大有双   作:生甘蕉

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27話 三角

 ルイズの両親に会うつもりはなかったのに万能の霊薬(エリクサー)を渡してわずか数日でルイズの姉、ラ・ヴァリエール家の長女エレオノールが学院にやってきて妹と俺、ついでにシエスタを拉致……ラ・ヴァリエール家へと連れていかれることとなった。

 

 シエスタは道中の侍女とのこと。俺とシエスタは従者の馬車に乗せられている。正直乗り心地はイマイチ。しかも遅い。プロトガーランドを使うか馬車に〈成現(リアライズ)〉して強化したい。

 

「あの人、ルイズによく似た美人だな」

 

「煌一さんはああいうのがタイプなんですか?」

 

「うん? 大事なのは性格だよ」

 

 俺の嫁さんは美女美少女ばかりだから説得力ないけどね。桂花の方がキツいし。

 早く会いたいなあ。でないと胸を押しつけてくるシエスタをどうにかしてしまいそうで怖い。

 

「あまり誘惑しないでくれ。知ってるだろ、俺は妻子もちなんだから」

 

「奥さんたくさんいるんですよね。なら1人くらい増えたって……ひいおじいちゃんもすごかったんで、うちの家系はそういうの気にしません!」

 

 なにやってんのタケルちゃん!

 まさかこっちでも恋愛原子核っぷりを発揮していたとは。

 ルイズなんて俺が多くの嫁と結婚してるって知ってからしばらく口もきいてくれなかったのに。

 ……白銀武は白蓮なんだからシエスタのひい爺さんではないはず。白蓮じゃない白銀武?

 だけどシエスタは白蓮によく似ている。となれば、タケル白蓮の双子の弟だというタケシの可能性が高いな。

 

 

 ◇ ◇

 

 

 休憩のために寄った旅籠でルイズの姉、ラ・ヴァリエール家次女のカトレアと遭遇。偶然ではなく待ち構えていたようだ。

 ルイズと同じストロベリーブロンドに、長女三女とは違う大きな双丘。たしか1人だけ性格もあまり似ていないんだよな。

 

 三姉妹か。義姉妹も含めて嫁に多いんだけど元気でやってくれているだろうか?

 カトレアの方は〈鑑定〉では健康体と表示されているので病気は治っている。ちゃんとエリクサーを使ってくれたようだな。……だから俺が拉致された?

 

「ちいねえさま!」

 

「ルイズ! あなたのおかげでわたし、治ったのよ!」

 

 うーん、まだ投薬して数日なんだから完治したって判断するのは早いような。水メイジってその辺がわかるんだっけ?

 抱き合って2人とも涙しているのを見て旅籠に集まっていた村人たちももらい泣き。俺もうるっときちゃったよ。

 

「よかったな、ルイズ」

 

 つい声をかけてしまった俺に「まあまあまあ」と声をあげながらカトレアがやってきて顔をペタペタされた。さりげなく眼鏡を外そうとしているが、無駄だ。これは俺の意思以外では外せない。

 

「あなたがルイズの」

 

「は? ……ああ、使い魔のコーイチです」

 

 ルイズの、なんですか?

 思わせぶりなとこで止めないでほしいんだけど。

 

「ちいねえさま、あの薬はコーイチがくれたの!」

 

「ええ。そう聞いているわ。ありがとう、コーイチ」

 

「いえ、主の大切な家族のためですから」

 

 頭を下げるカトレアにそう返しておく。ルイズが虚無にならなきゃエルフの秘薬が手に入らず、彼女の病が治らなかった可能性が高い。治ってよかったよ。

 

 その後カトレアの大きな馬車でラ・ヴァリエールの城へ向かう。動物だらけで恋が喜びそうな馬車だった。……さっきの「まあまあまあ」が動物王国のあの人の「よーしよしよし」と同じように思えてきたのはきっと気のせいだ。

 城に到着した時には夜になっていた。そのせいかすぐに晩餐会。

 

 公爵夫人カリーヌ。

 ルイズの母親。

 そして伝説の魔法衛士隊隊長、烈風カリンの正体である。

 たしか50過ぎだったはずだから一刀君のストライクゾーンだな。

 

 威圧感は凄かったが華琳で慣れているのでそれほど気にはならない。

 烈風カリンなので唯ちゃんや白蓮のように華琳と融合してないか非常に不安でしかたがなかったが、顔や髪の色からどうやら違うらしくほっとしている。胸のないとこは同じだったが。

 くすりと思ったことが顔に出ていたのか、ルイズママに睨まれた。

 

「なにかおかしい?」

 

「いえ。今は会えない妻をなぜか思い出しまして。家族団らんの雰囲気のせいでしょうか」

 

 とても団らんとは思えないプレッシャーを放っていた本人がピクリと反応する。

 あんたの娘のせいで俺は妻と離れ離れになっちゃった、という嫌味をわかってくれたかな。

 

「お前はルイズの使い魔になった者だったわね」

 

「はい。お嬢様にはお世話になっております」

 

 軽く頭を下げる。

 威圧感を増しているけど、この程度ならまだ平気だ。……ごめん嘘です。たぶんEPが減少していると思う。

 ルイズに手を出したことが顔に出ないように気をつけないと。

 

「コーイチは凄いのよ! コーイチにもらった薬でちいねえさまが治ったの!」

 

「それはこの平民が凄いのではなくて薬が凄かっただけでしょう」

 

 ふんと鼻で笑うエレオノール。俺を平民と思いっきり下に見ているのがありありとわかる。麗羽に近いタイプだろうか。こっちは胸は大きく違うが。

 

「なにがおかしいのです!」

 

 また顔に出ていたようだ。

 俺に隠し事は無理なんだろうか。

 

「たしかに凄いのはあのエリクサーです。もの凄い希少な品でしてね」

 

「カトレアに使われたことを薬の造り手も喜ぶことでしょう」

 

「さあ? うちの師匠は変人ですからどうでしょうか?」

 

「あの薬はあなたの師の手によるものなのですか?」

 

 そう。〈成現〉という最終工程でエリクサーにしたのは俺だけど、その元になった回復薬はセラヴィー製だったりする。

 

「はい。地元では世界一の魔法使いと認識されていた凄腕の変態です」

 

「変態? お前はそんな輩が作った薬をカトレアに飲ませたと言うの?」

 

「作り手の性格は酷いですが腕は確かなんです。困ったことに」

 

 憤るエレオノールにわざとらしく大きなタメ息。

 ……あれ、エレオノールって金髪だし髪型さえくるくるにすればセラヴィーの好みなんじゃないだろうか。性格がキツいのもたぶん好みだろうし。

 

「エレオノールお嬢様、金髪でくるくるな髪型フェチの魔法使いの男に興味はありませんか? 性格はあれですが腕と外面はいいんですよ」

 

「なんでそんな変態を紹介されなければいけないのよ!」

 

「そうですか、残念です。……まあ、もう会えないんですよね。遥か遠き地なので」

 

 サンダル城があるのはこの世界ではない。あっちには月が2つもなかったからこれは確実だろう。

 でもモンモランシーをさらったってことはセラヴィーならこの世界にこれるってことだよな。

 剣士担当の世界に行けさえすればなんとかなるかな? ……過去にきてるのはどうしよう。タイムマシンな鏡はサンダル城にはなかったはずだ。

 

「コーイチ……」

 

 なにか言いたそうなルイズの頭をそっとなでる。

 大丈夫。俺は絶対みんなと会うから。それまでにきっと魔法を使えるようにしてあげるから。

 ルイズママの鋭い視線がその俺の手を射抜く。

 

「ずいぶんとルイズと馴れ馴れしいようですね」

 

「使い魔ですから。親の愛情に飢えているお嬢様をほっておくことなどできません」

 

「知ったようなことを言う」

 

「血は繋がっておりませんが、俺にも娘がおりますので」

 

 璃々ちゃん、智子、ゆり子。みんな元気だろうか。

 お父さんがいなくて寂しいなんて泣いたり……してくれるとちょっと嬉しいけどやっぱり泣かないでほしい。

 分身の1人ぐらい残しておくべきだった。

 

「わたしが娘扱い!?」

 

 今度はルイズに睨まれました。あるぇ?

 

 

 ◇

 

 

 ルイズがなにかルイズママに言おうとしていたけれど食事中で父親も留守だからと聞いてもらえなかった。

 いや、父親は隠れてこっちを見ていたみたいなんだけどね。俺の〈感知〉に引っかかっていた反応を調べてみたらヴァリエール公爵だったし。

 俺の様子を見ていたんだろうか?

 貴族のやることはわからん。

 

 エレオノールも俺になにか言いたそうにしていたが、ルイズママに睨まれていた。たぶんまだエリクサーのことを聞きたかったのだろうが。

 

 俺があてがわれた部屋に酔ったシエスタが登場。絡み酒というか酒癖が悪いのはさすが白蓮の血筋か。

 いや、人のことはいえんけど。

 あまりにもテンションがおかしかったのでスリープで眠らせベッドに寝かせて、どうしたもんかと考えていたらルイズもやってきた。

 ああ、これも小説にあったイベントか。前倒しで発生しているんだとやっと理解する。

 

「メイドがなんでいるのよ」

 

「こんなお城に泊まることになって心細かったんだろう」

 

 俺だって落ち着かん。

 シエスタが持ってきてくれた酒でも飲まんと寝れないっての。

 ぐびぐびっと。

 

「こいつがそんなタマ? 変なことしてないでしょうね?」

 

「当たり前だ。嫁以外にそんなことはしない」

 

「わたしにはしたじゃない」

 

「それは……ごめん」

 

 ルーンのせいだったと説明してもそれは言いわけでしかない。ヤっちゃったのは事実なのだ。

 ベッドを見ていたルイズがふんと鼻を鳴らして。

 

「ここじゃメイドがいるから寝れないわね。ついてきなさい」

 

 逆らえない雰囲気なので素直についていってしまったのはもう酔いが回ってしまったのかもしれない。くぴくぴ。

 

「ここは?」

 

「わたしの部屋よ」

 

「いやそれはマズいだろう」

 

 危険を感じて出て行こうとすると腕をつかまれた。

 

「逃げたら大声を出すわよ」

 

「そんなことをされたら俺が夜這いにきたみたいじゃないか」

 

「夜這いってなに?」

 

 くっ、ルイズも酔っているのか?

 しかたない。ここは少し話して隙を見てスリープをかけて眠らせよう。

 こんなことなら安全のためにってチョーカーを渡すんじゃなかったよ。今もちゃんと着けてるし。チョーカーの補正で抵抗(レジスト)されないようにMPたくさん消費しないと効きそうにない。

 

「む、むこうの風習でこっちじゃちょっと説明できないかなあ」

 

「そう。なら実演してみせなさいよ」

 

「できるか!」

 

 いかん。つい大声を出してしまった。

 ここ使用人も多いから気づかれたらマズすぎる。

 ルイズは実家にきたことで焦っているのかもな。家族に魔法を使ってみせて褒めてもらいたいのだろう。母親も長姉も褒めるのが苦手そうだから。

 

「あれはちゃんと持っているか?」

 

「これでしょ」

 

 拉致される前に渡した三角のプレートを出すルイズ。うん、ちゃんと持っていてくれたか。

 受け取って状態を確認する。

 

「あの子が使っていた杖のつもりでずっと持っていろって、なにか意味があるの?」

 

「もちろん。こっちの杖だって馴染ませるのに何日かかかるだろ」

 

「でも、これは杖どころかただのオモチャじゃない」

 

 いや、それを〈成現〉すれば本物になる。そのためにもルイズにEPを籠めてもらいたいのだ。できれば杖の方も作っておけばもっとイメージしやすくなる。

 

「今はまだオモチャにしか見えなくても、ルイズが信じて想いを籠めてくれればそれを素材にして俺が杖を作る。君が魔法を使うことのできる杖、その願いを叶えてくれる杖を」

 

「本当でしょうね?」

 

「君の使い魔を信じろ」

 

 もっとも、使い魔の証であるルーンを持っているのは俺じゃない俺なんだけどね。

 返したそれを両手で包み、祈るように願いを籠めはじめるルイズ。

 これならばうまくいくだろう。

 

「……なんか見られてると恥ずかしいわね」

 

「そうだよな。それじゃ俺は退散するとしよう」

 

「えっ? ちょ、ちょっと待ちなさい。これすぐにできないの?」

 

「もうちょっとかかりそうだ」

 

 今見た感じだとEPがまだ足りない。

 俺がEP籠めしてもできないことはないが、この場所でEP低下によるブルーな気分は避けたい。

 マブラヴ世界へ嫁の救助へ向かうために分身したのでEPも減っている。

 

「もっと早くできないの!」

 

「そう言われてもな」

 

「それならやっぱり契約するわ!」

 

 だからなんで脱ごうとするかな。

 俺に手を出させて責任を取らせるってこと?

 もしこんなとこを親御さんにでも見られたら……って〈感知〉見たら反応あるし。

 バンとドアが開いて。

 

「なにをしているの!」

 

 こっちが聞きたい。

 もしかしてルイズさん仕組んでました?

 

 


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