに伝えてきた。

 

弓使い(アーチャー)って、呼んでくれ。悪い、すっかり言ったつもりでいた」

 

「それって弓兵って意味かい? なんで――――あ、そう言えば、フェイトが『シロウの弓は百発百中だよ』って前に話していたような……」

 

「そう言う感じだ。じゃ、行動開始だな」

 

「うん……バルディッシュ、起きて」

 

「Yes,sir.」

 

 私の命令に応じて、バルディッシュは『スタンバイフォーム』から『デバイスモード』になる。更にそこから『シーリングフォーム』に移行する。

 

「アルフ、サポートをお願い」

 

「あいあいさー」

 

 アルフにサポートをしてもらいつつ『ジュエルシード』の封印をする。

 

 

 

 問題なく封印を終えて、私がそれを手にしたのとほぼ同時にシロウの知り合いの子が姿を現せた。

 白い制服のようなバリアジャケットを身に纏い、赤い球体が中央に置かれた杖のようなインテリジェントデバイスを手にしている。

 その彼女の肩にはイタチの一種に見える動物を乗せていた。

 

「あーらあらあらあら――――」

 

「!?」

 

 愉快そうに声を出すアルフの姿を見て、少女は愕然としていた。

 

「『子供は良い子で』って言わなかったっけ?」

 

「それを――――ジュエルシードをどうする気だ!それは……危険な物なんだ!」

 

 少女の肩に乗っかっているイタチが声を上げる。アルフの挑発に臆することなく、真剣な声で語り始めた。

 アルフと同じ使い魔って私は考えたけど、もしかしら変身魔法で姿を変えてる魔導師かも。もし、そうなら、あのイタチが彼女を巻き込んだ張本人だと可能性も上がってくる。

 

「さあねぇ、答える理由が見当たらないよ。それにさぁ……あたし、親切に言ったよねぇ? 良い子でいないと――――カブッといくよって」

 

 アルフの髪の毛が逆立ち、爪は獲物を狩る物のように鋭くなり、人形からオレンジ色の毛色を持った狼の姿に変わる。これがアルフの本当の姿。

 

「やっぱり、あいつ、あの子の使い魔だ」

 

「使い魔?」

 

 イタチの言葉に、耳の傾ける少女。でも、手にしている杖からは意識を抜かず、アルフに向けている。使い魔と言う単語を疑問に思っている時点で彼女は使い魔のことを知らない。

 つまり、あのイタチは変身魔法で姿を変えている魔導師であるのがほぼ確定だ。

 

「そうさ、あたしはこの子に創ってもらった魔法生命。制作者の魔力で生きる代わりに、生命と力の全てを掛けて守ってあげるんだ」

 

 使い魔の存在を自身で告げるアルフ。でも、その戦闘体勢は崩さない。相手に向かって突っ込もうしたけど、後ろに居たシロウに声を掛けられて、止まった。

 

「待て、アルフ。私は彼女たちに訊きたいことがある」

 

「なんだい、アーチャー? 話すことなんてないと思うんだけど?」

 

 シロウとアルフが芝居を打つ。シロウと私たちは直接的な仲間ではなく、協力体制を敷いているように見せる。

 

「そこのフェレット、君が『ジュエルシード』を持ち込んだ本人かね?」

 

 いつものシロウとは違って優しさの一切が含まれない声色だった。ただ、冷淡に質問を相手に投げる。

 

「はい、ユーノ・スクライアと言います。アナタは?」

 

「私はアーチャーと言う。何、私も『ジュエルシード』の危険性を察知したのだよ。このままでは周囲に被害が及ぶ可能性があったのでな、放っておく訳にもいかなくてね。

 そんな時に、回収している彼女と出会ったのだよ。安全性を上げるならば、協力体制を敷くのが効率的と判断したから行動を共にしている」

 

「……!? アナタも『ジュエルシード』の危険性を認識しているんですね? なら――――」

 

「そちらとも協力しないかと言うつもりか?悪いが、それは拒否する」

 

 キッパリと相手の提案を否定する。少しだけど、シロウが苛立っているような感じがした。

 

「何故ですか?」

 

「むしろ何故、そちらと協力をしなければならない? そちらの少女の様子からして、本来ならこのような荒事には関わらないはずの一般人なのだろう。

 しかし、君と共に『ジュエルシード』を封印をするべく、行動を共にしていると見て取れる。つまり、君が彼女を巻き込んだのと予想が付く。

 無関係な少女を巻き込むような人物に協力する? 馬鹿を言うな。そのような人物は協力するに値しないな」

 

「…………」

 

 先とは違い、黙り込むイタチ。これでジュエルシードを探して彼女を巻き込んだのは確定。でも、彼女は━━━━

 

「アーチャーさんの言う通り、始めはそうだったかもしれません。でも、今は違います! 私は自分の意思でジュエルシード集めをしています!」

 

 彼女は自分の意思を告げる。真っ直ぐな目は明確にそれを表していた。強制されている訳じゃない。ただ、自分がやりたいからやってるだけと。

 

「だとしてもだ。このようなことに関わって、怪我でもしたらどうするつもりなのかね? 君は――――」

 

「アーチャー」

 

 アルフが止める。

 

「話しても何もならないよ。こっちもむこうもジュエルシードを集めてる。なら、戦うのは当たり前だとあたしは思うんだけど?」

 

「……君の意見は一理ある。確かにこのままでは進展しないな。少々手荒になるが、君たちはこのままジュエルシード集めをするのであれば、私たちと刃を交えることを覚えておきたまえ」

 

「待ってくだ――――」

 

 ユーノと名乗った魔導師が言葉を言い終わる前に、彼女の前に数本の矢が突き刺さっていた。射ったのはシロウ。いつの間にか、彼は左手に黒い弓を手にしていた。

 

「次は外さん。これ以上はジュエルシードに関わらないことだな」

 

「それは出来ません。私もジュエルシード集めを止める訳にはいかないんです」

 

「そうか……ならば――――」

 

 押し殺したシロウの声。当てるつもりなんて元から無いし、彼の腕なら狙いが狂うことは絶対に無い。けど、知り合いに武器を向けるのが脅しの芝居でも苦しい筈。

 だから、シロウを止めた。

 

「待って、アーチャー」

 

「なんだね? まさか、協力体制を向こうと敷くと言うつもりか?」

 

「違う」と、言ってシロウの前に立って彼女に声をかける。

 

「一騎討ちで勝負しよう。互いに『ジュエルシード』を一つずつ賭けて、勝った方が相手の『ジュエルシード』をもらう」

 

「フェイト!?」

 

 アルフが振り向いて驚く。うん、アルフの思うことは分かるよ。でもね、シロウにはあまり戦って欲しくないんだ。それも知り合いが相手なら尚更ね。

 私はアルフと視線を合わせる。念話をしなくても、私の気持ちは伝わったみたい。

 

「フェイトが決めたなら、あたしは止めないよ」

 

 向こうは――――

 

「分かった。そうしよう」

 

「なのは!?」

 

「いいの、ユーノ君、心配しないで。

 もし私が勝ったら……あなたの戦う理由を詳しく教えてくれる?」

 

 私は無言で頷く。

 すると、彼女は戦闘体勢に入る。

 シロウも弓を下ろして、アルフと一緒に私の後ろへ下がる。

 

「フェイトなら余裕だよ。ちゃちゃっと済ませちゃいなよ」

 

「……無理はするなよ、フェイト」

 

 二人の応援を背に、バルディッシュを構えてして対峙する。形状は斧。『サイズフォーム』にはしていない。向こうも、両手で杖の柄を握っている。

 

 

 

 先手を取ったのは私。補助魔法の『ブリッツアクション』を用いて、高速で移動して相手の背後を取る。

 背後を取った直後に斧を上から降り下ろす。でも、その一撃は、頭を落とすことで回避された。二撃目に左から斧を振るうけど――――

 

「Flier fin.」

 

 彼女のデバイスから魔法の発動を知らせる音声が流れ、靴に翼を生やして、真上に飛翔して二撃目も回避された。

 思っていたより攻撃に対する反応がいい。私も自分に飛行魔法を施して、追いかける。

 

「Photon lancer,Get set.」

 

 追いかけながら、4基のフォトンスフィアを自身の周囲に展開して打ち出す。

 

「Protection.」

 

 しかし、打ち出された4発は白い子の前方に張られたバリアによって防がれた。でも、それで一瞬動きが止まった。その隙に背後を取り、斧を降り下ろす。

 今度は杖の柄で受け止められた。互いに力を抜かず、つばぜり合いが続く。

 

「負けない……勝ってお話を聞かせて貰うんだもん」

 

「…………」

 

 つばぜり合いを解いて、互いに距離を取る。

 

「Thunder smasher.」

 

 左手を前に突き出し魔法陣を展開して、雷撃を纏った砲撃を打ち出す。

 

「Divine buster.」

 

 対する向こうも杖を突き出して、砲撃を発射して対抗してくる。2つの砲撃魔法が衝突し、拮抗する。

 その衝撃波は空気を振動させ、魔力同士の激突の凄まじさを周りの者たちに伝える。

 

「レイジングハート、お願い!」

 

「All right.」

 

 彼女の意思に答えるように、魔力量が上昇して、砲撃の出力が上がる。火力が上がった一撃は私のサンダー・スマッシャーを撃ち抜いて、私を飲み込もうと真っ直ぐに向かって来る。

 

「なのは……強い」

 

 確かに、この一撃を見たらそう自然と言葉を漏らすのも理解できる。私も少し驚いた。でも――――

 

「でも、甘いね」

 

 アルフがその言葉を出したユーノに言い放つ。

 そう、砲撃の撃ち合いでは押し負けたけど、勝負に負けた訳じゃない。

 

「Scythe slash.」

 

 光に飲まれる寸前に私は月を背にするように上がっていた。そして、バルディッシュに鎌を展開して、相手の頭上から斬りかかるために接近する。

 

「なのはーーーっ!」

 

私の動きに気付いて、声を上げて迫り来る危機を伝えようとするユーノ。

 

「……あっ」

 

 その声が届いて気付いたようだけど、もう遅い。既に私の間合いだ。

 鎌を少女の喉元に突き付けて止める。これで私の勝ち。

 

「Put out.」

 

 彼女の杖から『ジュエルシード』が1つ、排出された。

 

「レイジングハート、何を!?」

 

「きっと、主人思いの良い子なんだ」

 

 排出された『ジュエルシード』を私は手にする。勝負が付いた私たちは静かに地上に降りる。

 

「用は済んだ、帰ろう」

 

 ジュエルシードを賭けた勝負は終わった。これ以上ここに留まる理由はない。

 体を翻してアルフとシロウのもとに歩き寄る。

 

「フッフフ……さっすがあたしのご主人さま♪」

 

 アルフは陽気な声で私の勝利を称賛してくれた。

 

「なかなかやるな、フェイト。協力者としては申し分無い力量だ」

 

 シロウは感情の薄い声だった。私の故郷の『アルトセイム』で練習相手をしてくれていた時のように誉めてくれないのが少し残念だったけど、今は仕方ないと割り切る。

 立ち去ろうした私たちにあの子は声をかけてきた。

 

「待って!」

 

 足を止めて、私は言い返す。

 

「出来れば、私たちの前にもう現れないで。もし次があったら、今度は止められないかもしれない」

 

「名前……あなたの名前は?」

 

「フェイト――――フェイト・テスタロッサ」

 

 名前を告げ、再び足を進める。飛び上がった私を先頭にシロウとアルフも続いて立ち去る。

 

「バイバイ♪」

 

「……君はこのようなことに関わる必要は無い。『ジュエルシード』の回収はこちらに任せることだ。

 私も、あれによって誰かが傷付くのは見たくないからな」

 

 

 

 私たちがこの場を去ろうしたことに合わせたように風が吹いた。

 それに乗るような感じで、私たちはこの場を後にした。

 




えっと、次の更新ですが、最速で次の日曜日になります。少し用事が出来たもので……
また自分の身に何か起きました活動報告の方に載せます。

お読み頂きありがとうございましたm(_ _)m

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