魔法少女リリカルなのは ~The creator of blades~   作:サバニア

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初の戦闘描写が入ります。やっぱり難しいものですね……イメージの文章化か……

あと、ドライの単行本8巻を購入して久々に美遊兄の固有結界を見たのですが、熱くなったと同時にやはりどこか悲しくなりました。あの風景がと思うとね。
自分も固有結界の回は早く書きたいのですがまだまだ先になるのが……まぁ、コツコツと進めて行きます

では、どうぞ!


9話 交差

 ━━━━━ある日の早朝。

 

 士郎、フェイト、アルフは人気(ひとけ)がないとある空き地に来ていた。

 目的はフェイトとの模擬戦。本人から力試しをしたいと士郎は頼まれていたのだ。

 周囲にはアルフが結界を張ってくれているので、住民を心配する必要はない。

 

 

 士郎が手にしているのは黒と白の双剣――――干将・莫耶。

 身に纏っているのは“彼”と同じ赤い外套――――『赤原礼装』と言うとある聖人の聖骸布である。これは外界に対する一級の“守り”で着用者を守る。

 左腕にはオーバル型の盾となった『インテルジェントデバイス』のウィンディア。

 バリアジャケットは展開していない。どちらかと言うと、『赤原礼装』の方が士郎にはしっくりくるからだ。ベルたちとの“仕事”ではバリアジャケットを着ること時もあったが、あれはバリアジャケットの展開に慣れる意味合いが強かったのだ。

 双剣の他に、偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)などを使う気は元々ない。あれらの宝具は強力過ぎるから、模擬戦では使う訳にはいかない。

 

 

 フェイトの方はジュエルシード回収時にも着用していたのと同じバリアジャケットに、戦斧型の『インテリジェントデバイス』のバルディッシュ。

 

 

 準備が両者出来たところで、アルフが模擬戦開始の合図を告げる。

 

「じゃあ、模擬戦開始! フェイト、頑張って!」

 

「行きます、シロウ」

 

「何時でもいいぞ。来い、フェイト」

 

 バルディッシュからガコンと音が空気を叩く。ヘッドが本体と直角に展開され、先端から金色の魔力刃が形成される。

 

「Scythe form.Set up.」

 

 モード切り替えを告げるバルディッシュの声が響いた。フェイトは魔力刃が形成されて"鎌"のような形態になったバルディッシュを構える。

 彼女が一歩前に踏み込んだと思ったら、その姿が士郎の視界から消えた。いや、ただそう見えるぐらい超高速で動いているのだ。士郎は自分の左側を通って背後に回って行くフェイトの軌道がはっきりと捉えていた。

 

 

 フェイトの右側から繰り出された横一閃を、士郎は即座に振り向いて、左手に納めている漆黒の刀身を持つ干将で受け止める。その衝撃はしっかりと全身に伝わる。

 

「へー、フェイトの『ブリッツアクション』に反応するんだ。あの速度で移動したフェイトの姿を捉えることが出来る奴はそうそうに居ないんだけど。

 フェイトの言うことは確かみたいだね」

 

(速いし、いい一閃だ。アルフの言う通り、今の軌道は誰もが簡単に見える物じゃないな)

 

 受け止められたことにフェイトが驚いている様子はない。防がれたと認識した瞬間には自前の機動力を生かして、士郎から距離を取るべく空へ上がって行く。

 士郎も魔力で足場を作りながら、フェイトを追うために空へ駆け上がって行く。

 

「Photon lancer Get set.」

 

 フェイトの周囲にフォトンスフィア(発射体)が4つ展開される。

 

「ファイア!」

 

 フェイトの号令に従い、フォトンスフィア(発射体)から、雷の帯びた槍のような魔力弾が士郎に向かって打ち出された。その攻撃は直線に打ち出された物だが、瞬きをさせる暇も無いぐらいの高速で襲ってくる。

 これはフェイトの最初に修得した魔法――――フォトンランサーだ。士郎も以前に何回か試し撃ちの相手をさせられた。今のそれは当時の物より多く、格段に速くなっている。

 

 

 ――――けれど、彼には追い切れる。

 空を駆け上がって行く胴体を中心に向かって連続で到来するフォトンランサーを、駆け上がりながら双剣で切り払い、打ち落としていく。

 これにはフェイトも少し驚いたようだ。恐らく、動きを止めて、防御魔法で防ぐとでも予想していたのでだろう。

 確かに、シールドなりを展開して防ぐなら難しくない。直線で攻撃が来るのは判っているのだから、守りを固めればいい話だ。

 

 

 だが、打ち落とすなら話は別になる。

 向かってくる物を"防ぐ"のではなく"打ち落とす"。実行するには、攻撃の動きを完璧に把握し、タイミングを合わせることが大前提。加えて、速い物となるほどに難易度は跳ね上がる。

 

 

 士郎がやったのはそう言うことだ。

 彼本来の戦い方は防御を重視し、相手の隙にカウンターを斬り入れること。繰り出すには、その動きを見切らなければ出来ない。

 “見切り”を可能にするには目の良さも重要な要素だ。一連の動作は士郎の目の良さが有って実現が出来たことでもある。誰もが真似出来ることではないだろう。

 

 

 フェイトはフォトンランサーが通用しないと判ったのか、今度は左手の手の平を士郎へ向ける。

 

「Thunder Smasher.」

 

 バルディッシュの魔法を発動する声に続いて、砲撃が発射された。その一撃は光の息吹きの如く、士郎へ迫っていく。

 流石にこれを切り落とすことは不可能と判断した士郎は、パートナーに合図する。

 

「ウィンディア!」

 

「Wind Shield.」

 

 左腕に装着されている盾を前に構えて、その上から"風の層"を展開させて砲撃を四方に受け流す。

 砲撃が終わりフェイトの姿を視界に収めようと目を向けるが――――

 

(居ない? どこだ?)

 

 今のは砲撃は士郎の動きを止めて、視界から消えることが狙いの目眩ましだったみたいだ。

 士郎は周囲に目を向けて探すが見当たらない。

 

「Arc Saber.」

 

(上か!)

 

 空を見上げる。士郎の目には、鎌を振り下ろして三日月状の刃をブーメランのように飛ばしてくるフェイトの姿が映る。

 向かってくる“刃“を切り落とすために、干将・莫耶により魔力を通して“強化”を施す。

 

 

 が、迎撃しようした瞬間に――――

 

「Saber Blast.」

 

 三日月状の刃は爆発した。爆風が士郎を襲うが、大したダメージは負わなかった。

 理由は干将・莫耶。これらは二つ揃いで装備すると、対魔力と対物理の耐性が上昇するのだ。この程度の爆風ならさして気にすることではない。問題は爆煙で視界が奪われたことだった。

 

(なるほど。俺の目を封じる戦法で来たか)

 

 爆煙の中に居ては不利なので、士郎は即座に空を走って爆煙の中から出る。

 その行動が相手の思う壺だと言うことは承知の上だ。予想通り、爆煙から出たところで襲撃があった。

 

「ハァァァッッ!」

 

 加速と重力が加算された鎌の一撃が士郎の頭上から振り下ろされる。手にしている左右の剣を交差させて、その一撃を受け止める。刃が交わってギィィンっと音が響く。

 この模擬戦の中で一番重い一撃。衝撃が爪先まで伝わった。フェイトはそのまま士郎を地上に叩き落とすために、更に力を込めてくる。彼は全身に強化を施して耐える。

 

「いい戦法だ、フェイト。

 でも、俺の手札が双剣だけじゃないことは知ってるだろう?」

 

「Air Slash.」

 

 ウィンディアの言葉と共に士郎の周囲から6つの"風の刃"がフェイトへ向かって飛び出す。

 咄嗟にフェイトは士郎から距離を取る。その速さは彼の知っている魔導師の誰よりも速かった。

 射出された『Air Slash』はフェイトに当たらず、空を切ってあらぬ方向へ飛んで行った。

 

(切り返しが早いな。反撃が来ると分かった時にはすでに距離を取り始めていた。それにあの移動速度……簡単には捕らえられない。『バインド』が使えたら話は違うかもしれないけど、俺には出来ないし)

 

 互いに距離を保ち、動きを伺う。

 士郎もフェイトも得物を構えたまま、その場に止まっている。

 

(フェイトを捕らえるなら誘い込むしかない。単純な速度じゃあ、俺は追い付けない。上手いこと俺のレンジに――――)

 

(目眩ましからの強襲にも反応してきた……なら――――)

 

 

 ここでフェイトが動いた。

 再度フェイトの周りにフォトンスフィア(発射体)を展開される。先は4つだったのに対して、今度は4倍の16つ。数を4倍に増やしたぐらいで士郎に通用しないことは先のことでフェイトは判っているだろう。つまり、何か策があると言うことだ。

 

(さあ、どう来るフェイト?)

 

 そして、フェイトは右手を振り払った。

 

「ファイア!」

 

 放たれた槍たち。しかし、それらは士郎を狙ったものではなかった。周囲にばら撒き、移動する範囲を制限したするのが彼女の狙い。

 

(弾幕で動きを封じるか……)

 

 続けてフェイトは加速し、俺に接近して来る。

 迎撃するべく双剣を構えるが――――

 

 

 四肢に『バインド』が掛けられた。

 

(バインド!? そうか、これが目的か!)

 

 行動範囲を制限し、バインドに掛かりやすくするのが本命。

 バインドに拘束された士郎へ高速で接近して来たフェイトから鎌が振る。間違いなく入る一撃。

 だが、内側からバインドが外されて(・・・・・・・・・・・・・)自由になった士郎は両手の剣を交差させて、受け止めた。

 

「……!?」

 

 フェイトの表情が驚きに染まる。それはそうだろう。バインドが内側から外されたのだ。始めてのことに、何が起こったのか理解が出来ないでいた。

 

 

 フェイトの僅かに動き鈍る。無論、士郎はその隙を見逃さない。受け止めた鎌を押し返して、彼女の体勢を崩す。そのまま、無防備になったフェイトの首隣に莫耶を滑らせて――――

 

 

 

「良かったぞ、フェイト。でも、剣使いがバインド対策をしていないと思っていたのはちょっと甘かったかな」

 

フェイトは未だに自分のバインドがどうやって破られたのは解らずに驚愕を隠せずにいた。

 次第に落ち着きを取り戻して、どうやって破いたのか質問してきた。

 

「どうやって私のバインドを破ったの? 内側から外されたように見えたけど……」

 

「先のはウィンド・シールドの応用だな。あれは基本的にはウィンディアの上に展開するんだけど、俺の体に直接展開も出来るんだ。

 で、バインドが掛かるであろう場所に“風の層“を纏わせておいて、掛かったら“風の層“を一気に解放して内側からバインドを吹き飛ばす。まぁ、そんな感じだ」

 

 近接戦を行う者にとっては動きを封じられることや武器を扱う手を封じられることは致命的だ。バインドが使い手の魔導師は天敵と言っても差し支えないだろう。

 なら、対策を講じるのは当たり前だ。士郎はそれを今回のようにした。彼は戦闘時、手首と足首には纏うようにしている。この四ヶ所が動けば後はどうにか出来る。武器さえ使えれば、他の所にバインドに拘束されようと壊すことは可能だからだ。

 

「やっぱり、シロウは強いね」

 

「フェイトも十分強いぞ。お前はまだ発展途上だろう。まだまだ強くなるさ」

 

 干将・莫耶のイメージを崩して消す。その後、ウィンディアもスタンバイモードにする。

 フェイトも士郎が武装を解いたのを見て、バルディッシュをスタンバイモードに切り替えた。

 

 

 地上に降りたところでアルフが二人へ駆け寄る。

 

「今のを見てシロウが強いことは分かったよ。

 にしても、どんな目をしているんだい? フェイトのブリッツアクションに反応したり、フォトンランサーを切り落としたりさぁ」

 

「俺は目がいいからな。見えれば大概のことには対応できる」

 

 逡巡することなく返ってきた応答に、アルフは信じがたいといった表情をする。その反応は普通に考えて、可笑しくない。高速戦闘の全てを目で捉えきれる者が居ると、誰が思えるのか。

 

 

 自分の話になるのを避けようと、士郎は「模擬戦は終わりだな」と言い、話題をずらす。

 

「俺はこの後、『翠屋』で仕事があるんだけど。二人はどうするんだ?」

 

「ジュエルシードを探すよ。早く集めて母さんのところに持って行きたいんだ」

 

「まあ、元々それが目的だしね」

 

「ごめんな、協力するって言っておきながらさ……」

 

「気にしないで。本当はアルフと二人で探す予定だったんだもん。出来る限りで協力してくれるだけでも十分だよ」

 

 

 話を終えた士郎は二人と一旦別れて、自分の家に戻る。

 家に着いた彼は喫茶『翠屋』に向かう準備をしながら、フェイトのことを考えていた。

 

(フェイトのあの動きに魔法――――間違いなく実戦経験がある。あのリニスがあんな早くに実戦環境に送る訳がない。あるとしたらプレシアがフェイトに自分の研究で必要な物を集めるために送り出したぐらい――――いや、リニスが居なくなった以上はそれ以外に考えられないか……)

 

 一体プレシアは何をしようとしているのか。『ロストロギア』である『ジュエルシード』の回収をフェイトに命じた理由が判らないからには予測しようがない。一応、フェイトが一度プレシアの元に戻る際に同行して話をする予定だ。

 取り敢えず、その件は後だ。今は出来ることする他に選択肢が無いのだから…………。

 

 

 

**********************

 

 

 シロウとの模擬戦が終わった私はアルフと一緒に自分の住まいに帰って行くシロウを見送っていた。

 シロウの姿が見えなくなったところで、アルフが先の模擬戦闘の感想を言い始める。

 

「シロウが強いってフェイトが言ってたけどさぁ……正直、あそこまでとは思ってなかったよ。

 あたしはフェイトと同じぐらいだと思っていたんだけどね」

 

「全然、シロウはまだまだ本気じゃないよ。弓だって使ってなかったし」

 

「弓? 弓って木とかに弦を張って矢を飛ばすあれかい? 随分とアナログな物を使うんだね。なんか……あまりイメージが湧かないね」

 

「そうだよね。弓を使うなんてミッドチルダだと考えられないものね。

 でも、シロウの弓は百発百中だよ。どれだけ高速で動いてる物でも、複雑な動きをしている物でも。リニスの数十個のフォトンランサーとかを一度も矢を外さないで迎撃してたよ」

 

「へー、そりゃ、すごいもんだね」

 

 シロウは剣術も上手だけど、弓も上手。そう言えば、リニスも最初は戸惑っていたっけ。ミッドチルダだとはあまり弓とかは使われていないし、射撃するなら砲撃魔法とかを使えばいいだけだから。

 

 

 それなのに、リニスから打ち出された無数のフォトンランサーが、シロウの左手に握られていた黒い弓から射られた矢に撃ち落とされていった。その光景に私も最初はビックリしてたけど、シロウの弓を射る姿を見ていると段々と慣れていった。

 

 

 あと、今でも覚える……シロウが森の中で的を立てて射抜く姿。こっそりと気付かれないように見に行った時もあったけど、あのシロウの姿を忘れることは出来ないと思う。

 何一つ物音がしない森の中に一人で佇んで弓を引く。その動作には一切の雑念も無駄なところも無くて、飛ばされた矢は吸い込まれるように的の中心に飛び込んで行く。それを見たとき、私は綺麗だと思った。弓のことをよく知らない私でも、シロウの動きに魅了されてたんだと思う。

 

 

 でも、不思議に思ったこともあった。それはシロウの雰囲気。感情だけじゃなくて、心すら無いように感じた。動きもまるで決まったことを繰り返していただけのような――――でもそれは、弓を持っている時だけだった。食事の時や私の練習相手をしてくれるのはいつもと同じように優しいシロウの姿があった。

 

「で、フェイト。今日はどうするのさ?」

「二手に別れてジュエルシードを探そう。そっちの方が広い範囲を探せる」

 

「確かにそっちの方が効率的だね。じゃあ、フェイト、また後で」

 

 今日の予定を決めた私とアルフは早速、ジュエルシードを探しに二手に別れた。

 ――――そして、あの子に出会ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 アルフと別れて街や公園などを探し回ってどれくらいの時間が過ぎたんだろう。

 今日はまだ1つも『ジュエルシード』を見つけていない。アルフから念話が来ないってことは向こうもまだ見つけてないと言うことだよね。

 発動前の『ジュエルシード』の反応は微弱なので見つけるのが大変だ。探索魔法で広域サーチをしても大間かなポイントが分かるくらい。

 

 

『ジュエルシード』は全部で21つ。今、私が確認出来ているは4つ。

 1つはシロウと再会した時に封印して、私が持ってるNo.10。

 後の3つはシロウの知り合いの子が持っている。シリアルナンバーまでは分からないけど、そこは余り気にすることじゃない。重要なのは獲得数。シリアルナンバーが違っても、『ジュエルシード』の効果に違いはない。効果はどれも持ち主の願いを叶えること。

 母さんが何を願うか分からないけど、私は何でもいい。私はただ、昔みたいに笑顔が似合う母さんに戻って欲しいだけ。

 

 

 母さんはミッドチルダの中央で次元航行エネルギーの技術開発に携わっていたけど、事故がきっかけで仕事から離れることになった。それからはどこにも所属しないで放浪の旅をしながら自身の研究に没頭していた。

 

 

 母さんは変わってしまった。優しかった母さん全然笑わなくなったし、一日中自室に引き込もって研究以外には見向きもしなくなった。一人娘である私とも話をすることも減った。ううん、それどころか会うことさえほとんど無くなってしまった。

 でも私の気持ちは変わらない。母さんのことは好きだし、前と同じように笑ってほしい。そのためなら、私は――――

 

 

 母さんのことを考えていると、『ジュエルシード』が発動する魔力を感じた。

 私は封印をするために魔力を感じた方向へ飛んで行って、その先に在った電柱の上に立って様子を確認する。

 

(子猫? それにしても大きい……これって『ジュエルシード』のせいだよね?)

 

 森の中に巨大化した子猫の姿が在った。『ジュエルシード』は持ち主の願いを叶える性質を持つ。

 多分、この場合だと子猫は大きくなりたいとでも願ったんだ。それにしては大きくなり過ぎ。

 森の木々より大きくなるのも流石に度が過ぎる。一般人が見たら唖然とすること間違いない。それ以前に見られた騒ぎになるよ。

 

(取り敢えず、封印しなきゃ。痛いかもしれないけど、ゴメンね)

 

「バルディッシュ」

 

「Yes,sir.」

 

 バルディッシュを棒を突き出すように構える。シロウとの模擬戦の時とは違って“鎌“は形成しない。斧のような形状の『デバイスフォーム』。この形態は中距離以上で魔法を使うときに使用することが多い。

 構えたバルディッシュの先端からフォトンランサーが打ち出され、子猫に着弾する。少し子猫がよろけたぐらいだった。

 火力を上げるためにバルディッシュに指示をだす。

 

「バルディッシュ、フォトンランサー、連撃」

 

「Photon lancer Full auto fire.」

 

 先のより多くのフォトンランサーの閃光がマシンガンのように打ち出されて子猫に走る。

 が、何者かが子猫とフォトンランサーの間に割り込んで、ピンク色の防御魔法の陣が展開して子猫を攻撃から庇った。

 

(魔導師?)

 

 防がれたからと言って攻撃は止めない。

 今度は防御魔法が張られていない子猫の足元を狙って撃ち、転倒させた。

 

「にゃ!?」

 

 子猫が鳴き声を出しながら倒れた。

 私はその場所へ向かって飛び出して、近くの木の枝に舞い降りる。

 そこで、子猫の隣に立って居た魔導師と目があった。

 

(やっぱり、シロウの知り合いの子だ)

 

 白いバリアジャケットに、バルディッシュと同じインテリジェントデバイス。この子のは私のと違って“杖“だ。

 シロウは話だと魔法に関わるようなことは無いらしいけど、こうして『ジュエルシード』がある場所に居る。

 

 

 互いに見つめ合って沈黙が漂う中、私が口を開いた。

 

「申し訳ないけど、そこの『ジュエルシード』は頂いて行きます」

 

「Scythe form.Set up.」

 

 バルディッシュのヘッドが本体に対して直角に展開して、先端から魔力刃が発生する。シロウとの模擬戦の時と同じように『デバイスフォーム』から『サイズフォーム』に切り替わる。

 

 

 両手でしっかりと柄を握って、相手に足元に向かって真っ直ぐに飛び出す。

 着地と同時に、足を振り払うように鎌を右から左に滑らせる。

 突然のことに驚いたみたいだけど、彼女のインテリジェントデバイスがフォローをした。

 

「Evasion.Flier fin.」

 

 彼女の足に“羽“が生えて、空に飛び上がって私の一閃を避けた。

 でも、私の攻撃はこれで止めたりはしない。

 

「Arc saber.」

 

 サイズフォームのバルディッシュの刃を地面に向け、力強く右下側から左上側に振り上げられる。

 魔力刃がブーメランのように回転しながら白い少女へ飛んで行く。

 

「Protection.」

 

 再度、白い少女のデバイスの声が響き、彼女の周りには防御魔法が展開される。

 その上に魔力刃が直撃して爆発による煙が発生する。防御魔法が間に合ったので、白い少女はダメージを受けていない筈。

 

 予想通り、彼女は上昇して煙から脱出した。

 私は先にその上を回り込んで、鎌を上から振り下ろす。その一撃を白い少女は杖の柄で受け止めた。

 

「なんで……なんで急にこんな……」

 

 戸惑いに満ちた声が出される。でも、私はその声に構わず――――

 

「答えても……多分……意味がない」

 

 つばぜり合いを解いて、ほぼ同時に着地した。

 即座に互いへデバイスを向ける。

 

「Device form.」

 

「Shooting mode.」

 

 バルディッシュが杖の形態に変形する。

 向こうのデバイスも銃の形態に変化した。

 揃って愛機のモード切り替えが済んだところで、互いに攻撃の準備に入る。

 

「Divine buster stand by.」

 

「Photon lancer Get set.」

 

 私たちの砲撃が発射される寸前に、倒れていた子猫が鳴き声を上げる。

 その声に向こうは気を取られて、砲撃のタイミングを逃した。

 対する私は動じずに、フォトンランサーを打ち出すためにバルディッシュに力を込める。

 

「ごめんね……」

 

 放たれたフォトンランサーの一撃が直撃する寸前に、向こうのデバイスがオートで防御魔法を展開する。

 でも、連射ではなく一発で放たれたフォトンランサーの威力は凄まじくて、防御の上からでも相手を後方へ吹き飛ばす威力がある。

 

「……うっ」

 

 苦痛の声が漏れる。

 防御魔法の上からフォトンランサーを叩き付けられて、白い子は後方へ吹き飛ばれて、地面に背中を着いた。

 でも、バリアジャケットも着用しているので大事には至らないだろう。

 私は『ジュエルシード』を回収するために、倒れている子猫に近づいて行く。

 

「Sealing form.Set up」

 

 ――――バルディッシュの形態が今までのものとは違う物に変化した。それは槍のような形で、4枚の光の翼が展開されていた。これは『シーリングフォーム』と言い、一つの魔法に魔力の全てを向ける際に使用する形態。

 『ジュエルシード』の封印には多くの魔力が必要なので、この形態を使用する。覚醒しているジュエルシードを封印するならば尚更だ。

 

「『ジュエルシード』――――封印!」

 

 莫大な魔力流が解放されて子猫を飲み込む。

 ジュエルシードが子猫から取り除かれる。すると、子猫は普通のサイズに戻って、そのまま眠りに就いた。その内に目を覚ます筈。

 私のデバイスに事の元凶である『ジュエルシード』は収納された。

 

「Receipt No.14」

 

 

 

『ジュエルシード』の封印を終えた私は、シロウの知り合いの子の方に視線を向けた。

 意識が有るか無いかは判らなかったけど、警告を伝えるために声を出した。

 

「今度は手加減が出来ないかもしれない。『ジュエルシード』は諦めて」

 

 

 警告を込めた言葉を残して、私はこの場を後にした。

 

 

 

**********************

 

 

 

「今日は……色々なことがあったね……」

 

「……うん」

 

 もう日が暮れて、お星様が空で光ってる。

 ここは私の家。二階に在る私の部屋で、私と“フェレット“のユーノ君は今日の出来事を語り始めていた。

 

「今日、なのはが戦ったあの子は多分――――ううん、間違いなくボクと同じ世界の住人だ。あの杖や衣装……魔法の使い方からして間違いない」

 

「……うん」

 

 今日はお兄ちゃんと一緒に月村邸に遊びに行ってたんだけど、その敷地内の森で『ジュエルシード』の発動する魔力を感じたんだ。

 放っておく訳にもいかなかったから封印しようと皆に黙って森に行った先で、あの子と会ったんだ。

 

 

 綺麗な髪に、綺麗な瞳を持った私と同い年ぐらいの女の子。あの子も『ジュエルシード』を集めていたみたいだった。

 でも話をしてる暇もなくて、そのまま戦いになっちゃって……私は気を失った。撃ち出された黄色の魔力弾の直撃を食らってそのまま倒れて気を失っちゃたんだ。私のインテリジェントデバイス――――レイジングハートのお陰でかすり傷で済んだけど。

 

 

 気を失って森で倒れた私の所に、ユーノ君が皆を呼んで来てくれたらしい。私が目を覚ました時は月村邸のベッドの上。

 もちろん、皆に心配をかけちゃった。お兄ちゃん、一緒に遊んでいたアリサちゃんにすずかちゃん。それに、すずかちゃんのお姉さんの忍さんや月村家のメイドのノエルさんとファリンさん。

 

 

 家に帰ったらお父さん、お母さん、お姉ちゃんも不安な表情を浮かべて大丈夫なのかと心配してくれた。皆は何があったのか聞いてきてくれたけど、私は森の中で転んで気を失ったって嘘を吐いた。本当のことを話せなかったことに心が苦しかった……。

 

「ジュエルシード集めをしてたら、またあの子とぶつかっちゃうのかな……」

 

「うん……その可能性が高いと思う」

 

 しょんぼりとした声でユーノ君が答える。

 少しそのままで居たけど、迷いを振り切るように口を開き直した。

 

「あのね、なのは。今日のことで考えたんだけど、ここからのジュエルシード探しはボク一人で――――」

 

「ストップ!」

 

 その先を私は言わせない。ユーノ君の言おうとしたことは、直ぐに分かった。

 

「そこから先を言ったら怒るよ」

 

「だって……なのは!」

 

 

 悲痛染みた声が部屋に響く。きっと、ユーノはこれ以上、私を巻き込みたくないって思ってる。

 私のことを心配してくれるのは嬉しい。でも、ここで止めるつもりはなかった。

 

 

 元々、『ジュエルシード』を集めていたのはユーノ君――――フルネームはユーノ・スクライア。

 ユーノ君は“他の世界”で遺跡発掘をしながら、放浪の旅をしている『スクライア』の一族の一人。『ジュエル』を発掘したのはそのユーノ君たち。

 本当は『ジュエルシード』の保護を頼んでいたみたいなんだけど、ユーノ君が準備した乗り物が運んでいる途中に事故に遭っちゃって……発掘した21個数の『ジュエルシード』が『私の居る世界(地球)』に散らばったってことを説明してもらった。

 

 

 そのことに責任を感じたユーノ君は『ジュエルシード』を回収のために、地球(ここ)を訪れたけど――――覚醒して暴走する『ジュエルシード』を封印するのが出来なかった。

 返り討ちにされて、傷付いたところを見つけたのが、アリサちゃんとすずかちゃんが一緒にいた学校帰りだったあの時。

 その夜、ユーノ君(フェレット)が気になって、こっそり動物病院に行ったら、暴れまわっている『ジュエルシード』に襲われた。その時は、ユーノ君から『レイジングハート』を渡されて、戦った。

 突然のことに混乱してたけど、ユーノ君と『レイジングハート』のアドバイスのお陰で暴れていた3体の封印に成功した。

 

 

 封印が終わった後に詳しい話を聞いて、私は怪我をしているユーノ君に代わって『ジュエルシード』を集めることを決めたんだ。。また暴走して暴れまわったりしたら、今度は怪我人が出るかもしれない。それは嫌だ。

 そう……私が『ジュエルシード』を集めているのは理由は、誰にも傷付いて欲しくないから。

 

「ジュエルシード集め……最初はユーノ君のお手伝いだっけど、今は違うの。自分の意思で――――やりたいと思ったからやってることなの」

 

 息を吸い込んで、私は自分の意思を告げる。

 

「“自分なりの精一杯”じゃなくて、“本当の全力”で! だから、私を置いてきぼりにしたら怒るよ」

 

「でも、本当にいいの? 怪我だってしたんだよ?」

 

「『いいの?』って言うか……私のやりたいことだから」

 

 ユーノ君がまた心配してくれる。今日みたいに怪我をすることなあるかもしれない。またみんなにも心配をかけちゃうかもしれない。

 なら、せめて怪我をしないためにも――――

 

「だから、私に教えて……魔法の上手な使い方を!」

 

「……分かった! ボクが教えられることは全部教えるよ!」

 

「うんっ! お願いね!」

 

 私はユーノ君みたいにちゃんと魔法を学んでいない。レイジングハートとユーノ君のアドバイスを受けながら練習はしているけど、まだまだ経験も知識も足りてない。だから、しっかりユーノ君から教えてもらおう。

 それに、『ジュエルシード」を集めることもだけど……今日出会ったあの子とお話をしたかったんだ――――

 

 





なのはシリーズのバインドって時間経過で消えるイメージがあります。無印やA’Sでもそうでしたし。
Vividではアインハルトは“技“で。番長は拘束された部位ごと攻撃して外したりしてましたが……
自分の初期案では士郎が自身に強化を施してFate/Zeroで麻婆がやったよう力任せに引きちぎることだったんですが、士郎は“力“より“上手さ“だろうとボツに。まぁ、やってることは内側から吹き飛ばしただけですが……

次回は温泉回です。士郎、フェイト、なのはが同じ場所に集う!

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