今回は3人称
ファンシズム。
国家の代表をアイドル感覚で選ぶ思想であり、政治運動である。
政治なんて誰がやっても一緒との意識が蔓延していたイタリンで興ったそれは、ドクツでファンシズムの最高傑作ともいえる第三帝国総統レーティア・アドルフを生み出し、そして4億年の歴史――現人類の歴史はそこまで長くない――を自負する国にも飛び火していた。
「おぬしら! 妾の名前、知っておるか!」
観客、いや、聴衆の前でマイクを握るのはハチミツ色の髪の少女。
その少女の名は。
聴衆たちが声高らかに彼女を呼ぶ。
「えーんじゅーつちゃーーーーーん!」
中帝国改め、仲帝国。
彼女こそ、新たにその皇帝となった袁術だった。
演説(?)を終えた美羽は、休憩とばかりに執務室でだらだらしていた。
「……ふぅ、疲れたのじゃ」
「はい、ハチミツ水だよ、美羽ちゃん」
「うむ」
月から受け取ったグラスを傾け、ごくっごくっと一気にハチミツ水を飲み干す。
「もっと味わって飲みなさい! せっかく月が作ったんだから!」
「月もついに妾好みのブレンドをマスターしたのう。おかわりじゃ!」
詠の抗議をものともせずにグラスを差し出す美羽。月も苦笑しながらそれを手に部屋を出ていった。
「まったく、なんでこんなのが皇帝になっちゃうんだか」
「ファンタジム、なのじゃ!」
「不安沈むですよ、お嬢様」
「……はぁああ」
間違いを訂正する気にもなれず、大きくため息をつく詠。
「妾の歌と美貌で、大陸どころか星々までもとったのじゃ! 張姉妹が悔しがるのう。うはははははー」
「星々といっても管理星域は南京モン、ア・バオワ重慶、北京の3つなんだけどね」
「地名だけなら大陸よりも小さい感じがしちゃいますねー」
彼女たちの時代とは違う名とはいえ、故郷の大陸の地名を思い浮かべるその惑星名に七乃は苦笑する。
「妾たち、やっぱり失敗しちゃったんじゃろうかのう?」
「そうですねえ。気づいたらエロエロ艦の艦橋じゃなくて、この星にいたのはまいりましたねー」
バトル・エロースのブリッジで、グランゾンと戦う者たちをサポートしていたはずの彼女たち。……美羽と七乃は見ていただけともいう。
戦闘中、大きな爆発があったかと思ったら次の瞬間、もう別の場所にいた。
ブリッジの椅子に座っていた彼女たちは、椅子がなくなり姿勢を崩した。その衝撃で唖然としていた意識が戻ったのだが。
「あのもう1人の華琳のアドバイスを思い出したボクがすぐに月を見つけたからよかったものの、変態皇帝に先に見つけられてたらどうなっていたことか」
「あのロリコン元皇帝ですか。アイドルをしているお嬢さまに手を出そうなんてするから、あんなことになるんですよねー」
中帝国皇帝シュウ。ロリコン呼ばわりされるには若すぎる少年。
先代皇帝の病死により幼くして即位した彼は、ガメリカとソビエトの傀儡として育った女好きの暴君。
自分と同程度の少女にしか興味を持たないが故に、生活費のために歌手活動中だった美羽に目をつけ、手を出そうと拉致同然に王宮に呼び出す。
それに怒った七乃がクーデターを扇動して中帝国は滅び、仲帝国が生まれたのだ。
「妾は護られておるからのう。愛されておるのじゃ!」
うっとりと愛おしそうに自らの首筋を撫でる美羽。その扇情的な仕草に七乃は興奮し、ビニフォンで撮影を開始する。
「後始末大変だったのよ。あんなとこでロボが大暴れするから」
「ちょっと王宮を更地にしただけじゃないですかぁ。ついでに暴君と腐敗官僚を大量処分(物理的に)できましたしー」
撮影を続ける姿に、詠がまたため息。
「煌一がプレゼントしてくれたロボぞよ。あの程度、余裕なのじゃ!」
「後宮と軍部を先に味方にできたからよかったようなものの、そうじゃなかったら戦艦を相手にしてたところよ」
後宮では3000人の少女が侍女として働いていた。彼女たちは暴君シュウ皇帝から酷い扱いを受けており忠誠心など欠片もなかった。
戦闘に巻き込まれ大きな怪我を負った者たちもいたが、月、詠の魔法により治療されて協力的となっている。今も月をメイド長として心酔中だ。
「孫策よりは怖くないじゃろ? どんな敵がこようとも危なくなったらポータルで脱出するだけの簡単な仕事なのじゃ」
「逃げるのは慣れてますもんねえ」
「おかげでどれだけボクたちの仕事が増えたか……暴君がいなくなってみんな張り切っているし、煌一に会えないで落ち込んでいた月の気晴らしにはなったけどさ」
皇帝の私物整理中に美羽だけでなく月の画像データまでも見つけているので、詠も元皇帝には冷たい。
「落ちこんでおったのはお主もじゃろう。いつも以上にカリカリしておって怖かったのじゃ」
「そんなに煌一さんに会いたかったんですねぇ」
「ちっ、違う! ボクは……ボクの未練が月をこの世界に連れてきちゃったんじゃないかって不安だっただけ」
からかう七乃に詠はつい本心をこぼしてしまった。月がこの場にいないから油断したのかもしれない。
「未練? なんのことじゃ?」
「……ああもう! 予言されてたでしょっ! ボクたちは心残りと遭遇することになる、って」
「その心残りがどうかしたんですか? 」
「董卓を天下人にする……それがボクの夢、だった。だから、こんな世界に月を連れてきちゃったのかもしれない」
真・恋姫†無双公式HPのキャラ紹介の台詞と同じ詠の告白を美羽は鼻で笑う。
「たわけじゃの。月はそんなことを望んではおらぬ」
「……まさかよりにもよって、あんたに諭されるとはね」
馬鹿だと見下していた美羽に指摘されては「言われなくてもわかってるわよ!」と怒鳴る気にもなれなかった詠だが。
「月が望んでるのは、妾の世話をすることなのじゃ!」
「違うわよ! そんなわけないでしょうが! 月の望みはあいつとの幸せな家庭でしょ!」
美羽のずれた解答には全力でツッコむしかない。
「なんじゃとっ! いつも妾のことを可愛い美羽ちゃんと言っておるのじゃから間違いではないのじゃ!」
「お嬢さまは煌一さんとの子供枠ですねえ。月ちゃん、煌一さんにみんなのお母さん役って言われてましたからその気になってるんでしょうねー。梓ちゃんっていう強力なライバルに隠れちゃってましたけど」
ガサツな言動が目立つ梓だが、実は煌一の嫁たちからの評価は高かった。伊達に嫁レンジャーなどと別格扱いされてはいない。
「梓はほれ、きんったま母さんというやつじゃろ?」
「それ、本人に言ったらゲンコツもらうわよ。肝っ玉でしょ、月はどう転んでもそれにはなれないわね。繊細なイメージだもの。むしろ、梓みたいになった月なんて……」
「見てみたい気もしますー」
「しない! なられてたまるか!」
詠ちゃんと梓ちゃんなら、口うるさいとことかよく似てるんですけどねぇ。あとで月ちゃんにも聞いてみましょう。そう月へのアンケートを予定して微笑む七乃。
「さあ元気になったら詠ちゃん、この仲帝国の天下人となったお嬢さまのために、しっかり
「なんかボクもロボで暴れたくなってきた。ガメリカやソビエトがクーデター政権なんて認めないなんていってくるし……」
「まあ、扱いやすい傀儡がいなくなっちゃったワケですからねえ。だけど国民はみんな美羽さまのファン。支持率100パーセント!」
100パーセントは操作された数値だが、実際、暴君と腐敗官僚から解放された国民たちからの支持率は異常なまでに高かった。グッズの売れ行きも国の内外を問わずに好調である。
「あ、同盟が成立したら記念にレーティアさんと合同ライブを開く予定ですから準備お願いしますよ」
「これ以上仕事を増やすなーっ!」
独裁者からの解放を大義名分にいつガメリカ共和国、人類統合組織ソビエトという大国が攻めてくるかわからない。三国同盟ならぬ四国同盟の締結を急ぎ、詠たちは忙殺されていた。
「もう……リンファ、ランファ、あんたたちも休んでる暇なんかないわよ」
「は、はい」
「はいはい」
ソビエトの工作員により共有主義に染められていた元中帝国北軍総司令官リンファ。
ガメリカの資本主義に傾倒していた元中帝国南軍総司令官ランファ。
彼女たち2人が助かったのは奇跡ではない。やはりクーデター時に王宮にいたため瀕死の重傷を負ったが、月の高レベルの回復魔法によって治療されたのだ。
以前の思想への未練はあるが、命を救ってもらった恩を返すために働いていた。
「ドクツ、イタリンと同盟したらカッコいい白人男性と知り合えるね!」
ぐっと拳を握るのは青いミニのチャイナ服の女性。ランファは未練たらたらのようだ。
「日本帝国もいるのだけど?」
「日本人はいや。白人がいいの」
へそ出しの赤いチャイナ服、リンファによる指摘もすぐに否定する。それを美羽が聞きとがめた。
「なんじゃと? 妾の夫は日本人じゃがカッコいいのじゃぞ!」
「えー? ありえないよ」
「というか、ご結婚なさっていたのですか?」
「妾のようないい女が独り身なわけがなかろう!」
得意気に左手薬指の結婚指輪を2人に見せびらかす美羽。チャイナ服の美女2人を前に「いつか蓮華も並べてみたいのう。名前が似ておるのじゃ」などと思いながら。
ちなみに結婚指輪はアイドル活動中は透明化しており、サイズも微調整されて指への締め付けもないため、指輪をしているようには全く見えない。
「袁術皇帝と結婚って、ロリ……?」
「日本人って、みんなロリで変態よ」
ランファの呟きに答えるハニトラ。
ハニートラップの略ではなく人名である。実年齢よりも幼い外見を武器に、名前のとおりのハニートラップを得意とする中帝国の工作員だった女性だ。
シュウ皇帝の愛人でもあったが、クーデター時にはシュウ皇帝の死に立会い、侍女たちを指揮した。現政権にも協力的である。
「なにか嫌な思いででもありそうですねー」
「思いでもなにも……。なんで私の写真集なんて出されなきゃいけないのよ!」
「国の予算のためですよー。赤字を少しでも減らすためにならみなさん、協力するって言ったじゃないですか」
美羽、ハニトラの写真集は大好評。諸外国でも、特に日本帝国で売れまくっていた。
ペラペラと書類をめくり、写真集の売り上げを確認する詠。彼女は月の写真集発売だけはくい止めると決意している。
「リンファ、ランファのも売れ行き好調ね。それにともなって軍への志願者も増えているわ」
ボロボロだった経済のため、民間の働き手の確保を名目に徴兵された軍人を削減中なのだが、美しい指令の下で働きたいという若い男たちも多いようだ。
「次はもっとセクシーな路線でいきましょう、脱いじゃってもいいですよハニトラさん」
「いかないわよ! 脱がないわよ! ……侍女たちの鬱憤が爆発してシュウが殺された現場になんて居合わせるんじゃなかった……」
クーデター時にシュウ皇帝は後宮に逃げ込んで、そこで殺害されていた。
勢いで殺してしまったはいいが、この後どうしようかと慌てる侍女たちをまとめあげ、とある小さな工作員経由で知り合いだった美羽たちに連絡。保護されそのまま現政権にハニトラは関わっているのだった。
「そのおかげで侍女たちの犠牲がなくて済みましたよ」
執務室に戻ってきた月。皆にハチミツ水やお茶を渡していく。
「それは月が治療してくれたから……あ、ありがと」
お茶を受け取り、赤面するハニトラ。この瞬間、彼女は要注意人物として詠にマークされることとなる。
「写真集がこれだけ売れればきっと、煌一さんや他のみんなの目にも留まるね」
「……これでも出てこないなら、この世界にはいないと思った方がいいわね」
月の希望を否定したくはないが、甘いことばかりも言っていられない。でないと次は自分か月の写真集を出すことになってしまうだろう、と小さくため息の詠。
「その時はレーティア姉さまが造る船で別の世界に煌一を探しにいくのじゃ!」
「姉さまって、あの総統が?」
「魂の姉妹なのじゃ! 絶世の美女姉妹であろう!」
仲帝国になってから友好的なドクツを知っているだけに、妄言とは切り捨てられないリンファ、ランファ、ハニトラの3人。
「さんざんかき回しておいて、別の世界に逃げるつもり?」
「あとのことは次の皇帝に頼みますよ、ハニトラさん。ですから、知名度を上げるためにも、ずばっとヌード写真集を出しちゃいましょう」
「出さない! ……私が次の皇帝なの!? ちょっとそれ聞いてない!」
「ええ。そうなるってレーティアさんが言ってましたので」
自分たちがいなくなったあとのことなんてどうでもいいですよ、と顔に出ている七乃の言葉に驚くハニトラ。最近のドクツ総統の言は予言。その的中率の高さを知っているだけに、血の気が引いていく。
「こうなったら皇帝の夫を探し出して説得しないと……」
「
「そうであろ。妾をほっておいて浮気などするわけがないのじゃ!」
いえ、ハニトラさんが処女じゃないからですけどー。でも、もしも煌一さんが見つかった時に面白そうだから黙っていましょう。そう思いながら七乃は政策ならぬ、美羽フィギュアの制作に移るのだった。
◇ ◇ ◇
一方、同じく同盟の準備を進めるドクツ第三帝国総統レーティア・アドルフ。
「なあ、世間的には男性経験のあるアイドルって……中古とか言って敬遠されるんだろ?」
だからアイドルよりも総統業に専念したいというレーティアの意見は、左右両方に泣きボクロを持つ宣伝相、グレシア・ゲッベルスに即座に拒否される。
「あなたはねレーティア、アイドルなの!」
「アイドルは結婚したら引退するんだろ?」
「そんな結婚、認めないわ!」
レーティアは美羽たち同様、グランゾンと戦って謎の爆発現象後、気づいたらマインとともにこの『大帝国』の世界。
手元には1枚のカードがあった。それを隣にいたゲッベルスがひょいと奪う。
「SRレーティア・アドルフ? こんな綺麗な写真取った覚えないのに……それにレーティア、その服も見覚えがないわね」
「か、返してくれ!」
慌ててカードを受け取って確認する。SRレーティア・アドルフ。
間違いなくファミリアカードであり、ゲッベルスの存在からこれがこの世界の自分だとレーティアは確信したのであった。
レーティアは、大帝国の登場人物レーティア・アドルフとして真エンドまでの記憶と、さらにゲームとして大帝国をプレイ、解析済みの知識を活かして次々と先手を打っていく。
大怪獣はコントロールできると発表。大怪獣の兵器利用を禁止する国際条約の素案提出。その際に「まあ、私は大怪獣が敵だろうが勝てるがな」とコメント。
ドーラ教徒であり、教団のためにレーティアを利用しようとするヒムラーの拘束、処分。
教団も徹底的に壊滅させる。ベルリンのドーラ教本拠地地下秘密神殿にいた、その
元々宇宙一の天才として知られているレーティア。
大戦勃発前に既にこれだけの行動していてなお、まわりにはその先読みさえ通常運転にしか見えなかったようだ。
たった1人、ゲッベルスを除いて。
「レーティア、最近どこか……その指輪はなに?」
「ああ、これか? これは結婚指輪だ。綺麗だろう」
指輪の透明化を解除し、じっくり眺めていたレーティアに気づくゲッベルス。
「結婚指輪? い、いったい誰に……」
ずいっと顔を寄せてくる。レーティアはちょっとひき気味で逃げようとするが、がっと両肩をつかまれてそれもできない。
ドクツ第三帝国総統は諦めて全てを話すことにした。
「異世界の使徒?」
「ああ、ドーラ教徒とは別だがな。信じられないだろうから別に信じてくれなくてもかまわんぞ」
「あなた以外からの話だったら鼻で笑ったでしょうね。けれど、レーティアがこんなバカな冗談を言うはずもない」
異世界で人妻となったなどという話。ゲッベルスはレーティアの話でなければ聞き流しただろう。
「あ、ちょっと待て。ああ、美羽か」
突然流れ出した歌で会話を止めでビニフォンに出るレーティア。
「ああ、お姉ちゃんにまかせておけ。忙しいだろうが身体を大切にするんだぞ……」
長々と通話するレーティアに立ち去ろうと思ったが、聞き流せない単語がいくつか混じっていたのでゲッベルスはじっと待っていた。
「おわったかしら?」
「うん。待たせて悪かったな」
「その満足そうな顔を見たら文句もないわ。今のは?」
「私の妹だ。あいつらもこっちの世界にきたみたいでな、手分けして仲間を探している」
ビニフォン待ち受け画面の美羽を立体映像で等身大表示に切り替える。
「妹? たしかに可愛らしいけどレーティアほどじゃないわね」
「そうか?」
「この顔、実の妹ではないんでしょう? あなたが妹と認めるなんて、それほどの天才なの?」
「……いや、頭は弱い方だ。そこも可愛いんだ」
だらしなく目尻を下げながら義妹を解説するレーティア。
そしてビニフォンからはまたさっきの歌が。
「私の妹だけあって歌はうまいぞ。今はアイドルをやっている。これの呼び出し音も美羽の新曲だ」
「レーティアの妹でアイドル?」
宣伝相の目の輝きに気づかずにレーティアは続ける。
「むこうにいた頃はよく一緒に歌ったぞ」
「それは聞いてみたわね。今はどこにいるの?」
「中帝国だ。馬鹿皇帝はさっさと始末しよう」
女と阿片が大好きな暴君が大事な妹に手を出さないように、密かに護衛としてマインをおくっているレーティアだった。
その後、マインの工作と七乃の暴走により暴君が死亡。中帝国が仲帝国となる。
「これを見てレーティア」
「なんだ? 仲帝国のCM?」
流れる映像はハチミツの満たされた風呂に入る、満足げな表情の美羽だった。
「ハチミツのコマーシャルか。美羽もあんなに喜んでいるんだから売れそうだな」
「喜ぶものなの? ……このCMの制作者は要注意よ。あの水着を見なさい。日本向けに研究した戦略だわ」
CMの美羽はさすがに全裸というわけではなく、水着を着用していた。レーティアも大江戸学園で使用したものと同じ種類の水着だ。
「そんなに変でもないだろ、スクール水着だ。学生が授業で使う水着だぞ。別に白くもないし」
「白?」
「ああ、水に濡れると透けるんだ。ちょっと恥ずかしい」
思い出して頬を染める。
「……レーティアがそんな、透けるような水着を着るなんて」
「お、お風呂でだぞ。あいつらと煌一を誘惑するのに使っただけだ」
「ゆう、わく?」
「あの時は煌一も興奮していつも以上にすごかった」
レーティアはそれ以来白スクを使ったことはないけれど、まだスタッシュに大事に保管している。
レーティアが誘惑したという驚愕と、その男に対する怒りと、白スクレーティアを見たいという欲望が綯い交ぜになって混乱しているゲッベルスをよそに映像は続いた。
『妾が浸かったこのハチミツ、勿体無いが売ってやるのじゃ。お主らもこれで気持ちよくなるがよい!』
美羽の目が若干潤んでいるのは、あのハチミツを全部貰えるものだと思っていたんだろうな、と微笑む姉。
「あんな小さな子、しかも自国の皇帝にこんなことを言わせるなんて……」
「こんなこと? ハチミツ風呂で気持ちよくなるなんて美羽ぐらいだろうに。あんなに高値で売れるものなのか?」
CMでは法外とも思える値段が表示されていた。
「……使い方が違うわ。買った男たちはこの子を思い浮かべながら使うのよ」
「まさか、なめるのか? いくら可愛い美羽でも、風呂に使ったハチミツだぞ。……いや、美羽のなら……」
「それならまだいいでしょうね。でも、ローションがわりに使われるのは確実にあるわ!」
断言する宣伝相。このCMを考えたのは自分と同類、そしてライバルだと確信しながら。
もちろん七乃考案、監修のCMである。
「ローションって……ええっ!? そんな、お尻に使うのか?」
「いえ、お尻じゃなくて自分の……レーティア、あ、あなたまさか?」
予想外のレーティアの反応に驚くゲッベルス。
「レーティアはピュアなの、ピュアエンジェルなのよっ。お尻で、お尻でしてるなんて……! あるはずがないわっ!」
「お、落ち着けゲッベルス」
彼女のあまりの取り乱しように、これじゃ後ろの経験の方が先だったって言ったらまずいよなあ。と、さすがの天才も困るのだった。
知識を有効活用し、ゲッベルスに「好きにしろ」なんて危険な台詞は使わないように注意し、自分の恥ずかしい姿がプリントされたオフランス征服記念コインの発売を未然に防いだレーティア。
これで夫が妙な嫉妬をしないで済むと一安心しながら次の指示を出す。
「ロンメル艦隊は北アフリカ戦線へイタリンの援護に行ってくれ」
「しかしイタリンは北アフリカ星域のエイリス軍の数倍の兵力を持っているはずでは?」
「イタリンは弱いからな」
前回、それにゲームでは敗れてしまうイタリン軍のため、前もって援軍を派遣しておく。
SSことレーティア・アドルフ私設親衛隊は隊長であるヒムラーを失い、機能していない。
さらにロンメル艦隊がいなくなるのは大きいが、前もって織り込み済みならばレーティアにとって問題ではない。エイリス大帝国への一大侵攻作戦である"アシカ作戦"であろうとも、だ。
戦力の不足はない。
兵器はレーティアの記憶やゲームのこの時点での性能を大きく上回っているし、デーニッツ提督率いるUボート艦隊もいる。
仲帝国も同盟に参加したことで、アジア・オセアニア方面の牽制の必要が減り、デーニッツが日本に出向することがなかったからだ。
さらにはドクツにはなかったはずの航空母艦やミサイル艦すら存在している。
なお、空母艦載機は煌一がプラモデルから成現していたゼク・アインをこちらの世界でも使いやすいようにレーティアが改良、量産化したもの。
ガンダム・センチネルが大好きな夫の影響を受けているようだ。
◇ ◇ ◇
アシカ作戦は成功し、エイリス大帝国の名前が地図から消えた。
大戦勃発後、未来の記憶を持つに等しいレーティアの思うがままに世界は動いていく。
レーティアの記憶にはない、わずかな差異が現れるまでは。
「おかしい。元寇がない」
「北京にワープゲートを繋げるのよね?」
レーティアから聞いていた未来情報との違いが初めてハズれ、ゲッベルスも首を傾げる。
「ああ。日本がハワイを占領したら起きるはずなんだ。いったいどうなっている? 仲帝国を日本が支配していないからか? それともこれがバタフライ・エフェクト? 美羽たちが襲われる心配が減ったのはいいが気になるな……」
数ヶ月後、レーティアの不安は現実のものとなる。
劣勢を覆すため、ガメリカは疑似人工知能、COREを開発した。重犯罪者の脳を摘出、人工知能のモジュールとして利用したロボット兵器。
やがて彼らは自我を取り戻したCORE、キングコアに率いられガメリカで反乱をおこす。
そこまではレーティアの記憶と同じだった。
だが突如、彼女の記憶にはない1体のCOREが出現する。
グリーンコアを名乗る謎のCOREは、世界に対して宣戦布告中のキングコアを不意打ちで粉砕し、その首領の座を奪った。
「がははははは! 世界の女はメカ俺様のものだー!!」
グリーンコアのネーミングはイブニクルの特典で出てきた緑騎士から
緑色のCOREはマッキンリーがいるけど別人です