魔法少女リリカルなのは ~The creator of blades~   作:サバニア

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さて、ついに無印編に突入です。
ジュエルシードのシリアルナンバー。TV版と漫画版The 1stの違いをまとめたりするのが意外と楽しかったです。
作品を振り返るっていいですね。

では、どうぞ!


無印編
8話 再び交わる運命


 衛宮士郎が故郷である地球に戻って来てから、少しばかりの時が過ぎた。

 ベルの提案を受けた彼は今、地球で"普通"の生活を過ごしている。「今までの事で色々と身体に負担が掛かりすぎだから」と言う名目で地球に送り出されたと言った方が近いかもしれない。

 

 

 住む場所はベルの計らいでマンションが用意されていた。街を見渡せるし、広さも一人で暮らすには余裕が有りすぎるぐらいの物件だ。

 地球での仕事も、帰郷の際に出会った高町家が経営している喫茶『翠屋』で働かせてもらっている。彼の働きぶりは経営者の一人である高町桃子から見ても目を見張るものであったのだ。事前に打ち合わせをしていた訳でもない臨時な事にも関わらず、適切な対応をやってのけた彼を逃す手はなかったのである。

 

 

 士郎の生活は、客観的に考えても順風満帆であるだろう。生活をしていく上で必要な資金は、彼が今までの"仕事"で得てきた物を換金しているので、心配は無用であった。正直な所、仕事をしなくとも十分な日々を過ごせる程に蓄えは有る。

 だからと言って、何もせずに漫然に過ごしていくことは士郎の肌には合わない。時間さえあれば、ガラクタ弄りをするほどに、手が空くことが好かないのである。

 

 

 また、この帰郷の名目が身体を休める事なっている以上、今までのようにずっと鍛練している訳にもいかなかった。

 念のため、彼の部屋には簡易の遮断結界を張っている。【魔法】や【魔術】の鍛練が外に伝わる恐れは無い。更に言えば、彼の扱う“投影魔術”は外部には影響が伝わり難い【魔術】である。同じく【魔術】に身を置く者であっても、目視で認識するのがやっとだろう。

 最も、地球には魔法文明が存在しないので、心配する必要は皆無であるが、予想外のことは突然に訪れる。彼の“過去”にあったように……。だから、出来ることは出来る限りする配慮をしておく。

 

 

 士郎は地球に戻ってからのことを思い返しつつも、マンションの屋上で短剣サイズの木刀を左右の手に収め、素振りをしていた。それらは、彼が愛用している双剣――――干将・莫耶に模している。

 木刀は振るわれる度に、空気を切り裂く。静かに、流れに逆らわない清流な“剣筋”。一流の剣士でも親しみを感じるだろう。

 

「忘れる心配はないけど、動かさないと体は鈍るからな……」

 

 身に付けた剣技は時を置いたからと言って失うことはない。しかし、あまりにも時間が空いてしまうと、体と感覚が鈍り、動きが悪くなる。それを防ぐにも日々の鍛練は大切なのだ。

 物事を感覚的に掴むと言った“才能”を、“衛宮士郎”は持ち合わせていない。“彼ら”に出来るとすれば、武器の"担い手"の技術を模倣し、ひたすら繰り返して自身の血肉にする。『英雄』になった“彼”もそうしていた。

 

 

 だがそんな“彼”の双剣と弓は例外だ。その二つは“彼自身”が長い年月を掛けて形にした努力の結晶だ。幾たびの戦場を――――幾たびの強敵との戦い経て、“彼自身”が作り上げた技術。

 士郎はそれを元に鍛練を続けてきた。“彼”が作り上げた技術を、自分の物にするべく自身を研き続けてきた。

 それでも"彼"の生前の絶頂期など程遠い。それは仕方ないのことである。士郎はまだ10代半ば。骨格はしっかりしていても、肉体の成長はまだまだである。それは、時間の流れに従うしかない。

 が、体より重要なことが士郎にはある。結局のところ、彼はまだ“自分の道”を見付けられていない。苦しむ人を救いたいと言う“理想”はある。だけど、そこに至るまでの“道”がまだはっきりと見付けられていない。

 

「見つかるのかな……俺だけの道なんて……」

 

 不意に士郎の口から言葉が漏れた。“彼”が辿り着いた場所。“彼”の姿を見ているだけに、そう思えずにはいられなかった。

 当然ながら彼に答えれる者は居ない。

 ただ、春を告げる暖かい風が体を吹き抜けていく。

 

(そう言えば、もう4月なんだよな)

 

 季節は巡り春。多くの人々が新たな生活、環境へ胸に希望を抱く季節だ。

 高町家の――――長男である恭也大学1年生。長女である美由希は高校2年生。次女で末っ子であるなのはは小学3年生にそれぞれ進級している。

 士郎は年齢的には高校1年生なのだが、義務教育ではないし、知識面でも問題無いなので通っていない。

 

(さて、そろそろ時間だし『翠屋』に向かう準備をするか)

 

 喫茶『翠屋』は元々人気の高い店だ。それが、士郎が働き始めてから若干客足が伸びたとか何とか…………。回転率の向上によって待ち時間の減少だけするだけでも、訪れる人は増えるのは当然なこと。士郎本人に自覚が無いとしても、結果的にそうなる働きぶりをしていたのだ。

 

 

 士郎は屋上から自分の部屋に戻る。

 タオルや着替えを手に取って、浴室へ足を進める。

 シャワーで汗を流し、身支度を終え、再び玄関を出た。

 

「行ってきます」

 

 誰も居ない部屋に向かって出掛けことを告げる。

 その時に。かつて一緒に暮らしていた母娘、愛猫に見送られる光景。

 立ち去るのを心配そうな目で見ていた少女と、その彼女の教育係をしていた女性の姿が見えたよう気がした。

 

 ――――これは、士郎の身に起こることを予知した"誰か"が見せたものだったのだろうか。

 

 

 

 

**********************

 

 

 

 

 整備された道の上に、一人の少女の姿が在った。

 髪を可愛らしく二房のツインテールに結わき、白色の基調とした制服を着ている高町なのはである。彼女は新年度を迎え、小学3年生に進級した。

 なのはが通っているのは『聖祥大付属小学校』――――大学までエスカレーター式の私立校である。

 小学校が共学、中高は男女が別れ、大学では学部ごとに共学であったりと色々と特色のある学舎だ。生徒の可能性を広げるカリキュラムが組まれており、必要とされる学力と学費は高めである。

 

 

 朝を吹き抜けていく風が暖かくとも、気温は少しばかり低めだった。

 なのはは4月の朝を身で感じながら、送迎バスが来るのを待っていた。ある人物のことを思い浮かべて。

 ある人と言うのは、昨年度から家が経営している喫茶『翠屋』で働くことになった衛宮士郎。なのはは彼のことを「士郎さん」と呼んでいる。

 彼女の父親と同じ名前であるが、呼び方は違うので混乱することは無い。

 

 

 衛宮士郎と出会ったばかりの頃のなのはは、彼に驚きが多かった。家の車を応急修理をした腕前。アルバイトでもないのに、慣れた手付きでの接客。何処の執事かと思うほどに彼の身のこなしに関心を持った。

 士郎が正式に『翠屋』のウェイターとして働くことになって以降、高町家からは“驚きの新人”と注目されていた。なのはも士郎と会うことが少なくなく、彼の優しいところや真面目なところなどの様々な面を見て、「もう一人お兄ちゃんが居たらこんな感じの人だったのかな~」と、考える時がある。

 

 

 と、なのはは日々を思い出すのは止めた。彼女の耳が段々と近付いてくる音を聞き取ったのだ。

 視線を向けて、映ったのは送迎バス。既に何人かの生徒を乗せているようだ。

 なのはの前にバスが止まり、彼女はそれに乗る。

 

「なのはちゃん!」

 

「なのは、こっちこっち!」

 

「すずかちゃん、アリサちゃん!」

 

 バスの最後尾から親しんだ声が飛んで来る。

 なのはは待っている親友二人の所へ進んで行った。

 

「おはよー」

 

「おはよー、なのはちゃん」

 

「おはよー」

 

 挨拶を交わすと、[アリサちゃん]――アリサ・バニングスは、なのはが座れるように横へ移動してくれた。

 なのはは[すずかちゃん]――月村すずかとアリサの間に座る。

 

 

 月村すずかとアリサ・バニングスの二人とはなのは一年の頃から同じクラスで仲良し。今年からは同じ塾に通っていることもあって、一緒に居ることが多い。

 彼女たちは仲良し三人組だ。活発的なアリサ。おっとしと物静かなすずか。明るく優しいなのは。学校生活も、休日も、楽しく賑やかに過ごしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 午前中の授業を終えたなのはは学校の屋上に居た。

 ベンチに座りながら、すずかとアリサの二人とランチタイムを過ごしている。

 

「将来の夢かぁ……」

 

 なのはが呟いた。それは今日の授業にあった『将来の夢』についてだった。

 昼の話題は自然とそのことになった。彼女たちの年頃になると、夢の一つや二つは持っていそうだが、なのはの顔は珍しく陰気としている。

 

「二人はもう決まってるんだよね?」

 

「あたしはパパとママが会社を経営してるから、跡を継がないと――――って感じかな。そのために今は勉強をいっぱいしないと」

 

「わたしは機械系好きだから、工学系で専門職がいいなと思ってるけど……」

 

 アリサが答えるとすずかも続いた。

 

「やっぱり二人は何となくだけど、ビジョンが有るんだね……」

 

「え? なのはは喫茶『翠屋』の二代目になるんじゃないの?」

 

「『翠屋』のシュークリームと珈琲が凄く美味しくてわたし好き!

 それに最近、更に人気が上がってるみたいだし」

 

「そうそう……衛宮士郎さんだっけ?

 前に行った時に見たけどかなりの仕事ぶりだったじゃない。家の鮫島と比べても引けを取らない感じ」

 

二人は以前、『翠屋』へ来た際に士郎に会っている。凄い新人さんが居ると噂を聞いた二人が「見てみたいなぁー」と、なのはに言ったからだ。

 なのはの紹介を通して、二人が士郎と知り合った際の彼に対するイメージは“欲が無さげな人”。髪型も普通であれば、口調も普通。アリサは「本当に凄い人なのか?」と内心で思う程に。無論、それは一変した。彼の働きぶりを見て――――

 

「『翠屋』を継ぐことは将来のビジョンの一つではあるんだけど……自分のやりたいことが何なのかまだはっきりしないんだ。私、これと言って特技も取り柄も無いし」

 

 自分の裡を口にする。興味を持つ物は確かにある。だが、なのはには“したいこと”が判らなかった。

 そんななのはの様子を見たアリサは自身の弁当箱へ手を伸ばす。さっと何かを取り出すと、なのはの頬へと飛ばした。それは――――弁当に添えられていたスライスレモン。

 

「あうっ」

 

「ばかちん! 自分からそーゆことは言わないの!」

 

「そうだよ、なのはちゃんだけにしか出来ないことはきっとあるよ」

 

 アリサは少し怒りながら、すずかは心配しながら、口を動かす。なのはの内気なところが彼女らしくなかった。

 

「大体、あんたはこのあたしより理数系の成績は良いじゃない! それで取り柄がないとか言うのはどの口だー!」

 

 ウガァーと、なのはの両頬を引っ張るアリサ。彼女の予想外な行動に、すずかは慌て始める。

 言いたいことははっきりと言う性格なアリサが“今”となって手を動かすのは珍しかった。そのため、頭では解っているすずかは慌ててしまったのだ。

 

 

 この後の彼女たちは更に盛り上がっていった。

 後々になって、周りで食事をしていたり、風に当たりに来ていた人たちの注目の的になったことに気付いて、少しばかり恥ずかしくなったのも良い思い出になるだろう。

 

 

 

 

 ━━━━━━放課後

 

 

 今日の授業を終えたなのはたちの三人は、塾へ向かうため公園を歩いていた。

 その途中で艀とボートが壊れている風景が、彼女たちの視界に飛び込んで来た。

 

「あの、何かあったんですか?」

 

 普段と違って慌ただしいことが気になった彼女たちを代表して、アリサが現場を調べている警察官に問い掛ける。

 

「いや、壊れてちゃってる艀とボートを片付けているだけだよ。結構古くはなっていたからね。

 にしても、この荒れ具合は気になるんだけどね」

 

(あれ? ここ、昨日夢で――――)

 

 なのはの脳裏に昨日見た夢が過った。

 物語の中で誰かが戦っていたいたような不可思議な夢。

 

『……助けて』

 

「すずかちゃん。今、声が聞こえなかった?」

 

「何も聞こえなかったと思うけ……」

 

『…………助けて』

 

(やっぱり聞き間違えじゃない! 誰かが助けを求めてる!)

 

「ちょっとごめん!」

 

 なのはは一言を言い残して、頭の中に響いて来た声の方角へ走り出した。

 後ろからは「待ってー!」と、声を出しながら二人が追い掛けてくるが、彼女は止まらずに走り続けた。

 

 

 そして――――――

 

「フェレット?」

 

「怪我してるの?」

 

 走り着いた場所には、苦しそう息を乱しているフェレットと思われる動物が横たわっていた。怪我をしていることに気付いたなのはは、そのフェレットを抱き抱える。

 

「ど、どうしようっ?」

 

「取り敢えず、病院!」

 

「そうね、獣医さん!」

 

 

 彼女たちはフェレットを近所に在る獣医に診てもらうことを決め、公園を飛び出した。

 

 

 

 外はもう茜色になってきている。

 動物病院には、家で動物を飼っているアリサとすずかが居たお陰で、道に迷うことなく、到着することが出来た。

 

「怪我は深くないけど、随分と衰弱しているみたいね。でも、手当てをしたから、もう大丈夫よ」

 

「「「ありがとうございます」」」

 

 院長の診断結果を聞いたなのはたちは安堵の息を吐いた。が、それも束の間。そう、塾の時間が迫っていたのだ。

 経過を診ることを含めて今日は病院で預かるとの院長の提案が有ったため、なのはたちは急ぎ足で病院を後にする。

 塾が始まるまで、約20分……今度は自分たちのことに慌てるのであった。

 

 

 

 ――――まさか、この出逢いがあんなことになるとは、なのはは夢にも思っていなかった。

 

 

 

**********************

 

 

 

「お疲れ様でした」

 

 今日の仕事を終えた衛宮士郎は、高町桃子に挨拶をして、『翠屋』を後にしようとしていた。

 

「今日もありがとうね♪ やっぱりシェロくんが居ると色々とありがたいわ♪ 気を付けて帰ってね」

 

 桃子に見送られるながら、士郎は外に出た。

 帰宅するべく、帰り道に足を向け歩き始めるが――――

 

(あれ? なんだ……この感じ?)

 

 違和感を感じ取った。まるで、空間が歪んで揺れているような感じだった。自然干渉系には疎いが、“世界の異常”には敏感な士郎だからこそ気付いた。彼は発生源の場所を特定するために周囲に意識を集中させる。

 

(裏山か? あそこには特に何も無かった筈……そもそも魔法文明のない地球でこんな違和感を感じること自体がおかしいよな)

 

 ここは『第97管理外世界(地球)』。“魔法”も無ければ、【魔導師】も居ない。故に、このようなことが発生する訳がない。あるとすれば、外部の者がここ(地球)に何かを持ち込んだことになる。

 もしそうならば災害の火種に成りかねない。早急に原因を調べるべく、士郎は足を裏山の方へ方向転換し、走り出した。

 

 

 

 

 裏山に着いた頃には日が落ちていた。周囲は暗くなり、月明かりが照らしている。

 こんなことで無ければ、月明かりを身に浴びつつ、ゆっくりと星々の光輝く夜空を眺めていただろう。

 山の中は静かだ。聞こえるのは虫の鳴き声と風が木々を揺らす音のみ。人気も無い。普通に考えて、こんな時間に裏山へ足を運ぶ者など居ないだろう。居るとすれば、それこそこの"違和感"を発生させた人物か"物"を運び込んだ人物だ。

 周囲を警戒しつつ、草木が生い茂る道なき道を進んで行く。

 

 

 そして、クレーターのようにポッカリと草木が無くなっている場所に着いた。その中心地に“青い宝石”をような物が光っているのが見えた。

 

(あれだな、この違和感の正体は。にしても、何だあれ? 俺の"解析()"を通してもよく分からないし……少し魔力を感じるけど、何でこんな物が地球にある在るんだ――――いや、考えるのは後だ。取り敢えず、あれは回収しよう。『魔力殺しの聖骸布』で覆えば一先ずは大丈夫だろ)

 

 魔力感知に長けていない士郎が、感知出来るほど物が存在している。その事実は、ただ事ではない。

 士郎は服の下に着込んでいた『魔力殺しの聖骸布』を取り、“青い宝石”へ近付いて行く。残り数歩の距離までの所で、彼は動きを止めた。敵意や殺意は無いが、明らかに警戒が含まれた視線が向けられているのを察したのだ。

 

 

 何が起こってもいいように、頭の中で干将・莫耶の設計図を準備する。

 先にこちらが武器を持つと相手を刺激しかねないので投影はしない。ただ、即座に対応が出来るようにしているだけだ。

 

 

 士郎は頭も体も動かさずに立ち尽くす。注意力の散布を続けているが、状況に変化はなく、時間だけが経過をしていくのみ。

 このままでは埒が明かない、と判断をして、彼は周囲に声を響かせて、監視をしている“何者”かに問う。

 

「これを持ち込んだのは君かね? そう警戒しないでくれたまえ、こちらも無駄な争いは好まん。ただ、危険そうな物を感じたから調べに来たにすぎない。話し合いで済むならそれに越したことは無いし、君の持ち物と言うのであれば私はここを立ち去ろう。

 ただし、これを使って周りに被害をもたらすと言うならば話は別だがね」

 

 口調を『英雄』となった“彼”が戦地などで使っていた物にして、言葉を放つ。嫌味的な口調に士郎自身が内心で少々ゲンナリしていた。甘く見られない点では交渉とかには有効かもしれないが好かないものは好かない。例え、平行世界の自分が使っていたとしてもだ。

 

 

 警告とも取れる言葉を聞きて話す気になったのか、“何者”は彼の後方に着地したようだ。ストンと、着地した音がしたので恐らくそうだろう。

 士郎は振り返らずに再び口を開く。

 

「話し合いの出来そうな相手で助かる。さて、君は一体何が――――」

 

「……シロウ?」

 

 自分の名前を呼ばれた事に士郎は驚いた。今の口調は仕事仲間であるベルたちしか知らない筈だからだ。“日常”ではまず使わないし、地球(ここ)で使ったのは今回が始めてだ。

 なのに、相手は士郎の名前を口にした。それが出来るとすれば、彼の姿を知っている人物に限られる。しかし、地球(ここ)でこのようなことに関係を持ちつつ、自分を知っている人物に士郎は心当たりがない。

 つまり、ミッドチルダ辺りで出会った人物に絞られる。

 

 

 名前を呼んできた人物の姿を視界に収めるために、士郎は振り返る。そこには――――

 漆黒のマントを羽織り、黒色が基調にされた機動性を重視した装束を華奢な体に身に纏っていた少女の姿が在った。少々、体のラインを強調し過ぎのように見えるが、機動性を重視したためだろう。

 手にしているのは黒い戦斧。その長さは手にしている者の身の丈より少し長いぐらいだろうか。

 

 

 何より気を取られたのは目に映った人物の正体だった。

 月明かりに照らされて、光輝くツインテールに纏められた金髪に、赤い綺麗な瞳。

 士郎は、その少女を知っていた。

 

「……フェイトか?」

 

 少女の名前を口にする。すると、少女の戦斧が手の平に納まるぐらいの黄色の逆三角形のアクセサリーのような形状になり、右手の甲に納められた。

 そのまま駆け出して、少女は士郎の胸に飛び込んで来た。

 

「シロウ……シロウ!」

 

 胸元に頬を擦り付けて、名前を連呼する少女――――フェイト・テスタロッサ。以前、2年にも満たない時に、彼女の教育係の女性――――リニスと共に世話をしていた少女である。

 フェイトは士郎の存在を確かめるように、彼の背中に回した両腕に一層と力を込める。

 

「久しぶりだな……フェイト。元気そうでよかった」

 

 そんな彼女の頭を撫でる中、士郎は懐かしみに浸っていた。

 

(久しぶりだな……こんな感じに誰かを撫でるのは……)

 

 

 

**********************

 

 

 

 ――――時は少々遡る

 フェイト・テスタロッサは母親であるプレシア・テスタロッサが探し求めている『ロストロギア』に分類される『ジュエルシード』を手に入れるために『第97管理外世界(地球)』を訪れていた。

 『ジュエルシード』とは、青い宝石のような形状で、全部で21が個存在する。その効果は持ち主の"願い"を叶えると言うもの。

 プレシアが何のために必要としているのかを彼女は知らせれておらず、命じられるがままに捜索の旅に出ていたのだ。

 辺りが暗くなり、ライトアップがされ始めている街のとある建物の屋上に一人の少女とオレンジ色の大型犬――――いや、狼が居た。

 

 

(ここが『第97管理外世界(地球)』…………)

 

 街を見下ろしながら、この“世界”の情報を思い出す。確か、極東の小さな島国……ニホンって言う国だっけ。

 

「母さんの探し物――――『ジュエルシード』はここに在るんだよね」

 

「あの女が言うにはね。

 それより、大丈夫かい、フェイト? 転移魔法は魔力の消耗が少ないし……あたしと言う使い魔と契約している訳だし……」

 

 私の呟きに答えたのはパートナーのアルフ。

 アルフは私が幼い頃に、ミッドチルダ南部の山あい地にある故郷の『アルトセイム』で契約した使い魔だ。

 使い魔であるアルフは私の魔力を糧に生きて、色々とサポートをしてくれる。

 

「これくらいは大丈夫だよ。契約で魔力が持っていかれるのはいつものことだし」

 

「そうかい? 大丈夫なら良いんだけど。取り敢えず、今日は活動するための拠点の用意だね。私が準備するからフェイトは少しでも休んだ方が良いよ」

 

「ありがとう、アルフ。でも、少しでも早く母さんにジュエルシードを届けたいんだ。だから、少し探してみるよ。心配しないで、ただ探すだけだから」

 

「うーん」

 

 首を傾けて唸るアルフ。

 数秒首を傾けてから溜め息を吐く。

 

「分かったよ。でも、探すだけにしなよ? まだ来たばかりなんだし。こっちの準備が出来たら念話を送るからさ」

 

「うん」と、返事を返して私はアルフと一旦別れた。

 

 

 

 

 アルフと別行動になった私は、裏山に足を踏み入れていた。辺りに魔力の気配を感じた私はそれを確かめるために来たんだ。辿り着いたのはクレーターのように木々が無くなっている場所の近く。

 

(あれが……ジュエルシード…………)

 

 よく見えないけど光る物が在るのが判った。

 早速回収するために近づこうとした一歩踏み出したところで、先に誰かがジュエルシードに近付いて行くのが見てた。木の陰に隠れて様子を伺う。

 

(誰だろう? ここには魔法文明が無いから、この世界の住民が関わるはずが無いと思うんだけど……)

 

 警戒しつつ引き続き様子を見る。もしこの世界の住人だったら、下手に関わる訳にはいかない。私は“外”の住人。『ジュエルシード』を集める為の接触は仕方が無いけど、可能な限りは避けるべきだ。

 現状を維持していると、向こうは声を出してきた

 

「これを持ち込んだのは君かね? そう警戒しないでくれたまえ、こちらも無駄な争いは好まん。ただ、危険そうな物を感じたから調べに来たにすぎない。話し合いで済むならそれに越したことは無いし、君の持ち物と言うのであれば私はここを立ち去ろう。

 ただし、これを使って周りに被害をもたらすと言うならば話は別だがね」

 

(気付かれた!? この世界の住民じゃない!)

 

『ジュエルシード』は『ロストロギア』。この世界の住民が関わる物で無いし、何より私は様子を見ていただけ。なのに、気付かれたと言うことはあの人物はただ者じゃない。

 でも『ジュエルシード』目の前にして引き下がることは出来ない。それに、気付かれた以上はここに留まっても意味が無い。相手も話し合いをしてくれそうな雰囲気だったから、私は木の陰から出て、言葉を放った人物の後ろに立った。

 

「話し合いの出来そうな相手で助かる。さて、君は一体何が――――」

 

 その言葉遣いに覚えはなかったけど、その姿には覚えがあった。

 赤銅色の髪の毛に、私より大きくて、高い後ろ姿には――――

 

「……シロウ?」

 

 だから私は、彼の名前を口にした。私の世話と練習相手をリニスと一緒にしてくれた大切な彼の名前を。

 自分の名前を呼ばれて驚いたのか、彼はこちらに振り向いた。

 

「……フェイトか?」

 

 私は自分の名前が呼ばれて相手の正体を確信すると、反射的に彼の胸元に飛び込んでいた。

 

「シロウ!シロウ!」

 

 エミヤシロウ。

 アルフと仮契約をして間もない頃に私たちの所を離れた少年。

 余り長い時間を一緒に過ごしたとは言えないかもしれないけど、一緒に居てくれた時のことは今でも私の大切な思い出。優しくしてくれたし、甘えさせてもくれた。私にとって――――

 

 

「久しぶりだな、フェイト。元気そうでよかった」

 

 そう言って頭を撫でてくるシロウ。久しぶりの感覚に身を委ねていた。

 

 

 

 再会をした私とシロウは近くに在った倒木に座っていた。

 久しぶりに会ったシロウから離れたくなかったので、シロウの左腕を両腕で抱き締めている。シロウは少し戸惑っていたけど、優しい表情を浮かべていただけだった。

 暫くしてからシロウが私に尋ねた。

 

「で、フェイト。これが何なのかは知ってるだよな? お前はこれを探しに来たんだろう?」

 

 シロウの右手に赤い布で包まれたジュエルシード。

 そうだった。まだ、私の目的について何も話してなかったんだ……だって、シロウとの再会が嬉しくてつい……。

 私はシロウの左腕から両腕を離して、目的を説明し始める。

 

「それは『ロストロギア』の一種で『ジュエルシード』と呼ばれる物です。私は母さんからそれを集めるように言われてここに来ました」

 

「『ロストロギア』? あぁ、高度に発達した魔法技術の遺産だっけ? 教材の項目にそんなのが書いてあったような――――って、プレシアはなぜそんな物を?」

 

「私も理由は聞かされていません。ただ、研究に必要だからとしか……」

 

 私の説明を聞いて、考えことを始めるシロウ。

 でも、それは直ぐに終わったようです。

 

「やっぱり俺が考えても分かる訳が無いよな。俺はプレシアみたいに研究者じゃないし。

 えっと、それでこの『ジュエルシード』はどうすればいいんだ? 『ロストロギア』なら取り扱いは厳重にしないとマズイんじゃないのか?」

 

「あ、そうですね。今、封印します。バルディッシュ、起きて」

 

 立ち上がって相棒に話しかける。

 

「Yes,sir.」

 

 主に忠実な臣下のように私の声に答えるのは、私のインテリジェントデバイスの『閃光の戦斧(バルディッシュ)

 リニスが遺してくれた大切な私の相棒。

 

「『ジュエルシード』、封印!」

 

「Receipt No.10」

 

 魔力が注ぎ込まれて封印が完了された『ジュエルシード』は『バルディッシュ』に収納される。

 これで一安心。封印さえ施してしまえば、暴走の心配は要らない。

 

「これで大丈夫です」

 

「そうなのか? まぁ、"歪み"は感じなくなったし、そうなんだろうな」

 

 封印をした私は再び倒木に座って、士郎との話を再開する。

 

「シロウはどうしてここに居るんですか? 私と同じでジュエルシード探しを?」

 

「いや、さっきも言ったけど、ここに来たのは空間が歪んでいるような"違和感"を感じたからだ。『ジュエルシード』を見つけたのは偶然だよ。それに、ここ(地球)は俺の故郷なんだ」

 

「そうなんですか。知りませんでした」

 

「話して無かったからな」

 

「それにしても……」と、シロウが言葉を続けます。

 

「何で敬語なんだ? 出会った最初の方はそんな感じだったけどさ」

 

 あ、そうだ。シロウの口調がいつもと違ったから私もつい……背も高くなったし、リニスの「歳上の方には敬語で」と、教えられていたのが出てしまったんだ。

 

「その、シロウの口調が前と違ったのでつい……」

 

「あー、あれは俺の"交渉術"みたいな感じだ。喋ってる俺も肩が凝るからあまり使わないんだけどな。

 まぁ、気にしないでくれ。誰かとの"取り引き"の時の仕事口調とでも捉えれくれればいい」

 

 シロウの説明に納得した私は次に聞きたいことを口にした。

 

「なんで、私たちの所に帰ってこなかったの?」

 

 シロウの話を聞いて、ここ(地球)がシロウの故郷だってことは分かった。けど、故郷に帰る前に私たちの所に来てくれてもよかったと私は思った。

すると、シロウは少し悩んだような表情を浮かべた。

 

「そう……だな……ここ(地球)に来る前にフェイトたちの所を行くのもありだったかもしれない。

 けど……なんて言うか……行きづらくてさ。それに、リニスやアルフたちが居るから俺が居なくても大丈夫だと思ったし」

 

「…………」

 

 シロウが居なくなった時、正直言って寂しかったし、少し落ち込んだ。優しかった彼が出掛けて行ったのが、私から離れていくシロウの姿が――――と、不意に新たな声が上がる。

 

「私の主は相変わらずですね。気になっていたのですから、素直に行けばよかったのに」

 

 それはシロウの左腕からした発せられた声。そうだ、シロウがここにいるなら、シロウのパートナーも居るだ。

 

「久しぶりですね、フェイト。元気そうで何よりです」

 

「ウィンディアも元気そうだね」

 

「はい、私はいつも通りです。

 それより、主よ。貴方の真っ直ぐな姿勢は何処にいきました? やはり自分のことになると不器用なのは何時(いつ)まで経っても変わりませんね。やはり貴方は――――」

 

 ウィンディアが途中で言葉を止めた。

 私にはその理由が直ぐに判った。

 

「これは……ジュエルシードが発動してる!?」

 

「まただ……この、空間が歪むような感覚だ」

 

「行きましょう、主! 話を後にするのは不本意ですが、こちらの方が優先です!」

 

 

 私たちは魔力の感じ方角へと向かって行った。

 私は飛行魔法、シロウは"魔力で足場"を作りながら空を渡っていく。

 辿り着いた時にシロウが「…………なんでさ」と、漏らしたのは聞き間違えじゃなかった筈。

 

 

 

 

**********************

 

 

 

 フェイトと再会した俺は、彼女と共に新たな"違和感"を感じたその場所付近まで来ていた。到着して早々に魔力で目を強化する。視力が引き上げられた目を通して、映ったビルの上に立っている少女の姿に肝を抜かれた。

 

 

 白色を基調にした制服のような衣装を身に纏い、アニメに出てくるような"魔法の杖"を左手に納めていた彼女――――高町なのはの姿に。

 傍から見れば誰もが"魔法少女"と思うだろう。

 

 (フェイトといい、なのはといい、今時は魔法少女が流行ってる……のか?)

 

 そんな現実逃避気味な考えに走っているところに、フェイトが声を掛けてきた。

 

「シロウ、どうしたの?」

 

 俺に指摘を受け、言葉遣いが以前の物になったフェイトから声を掛けられて、現実の光景を受け入れる。

 

「いや、ジュエルシードらしい3つの光とそれを封印したらしい人が見えたんだけど……」

 

「この距離で見えるんだ……私は魔力を感じることしか……」

 

 フェイトは驚きを露にした。

 肉体の強化は【魔導師】でやっていることだけど、俺程にまで視力を引き上げる者はあまり居ないから、彼女がそう反応するのは無理もない。だって、“強化”を施した状態の視力は望遠カメラにも匹敵するんだから。

 

「これを使えば見えるかな?」

 

 フェイトもビルの様子が見られるように投影した望遠カメラを差し出す。

 若干の戸惑いを示すが、フェイトは受け取ってくれた。

 

「あの……これは――――望遠カメラ?」

 

「ああ、使い方は解るか? 解らないなら教えるけど?」

 

「大丈夫、解るよ。シロウは普段からこんな物を持ち歩いてるの? あ、シロウは転送魔法に似たスキルの使い手なんだっけ?」

 

「そうだよ、前にも言ったけどな。自分の所有している物を俺の手元に取り出すのが特技なんだ」

 

 以前、リニスと一緒にフェイトの世話をしていた頃に俺は自分の"投影"を『転送魔法のようなスキルでの武器などの取り出し』と、説明した。真っ赤な嘘は言ってない。俺の能力(スキル)であることは事実だ。

 

「で、どうだ? 見えたか?」

 

「白い服を着た私ぐらいの女の子が居て、左手にバルディッシュと同じインテリジェントデバイスらしき物を手に持ってて――――それと3つの封印されたジュエルシードが」

 

 どうやら、きちんと見えてるみたいだ。

 

(にしても、何でなのはがジュエルシード集めを? 普通の小学3年生だよな? 俺のことを話す訳にもいかないし……これからどうするか……)

 

 なのはについてどうしたものかと考えいる最中、フェイトが望遠カメラを返してきた。

 

「もう封印されてるみたい。今日はもう戦うだけの魔力が無いし、今アルフが拠点を準備しているので――――ってシロウ? 頭を抱えてどうしたの?」

 

「いや、ジュエルシードを封印した女の子って、俺の知り合いなんだよ」

 

「え、でもここに魔導師は――――」

 

「居ない筈だ。フェイトも知っている通りだ。ここ(地球)には魔法文明が無いからな。だから、俺も驚いてる」

 

 どうするかをフェイトに訊こうとしたら、フェイトが左手を自分の左耳に当て始めた。誰かから念話でも着たのだろう。

 その横から声を掛ける訳にはいかないので、終わるまで待つ。

 

 

 念話を終えると、フェイトは再び俺に目を合わせてきた。

 

「アルフが拠点の準備を終わったみたい。詳しいことはそこで話そう、シロウ」

 

「そうだな。空に人が浮かんでるところなんて一般人に見られてもあれだしな」

 

 

 なのはのことが頭から未だに離れないが、このまま空に留まるのは不味い。

 俺はフェイトに案内されて、彼女たちの地球での拠点のマンションに向かった。

 

 

 

 

 

 

 フェイトに案内されて、マンションの一室に入る。

 間も無く16歳ぐらいの女性が走って来て、フェイトに抱きつく。

 

「フェイト~大丈夫だったかい? 『ジュエルシード』を一つ封印したって聞いたからさ」

 

「大丈夫だよ、アルフ。封印しただけだからね」

 

 動じずに普通に答えるフェイト。

 あれ、フェイトの方が年下だよな? 立場が逆転してないか?

 そう考えていた俺に、その女性は観察するように視線を向けてくる。

 

「で、アンタがシロウかい? フェイトと私が仮契約した頃は居たらしいけど、あたしは全然覚えてないんだよ。

 一応、フェイトからの『精神リンク』を通しては知ってるけどね。まぁ、アンタがフェイトの味方なら文句はないよ」

 

「衛宮士郎だ。

 やっぱりあの狼か。アルフって言ってたからそうかなとは思ってたんだ。今もここに居るってことはフェイトと正式に"契約"をしたんだな」

 

「うん。でも、使い魔って言うよりはパートナーかな。"契約"も長期だし」

 

 二人の説明で納得が出来た。

 フェイトの魔導師としての素養を考えれば、幼いながらも使い魔と契約を交わすことは不思議ではなかった。

 

「そう言えば、リニスは居ないのか? フェイトの世話をしてたから一緒だと思ってたんだけど」

 

 部屋を見回した俺は一つ気になることがあった。この場にフェイトへ魔法を教えた彼女が居ない。

 プレシアの使い魔であったけど、彼女ならフェイトの側に居るだろうと思った。

 

 

 

 俺の疑問を聞いて二人は表情を曇らせる。

 それからフェイトを一瞥したアルフが重々しく口を開いた。

 

「リニスは還ったよ……山に。

 私たちは見送りが出来なかったけどさ。でも、自分の居た"証"をちゃんと遺していったよ」

 

 そうか……リニスは――――

 俺はそのことを聞いて彼女がプレシアとの"契約"を終えたのだと悟った。

 

(リニス…………アンタは還ったんだな。でも、フェイトもアルフも俺も何時までもリニスのことは忘れないよ。アンタがフェイトに教えたことは、今でもしっかり彼女の中に刻まれてるよ。だから、心配はしなくて大丈夫だ。

 あと、ありがとう。俺が途中で止めちまったことを成し遂げてくれて)

 

 実の母親のように、フェイトを優しく包んでいた彼女の姿を思い浮かべて、心の中で祈りを捧げる。

 

「ごめんな、二人とも」

 

「ううん」

 

「別にシロウは悪くないさ。

 それより、本題に入った方がいいんじゃないのかい? フェイトがここに連れて来たのは、話をするためなんだろう?」

 

 アルフの言う通り、ここに来たのは『ジュエルシード』についての話をするためだ。

 俺たちはリビングのソファーに座り、話し始めた。

 

 

 

 

 

 で、一通りの話を終え、話をまとめる。

 

「つまり、シロウの知り合いも『ジュエルシード』を集めていると。加えて、フェイトと同じインテリジェントデバイス持ちね。

 でも、シロウはその子がそんなことに関わる子じゃないって知ってるんだろう?」

 

「ああ、それは間違いない。なのはは地球に暮らす普通の女の子だ。『ジュエルシード』どころか、魔法に関わるような子じゃない。

 あまり考えたくないけど、フェイトたちとは他に『ジュエルシード』を探している人物が居て、巻き込まれたんじゃないかって」

 

「まぁ、そうなるだろうね。でも、向こうも集めているからには今後は『ジュエルシード』を求めて戦うことになるだろうさ。こっちも集めないとならないし」

 

「出来れば穏便に話を付けたい。だけど……俺のことを話す訳にはいかないしなぁ……」

 

 どうしようかと考えている中、チラッとフェイトの方を見ると若干頬を膨らませているような……あれ? 何か怒らせるようなこと言ったか?

 自分の言葉にそんなワードが含まれていたか遡っているところでフェイトが口を開いた。

 

「シロウはその"なのは"って子と親しいんだね」

 

「まぁ、働いてる所の娘さんだし……俺もよく話はするけどさ。」

 

 あれ? なんだこの流れ?

 アリシアが不機嫌になった時に、似た物を感じるぞ……。

 

「もし、この先で『ジュエルシード』を求めてぶつかったら戦う。母さんが探しているし、『ロストロギア』となると話し合いでどうにかなるとは限らないから。」

 

「――――フェイト、ちょっと好戦的じゃないか?」

 

「うんん、言っても解らないことはあるよ。

 シロウはどうするの?」

 

「どうするか」か……一番なのは『ジュエルシード』のことからなのはを離すこと。『ロストロギア』なんて物に関わっても良いことが有るとは言いにくい。下手したら『管理局』の介入もあり得る。そんな厄介事になのはを巻き込みたくない。彼女は普通の女の子なんだ。フェイトと違って魔法に関わる子でもない。

 

 

 本音を言えば、フェイトにもこの件から身を引いて欲しい。でも、プレシアからの頼みで行動しているからには関わることを止めないだろう。

 魔法の練習もそうだった。プレシアに誉めて欲しくて、喜んで欲しくて一生懸命にやっていたのだから。

 

 

 俺が出来るとしたら、一刻でも早くこの件を片付けることぐらいだ。

 プレシアが何を求めているかは今は判らないけど、それは後に本人から聞くとして今は――――

 

「俺は、フェイトのジュエルシード集めに協力しようと思う。少しでも早く回収して、この件を片付ける。俺に出来るとしたらそれぐらいだ」

 

 俺の回答に二人が驚きの表情を浮かべる。

 

「いいのかい? なのはって子とは知り合いなんだろう? 会ったら即バレだよ?」

 

「それは心配要らない。投影(トレース)開始(オン)

 

 投影するのは仮面とカツラが一体になった物。

 それを被って話を再開する。

 

「これなら俺だとは分からないだろう?」

 

「ああ、それなら大丈夫そうだね。これがフェイトから聞いた転送魔法か……」

 

 アルフは突然俺が何もない所から仮面を出した事に驚いている。初見の反応はこんなもんだろう。

 仮面を外してフェイトを見る。

 

「シロウが協力してくれるのは心強いよ。でも大丈夫なの?」

 

 “何が”とは言ってこないが、言いたいことは解った。

 

「別にジュエルシードを集めるのが目的だしな。

 それと、俺は封印なんて出来ないからさ。基本的にフェイトのサポートに回ると思うぞ」

 

 俺はフェイトみたいに多くの魔法を使える訳じゃない。出来るのは『非殺傷設定』が可能な攻撃魔法一つと防御魔法が一つ。あとは干将・莫耶などの武器だ。

 俺の戦闘スタイルは物理系統が主軸。剣にしても、弓にしてもだ。バリアジャケットを着用している者なら物理攻撃を受けても、余程のことで無ければ絶命はしないだろう。あれの防御性能の高い。

 そもそも、なのはを傷付けるつもりなんて無い。相手をするなら、足止めに徹するだけだ。

 

「うん? シロウは他に魔法が使えないのかい?」

 

「フェイトみたいには出来ないな。封印も出来ないし」

 

「アルフ、シロウは魔法は余り得意じゃないけど、強いから大丈夫だよ」

 

「そうなのかい? まあ、フェイトが言うならにはそうなんだろうね」

 

 今後の方針が大体が決まったところで、アルフがソファーから立ち上がって、玄関へ向かっていく。

 

「遅くなったけど買い物に行ってくるよ。あたしもフェイトも晩御飯がまだだからね」

 

 買い物に行くためにリビングを出ようとしていたアルフを俺が呼び止める。

 食事はリニスと俺が作っていた。俺が居なくなった後はリニスが作っていたのは予想が出来る。

 そうなるとこれから買い物に行くと言うのは――――嫌な予感がした…………。

 

「アルフ、念のために聞くんだけど……買い物って何処に?」

 

「なに当たり前のことを聞いてるんだ」と、言う表情を浮かべて答えてくれた。

 

「『何処に』って、近くのコンビニでフェイトの弁当、あたしはドックフードでも買おうかなって」

 

 ――――――その時、俺に電流が走る!!

 

「……そう言えば、まだ台所を見ていなかったな」

 

 いや、まさかなと淡い期待を抱いて台所の様子を見に行く。

 ――――そこには、調理器具の一つもありませんでした。

 うん、知ってたよ……アルフの発言からしてこんなことだろうと……。

 

「アルフ、買い物は俺も行くぞ。あと、コンビニじゃなくてスーパーな。

 俺が料理を作る。成長期の有るフェイトにそのような食事は好ましくない」

 

「でも、調理器具が無いよ。用意するのは――――」

 

「大丈夫だ。投影(トレース)開始(オン)

 

 投影するのは数種類の"刃物"。ジャンル的には"剣"に含まれなくはないので、完成度は高い。

 それらに加えて、フライパンなどの器具。"剣"からは外れるけど、"金属"だから若干完成度が下がるが使用に問題はない。これらにより買う必要な器具は格段に少なくなる。

 そんな光景を見たアルフとフェイトは固まっている。

 

「さて、こんな感じか。じゃあ、行こう」

 

「あ、あのさシロウ?アンタって料理人?」

 

 だが、アルフの言葉など俺の耳には入っていない。

 

「家事の出来なかった親父の代わりに家事をこなし、後に多くの人々の食事を作ること5年。

 そして、フェイトの食事も作っていたし、今は喫茶『翠屋』で働いている。二人には俺が作り上げた料理で"食事"の偉大さを教えてやる!」

 

 俺の背後には炎でも出ていたのだろうか。アルフは一歩後退りしている。

 フェイトの方は「またシロウのご飯が食べれるんだ」と、目を輝かせている。まさか、一番仕事が晩御飯とは……好きだからいいけど。

 

 

 夕食の材料を買うために、俺たち3人は近所のスーパーに出掛けた。

 取り敢えず、今回の夕食に使うだけの材料を買うことに止めた。

 

 

 スーパーから帰って来て、晩御飯を迎えた。

 メニューは鶏肉、人参などを入れた炊き込みご飯。キャベツ、玉ねぎ、トマトなどの春が旬の野菜を中心にしたサラダ。豆腐の味噌汁。

 

 

 時間的に簡単な物しか出来なかったけど、二人は美味しそうに食べてくれた。俺も久々の一人ではない食事をとりながら夜を過ごしていく。

 

 




プリヤの方でイリヤ、美遊、クロから慕われ、
HAでは『シスタークライシス』の妹王決定戦などに巻き込まれるなどなど、年下から慕われるイメージがある衛宮士郎。
当作品ではフェイトがその枠になります。
士郎、大変だけど頑張って!

士郎の投影した仮面は某『チョコレートの人』の物をイメージしてください。分からない方は検索すると出てきます。

ジュエルシードのNo.10はTV版3話のゴールキーパーの少年が拾ったものです。何処かしらで士郎がフェイトと再会するきっかけにしないといけなかったので使わせてもらいました。

なのはが回収したのはNo.18.20.21です。
21はTV版でユーノと出会った時の初陣で回収。
20はTV版の3話冒頭の学校で回収。
18はTV版の3話までに回収されたとなっていた物
漫画版The1stではこの三つがなのは初陣で同時に回収されていたのでその設定を使いました。

タグに無印編進行中、お兄ちゃん子なフェイトを追加しました。

お読み頂きありがとうございましたm(_ _)m

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