「オルタネイティヴ0だと?」
「そう。俺も詳しくは知らないけど、奴らが言うにはそれによってBETAとは別の異星勢力の技術を手に入れたんだと。嵐山補給基地にきた空中戦艦のうち2つは異星人の宇宙船だってことらしい」
「貴様の正体が羽山煌一だということはわかっている」
「うん。でも俺を尋問してもたいしたこと知らされてないから無駄だよ。せいぜいが他の連中との連絡役だから」
斯衛軍の人と会談中の俺。
よくある取り調べだね。つうか尋問。怖い顔のおっさんが俺を問い詰める。で、なだめ役が綺麗なお姉さん、と。
幸いと言っていいのかまだ自白剤等は投与されていない。ま、〈耐性・毒〉のスキルがある俺には効かないけどさ。
練習前の愛紗の手料理を食べて平然としていられるぐらいには鍛えられてるんだぜ。もっとも、ファミリアになったおかげで愛紗も料理の腕が上がるの早かったんだけどね。
「あの武御雷はどこで手に入れた?」
「さらわれた先。どこからだかは知らない。本来の乗り手が死んだんで俺に譲られた」
「貴様を誘拐し、武御雷を与えて訓練したとでも言うのか?」
「そう。色々と詰め込まれたよ。でも俺が選ばれた理由なんてのは知らされる前に日本がピンチだっていうんで、いいチャンスだから結果を出せと出撃させられた。まさか唯ちゃんがフォローしてくれるとは思わなかったよ」
うん。オルタネイティヴ0の胡散臭さが増量中だな。俺の話を信じてくれればだけど。
転生者連中もオルタネイティヴ0の名は出す打ち合わせなので、いきなり酷い目にあうとは思いたくない。拷問はいかん。目覚めたら困るからね。そっちに。
「貴様らの目的は?」
「BETAの殲滅。それだけしか聞かされていないんで、当面は日本の防衛かな。どこのBETAを攻めればいいか教えてくれると嬉しい」
「ほう? 軍の指揮下に入ると言うのか?」
「傭兵でどう?」
こっちの傭兵がどんなのかよく知らんけどさ。
自分の立場をはっきりさせた方が動きやすくなるはずだ。
「ふん。話にならんな」
「だろうね。ま、戦力が欲しくなったら言ってくれ。非常時なのはわかってる。戦術機ならそこそこ動かせるから」
俺の操縦の腕前って結構スゴいよ。分身したんで下がってはいるけど〈操縦・人型機械〉スキルにはポイント突っ込んでレベル上げてるから自在に動かせる。
さらに
「戦闘記録は見たが、あれは武御雷の性能だ」
さすがにその言葉には斯衛のお姉さんも呆れた顔をしていたよ。脅し役は実戦経験ないのかな。顔が怖いから選ばれてるだけだったりして。
「武御雷の性能があったとしても腕は確かだろう。その時はよろしく頼むよ」
「他の連中に救援を頼むならこれを使ってくれ、オルタネイティヴ0の連絡用のチャンネルだ。あいつらも救援要請なら動くはず」
既にエルシャンクとターナはBETAとの戦いのために出発してしまった。連絡手段は確保しているだろうが、転生者たちとの会議で決めた周波数とパスコード類を教えておく。
これであいつらも動きやすくなるといいのだが。
というか、転生者の仲間ルルーシュあたりが作戦考えてくれて連携できると楽なんだよなあ。利用されそうでちょっと怖くはあるが。転生シャーリーって逆ハーレムだけしか考えてないのだろうか。
俺の方にも華琳やレーティア、軍師たちがそばにいてくれたら安心なのに。早く会いたい。
結局、武御雷は返却されず今回の尋問は終了した。このまま没収って流れなのかね、やっぱり。
俺が手荒な扱いをされないのは謎の武装集団の仲間と見られているからだろう。敵対しているならともかく協力的であり、ましてや少しでも戦力が欲しい時なのだから。
あと、譜代武家の篁唯依と仲がいいってのも考慮されているのかも。
唯ちゃんが婚約者って公言しちゃってるから、父親の耳にもきっともう届いている。会うのは気が重いが、由真のためにも話をしないといけない。
□
残してきた俺が取調べを受けている。テレパス通信でその状況をリアルタイムにわかっていながらもこっちは倉木の屋敷を出れなくて。
「18号?」
「そう。由利子さんはその人と融合してしまっている。別の世界の人間なんだけど、思い出せない?」
「別の世界ですか? よく、わかりません?」
むう。俺と唯ちゃんと白蓮も自分が融合しちゃってるってすぐにわからなかったし、由真もまだ気づいていない。なにかのキッカケが必要なのかもしれないな。
ただ、融合しちゃったのがどの18号かが問題だ。クリリンと結婚後ならともかく、その前とか未来トランクスのとこのだと危険なような。記憶が戻っても暴れないでくれよ。
それにファミリアになったら改造部分も治っちゃうような気がするんだが、18号は機械部品がなかったのか、それとも融合によってそれが正常な状態となってしまったのか不明だが普通に人造人間の能力も使えてる。身体の状況をビニフォンによるステータス確認だけじゃなくて、ちゃんと調べたい。カライのとこなら調べられるだろうからその内連れて行かないと。
ランバ・ラル2人にも話を聞きたい。今は忙しそうなので後でね。孫の眼鏡メイド、春川知美も無事だった。こっちは誰とも融合してなかったよ。春蘭と融合してないのはよかったけど残念だ。眼鏡メイドな春蘭見たかったかも。
鈴菜の従兄弟、東衣緒は屋敷に来ていなかったので死んではいないようだ。女の子だったらよかったのにとゲームプレイ中はずっと思ってたやつだっけ。
あれからやってきた帝国軍の連中が村人の遺体の始末と生存者の捜索を行っている。戦術機が防衛してたりと思った以上に協力的なのは、倉木家、というかここがそれなりに意味のある場所で、政府も放置はできないらしい。
「こうなってしまった以上、基地建設に反対する村人もいないでしょう。生き残りがいるかもわかりませんが」
「基地?」
「政府から要望がずっときていたの。けれど村人はそれに反対していたわ。山の神様がいるからって。生け贄を差し出すほどに信じていた神様が守ってくれると」
由利子さんは亡くなった村人たちのことは旦那同様にあまり気に病んでいないらしい。まあ、自分を生け贄にした連中だもんなあ。空井に頼んで生き返らせてもらうほどでもなさそうだ。
それにあいつは転生シャーリーの仲間を生き返らせないといけない。転生者関係の他にもBETAとの戦いでの死者は増えていく一方だし、そんな余裕もないかな。
「基地ができたら拠点としてご利用ください」
「そう言われても、基地なんて建設着工してもすぐにできないような。転生者たちが集まれる場所はほしいけど、あいつらの母艦ってでかいのが多いから面積かなり必要なんだが」
転生者の集結は転生悟空の神様の神殿か、転生恭也のパプワ島あたりになると考えていた。あの神殿を囲むように浮遊する戦艦群なんてさ、すげえ見たいじゃん。パプワ島はギャグ空間だけど、死ぬときは死ぬ漫画だったからマイナス面の方が大きいかもだが。
空井の衛星は嫌がるだろうし、そもそも距離的に無理すぎる。転生トルストールの母国もなんか避けたい。
ふむ。補給のことを考えると日本に基地があった方がいいワケで。転生者や俺たちの働き次第で横浜にハイヴができなければ横浜基地の建設はないはず。そうなると佐渡島? もうハイヴ建造が始まっているかもだから香月夕呼が攻略を提言して攻略後に基地化する可能性がある。ここを早めに攻略できれば日本を守りやすくはなるか。
そのためには補給は不可欠。転生者連中も補給にばかりポイント消費していると仲間や装備の追加ができないだろう。
「簡易的な補給拠点、でもないよりはマシか。日本側もこっちが拠点や補給を欲しがった方が弱みを握れてるって考えて交渉をしやすくなるかもだな。むう、それこそ他の連中と相談が必要、か」
「では、そのように話をつけましょう」
「えっ?」
由利子さんってそんな権限あんの? 当主だった旦那が死んじゃったから現当主ってことなんだろうけど、軍、というか政府にも顔が利くみたいなこと言ってたような。まさか18号みたいに力づくで脅しをきかせるんじゃないだろうが。
とりあえずは大型のテントか倉庫、あと補給物資を運ぶための道路建設だな。空井に頼んだら重機仕様のデストロイド使わせてくれないかな。ああ、シャロンが遠隔操作で操縦してくれれば基地建設もすぐにできるかもしれん。フロンティア時代の未来建材もあるかもだし。
日本経済のことを考えれば現地発注の方がいいのだけど、日本がBETAに攻め込まれてる現状だ。BETAを追い出せれば他の場所でも工事は多い。気にするほどのことはあるまい。
「基地の予定地を教えてくれ。緊急に必要な工事はなんとかなるかもしれん」
「さすがですね、煌一さん」
□
ビニフォンが鳴り出したので斯衛軍の人に許可を取ってから通話をする。まあ、内容はわかっているんだけどさ。俺同士のテレパシーを秘密にするためだ。
む。もしかしてテレパシーってリーディングされる? 一応、空井との接触で入手した〈独占〉で俺の思考とテレパシーも独占対象にチェックを入れておこう。
「お待たせ。どうやら倉木にオルタネイティヴ0の基地ができるようだ」
「なんだと?」
「俺も聞いたばかりなのでよくわからない。詳しいことはそっちの上に聞いてくれ。倉木側もBETAに襲われて被害が大きいみたいだから、危機意識が強いんだろう」
適当なこと言ってるなあ。けどまあ、18号に脅されるよりはマシと思ってくれ。
◇ ◇
「では、九州方面で戦っている動きに一貫性のない力押しだけのドリル戦艦がクロガネ、逆に巧みな運用でBETAを屠っているのが黒の騎士団、こいつらもオルタネイティヴ0だと?」
「そう。詳しい戦力は知らされてないけど、どっちも独自規格の機体を使ってるというのは聞かされている」
これぐらいなら教えてもいいだろう。あとは各自聞いてくれ。転生者たちも気にはすまい。
っていうかさ。
さっきから応対する人が何度か変わって同じ話ばかりしている。そういうものかもしれないけど、時間稼ぎされてるようにも感じてしまう。俺が余計なことができないように監視しながらここに引き留めているつもりなんだろうか?
「あの武御雷に使われているOSは?」
「XM3。動作を途中でキャンセルしたり、その延長で特殊なコンボを行える新型OS。即応性も高いけど推奨するメインコンピュータのスペックも高い」
「なるほど。それによって君はあの奇妙な機動を行えたというわけだね。では質問を変える。そのXM3がないノーマルの戦術機でも君は戦えるのか?」
あれ?
この質問は今までなかったな。あの武御雷は返すつもりはないけど、別の戦術機を渡すからそれで戦えというのだろうか?
今の俺ならXM3未搭載の戦術機でもエース以上に戦えるはず。それをばらしても特に問題は無い。
「戦える。傭兵として使う気になりましたか?」
「そうか。では篁唯依との関係は?」
「……結婚を約束した仲だ。彼女はオルタネイティヴ0には無関係だから尋問しても無駄だ」
転生者たちが唯ちゃんを名指しで接触したがったもんだから唯ちゃんも斯衛軍や政府に怪しまれている可能性が高い。酷いことされてなきゃいいが。もし拷問でもされてた日にゃ俺、なにするかわからないよ。
つい、相手を睨んでしまう。
「唯依が無関係なのは当然だ。そんなことはわかっている!」
あれ、唯ちゃんを呼び捨て? 対人の〈鑑定〉スキルのレベルはまだ低いんだけど、それでも使ってみると……崇宰恭子?
たしか篁唯依の親戚で崇宰家って五摂家の1つじゃないか。五摂家はええと、その中から政威大将軍が選ばれる武家中の武家、だっけ?
この人、Muv-Luvシリーズだと試作機だった武御雷を引っ張り出して篁唯依を助ける人だったはず。
「まあいい。オルタネイティヴ0とやらのおかげで現在日本はBETAを押し戻しつつある」
「そうですか。よかった」
「だがそれでは駄目だという意見があってな。明らかに日本の物ではない機体によって守られても、それで日本の主が変わってしまうことを怖れる者もいる」
「なるほど。たしかに他国に命運を預けるようではいざという時に不安が残ります」
そんなの支配階級のわがままだろ、と笑うことはできない。
誇りだけではなく、見捨てられたら終わりという状況は避けたいというのは当然だ。
「それでもだ。失われる民の命が減るのならばそんなことを言ってる場合ではない、というお方もあってな」
国民がいなくなって国土も失うのも避けなければならない。
でも、謎の組織に助けられるのも困る。
どないせーっちゅうんじゃ。
「オルタネイティヴ0には他に戦術機はないのか?」
「はい。多少はあるかもしれないが俺の知る限り、動かせるやつは少ない」
転生者だと承太郎ぐらい? やつならヘブンズ・ドアーで操縦をマスターできるはず。……それなら他のやつにも操縦を覚えさせられる?
こんなことを聞くってことは戦術機の数、少ないんだろうな。そしてパイロットである衛士も。訓練中の学生引っ張り出すぐらいなのだから。
承太郎と現状あまり活躍できてないっぽいアーチャーとも早めに合流すべきだろう。あと悟空はともかくブルマとも。
「そうか。傭兵だと言ったな。ならば貴様の任務は殿下の護衛だ」
「はい?」
「貴様の武御雷を目撃した者は意外と多くてな。将軍専用の紫の機体をな! 幸いと言っていいのか、貴様が動かしていたということを知る者は少なく、箝口令をしいている」
「俺にも喋るな、と」
こりゃマジで武御雷召し上げコースかね?
口封じとして殺されないよね。もしそうなら逃げるしかないけど。
「将軍の勅命を受けて機体を貸与された者が学生たちを救った、とそういうことにして利用しようという話がある。情けない話だが少なくとも謎の機体に救われるよりは体裁がいいと」
「日本の現状を考えれば、国民の精神的な支えとなる将軍の人気が少しでも高くなった方がいいというのは理解できます」
「国民の、そして兵の士気を鼓舞するために次期将軍も前線に立ち、日本を守ったのはオルタネイティヴ0のおかげだけではない、と証明せねばならない」
「へ? ……いやいやいや! それはマズイでしょ! 万が一のことを考えたら絶対に出すべきじゃない!」
次期将軍ってったら煌武院悠陽だろ? Muv-Luvシリーズでも直接戦うことはなかったはずじゃないか。
転生者や俺たちが頑張ったせいで、彼女がピンチになってしまうのかよ。
「誰だってわかっている!」
ガンと拳でテーブルを叩かれてしまった。納得いっていないのだろう。そして、転生者たちの力を借りねばBETAに日本が蹂躙されていたのもわかっているのかもしれない。俺たちに手を引けという話が一切出てこないのだから。
「この機に乗じて政威大将軍、元枢府の権限を取り戻そうという動きが政府にすらある」
「自分たちで責任取りたくなくて、ピンチな時だけ重責をまかせたい、と」
しばらく返答はなく、じっと俺を見つめる。
そしてゆっくりと大きなため息の後。
「貴様の武御雷はそのお方がご搭乗なされる。無論、斯衛も護衛につく。貴様は万が一の保険だ。いざとなったら死んでも殿下をお守りしろ」
「それは構わないが逆に俺の方が危険だと考えるでしょ、普通。怪しいだろ、オルタネイティヴ0なんて」
「唯依は嘘をつく子ではない。唯依が貴様を全面的に信用していいと太鼓判を押したのだ。私も信用するしかあるまい。唯依を裏切るなよ」
ギロリ、と信用してるか疑わしいほどの鋭い視線で睨まれてしまった。
マジで護衛任務しなきゃいけないようだ。……あ、本当に影武者として双子の妹の御剣冥夜が引っ張り出されてくる可能性もあるのか。それとも、武御雷から降りなきゃ全くの別人でも問題はないよな。
「裏切るワケがない! わかった。その依頼、受けましょう。金額その他は倉木と相談してくれると助かります」
「倉木か。そういえば倉木の娘とも婚約していると聞いたが」
「亡くなった両親が決めていたみたいで、俺は知らされていませんでした」
さらにキツい目で睨まれたけどこう言うしかないよな。本当のことだし。
他の嫁さんのことがバレたら、裏切ったと言われてしまうんだろうか。
次期将軍に権限が戻ったら、重婚できる法案を通してもらえるよう相談しないと。そうすれば転生者たちが完全に味方になるとか言ってさ。
駄目だったら、嫁さんたちと合流してさっさとこの世界を去るしかないかなぁ。