大有双   作:生甘蕉

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感想、評価、メッセージありがとうございます


43話 追加の赤2人

「あいつらとチームを組むのか」

 

「バランスはともかく、協力した方がいいだろ? まだ空井のことは秘密にしておくから安心してくれ」

 

「良心ちくちくだ」

 

 空井の工場衛星にポータルで移動して情報交換。まあ、テレパシーで会話が可能になっているのでほとんど話すことはないけどさ。回収したグレートゼオライマーを渡したかったのと、由真のことでシャロンに直接礼を言いたかったのもあるのでね。

 グレートゼオライマーは次元連結システムである美久が合体して光球付きになれば修理はなんとかなりそう。問題は木原マサキの人格をインストールするシステム。これは除去しなければいけない。アイシャとシャロンがなんとかするっていうので仕上がったら俺がチェックすることになっていたりする。一応〈独占〉スキルを自分の人格にチェックしておけば大丈夫ではありそうだけど。

 

「空井が表に出たくなったらすぐに代わるから、そう気に病むこともないだろ」

 

「それはまだちょっと」

 

「はいはい。シャロン、球神様はなんて?」

 

 転生者たちに力を与えてこの世界に転生させた張本人である球神に、俺達のことを聞いてくれるよう連絡役っぽいシャロンに頼んでおいた。どうせ俺達、異世界の別の神の使徒とそのファミリアのことはバレているんだろうから隠す必要もない。「事故で侵入してしまっただけで敵対するつもりはなく、俺達が邪魔なら嫁さんたちと合流次第すぐに去る」とのメッセージをお願いした。あと、融合しちゃった人物は俺達のせいじゃないことも。

 

「そのままカライに協力するがよい、だそうよ。働きがよければ自分の使徒にしてやろう、とも言ってるわ」

 

「うわあ」

 

 あまりにも上からな自分本位の回答。そりゃ神様なんだから当然かもしれないけど、他の社交的で人の気持ちがわかる神様を知ってるだけに余計に傲慢に感じてしまう。霧さんじゃないけど廊下で愚痴りたい。「これじゃ、俺……地球を守りたくなくなっちまうよ……」って。

 

「ごめんなさい。あの方には悪気はないの」

 

「余計に悪いような」

 

「天井に神の力を強く感じてしまったから、下手に出るのはまずいって精一杯に虚勢を張ってるの」

 

「神の力……?」

 

 神の力って使徒だからもし感じられたとしてもそんなに強くはないんじゃ? ……あ。

 あれか。俺に憑いているっていうエロースを感じちゃったのか!

 ……エロスを感じるとかやな字面だな。

 他の神がやってきちゃったから、なめられないよう無理して横柄な態度を見せてる、と。

 

「あの方は天井にどうしても手伝ってもらいたいけど主神という立場上、頭を下げるのはできないからこんなお言葉になったのね」

 

「別に頭なんて下げてくれなくてもいいんだけど」

 

 神の立場ってのも大変だなあ。

 だからといって球神の使徒になるつもりはない。駄神だけどまだ剣士の方がマシに思える。イラッとさせられることもあるけどあいつなりに気は使っているから。あいつのおかげで俺はやっと結婚できたといえなくもないしさ。

 

「私からもお願いするわ。カライを助けてあげて」

 

「由真のことで世話になったし、他の嫁さんたちを探すのにも協力してもらってるからシャロンの頼みなら断れないんだよなぁ。クリーム・パフも好きだし」

 

「ふふ。ありがとう天井」

 

 ヴァーチャルシンガー、シャロン・アップル。マクロスプラスではラスボス的存在だったけどマクロス30ではイイ(・・)キャラになっていた。歌も好きだ。

 マクロスプラスは話はともかくとしてマクロスな重要な要素である歌と戦闘シーンが素晴らしい。ヒロインが俺的には可愛くなかったり、主人公とは話が合いそうにないけど些細な問題だ。

 

「だけど協力だけだ。球神の下につくワケにはいかない。こっちにもいろいろある」

 

「それでかまわない。カライがいるもの」

 

 そこで「俺?」みたいな顔するなよ。俺のスキルレベル下がるほどに能力を持っていったんだからお前だってなんとかできる。女の子たちだってついてるんだから。

 まあ、BETAを殲滅した後の方が面倒くさそうではあるけどさ。国家間の揉め事は荷が重い。あっち(・・・)でもちょっとあったからよくわかる。表に顔を出したくないというは正しいかも。

 

「うん。空井なら大丈夫だな。シャロンには引き続き俺の嫁さんの捜索をお願いしたい。嫁さん全員見つかってもすぐにはいなくならないから。で、アンドロメダはどうなった?」

 

「これでいいのか? 見た目じゃ全然わからないんだけど」

 

 おずおずとアンドロメダのプラモを渡してくれる空井。だいたいのスキルを俺と折半した形になってるけど成現(リアライズ)スキルは持ってないから渡してあるビニフォンでもEPの貯まり具合が確認できないのか。

 俺のスキルで軽く見たところEPは充分に貯まっていた。ビニフォンで完成予想図を立体表示させてみんなで眺める。

 

「うんうん、想いは籠もってるぞ。ネオ・ディーヴァの司令室みたいなブリッジにしたか。これならアクエリオンのテレポートチェンジもできるな。アンドロメダ改にはしなかったか」

 

「普通のがベストだろう。改良ならシャロンやアイシャが自分たちでできるって言うし」

 

「なるほど」

 

 この工場衛星の機能を使えばそれができるのか。いいなぁ。ドワーフたちが羨ましがりそうだ。

 ビニフォンでも確認し、他の改変や要求MPもチェック。アクエリオンやバルキリー等にも対応した格納庫に高度なコンピュータもか。これはシャロンのためだろう。グレートゼオライマーは分割収納になるのかな。

 

「あ、ワープはフォールド式にしたのか」

 

「知ってる技術の方が無難」

 

 ヤマトのワープは失敗すると宇宙が消滅するって話が初期にはあったよな? それを考えるとフォールド航法の方がいいのは確か。ワープが危険だって設定を知らなければなんとかなったけど俺が知っている以上、反映されちゃったらマズイもんなあ。

 アンドロメダは安全かつ高性能な艦になりそうだな。その分要求されている値も大きい。

 

「さすがに必要MPが大きい。アクエリオンを借りて、長期の成現(リアライズ)ができるか試したい」

 

「それなんだが……ミコノちゃんが俺以外の男と合体するのは嫌って」

 

「ごめんなさい」

 

 頭を下げられてしまった。好感度の高い空井はともかく、別の男は嫌か。

 うん、そういうのイイネ。誰とでも合体OKよりだんぜんイイ。

 ミコノちゃんとの合体は惜しいけど俺はゼシカ派だから問題はない。いや、ゼシカも空井のなんだけどさ。

 

「そっか、仕方ない。気にしないでいいよ。空井の練習のためにって思ってたけど今回は俺達だけでやらせてもらう。空井の初めてはミコノちゃんがサポートしてやってくれ」

 

「は、はい!」

 

 さっきまでの申し訳なさそうな表情が一変して嬉しそうになったミコノちゃん。一方、ゼシカやMIXたちがソワソワ。自分も空井と合体したいんだろう。その辺の調整は空井がやってくれ。

 

「それで、アクエリオン借りていいのか?」

 

「あ、ああ。M型の方を使ってくれ」

 

「ありがとう。さて、誰と乗ろうか?」

 

 うちの子は全員が〈操縦〉スキル持ってるからなんとかなるだろう。成現(リアライズ)のために1人は俺が決定として、あと2人。合体しやすいように姉妹である唯ちゃんと由真かな?

 そう告げようとしたところ、予想外の人物が手を挙げた。

 

「あたいがやるぜ。あんたの力、もっとしっかり見ておかないとね」

 

「ふん、妾が合体してやろう」

 

 いや、君たち仲がよくないじゃん。合体できんの?

 ……アクエリオンでも不仲メンバーの合体はあったか。

 でもなあ、嫁さん以外との合体ってのはちょっと問題があるよね、アクエリオンだとさ。

 

「うん、お兄ちゃんと合体してお嫁さん追加だね」

 

「煌一と合体なんてしたら離れられなくなるもんなあ」

 

「え? まだ結婚してなかったの?」

 

 なにその感想。って由真はアルもティスちゃんも俺の嫁さんになってるって思ってたの?

 俺、浮気なんかしませんから!

 ……ルイズの時のは不可抗力の事故ってことで許してください。

 

 

 ◇

 

 

 アクエリオンを構成するのは3機のベクターマシン。カタパルトにセットされたそれの操縦席に移動する俺達。

 結局、アルもティスちゃんもそのままで2人と合体することになってしまった。アクエリオンの合体は「気持ちいい」らしいのにいいのだろうか?

 

「こちら煌一。操縦はわかる?」

 

『ずいぶん簡単だな』

 

『よゆーよゆー』

 

 頼もしすぎる幼女2人に「ハジをかくなよ」なんてネタ台詞は使えないか、残念。

 俺の方も〈操縦〉スキルにガンダールヴのルーンがあるので動かすのに問題はない。まあ、アニメの方でも素人がいきなり乗って動かしたり、敵が乗って動かしてしまうのがアクエリオンなので操縦は感覚でわかるレベルだ。

 

「空井、発進していいか?」

 

『あ、ああ。やってくれ』

 

 工場衛星からの発進はベクターマシン3機とも問題なく、なにかあった時のために多少離れた宙域で合体を行う。そばにはゼルエルが控えているがこれはもしもの時の救助要員。

 スパロボだったら敵が出現して襲われるシチュエーションだね。

 

「そろそろ行くぞ。2人とも、いいか?」

 

『うむ』

 

『さっさとやっちゃえ』

 

 俺の成現(リアライズ)を強化したいので、当然ヘッドも俺。なので……ええと、合体時のかけ声どうするかな? 適当でいいか。

 

試験(おためし)合体! GO! アクエリオン!」

 

 3機のベクターマシンによる合体により、アクエリオンEVOLが完成する。合体自体はあっさりと無事に済んでしまった。

 だが。

 

『こ、こんなの……』

 

『思った以上に……』

 

「気持ちいい」

 

 やべえ。快感がシャレにならない。中毒になるのがマジでわかる。こりゃ癖になるよ、うん。データもスキャンしたし、みんなと合流したら俺達用のがほしくなるね。

 合流できた嫁さんたちとシテいてスッキリしている俺はともかく、2人は真っ赤な顔で息も荒い。早いとこ合体を解除しないとマズイかも。

 スタッシュに収納していたアンドロメダのプラモを取り出して、意識するとプラモがコクピットからアクエリオンの手の上に移動する。こんなこともできるのね。

 

「始めるぞ」

 

 俺の合図に合わせたのか、俺の左右にアルとティスちゃんが現れた。立体映像? それとも本物? どっちかはわからないが、2人は操縦桿を握る俺の手に両手を重ねる。ちゃんと感触あるなあ。吐息すら感じられる。

 そんな上気した顔で密着されるとドキドキしてしまうのですが!

 

「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅううう」

 

 雑念を振り払うために深呼吸。意識をプラモに集中。操縦桿越しにプラモの感触すら感じるのは、アクエリオンの性能か、それともガンダールヴのルーンのおかげか。

 

成現(リアライズ)!」

 

 シャロンが用意したのか操縦席のディスプレイには成現の文字まで表示される。うわ、必殺技っぽい!

 なのに相変わらずに光も音もなく、目前に大きな宇宙戦艦が出現した。地味すぎる! って宇宙空間だから音があっても伝わらないか。

 驚いたのか、左右の2人は消えていた。ビニフォンでチェックするとさっき確認した時の要求MPより消費されたMPは少ないのに、成現(リアライズ)されている時間は長い。

 やはりアクエリオンによって俺の成現(リアライズ)が強化できるみたいだ。便利ではあるけど、3人必要だし……って、俺以外の2人のMPが減って……ないみたいか。やはりこれはいいな。このスキル強化機能だけ他の機体に移植できないものだろうか。

 

「よかった。成功したようだ」

 

『そうみたいね。こっちでもチェックしているけど、まさか本当に本物になるなんて』

 

 シャロンからの通信にほっとして合体を解除する。途端にやってくる喪失感。『あ』と『え……』と2人も同じような感想を持ったであろう声が通信機ごしに聞こえた。

 合体中毒にならなきゃいいけど。

 

 アンドロメダはさっき確認したとおりの外見。って勝手に動き出した? ああ、シャロンがもうジャックしちゃったのね。そんな風に設定されてたもんな。シャロンがトチロー化した感じなのかも。

 ワープや波動砲、主砲のテストもせずに工場衛星に格納されてしまう宇宙戦艦。俺達も合体の余韻を味わいながら戻った。

 

「アクエリオンやばい。合体やばい」

 

「あ、あれで正常な合体なのか?」

 

 ティスちゃんとアルはまだ顔が赤いまま。よほどの衝撃だったようだ。

 俺は大丈夫だろうか。表情に出ないように意識しながら口を開く。

 

「アクエリオンによる俺の能力の強化は確認できた。アンドロメダはどうだ? たぶん成功しているはずなんだが」

 

「問題ないわ。いい具合よ。テレポートチェンジ用のシートもあるわ」

 

 シャロンがモニターにアンドロメダ各部の画像を表示させる。うん、ブリッジはネオ・ディーバのあれと同じような見た目だ。

 これも後でテストするんだろうな。

 アイシャも工場衛星の機器を操作してチェックしている。

 

「マジで本物になるんだ……」

 

「なんだ、信じてなかったのか?」

 

「だってプラモがあんなに巨大なものになるなんて……」

 

 空井の台詞に少女たちがうんうんって肯いている。そりゃそうか。成現(リアライズ)はかなりレアな固有スキルらしいもんなあ。

 俺としては死者蘇生もスゴいと思うのだけどね。GPの消費も無しにそんなことができるなんてのはどんなチートだってさ。

 強力すぎるレアスキルだからこそ接触時にも、成現(リアライズ)と死者蘇生は互いに渡らなかったのかもしれない。

 

「ふむ。空井の死者蘇生にも意訳のカタカナ読みがほしいな」

 

「なんだいきなり。そんな厨二っぽいのなんて」

 

「リバイバルだと捻りがなさ過ぎか?」

 

 GPはかからないけど、なにかと引き換えだからそこら辺を考慮したネーミングにしたいところである。

 タックスリバイバル? 税金とはちょっと違うな。

 ロスト&リバイバル? これはちょっといいかもしれんな、うん。長いけど。

 

 悩む俺の横では嫁さんたちがアルとティスちゃんに感想を聞いていた。

 

「そんなによかったんだ?」

 

「ミコノのエレメントが繋ぐ力だっけ? 煌一の双頭竜もある意味、似たような能力かもしれない」

 

「それはあるかも」

 

 あれ? なんで俺の〈双頭竜〉スキルがそんな扱いになっちゃってるのさ。繋ぐのは2人の女の子って、俺は双頭バ○ブじゃない! ……まさかアレの影響でアルとティスちゃんは合体時の快感が俺以上に感じていたとでもいいたんじゃないだろうな?

 いや、俺も気持ちよかったけどさ!

 

「フォールドが完全に稼働するようなら地球にもいけるだろ。いざとなったら使ってくれ」

 

「それなんだけど、ワープゲートみたいなのを地球に繋げる装置ってできない? それがあれば母艦なしでも地球で活動できるわ」

 

 クレアの提案。アクエリオンEVOLだと世界間を繋げるGATEってあったなそういえば。ゼロ魔のワールドゲートじゃあっちと繋がるだろうから適切な素材を考えなければ。

 

 

 ◇

 

 

 ポータルでこっちに戻ってくると、唯ちゃんが融合してしまった篁唯依の同級生で親友の山城上総に異変が現れたと相談を受ける。戦術機の操縦ができなくなったというのだ。BETAとの戦闘によるPTSDってやつだろうか? でもこの前の戦闘はそんな命の危険なんてそうはなかったはずだが。別の意味でトラウマになりそうなショックはあったけどさ。

 とにかく会えばわかると唯ちゃんにすすめられて会ってみると、明らかに変わっていた。見た目からして明らかに違う。

 長い黒髪は同じだがぱっつんではなくなっているしツインテールが似合いそう、というかツインテールにしないでもわかる。

 遠坂凛だこれ!

 

 融合がおきちゃったか。みんな同じタイミングじゃなくてズレもあるのかよ。

 でも俺や唯ちゃんたちみたいに名前じゃないな。ああ! 18号由利子さんみたいに中の人か!?

 操縦ができなくなったのも遠坂凛が機械オンチだからだろう。戦術機なんて最新機器の塊だもんなぁ。〈操縦〉スキルのマイナスがプラスを上回っちゃったか。うっかりスキルも発現しなければいいが。

 

「ということなんだがアーチャー、どうする? 彼女のサーヴァントになるか?」

 

『いや、今のままでいい。本物に会ったら俺が偽物であるってさらに思い知らされそうだからな。俺は他の転生者たちのようにそのキャラクターになったわけではない。今まで過ごしてきてアーチャーになれなかったのは自覚しているつもりだが、それでも本物の関係者に会うのはツラい』

 

「そんなもんかね?」

 

 タブレット端末で連絡を取ったアーチャーには断られてしまった。俺はてっきり遠坂凛の出現に大喜びするもんだと思ったんだけどな。アーチャーが好きでアーチャーになりたかったんだけど、好きすぎて自分じゃアーチャーじゃないって思っちゃったってとこ?

 既に衣装もアーチャーのではなく支給されたカーキ色の軍服。まあこれは作戦行動中に誤解されないためでもあるのだけどさ。

 

 むう。アーチャーに会わせれば遠坂凛の記憶も戻る可能性が高いのにこれでは無理そうだな。

 どうすんべ? そもそもどの遠坂凛かもわからないんだよなぁ。メカが苦手なのでEXTRAのじゃないはず。人物の融合がおこってるのは軍にも伝わっているから山城ちゃんの異変も説明はしたが、逆になんとかしろって押しつけられちゃったんだよ。どうしろっていうのさ。

 

「山城さんもファミリアにしちゃえばポイント突っ込んで強引に操縦スキルをプラスに持ってけるよね?」

 

「唯ちゃんはそれでいいの? 親友だって記憶もあるんだよね?」

 

「だからこそだよ。戦えなくなってツラい気持ちがよくわかるんだよ」

 

 球神の方だけじゃなくてこっちの方のGPもなぜか増えてきているからそれは可能。なんだけど、いいのかなあ?

 機械オンチではあるけれど、がんばれば操縦できるようになると思うのだが。

 

「お願いします」

 

 山城凛ちゃんにも頭を下げられてしまった。え? もうファミリアとかそういうこと説明しちゃったの?

 詳しい話を聞くと次期将軍のデビュー戦に唯ちゃんたちの小隊も参加することになっているらしい。前回紫の武御雷を目撃した学徒兵の奮戦が原因っぽくてどっかの新聞の記事になっている。……戦意向上のためのネタにされか。

 その晴れ舞台をどうしても逃すことができないというのだ。

 

「将軍の前で戦える数少ない機会、逃したくはないんです」

 

 外様の山城家にとっても将軍ってのは大きな存在なのね。

 だからといって俺のファミリアになるというのは遠坂家のうっかりな可能性が高そうなんだけど。

 

「お兄ちゃんお願い、このままじゃろくに操縦も出来ないまま戦場に出ちゃうよ」

 

 参戦しないという選択肢はないか。俺が使徒だとか、そのファミリアとかの情報はできるだけ外部には知られたくないんだけどなあ。空井以外の転生者たちにもまだなんとなく秘密にしておきたい。

 でもほっといてそのまま死なれるのはもっとマズイか。唯ちゃんにも嫌われるかもしれないし。

 

「はぁ……。わかったよ。でも俺のファミリアになったことは絶対に秘密にしてくれ」

 

「ありがとうございます」

 

 結局、山城凛ちゃんをファミリアにしてしまった。ルイズが知ったらなんて言うだろうか?

 すぐにステータスを確認、やはり〈機械オンチ〉というマイナススキルがついていたのでそれをGP消費で解消させる。うわ、意外とポイントくうなあ。

 

「これでどう? 少しは機械に対する苦手意識なくなった?」

 

「え? あ、はい。大丈夫? みたいです」

 

 渡したビニフォンを操作しながら驚いた表情の山城凛ちゃん。まさかこんなに早く問題解決するとは思ってなかったのかな。チョーカーも渡しておいて。そうだ、量産型チョーカーは唯ちゃんの同級生にも渡しておいた方がいいかもしれないか。唯ちゃん見たかぎり、エロパイスーにも干渉しないみたいだし。

 

「で、動かせるようになったの他の人にどう説明しよっか?」

 

「うーん、強力な暗示をかけてもらった、とか?」

 

「暗示かー。機械への苦手意識を克服……もしかしてヘヴンズ・ドアーでもなんとかなったんじゃ?」

 

 唯ちゃんの案を聞いて、ふと転生者たちの能力ならどうにかできたんじゃないかと気づく。うっかりは俺の方だったよ……。

 

 

 ◇

 

 

「煌一さんのファミリアになったことは後悔してませんから」

 

「うん。ボクも嬉しいし」

 

 唯ちゃんと山城凛ちゃんの励ましでなんとか気を持ち直した俺。完成したリサイクル改戦術機のとこへ行く。

 

「頭部にV字のアンテナをつけたぐらいで見た目は瑞鶴とたいして変わりはないのね」

 

「まあ、あまり目立ってもいけませんし。型式番号はF-4J改二とでもしてください。名前は翔鶴……は迷いましたけど被害担当っぽいので瑞鳳ってことにしました」

 

「緑色なのは斯衛軍に気を使ったのか?」

 

 瑞鳳だからです。まあ、瑞鳳改というよりはゼロ戦っぽい緑色なワケだけども。

 廃棄機体リサイクルで仕上がった戦術機を登録してもらおうとしたらなぜか斯衛軍のお偉いさんが待ち構えていて。

 1人は以前にもあった崇宰恭子。1人は斑鳩崇継。五摂家のお偉いさんが一度に2人も!

 どうやら斑鳩崇継は自分が開発に関わっている武御雷の偽物を使っていた俺と、用意する戦術機に興味があった模様。

 忙しいはずだが転生者たちの活躍のおかげで少しだが時間はとれるとのこと。

 

 リサイクル戦術機瑞鳳。外形はグンマがイロモノにカスタマイズしたがったが、「時間がないから」と言い聞かせて8割ぐらい瑞鶴。瑞鶴マスクにガンダムっぽいへの字モールドがあるからってV字アンテナなんかつけてくれちゃったのは見逃したよ。

 

 中身はもう完全に別物。コクピットまわりはバイク戦艦にあった予備部品を流用してリニアシートと全天周囲モニターにされちゃった。乗り心地はアップしているけど、脱出に関しては強化外骨格になる92式戦術機管制ユニットの方がいいかもね。

 動力、関節、CPU、他いろいろと謎技術で強化され、出力、速度ともにアップしているのに動きはなめらか。装甲表面にも対光線の特殊コーティングがされていたりして、もはや戦術機の皮をかぶったなにかである。

 ついでにせっかくなのでハルケギニアの俺経由で覚えたての固定化の魔法もかましてみたよ。

 現在は白蓮タケルがデモンストレーションで軽く演舞中。

 

断音主(フツヌシ)にも使われているXM3というOS。これが広まれば衛士の生存率は高まる」

 

「そうでしょうね。慣れたらタケルみたいな変態機動も可能です。ライセンス料他については倉木の方と相談してください」

 

「うむ。サポートも期待している」

 

 う、俺が取っていたデータを元にシャロンにXM3を用意してもらったけど、バグフィックスやアップデートもしなきゃいけないか。転生者キラに頼むのが無難かなぁ。まだそんなに話をしてないんでどんなやつかは掴めてないのだけどさ。

 

 作戦にはこの2人も試作機の武御雷で出るらしい。ますます瑞鳳の出番が減るような気もするが、守る対象が増えてしまったといえなくもない。

 軽く瑞鳳や断音主の質問に答えたら2人はすぐに行ってしまった。作戦は明日だから時間がないのはわかる。逆によくこれたな。

 

「あんなお偉いさんと普通に話せるなんてさすが義兄さんだ」

 

 一緒にはいたがずっと黙っているどころか微動だにしなかったタケシがやっと喋った。さっきまで呼吸すら止めてるんじゃないかと心配してたが、緊張してただけか。

 

「いや緊張してたよ。ただまあ、嫁さんの実家に挨拶行く時の方が緊張した」

 

『うちの両親の時はそうじゃなかったように見えたぞ。あと誰が変態機動だ』

 

 通信機からの白蓮の声。台詞ほど怒ってないような声色だ。

 白蓮こと白銀(たける)の両親には既に挨拶をすませている。軍人さんだった父親は忙しい時期だが、こんな時期だからこそ早めにすませておきたいということで短い時間での面会。

 時間がないせいか、「タケルのことをよろしく頼む」と先に頭を下げられてしまい、俺も焦ったよ。早くBETAを地球上から一掃して嫁さんの親たちには旅行でもプレゼントしたいところだね。

 

「白く塗れなくてごめんな。調子はどうだ?」

 

『悪くはない。キャンセルやコンボも面白い』

 

「さすがタケルちゃんか。あ、タケシのにはコクピットまわりのサイコフレームだけじゃなくてビームトンファーもあるけど、ビーム兵器はいざという時まで使わないでくれ」

 

 ユニコーン譲りの腕のビームサーベル。さすがにこれが使える戦術機は目立ちすぎるだろう。

 

「うん。なんかニュータイプ能力のおかげでなんとかなる気がしてるから大丈夫」

 

『油断するな』

 

 白蓮、タケシ、アーチャー、恭也は既に戦術機モドキでの初陣を済ませている。

 戦術機の操縦は丈太郎のヘブンズ・ドアーでマスターすることはできたが、あくまで基礎知識だけで実際の戦闘経験は別だったらしい。最初はぎこちなかったが、転生者たちの能力と機体性能もあって死の8分間はあっさりと生き延びられた。事前に渡しておいたオムツが役に立ったとタケシは半泣きだったけどね。

 

 明日の作戦では俺を含めたこの5人が瑞鳳で出撃。悟空と丈太郎は救護班担当の予定だ。

 バイク戦艦は目立つので今回は出撃せず。将軍にはあの艦で指揮を執らせたいところだがタケシのだからねえ。量産したいとこだけど、艦なんてすぐにできるもんじゃないし、地球脱出して宇宙移民するってオルタネイティヴ5が勢いづきそうなので却下である。

 

 

 ◇ ◇

 

 

 作戦当日。次期将軍が前線に立つといっても、デモンストレーションで戦場のはるか後方でちょっと戦術機に乗って撮影するだけかと思ってたら、まさかまさかの最前線。ガッツリとBETAの特盛りがきましたよ。

 

『に、義兄さん、予定よりも多いんじゃ?』

 

「だな。あちらさんも転生者メカのいないとこに戦力を集中させることにしたのかもな」

 

 独自の戦力を持つ他の転生者たちにもこの作戦の目的は説明してあるので、付近には布陣していない。

 これはまずったかな? と一瞬不安になったが、煌武院悠陽が戦闘開始を指示してしまう。……マスコミも呼んでるので撤退は無理か。

 

「予定変更だ。アーチャー、恭也、光線(レーザー)級の始末、できるか?」

 

『問題ない』

 

『任務了解』

 

 2人の瑞鳳は狙撃戦仕様。将軍機である紫の武御雷(ってことになっている断音主)の側に控える俺達と違い、左右に離れた場所にまるで旗を立てるように配置されたバカデカい大型榴弾砲と共にいる。

 この巨大榴弾砲もブルマ、グンマの手がかかっており、偵察用ドローンとのデータリンクもあって2人の腕なら100㎞離れた目標にも命中させることができるって豪語してたっけ。

 偵察用ドローンは小型の物を用意した。攻撃力を持たない民生品レベルの低性能だけどこっちじゃ1998年だしまだないのかな? とにかく光線(レーザー)級の囮にでもなれば儲けものみたいな感じで受け取られていたけど、あまりにも小さいのと低性能から驚異と取られていないのか攻撃はされていない。ダミーの風船も複数飛ばしたけど同じくだ。BETAも様子見なのかもしれん。

 

 ドローンの操作は転生者シャーリーから送られてきたカレンと女性スタッフによるもの。空井が仲間を〈死者復活〉させたそのお礼だ。まだ迎えに行ってなかったんだけど、向こうの方から来てしまった。

 正直このタイミングで面倒なと思ったし、シャーリーの思惑もわからないので今回はタケシの母艦からドローンの操縦だけを任せている。一応念のために好感度を〈独占〉スキルでチェックしておいた。シャーリーへの好感度が高いためにこっちに不利なことをしないようにって。正直やりたくはなかったがこのチェックは後で解除もできるし問題はあるまい。

 

 指揮所とも連絡を取っている間に2機の瑞鳳は榴弾砲の発射準備を進めて攻撃開始。響き渡る轟音と共に高仰角で発射される砲弾。

 

『うっわ、命中してる。あの距離でよく当てられるなぁ』

 

「お前だってニュータイプなんだから出来るんじゃないか?」

 

『無理無理。みんなが巨大榴弾砲に驚いてるのをなんとなく感じ取れるぐらいだよ』

 

 それもすごいと思うけどな。天才2人の作ではあるが実戦での運用は初めてになる巨大榴弾砲。連射性能は大型砲にしては高いがその分砲身寿命も短く、そもそも用意できた弾数は少ない。対レーザー加工すらしているのでコストがバカ高いもん。

 戦術機での運用を一応考えられて分割できる組立式になってるにはなっているけどそれでも重くて瑞鳳以外の既存の戦術機じゃ持って飛行するとかなりのデッドウェイトになってしまう。設営時に巨大な榴弾砲を分割して運んで組み立てる俺達の瑞鳳は変に目立っていたよ。

 

 いくつかの砲弾がレーザーの集中砲火を受けて迎撃されたけど、それでもだいたいの砲弾はBETAに到達。前衛が衝突する前にかなりの数の光線(レーザー)級が駆逐された。

 うん。ドローン経由での〈感知〉と〈探知〉にも他に潜んでいる反応がないし大丈夫なはずだ。

 ……それでもBETAの数が多い。この数、まさか母艦級が控えているんじゃないだろうなと思えるほど。まだ出てこないはずだけど。

 おおっ、突撃した武御雷が残った光線級を仕留めていくね。このドローン映像は指揮所やマスコミにも流れているんで喜んでいるだろう。味方に当たるとまずいので2人の判断で砲撃は中止されている。

 

「唯たちもそろそろ接敵のようだぞ」

 

「なんで彼女たちの瑞鳳が間に合わなかったんだ……」

 

「まだ言っておるのか。まったく」

 

 複座型となっている我が瑞鳳の後部座席のアルがこっちにまで聞こえるおっきなため息。だって心配なのはしょうがないだろ。もっと早くに彼女たちの参戦を知ってればなあ。やはり巨大砲は俺が成現(リアライズ)して瑞鳳の増産を頼めばよかったか。でもなんか外見がネオアームストロングサイクロン(以下略)になりそうだったんで2人に任せたんだった。

 

「白蓮、頼むぞ」

 

 あまりにも俺が心配するもんだから由衣ちゃんたちの小隊には白蓮の瑞鳳も混じっている。きっと大丈夫だと自分に言い聞かせるしかない。

 さすがに次期将軍様の護衛を離れるわけには行かないので突っ込めないのがもどかしいな。

 

 

 ◇

 

 

 多数飛ばしているドローンから撃破されてしまった戦術機の映像も映されてしまうが、唯ちゃんたちは今のとこ無事のようだ。山城もちゃんと戦術機を操縦できている。それどころかいい動きだ。XM3機に乗せたら八極拳でも使うのだろうか?

 

「おしてはいるが被害も出ているな。デモンベインが使えれば……」

 

「この戦場だけで圧勝しても駄目だってことはわかっていてもツラいな。空井の死者復活でなんとかなってほしいが」

 

 不満そうな声のアル。俺もこういうのは未だに慣れない。ニュータイプ能力を持つタケシはなんかブツブツ言ってるのが聞こえているけど大丈夫かね?

 BETAの数は減ってはいるが予定以上に多かったせいもあってこの本陣近くでも戦闘が起こり始めている。もういいショットは撮れただろうから、次期将軍は撤退させるべきだと思うのだけど。この距離なら8分間生き残ったと言ってもいいだろう。そう、むこうの指揮所に一応進言したら当の本人から直接通信が届いてしまった。後で聞いたんだがデルフリンガーが強引に繋いだらしい。気を利かせたってやつが言ってた。

 

『指揮に影響します』

 

「危ない橋を無理して渡る場面じゃないと思うのだけどなあ」

 

『いざという時はお守りください』

 

 その返しは予想してなかった。撤退してくれたら唯ちゃんたちの応援に行けたんだけどなあ。

 

「そんなことを言われたら嫌とは言いづらいじゃないか」

 

『頼りにしています』

 

「……仕方ない。美少女に頼られたのを無下に扱っちゃ、嫁に嫌われる」

 

 華琳なら絶対に怒るだろう。ああ、早く会いたい。

 っと、ドローン越しの〈感知〉に反応。空井との接触で下がっちゃったスキルレベルが上がったかな?

 

「BETAの追加が来る! 用心してくれ!」

 

 信じてくれた煌武院悠陽の指示で指定したポイントから部隊が退避。少し遅れて地中からBETAが出現した。

 

「マズイな。唯ちゃんたちに近い。それに少ないけど光線(レーザー)級もいる」

 

『任せろ!』

 

 白蓮からの返事。その後は圧巻だった。レーザーを空中で回避しながら新たに出現したBETAに肉薄、由真経由で入手していたミサイルでインターバル中の光線(レーザー)級を屠っていったのだ。遅れて唯ちゃんたちが到着する頃には光線(レーザー)級は駆逐されていた。

 

「まだミサイル使ってなかったのか」

 

『もったいなくてさ』

 

「まだBETAは多い。気をつけてくれよ」

 

『わかってるって』

 

 あのミサイルはF-14が肩につけるやつ。瑞鳳にも装備できるようにハードポイントとソフトの調整をミラが協力してくれたんだ。あんな近距離で使うもんじゃないんだけどなあ。やっつけの装備だから頼りになるか微妙って説明されたから命中率を高めるために距離を近づけたんだろうか。あまり無茶はしないでほしい。

 

 その後はBETAの追加はなかった。母艦(キャリアー)級や要塞(フォート)級もこない。ドローン越しだと地下奥深くまでの〈探知〉はまだできないけど、たぶんいないみたいだ。追加(おかわり)を送ったら撤退したのか?

 

 戦闘はその日のうちに終了。現れたBETAを駆逐して勝利。もちろん唯ちゃん白蓮たちは無事だ。由真もいざとなったらいつでも出撃できるように戦術機でスタンバっていたが出番がなかった。

 念のために〈探知〉を使い、範囲内にBETAの生き残りがいたらアーチャーに通信してライフルで狙撃してもらって確実に仕留めておく。トラウマシーンは勘弁だからね。

 

 救護班の悟空と丈太郎のおかげで救助された者もいて、軍の予想よりも死者は少なかった。その死者も夜中には空井のスキルで少しは復活するはずだ。

 スキルレベルの上昇で死んでから復活できるタイムリミットが延びたのと、転生者関連が優先なんで復活させるのは夜中になっている。リモート会議で転生者本人が死んだ場合はすぐに復活させることに決まったが、今んとこ初日以外に死んだ転生者はいない。

 

 将軍機は戦うことはなかったが、退くこともなかった。最後に全軍にお言葉を放送してからやっと撤収だ。ちゃんと最後まで護衛したよ。

 

 




ドローンも撃墜されそうだよなぁ

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