念願の魔法を手に入れたぞ! そう感激のあまり泣き出してしまったルイズと、今にも胴上げでも始めそうな彼女の家族たち。
このお祝いムードでは俺を処分なんて言い出せないと信じたい。
あ、そうだ。誤魔化す為のネタを増やしておこう。やさしくルイズの頭を撫でつつ。
「ルイズ、今まで使っていた方の杖を貸してくれるか?」
「え? これ?」
ルイズを抱きしめていた腕を離し、まるでオーケストラの指揮者が使うタクトのような杖を受け取る。ええと、これってどう持てばいいんだっけ? ま、適当でいいか。
指揮棒杖を軽く振ってから、その先端をある場所に向ける。そこにあるのは大きな藪。
「コーイチ?」
「いいかいルイズ。あそこに不埒者がいる。たぶんスパイだろう。俺の攻撃に合わせて追撃できる?」
「う、うん」
よくわかっていない表情ながらも肯いてくれたので、少しルイズから離れてから適当に指揮棒杖を振る。もちろん無くても俺は魔法を使えるんだけど、こっちの魔法だと杖が必要だからね。もし攻撃目標に逃げられても疑われないように済ますためだ。
攻撃目標?
だって都合良くこんな場所にいるんだよ、スケープゴートにさせてもらうのも当然でしょ。
「ミッソー!」
無難に100本程度のマジックミサイルを藪に向けて発射する。正確にはそこの隠れているやつに向けて、だ。
たまらずに飛び出してきたのは一人の男。ルイズは俺の言葉に従って相手の確認もせずに魔法の矢を放った。男は俺とルイズの魔法をかわそうとするも、マジックミサイルは誘導式。結局、全弾命中して霧散した。
「偏在? しかも今のは」
「わたしとコーイチの初めての共同作業が成功したわ!」
男の名前を言おうとした姉の言葉を遮ってはしゃぐルイズ。その言い方にひっかかるものを感じないでもないが「さすがルイズだ」と褒めておく。やっと魔法を使えて喜んでいる彼女は、スッキリさせた方が落ち着くはずだ。
なのに。
「相手の確認もろくにせずに攻撃するとはどういうつもり?」
「ご、ごめんなさい母さま!」
注意されてしまった。そりゃそうなんだけど、まずは褒めてあげて!
ほら、ルイズが俯いてしょげちゃったじゃないか。バルディッシュを両手でギュっと握りしめて。
ん?
「ああ、そういうことか」
「なにか?」
睨まれちゃった。この人、どうしてこう俺を威嚇するかな?
って、娘をキズモノにされりゃそうなるか。今のあいつも気づいていて見逃していたんかね。
「ご安心ください。今のはヴァリエール公ではありません。公はあちらでしょう?」
俺が指さしたのは背後の丘。〈感知〉スキルに引っかかっていたので隠れている人物を〈鑑定〉したらルイズパパだった。こっそりと見に来ていたみたいだ。ちょっと距離があるのはルイズママの魔法の威力を思い知っているからか。
「そんなことはわかっているわ」
「そうでしたか」
ああやっぱり。ルイズパパが俺の前に出てこないのはなにか意味があるんだろか。
「違うでしょう。あなたはルイズを見てなにかを納得した。どういうことかしら?」
よく見てんのね。なら娘の落ち込みも見てあげないさいっての。
姉2人は俺が指さした方向を見て驚いているのに、ルイズはまだ俯いたまま。
ああもう!
「ルイズが持っている杖、バルディッシュはとある少女の杖のレプリカだ。母親に認められたくて頑張り続けた少女の杖。頑張って無理を続けたのに結局、母には認めてもらえなかったその少女にルイズは自分を重ねてしまったのがわかった、ってことだよ」
なんでレイジングハートじゃなくてバルディッシュの方を選んだか気になっていたんだけど、たぶんそんなとこだろう。もしかしたら形が気に入っただけかもしれないが。
「ルイズがどれほど努力していたかはよく知っているはず。その努力の結果が出たんだ。認めてあげるのが先だろ!」
「いいの、コーイチ。わたしがいけなかったの」
ううむ。魔法が使えたはいいけど、それを使う理由がまだルイズの中では、てことか。ルイズママに立ち向かうほどの覚悟はまだない、と。
ま、約束してたし、いい機会だから色々と教えとくか。
「ルイズ、さっきの男は偏在だった。ずっとこちらを伺っていた不審者だ。まだいるかもしれないからここでは詳しく言えないけどあの判断は間違っていない」
「あの者は」
「わかっています。それについて話がありますので場所を変えましょう」
ついでにルイズの家族にも事情を説明しないとね。
◇
屋敷に戻り、ついにルイズパパことラ・ヴァリエール公爵と面談。当然のように睨まれるがそれぐらいでは威嚇もされん。多少EPが減少するぐらいだ。
「私の小さなルイズについて、なにか申し開きがあるようだな」
「たいへんにデリケートな問題をはらみますので、人払いを願いたい。先ほどの不審者には絶対に知られるワケにはいかない。あ、家族の方には知ってもらいたいですよ」
ギロリとさらに睨まれた後、近くにいた男になにか指示をするとルイズの家族以外の者が部屋を出て行く。残っていたシエスタが不安そうにキョロキョロしていたので声をかける。忘れていたよゴメンね。ますます白蓮の親戚というのが納得できるけどさ。
「シエスタも出て行ってくれ。知らない方がいいんだ。頼むよ」
「は、はい」
とぼとぼと出て行く彼女には後でフォローしないといけないか。
部屋に残っている関係者以外がいないのを〈感知〉でも確認してから、部屋の隅に以前にも使用した結界符を貼って完全に防音する。ここまでしなくてもいい気がするが念のためだ。
「これは防音のマジックアイテム。これで外からこの部屋の音を聞くことはできない」
さらに不審者が侵入することもできなくなり、結界を壊して無理矢理入ってきたら符が燃えるのですぐにわかるが、そこまでは教えなくてもいいだろう。
「私たちをどうにかしようとしても無駄です」
「本当にお話するだけですよ。ルイズの秘密と俺の正体を、ね」
「わたしの秘密?」
「魔法が使えるようになったら話すって約束したからな。ルイズがどんなにがんばっても魔法が使えなかったその理由を」
それじゃ、サクッと進めようか。オフにしていた契約空間入りの能力をオンにして、両腕を彼女たちに伸ばす。
「全員、同時に俺の腕に触ってください」
「なんのつもり?」
「ルイズなら知ってるあの空間の正式な入り方を使う。あそこなら情報が漏れることはない」
「ふうん。いっしょに寝るだけじゃなかったのね」
ルイズが「いっしょに寝る」と言った瞬間に彼女の両親の眉毛が上がり、殺気が増量された。むう、まだまだ命が危険かもしれん。いざとなったら逃げるか。
ルイズが魔法を使えるようになって、あのことを知らせれば俺がいなくても問題はないんだからさ。
「母さま、父さま、コーイチのいうとおりにして。姉さまたちもお願い」
「わかったわ。こうね?」
あ、と思う間もなくカトレアが俺の腕に抱きつくようにして触れてきた。大きな胸がぎゅっと当たっている。俺をからかうつもりなんだろうか?
ファミリア候補者との接触により俺たちは
「あら?」
「ここは契約空間。ここで情報公開したかったんだけど、同時に触ってもらわないと全員が入ってこれないんだ」
「そう。ごめんなさい」
何もない周囲を見回しながらもあまり驚いた様子のないカトレア。大物である。特に胸が。
いまだに触れたままの胸の感触を感じながら契約空間を出た。
「え?」
「やり直し。今度は全員が同時で」
「そうね」
すぐに離れてしまうおっぱい。物足り……いかん、嫁さんたちとシテないんで欲求不満なのかもしれない。やはりタイミング見計らって逃げ出してあっちに合流しようかね。
ああでも、あの男の偏在がさっきいたということはまさか、姫がらみのイベントが動いている? まだ逃げちゃダメかも。
カトレアは両親に向かって微笑む。
「父さま、母さま、試せばわかります。お願い」
娘2人にお願いされては、と残りも従って全員が契約空間入り。……とはならずに、ルイズパパが若干遅れて置いてけぼりにされてしまった。またすぐに契約空間を出たら、娘たちにジト目で見られる父親が少しかわいそうに見えたよ。
再度のやり直しで今度こそ全員が契約空間に入った。この人数で同時はもうちょっと考えるべきだったかな?
「ここはいわば精神世界の一種。ここで長い時間を過ごしても、ここを出たら元の世界ではほんの一瞬も過ぎていないから、のんびりできる。本来は契約空間の名のとおり、別の目的で使うんだけどね」
言いながらスタッシュエリアからテーブルと椅子を出して、座ってもらった。テーブルの上にはビニフォンをセット。空中への投影の大きさを調整してからある作品を再生する。
「これはある物語を映像化したもの。この世界のことではないけど、とてもよく似た世界の話だ」
そう、アニメ版ゼロの使い魔である。しかもこっちの言語版。
詳しい説明が面倒なんで、これを見てもらうことにしたよ!
時間はかかるけど、正式な契約空間ならそれも気にしないですむからね。
これでルイズが才人を気に入ってくれるかな。もしそうならあっちの俺に探してもらわないと。