今回は風視点
「風ちゃん?」
「風?」
「んー、ちょっと待ってくださいね」
記憶が混乱していますね。
私は風。
風は風なのです。
「……ああ、あの華琳さまが仰っていたのはこういうことでしたか」
「え?」
「華琳さま? って誰?」
心配そうに風の顔を覗きこむ2人の少女。不思議な鎧を纏った彼女たちは風の仲間。
「ぐぅ」
「寝たー!?」
「ちょっと! 風、大丈夫なの?」
おや、心配させてしまいましたか。光ちゃんも海ちゃんも優しいですね。
だからこそ彼女たちが悲しい思いをするのがわかってしまい、風も悲しくなってしまうのですよ。
ここはセフィーロ。「魔法騎士レイアース」の世界のようですね。どうやら風はその登場人物、鳳凰寺風となっているようなのです。
たぶん、もう一人の華琳さまがあの時に仰った「名は体を表す」とはこのことなのでしょう。風の真名が彼女と同じだったことで融合してしまったのではないでしょうか。
冥琳さんや袁紹さんたちがもう一人の自分と合成されたように。だって、風には鳳凰寺風としての記憶もちゃんとあるのですよ。彼女たちもどちらの記憶も持っていました。
風の旦那さまであるお兄さんが使徒として救わなければいけない担当世界はスーパーロボット大戦の世界らしく、風たちは予備知識として関連資料を学んだのです。その中に魔法騎士レイアースもあったのですよ。
……風は名前こそ風ちゃんですが、ルックス的にはエメロード姫似だと思うのですよ。まったく。
そのエメロード姫ですが、風たち3人をセフィーロに召喚した張本人。なのに説明不足すぎます。
エメロード姫は世界を支える柱。
彼女を幽閉した
エメロード姫はザガートさんは好き合っているのですが、柱はセフィーロだけを愛さねばならず、一個人に想いを寄せると世界崩壊だそうです。だから自分を倒させようとしているのですよ。ザガートさんはそれを防ごうと風たちの邪魔をしているのです。
風たちに心中の手伝いをさせようとしている自覚、あるのでしょうか? 少女には特大のトラウマになるのですよ。
◇ ◇
「ザガートを倒しちゃダメ?」
「そうなのです」
「ちょっとなに言ってるのよ? 風!」
「ぷぅ」
光ちゃんと海ちゃんにざっくり簡単に状況を説明したのです。モコナがぷぅぷぅ言ってますが、セフィーロにきたせいか喋れるようになった宝譿が相手をしているのですよ。……宝譿にウィンダムっぽい翼パーツが増えているのです。重いのですよ。
「風は心中の幇助をしている場合ではないのです。華琳さまやお兄さんたちを探さなければいけないのです」
あの爆発の後、セフィーロにきてしまったのはどうやら風と宝譿だけのようです。ビニフォンでも連絡が取れません。東京に戻れば使えるといいのですが。
「お兄さん? 風ちゃんにいるのはお姉さんじゃなかったの?」
「風の旦那さまなのですよ」
「だ、旦那さま!?」
「おう。こいつの他にもたくさんの嫁侍らしたハーレム兄ちゃんだぜ」
「その説明はどうかと思うのですよ、宝譿。まあ、間違ってはいませんが」
おや、海ちゃんが怖い顔をしてますね。
「重婚は犯罪よ! ハーレムなんて、そんなの許せないわ!」
「問題ないのです。華琳さまが許してるのですよ」
「華琳さま?」
「お兄さんの第一夫人なのです。風が支える太陽でもあるのですよ」
ファミリアになることで以前にもましてお強くなられた華琳さま。ご無事だと確信していますが、早く合流したいのです。
……華琳さまは光ちゃんも海ちゃんも気に入りそうですね。会わせていいものか少し迷うのですよ。
「どんな人なの? その旦那さまって」
「超常的な存在により異世界にさらわれ、大変な役目を与えられてしまった人なのです。まるで今の風たちのように」
「そうなんだ。私たちと同じだったんだね!」
風たちは役目を果たせば東京へ帰れるはずです。でもお兄さんは違いました。元の世界に帰れないとわかった時、どんな気持ちだったのでしょうね。
「セフィーロの問題もお兄さんがいれば簡単になんとかしてくれそうなんですけどねー。思いを形にするのは慣れてる人なので。頼りないけど頼りになる人なのです。風たちの恩人なのですよ。しかもかっこいいのです」
二人ともまだよくわからいという顔をしているので、ビニフォンでお兄さんの写真を見せます。ついでにみんなの集合写真も。
「すごいねこの……ゲーム機? わあ、美人さんばかりだ!」
「え? これ全部が奥さん? 多過ぎでしょ! ……これがかっこいい旦那さま?」
眼鏡で顔を隠したお兄さんを見たらそうなりますよね。もちろん素顔は見せられないのです。
そうだ、予備にと渡されたビニフォンを二人に渡しておきましょう。
携帯電話も普及していない時代設定なはずですが風は気にしません。お兄さんも怒らないと思うのですよ。
「お兄さんの素顔は呪われているので、家族以外には見せることはできないのです。いずれその呪いは解かないといけませんが、そうなると美形をさらけだしたお兄さんに女の子が群がりそうで頭が痛いのですよ」
お兄さんは自己評価が低いのも呪いのせい。
でも自己評価が低いのに、華琳さまのお願いで無理をして風たちを助けてくれたお兄さん。
本来戦いはあまり好きではないのでしょう。みんなを人形から戻したら積極的に自分の担当世界の救済には向かいませんでした。強くなって、みんなを強くして、準備を整えてから。
風たちは流されで結婚したようなものなのに、その能力を活かせるように一人一人のことを考えてくれるお兄さん。
担当世界攻略のために準備された物の中には風の飴もありました。ちゃんとおぼえていてくれたのですよ。ハッカのは自分がって外しておいてくれたのです。やさしいお兄さんですよね。
「これが美形ねえ」
「まあ、兄さんは顔よりも下半身の方がスゲエんだけどな」
「宝譿、下品なのですよ。まあ、間違ってはいませんが」
海ちゃんは真っ赤になってしまいました。光ちゃんはキョトンとしています。よくわかってませんね、これ。
「足が速いの? それとも蹴り技?」
「いえいえ、子づ……」
「言わせないわよ! 子供に変なこと教えないの!」
海ちゃんに口をおさえられ止められてしまいました。保健体育の授業はまた今度にしましょう。
でも夜、光ちゃんが寝ついたのを確認した海ちゃんがこっそりと聞きにきたのです。これ宝譿、「ムッツリスケベ」なんて言ってはいけないのですよ。
宝譿がお兄さんの機密情報である双頭竜を漏らしてしまった時、海ちゃんはチラリと光ちゃんの寝顔を見たのです。ふむ。
「海ちゃんたちにはちょっと早いのですよ」
「な、なんのことかしら!?」
「光ちゃんはかわいいですからね。もちろん海ちゃんもかわいいですよ」
これは華琳さまはともかくとして、お兄さんに会わせるのは楽しみなのですよ。
◇ ◇ ◇
なんやかんやあって三人とも魔神を入手したのでモコナさんを説得して、ザガートさんと会っています。彼は戦うつもりでいたようですが、その必要はないと風は魔神から降りてザガートさんを説得します。
「風たちはエメロード姫を傷つけるつもりはないのですよ」
「セフィーロを救う伝説の
「はい。そもそもエメロード姫やザカートさんを倒しても、結局はたいして変わりはないのです。違いますか?」
「……エメロード姫に似ている? お前は何者だ?」
ザカートさんは自分の思いの力で作ったというロボから降りてくれました。どうやら話を聞いてくれるようです。
風のルックスが役に立ったのですよ。あとでお兄さんに自慢しましょう。
「風はそうですね。救世主の奥さんの一人、といったところでしょうかねー」
「ほう?」
「エメロード姫を助けたいなら風の話を聞くのがおすすめなのです。もちろんザガートさんも死なせないのです。エメロード姫が暴走しちゃいますからね」
そう。ザガートさんの助命は絶対条件。他の男のために風が命がけでがんばってるなんて知ったらお兄さんは嫉妬してくれますかねー?
それとも褒めてくれるでしょうか?
惚れた女性のために世界がどうなってもいいなんて、お兄さんとも気が合いそうな人ですし。
あ、光ちゃんと海ちゃんも降りてきたのですよ。念のために魔神の中にいてほしかったんですけど。まあ、いざとなれば
「本当に戦う気はないのか?」
「セフィーロのためならそれがベストなのですよ」
「それよりも! エメロード姫を守るためって本当なのか?」
「恋人っていうのは!?」
剣も抜かずにザガートさんにつめよる二人。どうやら乙女の感情を優先したようですね。戦いよりもコイバナが気になるのは至極当然のことなのですよ。
「お、おい?」
「おやおや、魔神と戦うよりも困ってませんか? もしかしてこういうノリは苦手ですか? 本当にお兄さんと話が合いそうな人なのですよ。もっとも、お兄さんだったら顔面中真っ赤にして照れながらも肯定するのです」
「え? 奥さんたくさんいるのにそんな初心なの?」
「呪いのせいで変にこじらせているのですよ。かわいい人なのです」
恥ずかしがり屋さんで想いを表に出すのが下手だと思い込んでいて、それでも妻たちへの想いは否定したり誤魔化したりしないお兄さん。ああ、言葉に出すのをキスで誤魔化すことはしますね、たまに。でもその後にお兄さんをじっと見つめると観念して「好きだ」ってちゃんと言ってくれるのがかわいいのですよ。惚気になりますのでここでは言いませんが。
「……エメロード姫のことを愛している」
「おお!」
「ふうん」
「よく言えましたなのです。それでこそ助けがいがあるのですよ」
いつもならここで眠りにつきたいところですが、光ちゃんと海ちゃんが心配するのでそれができないのがつらいところなのです。
かわりとしてご褒美に飴をあげておきます。よくわからないという顔で飴の柄を握るザガートさん。
「まず、セフィーロの柱について詳しいことを確認させてほしいのですよ。モコナ」
「ぷぅ?」
「韜晦は風とキャラがかぶるので控えてほしいのです。まったく」
この謎生物ことモコナはセフィーロの創造主。柱一人に重責を押しつけることを決めたある意味で諸悪の根源なのですよ。
モコナが新しい世界秩序を認めてくれれば問題は解決するのです。
「エメロード姫は悲恋に酔って、その解決策を講じていないのが残念ですね」
「解決のために私たちを召喚したんじゃないのか?」
「いいえ。無理心中のお手伝いをさせるためです。もしかしたらザガートさんは死なせずに自分だけが死ぬつもりだったかもしれませんが、彼女が好きになったザガートさんがエメロード姫を見捨てる選択をするはずがないことはわかっているはず」
飴を口にすることはしてなかったザガートさんは当然だと肯く。なめないんですか? 毒なんて入ってないですよ。風とお兄さんが厳選したオススメのフレーバーなのです。
「まあ、柱のシステムに囚われすぎともいえますね。セフィーロの犠牲者なのですよ。他の考え方ができなかったのもセフィーロで生まれ育ったからでしょう。モコナのせいですね」
「ぷぅ!」
わかるような言葉で文句を言うわけでもないモコナの口を飴で防ぎます。ついでに光ちゃんと海ちゃんにもあげておきましょう。海ちゃんには甘さ控えめのやつですね。
「柱を殺すために魔法騎士を召喚したのに、柱システムそのものには疑問を持っていないのです。根本的な解決ではないのに」
「根本的な解決?」
「エメロード姫がいなくなれば次の柱が必要になるのです。でも、その候補はまだ決まっていないのですよ。投げっぱなしですね」
お兄さんがもしセフィーロにきていたら柱候補にされていましたね。もっともセフィーロのことだけを考えるなんてお兄さんには無理でしょうけど。
その場合はお兄さんに頼んで、強い意志を持つけれどセフィーロのことしか見えないお祈りロボを用意してもらえばいいだけなのですよ。
「柱がいなくなればセフィーロは崩壊します。ならば、まずすることは柱を殺すよりも先に次の柱を用意することなのですよ。もしくは」
「もしくは?」
「柱システムの改変。さらには廃止。できないワケではありませんよね、モコナ?」
資料として見た漫画ではそうだったのですよ。もっとも、結局はどうやってセフィーロを維持することになったのかは詳しくわからなかったのですが。
駄目だったらそうですねー、柱の祈りがないだけで闘争と混乱に陥るセフィーロの人たちをなんとかしないといけません。面倒ですが教育でしょうか。まずは学校からですねー。
「なんでモコナに?」
「この毛玉がセフィーロの創造主だからなんだぜ」
「これ宝譿、そこは風がネタバレするところなのですよ」
風はレイアースの風と融合
朱里だったら「東南の風」が魔法になったのに