大有双   作:生甘蕉

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41話 転生者たち

「え? 姉貴が結婚っ!?」

 

「タケルちゃんが!?」

 

 驚いているのは白銀(たけし)と鑑純夏。転生者であるタケシは黒髪の白蓮といった顔の少年。現在が1998年の8月なのでMuv-Luvシリーズと同じと考えるなら15、6歳ってところだろうか。

 さらにそれに引きずられるように合流した白蓮もそのぐらいの外見年齢になってしまっているのには俺も驚いた。唯ちゃんは見た目変わってなかったのに。

 

「ああ。こいつが夫の煌一だ」

 

 赤面しながら俺を紹介してくれる白蓮。かわいい。知ってる白蓮よりも幼いその姿に思わず頭をなでなでしてしまうのは当然のことだろう。制服姿もよく似合っている。

 

「って、12番さん!?」

 

「そう。よろしくなタケシ」

 

「え? いや、なんで? あ! そんな風に特典選んだの?」

 

 そうか。球神の特典を使えばそういうことも可能か。Muv-Luv主人公の白銀(たける)の双子の弟を選んだタケシのように。

 でも、そういう趣味でもなければ男主人公と結婚なんて特典は選ばないだろうに。

 

「違うよ。別の世界で俺と結婚した女性が、タケルと融合してお前の姉になってしまった。この世界では他にも似たような現象が起きているって、あの時も話しただろう。ユウヤ・ブリッジスも女性になってしまっている」

 

 18号やランバ・ラルもいるって言ったらもっと驚くだろうけど、これ以上混乱させるワケにもいかないのでそれはあとで説明することにする。

 

「別の世界?」

 

「そうだぞタケシ。まあ、入れ替わったんじゃなくて融合したみたいだからどっちの記憶もあるんだ。今までどうりにお前の姉としてあつかってくれ」

 

「ええと、よくわからないけど、タケルちゃんはタケルちゃんなんだねっ!」

 

 話だけでなく物理的にも俺と白蓮の間に割り込んでくる純夏。名前に夏が入っているから春蘭か秋蘭との融合を心配してたけど、どっちかっていうと桃香っぽい? 白蓮はこのタイプに好かれるのかな?

 

「ははは。まあ、そういうことだ。詳しいのはおいおい話すよ。それで私は夫である煌一のとこで働くことになるからな」

 

「タケルちゃんが働く?」

 

 再びの夫発言に純夏に睨まれてしまう。白蓮が危険なとこで働くってのより、結婚してるってのが問題だと感じているのがはっきりわかんだね。

 

「白れ……タケルは普通に強いよ。たぶん戦術機も動かせるし。それはタケシもわかるだろ?」

 

 白蓮はよく普通扱いされていたが、恋姫世界、それも武将の普通なので近接戦闘は強い。ここでは馬には乗らないだろうが、俺たちで訓練して〈操縦・人型機械〉スキルも持っているので戦術機でも戦えるはず。タケルちゃんと融合してるなら変態機動もするかもしれない。

 あ、ループしてる方のタケルちゃんではないので、白蓮にはそっちの知識にはないのかな。

 

「は、はい。姉貴が人妻で旦那が12番さんで、姉貴が強くて働くって」

 

「落ち着けタケシ! 私はともかく、お前はどうしてそんなことになってんだ? だいたいは煌一に聞いたけど、動かせるロボット1機しかなくてどうするつもりなんだ?」

 

「ロボットじゃなくてモビルスーツ! 香月夕呼にあれとタイヤ戦艦を研究してもらえれば、なんとかなるかなって」

 

「そんな大雑把な計算だったのか……」

 

 そういやこのタケシ、鑑定しても〈操縦〉系のスキルは持っていなかった。〈ニュータイプ〉は持っているのに。〈リーディング無効〉も持っているから戦闘よりも交渉でやっていくつもりだった?

 タケルの双子の弟ってのも、戦闘は兄に任せて自分はサポート、もしくは影で操る的な? それにしては残念な感じだが、まさか白蓮の双子の弟になったことで影響を受けた?

 

「だからユニコーンガンダムで出撃してなかったのか?」

 

「うん。義兄さんは武御雷で戦っていたって聞いたけど、それが特典なの?」

 

「義兄さん……」

 

「ど、どうした、煌一!」

 

 やばい。弟のこと、もう会えない家族のこと思い出してちょっと涙が。あいつは元気だろうか? ちゃんと両親の面倒を見てくれてるだろうか?

 

「タケシにそう呼ばれて、弟のことを思い出して。うん。そうだな、俺はタケシの義兄になるんだな」

 

 白蓮と同じく俺の嫁である十兵衛の弟、八雲は俺のことを兄なんて呼んでくれなかったもんなぁ。まあ、八雲はまだそのことに気づいていなかったっぽいから当然ではあるか。

 

「えっとな、あの武御雷はタケシにもらったというか、タケシの遺品をその孫にもらったんだ」

 

「俺の遺品? え? ……姉貴じゃなくて俺がループするってこと? 純夏! お前の本命は姉貴じゃなくて俺だったのか!?」

 

 俺から純夏にぐるんと勢いよく向き直るタケシ。彼女の両肩をがしっと掴んで、揺すりながら問い詰める。

 純夏も困ったように白蓮の方に助けを求める視線を送るのだが、当の白蓮は「そうだったのか」なんてのんきな発言。

 

「ちょ、ちょっとタケルちゃん!? 違う、違うの!」

 

 あ、純夏がタケシを振りほどいた。あの構えはもしかして……。

 鋭い右ストレートがタケシの顔面を襲う。奇妙な叫びを上げてなぜか真上に吹っ飛ぶ被害者。

 さすがにギャグ時空じゃないので成層圏外まで飛ばすようなことはないか。バイク戦艦内の低い天井にぶつかって落下するタケシ。何度かバウンドしながら転がっていく。

 

「どりるみるきぃぱんちが出たかぁ」

 

「白蓮も落ち着いてんなよ。慣れてんのか?」

 

「まあ、な」

 

 その表情が暗いことから見るに彼女もくらったことがあるのかもしれない。苦労してるんだなと震える肩を抱き寄せてしんみり。以前よりも小さい身長が保護欲をかき立てる。俺が守らねば!

 

「お、俺、ここで死ぬのか……」

 

 ピクピクしているタケシからか細い声が聞こえたのでフォロー入れとくか。

 

「いや、死ぬ場所はたぶんハルケギニア。ゼロ魔の。なんか過去のあっちに跳ばされてしまうっぽい。んでその曾孫がシエスタ。2人によく似ていたよ」

 

「マジですか!」

 

 ぎゅんと勢いよくタケシが立ち上がる。キリっとしたその顔には傷ひとつついていなかった。

 あれ? この世界ってギャグ時空だったっけ?

 

「あ、ああ」

 

「ってことはあっちで嫁さんもらえるんすか俺! あの可愛い子ばっかの世界で!」

 

「うん。シエスタが言うにはずいぶん女性関係が派手だったらしいぞ」

 

「義兄さん、姉貴のこと頼みます。俺はあっちでがんばります!! いやあ、そんなことなら特典で魔法関係取っとけばよかったなぁ」

 

 どうやらタケシはMuv-Luv世界よりもゼロ魔世界の方がいいようだ。こっちだって美少女は多いと思うけどハードすぎるもんなぁ。あっちも危険ではあるはずだけど、過去ならそうでもないのだろうか?

 

「たぶん球神が邪魔するんじゃないか? BETAをなんとかするまでさ」

 

「そんなぁ」

 

「そんなに女の子が好きならなんで特典で選ばなかった? 特典の子は仲間の転生者の好感度が高いのに」

 

「だって、恥ずかしくって……」

 

 なんだろうこの義弟、実の弟よりも俺の弟っぽい気がしてしまう。ってシャイなオタクなんて珍しくもないけどね。

 白蓮も純夏も呆れた顔をしているのはちょっといたたまれない。

 

「とにかく、ニュータイプなんだろ? がんばれよ。ゼロ魔のゼロ戦の人みたいに戦っているうちに召喚されるかもしれないしさ」

 

「そ、そうですね。俺がゼロ戦乗りのかわりに武御雷であっちにいっちゃうのかぁ……。ってあれ?」

 

 なにかに気づいたのか、じっと俺を見つめるタケシ。白蓮と同じ顔なので男なのにちょっとドキドキしてしまう。

 

「義兄さん、シエスタのひいじさんの形見を受け取ったってことはもしかして、まさかルイズに召喚されました?」

 

「ぎくっ」

 

 下手に誤魔化すのもあれなので、わざとらしく口に出して反応する。隠す必要はないかな。

 ……いや、義弟はともかくとして他の転生者に知られるのはどうなんだろう?

 とりあえずは話す必要はないか。

 

「他言無用だ。他のやつには秘密な。特に転生者連中には」

 

「う、うん。そうだね、俺があっちに行くの邪魔されるかもしれない」

 

 邪魔なんてするのだろうか? 自分がかわりに跳ばされたがるとか?

 過去のあっちはともかくとして、今のハルケギニアに行こうとして地球を疎かにされても困る。早いとこBETAをなんとかしないとはぐれた嫁さんたちとの合流もままならん。

 

「戦術機の操縦はできるか? 残念ながら件の武御雷は斯衛軍に取り上げられてしまってるが。あ、でもよく考えればあれとは別の武御雷じゃないと、同じ武御雷がずっとループすることになってしまうのか」

 

「操縦はまだちょっと無理かなと。ユニコーンガンダムだって操縦できませんし」

 

 ユニコーンガンダムを複座にして操縦を白蓮が、ファンネルをタケシが、なんてできたりしないもんかな?

 それぐらいなら丈太郎に頼んでヘブンズドアーで操縦能力を書きこんでもらった方が早いか。

 やはり承太郎、アーチャーとも合流することにしよう。

 

「ならばタケシは承太郎、アーチャーと連絡を取って合流してくれ。俺は悟空と会ってくる。できれば高町恭也とも」

 

「もちろん私も行くぞ。純夏はタケシが守ってやってくれ」

 

「えええっ?」

 

 さっきの勘違いがまだ続いているのか、純夏とタケシの2人にウィンクする白蓮。どう見ても純夏の本命は白蓮なんだけど、それは言わずにおこう。白蓮が焦りそうだから。

 

「シャーリーは? もうあの逆ハー女のとこの女性スタッフも引きとったの?」

 

「え? 煌一?」

 

 やべえ。ルイズやアルのことと同様にまだそのことは説明してなかった。タケシと同じ顔で白蓮が俺をしばらく見つめてそして深ーいため息。も、もしかして愛想つかされちゃった?

 

「煌一だもんなぁ。また嫁さん増やしたのか」

 

「えええっ!?」

 

 純夏とタケシが揃った大きな声で驚く。息がピッタリなだけに白蓮のは勘違いじゃないかもしれん。女同士よりも正常なカップルにはなるのだし。

 

「いいか、先に言っておくけど煌一には妻が多いからあんまりビックリするなよ」

 

「多いって……それでいいのタケルちゃん?」

 

「いいんだよ。だって煌一はみんなのこと愛してるし、みんなだって煌一のこと愛してんだから」

 

 今まさにどりるみるきぃぱんちが俺に向かって繰り出されそうな雰囲気を全く気にせず、真っ赤になりながらも微笑みながら言いきった白蓮に2人は黙ってしまった。

 ふう。背中がぐっしょりするぐらい一瞬でやな汗かいちゃったよ。嫁さんたちの殺気になれてるはずなのになぁ。

 

「姉貴泣かせたら許さないけど、師匠と呼ばせて下さい! ぜひ、モテの極意」

 

「なんの師匠だぁ!」

 

 最後まで言い切る前に再びどりるみるきぃぱんちの餌食となるタケシ。おお、さっきよりもバウンドの数と距離が伸びてる。

 嫉妬からだとしたらやっぱり見込みあるかも知れないぞタケシ。

 ……俺に攻撃できない八つ当たりだったらゴメン。

 

 

 ◇ ◇

 

 

 不満そうな純夏を残し、バイク戦艦から出発。乗っているのは可変戦闘機。VE-1エリントシーカーだ。マクロスの劇場版である愛・おぼえていますかに登場した複座の早期警戒機。そのFXギア仕様で白蓮を迎えにいくためにこれを選んでいた。

 特徴である大型レドームがイカすでしょ。大気圏内なのでスーパーパックは無し。かわりにガンポッドはちゃんと装備させているので一応戦闘はできるかな。するつもりはないけど。

 

 悟空に連絡を取り、通信用に配布したタブレットから位置がわかったDB神様の神殿へと向かう。連絡したおかげか跳ね返されることもなく、無事に到着できた。思ったよりも大きい?

 ガウォーク形態で着陸させると、すぐに悟空とアラレちゃんがやってくる。

 

「おっす、オラ悟空!」

 

「んちゃ! あたし則巻アラレ。おっさんたちは?」

 

 うわぁ、本物の悟空にアラレちゃんだぁ。いや悟空は転生者だって知ってるけど、今のとこ本物にしか見えないって! アラレちゃんなんて初代ボイスだし!

 

「俺はこっちじゃ羽山煌一ってことなってる」

 

「私は白銀武だ。あ、それとも羽山タケルってことになるのか?」

 

 こっちの役所に届出してないからまだ白銀だろうなあ。

 

「やっと迎えがきたぁ。よかったあ、ここってばなんにもなくて退屈だったのよー。……どうしたの、涙ぐんじゃったりして? どこか痛いの?」

 

 欠伸しつつ建物から出てきたのはブルマだ。あの声を聞いたとたんにうるっときてしまった俺を心配してくれるなんていい子だなぁ。

 ブルマも悟空に会わせたのか初登場時の姿だ。白蓮と同じポニーテールでもある。

 

「ブルマもここから離れるのか?」

 

「なによ? 地上がBETAって化け物だらけってのぐらい知ってるわよ。だからあたしが呼ばれたんでしょ? だいじょーぶよ、孫くんの瞬間移動ならすぐにここに戻ってこれるんでしょ?」

 

 あれ、悟空の瞬間移動って気を探ってだから無人の場所っていけるのかな? そのへんってよくわからないんだけど。

 

「基地ができてからじゃ駄目か? マジで危険なんだよ」

 

「だからってこんなとこに1人残されるのも嫌よ」

 

「それは……そうだろうなぁ」

 

 こんな上空の神殿にたった1人ってのはいくら安全だとわかっていても心細いだろう。

 俺だって嫌だ。インターネット環境とあとコンビニがあれば耐えられちゃうかもしれないけどさ。

 

「ミスター・ポポがいんじゃねーか」

 

「え、いるの?」

 

「おう。なんか神様の神殿とセットだったみてえでよ、稽古つけてくれたり、神殿の管理とかやってくれてんだ」

 

 空井のとこのシャロンみたいな感じか。こりゃ他の転生者のとこにも似たようなのいるのかも。

 んん? タケシのとこにはいなかったような?

 あとで聞いてみるか。

 でもまあミスター・ポポがいればさっきの心配は無用になる。彼の気をたどればここに戻ってこれるのだから。

 

 ちょっと心配だった悟空の尻尾はミスター・ポポが切断してくれていた。頼りになる彼に仙豆栽培の世話を頼んで、神殿を出る。俺のスタッシュはまだ秘密にしときたいので悟空だけをガウォークの手で掴んで連れてって瞬間移動で残りで迎えに来て貰うか、なんて考えていたら、ブルマがホイポイカプセルから車両を取り出したのでそれに乗ってもらい、ガウォークで持って移動することとなった。

 

 で、次の移動先はパプワ島。この付近にはBETAはまだ現れてない模様。

 

「んちゃ!」

 

「んばば!」

 

 神様の神殿にミスター・ポポがセットならば当然、パプワ島にはパプワ少年がいるのだった。

 まあ、パプワがいないのにパプワ島ってのもおかしいか。アラレちゃんと意気投合してる? チャッピーはいなさそうだから遊び相手が少なかったのかもね。

 

「おめ、天津飯の新しい方だったかぁ」

 

「中の人だとそうなるか」

 

 悟空の方は恭也と転生者どうしで会話中。残る俺たちはというと。

 

「性能はともかくずいぶんと趣味の悪いメカね」

 

 グンマがブルマに泣かされていた。

 次期将軍の護衛、こいつらにも協力頼もうと思ったけどちょっと迷うなぁ。

 

 


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