今回は三人称
生体宇宙船ヨークの中で、月は密かにライバル視している少女、梓と再会した。彼女はまず1人の少年を紹介。
「こいつさ、初めて見るだろうけどマサムネだよ。こいつん中にあのゲームロボが内蔵されてるんだ」
執事姿の少年が胸元だけでなく胸の一部すらも開くと中には月たちにも見覚えのあるゲーム機がセットされており、そこから聞き覚えのある機械音声が発せられる。
「月サマ詠サマ、オ久シブリデス。マサムネデス」
さらに梓は煌一のファミリアではないが見覚えのある人物たちとも一緒にいた。
「こっちはわかるよな? あたしの妹の楓と初音。で、来栖川芹香と綾香の姉妹にそのメイドのマルチとセリオ。爺さんは執事のセバスチャン」
「はい。見覚えがあります。私は董卓。梓さんと同じく煌一さんの妻です」
「ボクは賈駆。同じくあいつの妻よ」
数名を残して紹介された者たちに名乗りを返す2人。若干顔が赤いのは妻を名乗ったせいである。
月が見覚えがあると言ったのは綾香たちが登場するゲームをプレイしたことがあるためだ。
「で、そっちも見覚えがあるんだけど」
「1人はここが日本だって教えてくれた五十六で、もう1人はなんかややこしいことになっててな」
「ホシノ・ルリです。あっちでは月島瑠璃子となっていました」
あー、そっちもか、と頭を抱えたくなる詠。しかも本来の救済すべき世界らしかったスパロボR世界の子かもしれないとなれば不安にもなろうというもの。
「五十六さんは日本の山本提督のところで保護された方ですよね?」
「はい。山本五十六です。神隠しにでもあったのかこの異世界にきてしまった私は、同じ山本姓であった無限殿に拾われお世話になっております。今回は未登録の異様な艦船が近海に出現したということで、我が故郷に帰れる手立てに繋がるかと思い、わがままながらここに参上させていただきました」
月の質問に返したように山本無限は日本帝国海軍の提督。高齢と病の悪化のために現役を退いていた。現在は消耗した軍のために復帰した名提督である。たまたま遭遇した五十六を縁があると保護し、娘か孫のように可愛がり軍人としても指導していた。
「山本五十六……あっちよりもむしろこっちの方が合う名前ではあるけど……だから呼ばれたのかな?」
自分たちを悩ませるグリーンコアの正体とされるランスとは縁がある子だってレーティアが言ってるのよね。そう口に出すことをためらう詠。だが、確認しなければと思いなおす。
「ランス、という名前におぼえがある?」
「たしか槍のことですよね? 私は弓の方が得意なのですが」
「ふむ。まだ関係者ではないのね。それならいい」
敵を増やさないためにも絶対にランスには接触させないようにしなければ、と決めた詠はひとつの提案をする。
「五十六、それにルリ。異世界からきたとか、人物が混じっちゃったってのはボクたちにも共通する問題。一緒にきてもらうわ」
「他にもいるのですか?」
「鋭いわね楓。冥琳がこっちの子と融合しちゃってる。あとボクたちのとちょっと違う翠も」
「マジか」
無言で肯く月と詠。それを受けて梓は予想以上に事態が面倒になってそうだと感じた。
◇ ◇ ◇
CORE軍を避けながらなんとかヨークを運ぶことに成功し、梓たちは日独伊仲の枢軸軍と合流する。
「サイズはともかくとして、ヨークは大怪獣に近いものがあるな。初音には怪獣姫の素質があるのかもしれない」
「ヨークはお友達だよ、レーティアさん」
自分への評価に大怪獣を操るという怪獣姫とは違うと反論する初音。レーティアも確信はなかったので「そうか」とだけで、すぐにビニフォンで表示したヨークのデータを眺めながら改装案をまとめ始める。
「ヨークの協力で指輪の波長を追ってこっちの世界にこれたんだ。ヨークは弱っていたんだけど、煌一の持たせてくれたエリクサーが効いて回復している。あと、憑いていたエルクゥたちの亡霊は聖水で浄化したからたぶん成仏してるよ」
ヨークに位牌っぽいの作ってもらって、実家の仏壇に置いてきたから千鶴姉と耕一が供養してくれてるだろう、と梓は亡霊に関しては心配していない。それよりも優先すべきことがあるのだから。
「それはいいデータだ。あの巨体にも効果があるとなると、煌一は
「煌一さん、自己評価が極端に低いですからねえ。それがなければ、なんでもできそうなのに」
レーティアの考察に肯く七乃。その手は着せ替え人形のチェック中だ。迷わずスカートを脱がされた人形の顔はもちろん美羽に似せられていた。
「可動部分を誤魔化すために下着は大きくなっちゃいますねえ。いっそのことオムツにします?」
「却下なのじゃ!」
「やっぱりアドルフ人形も日本製の素体で作りましょう」
「エッチな衣装させられるから駄目だ!」
ゲッベルスの提案に期待で目を輝かせるデーニッツだったがモデルにすぐに却下されて落ち込んだ。
「そういう人たちは既に自作してるわよ」
「そうなんですか!?」
エルミー・デーニッツ。レーティア・アドルフに心酔する技術分野出身の提督。Uボート艦隊を任され、ヨークの護衛任務につき、無事にその勤めを果たしてこの場にいた。彼女は人形自作の情報を集めようと決意する。
「私のベースってフィギュアなんだけどなあ」
極小ビキニのフィギュアが夫によって
「残念ながら梓たちの探している、日吉かおり、松原葵、月島拓也はまだ見つかっていない。煌一や他の仲間も」
「そうか……」
「CORE軍が世界を混乱させてるから見つかってないだけかもしれない」
「でも、ついに桃色の鬣の馬は見つけたのじゃろ?」
ハチミツ水を一気飲みし、ぷはっと余韻を堪能する美羽。
「シンバドレイジョーですか。地方競馬の競走馬となっていたのは盲点でしたねー。これを餌にグリーンコアを誘き寄せるんですねー。爆弾内蔵させて一緒に爆破しちゃいますー?」
「こええよ、七乃! あたしたちはテロリストじゃねーんだぞ!」
融合した記憶が戻っているため、馬にはひどいことをしたくないマリー翠が拒否。もちろん他の仲間たちもその案は受け入れられなかった。
「グリーンコアであるランスをブラックホールに落としたいとこだけど、這い出てきそうなやつだからな。むこうが勝手に帰ってくれるのが一番なんだ」
「勝ち目がなくなって、馬が一緒にいればそうなる、と?」
「COREとの戦闘については連合国側と一時的な休戦状態だ。もっとも、ガメリカもソビエトもそうするしかない状況だが」
当初は枢軸国と連合国の戦いを利用して漁夫の利を得るように勢力を拡大していたが、双方がCOREとの戦いのために休戦、それどころかCORE相手の時には協力するようになった戦場すらあって、CORE軍はごく一部の戦上手を除き、敗戦を重ねるようになってきていた。
もっとも、日本との戦争での損失を取り戻すためにCOREを開発した国であり陰で国を操っていた若草会を失ったガメリカ共和国、COREの材料として収容所を奪われ、COREを大量発生させてしまった人類統合組織ソビエトはダメージは大きい。CORE軍に取り入って生き残りをはかる者もいたが、多くは貢ぎ物を奪われグリーンコアによって殺されたのが知れ渡ると、COREへの協力者は激減している。
「あいつら、大規模だけどやってることは賊でしかない。占領後の統治なんて考えずに略奪を繰り返すだけ。その脅威から自分たちを守りきれないガメリカ、ソビエトを見限って日本やドクツに降伏する星も出てきてる」
「くっ。わっしぃが生きてれば……」
「イーグル・ダグラスか。残念だった」
ガメリカ海軍を再編成しようとしていたイーグル・ダグラス。大統領すら狙っていた野心ある男だったが、イケメンは気にくわないとグリーンコアによって切り捨てられ、ガメリカは反抗の中心となる人物を求めている最中だ。
「COREに協力している人間の多くが身内を人質にされていることがわかっている。人質の救出作戦は極秘に進めているが、特に東郷には教えないでくれ」
「すまない。彼はすでにキャプテン・ブラッドの正体に気づき始めているようだ」
柴神の報告にあちゃあと顔を覆う詠。
「あの男、そんなに重要なの? 挨拶のように口説いてきてうっとうしいんだけど。人妻だって言っても聞かないし。煌一が合わないって言ってたのすごくわかる。北郷以上に月の側に近寄らせたくない!」
「それでもモテるんだろう?」
「うん。東郷の関係者がやつに惚れないボクのことを変な目で見るぐらいに。レーティアの予想が当たっていそうね」
話を聞きながら自らの首のチョーカーをそっと撫でる少女たち。精神攻撃耐性のついたその貞操帯を。
「東郷は不思議なほどに異性からの好感度が高い。私はこれがあの赤い石のような精神操作によるものじゃないかと推察した。だから彼と接触する可能性のある我が軍の女性提督たちには量産型のチョーカー着用を義務づけている。精神攻撃耐性のために」
「うちの連中もね」
イタリン共和帝国軍提督ユーリ・ユリウスも肯く。彼女は煌一が評価していたことをレーティアが知っていたこともあって頼りにならない総統の代わりにこの場に呼ばれていた。
「正直、チョーカーの力なんて信じていなかったけれど、ムッチリーニ総統やあの黒ビキニ提督たちですら東郷の猛烈なアタックに落ちずにいるのには驚きです」
「そんな馬鹿な」
その名のとおりの黒のマイクロビキニが制服の部隊を率いる、頭が緩いと言われる彼女たちですら東郷になびかなかったと聞いて大きな衝撃を受ける柴神。
「その魅了能力のせいかもしれんが、女性観を始めとした東郷の思考回路も普通の人間とは大きく異なるようだ。娘真希の保有するバリア能力からも鑑みて、現生人類とは違う特殊な血を引いている可能性が高い」
ゲームのご都合主義を真面目に考えたらそうなったと内心でため息のレーティア。彼女はゲームで赤い石が通用しなかったのもこれで説明できると考えていた。
「まあ、今更人類とちょっと違う程度のことはたいした問題ではない。口説きは鬱陶しいが無理矢理襲われることはないのだからまだグリーンコアよりはマシだ」
赤い石が通用しないなら自分もなんだがと思いつつ、親友カテーリンが気にするので口にしないミーリャ冥琳。
「うん。ラムダス戦で役に立つだろうから彼は失いたくはない。柴神、彼をなんとか抑えてくれ。あと真希ちゃんの保護も。人質として利用されたら東郷も従うしかないだろう」
「人質なんて許せんのう。さっさと緑コアを倒して煌一のとこに行くのじゃ」
「そうだな美羽」
レーティアは隣に座っている美羽の頭を撫で、激務で疲れた精神を癒す。その光景を微笑ましく眺めるゲッベルスと七乃。彼女たちはライバルであり同士である。こっそりと手元で撮影とスケッチを始めた。
「CORE殲滅の記念ライブのチケットにこの写真、いいかもしれませんね」
「表と裏で1人ずつお2人の抱き枕を考えてましたが一緒に描かれている方がいいかも。シーツかタペストリーかしら?」
「おいそこ、恥ずかしいグッズは駄目だぞ。煌一が泣くからな」
危機を察してすぐに止めに入るレーティア。非公式はともかく公式グッズではその手のグッズを極端に廃しているのは「嫉妬深い夫への愛のため」と公言して身を守ることにしている。
「キャロルさんも際どい写真集を出して祖国に元気を送っているのだから見習ってほしいですねえ」
「えっ? 嘘っ!?」
「聞いてないようだが?」
「冗談ですよ。KENZENな盗撮写真集ですから無問題です」
グリーンコアが有名な美女を狙う傾向にあることをプロファイリングによって予想しているレーティア。ゲームプレイによる知識からもその正体がランスであることを確信している。ゲッベルスはこれを聞き、七乃とともに誘き出す囮としてキャロル・キリングを利用しようとしていた。写真集販売もその一環だ。
「ピンク馬に乗ってる写真が表紙だ。きっとグリーンコアも気づくだろう」
「彼女は煌一が用意したエリクサーを使えば人間に戻れるかもしれないが、グリーンコアに余計なことを話すことも考えられる。COREの技術を応用して人型に改造し、情報流出しそうな時にはプロテクトが発動するようにするぐらいしかできない」
「可哀想ではありますが、無理にうま少女にしなくてもいいのでは? 元の世界に戻れれば人間になる手段もあるはずです」
ビニフォンによって表示されたピンクもこもこヘアーのウマ耳少女の立体映像をチラリと眺めただけでそう冷静に返すルリ瑠璃子。
「プリンセスって子はどうしてるんだ?」
「キングコアのパーツを人質にされてグリーンコアに従っているな。もっとも、キングコアの脳はすでに死んでいるのをマインが確認している。それを教えた上で味方にならないかと説得したが断られた」
プリンセスはキングコアの相棒だった少女。見た目は他のCOREと違い、普通の少女そのものだがCOREだ。主には逆らえない女奴隷。キングコアとプリンセスの関係はランスとシィルの関係に似ていた。
「プリンセスの中にランスの脳が収納されている可能性もありえる。保護は無理だ。……可哀想なあの子を見捨てるしかできない無能な私なんて、煌一に嫌われてしまうな」
ベッドをともにした仲間たちの前でつい弱気になってしまい、泣きそうな声のレーティアの頬に軽い痛みが走る。隣に座っていた美羽が彼女の頬をむにょっと引っ張るように抓ってた。
「い、いう?」
「レーティア姉さま、妾の夫を馬鹿にしてはいかんの。泣くことはあっても、がんばってる姉さまを嫌いになることなんてないのじゃ!」
「へー、美羽も言うようになったな。でもそこは、あたしたちの夫は、だろ?」
「ふふん、なのじゃ!」
よくイタズラをしては怒られていた梓に褒められて得意気に胸をはる美羽。だが実際は、チラリと視線を向けた初音に「ライバル登場なのじゃ」と自分が危機感に焦って動いてしまったことに気づいていた。
「よしよし。ったく、嫁の心労がこんなにたまってんのにどこほっつき歩いてやがるんだか」
「煌一さんが現状に手をこまねいているままだとは思えません」
いつになく強い口調でそう言い切る月。梓への対抗心ときっと自分たちを探してくれていると信じたい自分の気持ちが表に出ていた。親友のその心情を理解した詠はそれを口には出さず焦りも隠すことしかできない。
「それにヨークの協力で異世界への移動もできるんなら、きっとあいつもすぐに見つかる。心配することもない」
「でもさ、そいつ顔がイイんでしょ? グリーンコアに殺されちゃったりしてるかも。わっしぃみたいに」
キャロルの無配慮な発言に煌一の妻たちの顔が曇ることはなかった。驚きか呆れの表情を向ける彼女たち。
「煌一を知らないとそんな考えもするんだな」
「あいつがサイボーグなんかに負けるわけないだろ」
「戦ってたらもっと大騒ぎになってますよ。なにしろ非常識な方なので」
お前が非常識って言うなとの視線を全く気にしてない七乃に美羽が続く。
「むしろ心配なのは嫁をどのくらい増やしているかなのじゃ。梓も嫁候補を連れてきているぐらいじゃからのう」
「嫁候補って私たち?」
「違うのじゃ。芹香は満更でもなさそうじゃがの、楓と初音の方じゃ!」
大魔法使いとの話である梓たちの夫に興味を持っている芹香のせいで姉と自分のことだと思ってしまった綾香。一方、名指しで嫁候補と言われて真っ赤になる楓と初音。
梓の妹たちは凪と亞莎からの記憶の流入が続き、煌一のことをよく知っていた。とくになぜか夜の生活をよく見てしまっていて、それを自分に置き換えたシーンが頭に浮かんでいたのだ。
「その可能性は捨て切れんな。なにしろあれは好意を寄せられれば断り切れんだろう。そばに強く断われる妻がいてくれればいいが」
「むしろ、追加に積極的な妻がいたりして」
「やめろよ七乃、不安になってくるじゃないか!」
脳裏に数名が浮かぶ煌一妻たち。キャロルの発言時とはうって変わって不安そうな表情となって無言になっていた。
そんな静寂を破ったのは小さな着信音。会議中は重要な案件しか通さないように命じていたのですぐに通信を受け取るレーティア。
「ラムダス……似ているが違う? 亜種なのか?」
「どうした?」
「奇妙な生物が人類を襲っているとの緊急報告がきたんだ。ラムダスっぽいけどどこか違うようにも見える」
そう言いながら添付された映像データを大きく表示させるレーティア。そこには人間を食らう生物が蠢いている。ラムダスと同じく、人の顔に似た部位を持ちながら嫌悪感をおぼえるその異形。
煌一がいればすぐにその正体を教えてくれただろう。
BETAと。