コボクタウンに滞在して数日が経った。
リザード、ヒノヤコマ、ゲコガシラも日々の特訓でレベルで言えば20を越えていた。
「あのジョーイさんの妹さんも俺のファンだったとかモテ期が来たのかもしれん」
ミアレの時と同じように色んなグッズとリオルのモンスターボールにサインをし、ポケモンセンターで会うとカロスでは普通というハグをしてきて困惑している。
「次にメイちゃんに会ったらハグしよう。それくらいは許されるはず」
そしてそろそろ次に行こうと考え、その前に見ていなかったショボンヌ城へと観光の為に足を運んだ。
「あ、ツカっちゃん!」
「サナ? 何とも奇遇だな」
「お知り合い? ショボンヌ城に観光客が二人だなんて、凄く賑やかですね! このお城……言わばシャトーは貴族のマナーハウスだったのです」
胴着を着た男性が二人に話しかけて説明をし始めてくれた。
「マナーハウスって中世までの荘園主の館って意味だっけ」
「はい。ちょっと古めかしいですがそれは歴史があるからで、その歴史の中でみんなに色んな物をあげたので広々とした感じです! 終わり!」
「えーっ、終わり? メガシンカに関係するモノとかないの?」
「終わりですし、メガシンカってなんでしょう?」
サナの言葉に男性は不思議そうに聞き返していた。
「……」
「まぁ、まだ先は長いしゆっくり調べようよ」
少しガッカリしているサナにツカサはそう声をかけ、肩にポンと手を置いて励ましている。
「旦那! またあいつが来たよ!」
「そんな時期ですか? といってもね、あたし何にも出来ないですけどね。あたし、七番道路に行きますがゆっくり見学しててくださいね」
ツカサにそう言うとため息を吐き、呼びに来た男性と共に出ていった。
「なんだろう? ツカっちゃん、どーする? サナ達も七番道路に行こっか」
「そうだね、あいつって何か知りたいし」
サナと雑談をしながら歩いていくと橋があり、大きなポケモンが寝転がって橋を塞いでいた。
サナと男性二人の話を黙って聞き、どうするべきかを即座に理解している。
「……宮殿でポケモンの笛取ってきてって事かな? 仕方ない」
そのままパレの並木道と呼ばれている六番道路へ向かい、並木道を歩きパルファム宮殿へ向かった。
宮殿入り口で中に入るのに千円かかると言われ、サナの分と共に支払いを済ませて中に入った。
「どこ! どこ? 私のトリミアーン! 僕の愛しのトリミアンちゃんが消えた!?」
中に入ってすぐ、金のミロカロス像付近をおっさんがそう言いながらウロウロしている姿が見える。
「聞いた? ツカっちゃん! あたし達も探そッ!!」
「えー……」
「だってもし……自分のポケモンがいなくなったら不安で心臓潰れちゃう!」
「そりゃそうだけど……わかったよ。とりあえずもう宮殿内は探したと思うし、中庭に行ってみよう」
二人で中庭に出ると太陽の光が照らし、宮殿に入る時に脱いでいたお気に入りの帽子を再び被っている。
「サナ、奥の方を探すね!」
「なら俺はまず手前側を探す事になるな」
手分けをして探し始めていた。
消極的に探していると庭で秘伝マシン1を見つけ、それを近くに居た庭師の男性に渡そうとすると持っていきなと言われたので儲け儲けと鞄にしまいこんでいる。
「レシラム……トウコちゃんが見せてくれて、背中にも乗せてくれたっけ」
レシラムの石像を見ながらカントー、ジョウトを巡った日々を思い出して感慨に耽っていた。
「向こう側にはゼクロムか……メイちゃん、元気かな? ガチャガチャで当たったおもちゃの指輪でしたプロポーズごっこは黒歴史。それからの旅の最中メイちゃんずっと左手の薬指にそれ付けてたし、あのままマジで嫁になってくれるんじゃないかってちょっと期待しちゃったぜ」
正月等で集まった時にはつけておらず、ちょっと残念だったらしい。
トリミアンが手前には居ないからと奥の方を見に行くと、迷路のような場所に駆け込むトリミアンとサナの姿が見え追いかけ始めた。
「お願い逃げないで!」
「サナ?」
「あ、ツカっちゃん助けて! 少し先に行き止まりの窪みがあるから、そこに一緒に追い込もう?」
「分かった。じゃあサナは右から、俺は左から」
そう言うとグッと足に力を入れて走りだし、トリミアンを追いかけていく。
マサラタウン出身だからなのか妙に身体能力が高いツカサが追い込みにまわり、サナは指示通りに場所を移動しながら待ち伏せをして逃げ場所をコントロールしている。
そして……
「はあ、お疲れ様……やっと捕まったね……!」
「久々に跳んだり全力で走ったりしたわ……」
逃げていたトリミアンが途中から楽しくなったのか、しっぽをふりながらツカサにたいあたりをしたりと大変だったようだ。
「でもツカっちゃんは凄いね♪ ポケモンの気持ちが分かるから、こうして捕まえられたんだよね!」
「途中からトリミアン楽しんでたからなぁ……っと、さっきのおっさんが来たぞ」
走って近づいてくるおっさんに気がつき、サナの手を掴み自身の隣に移動させている。
「おー! トリミアンちゃん! 愛しのトリミアンちゃん! トリミアンと僕をトレビアンに再会させてくれたのはもしかして君アンド君……?」
「あー……まぁ、そうなりますかね」
「トレビアン! 素晴らしい、実に素晴らしい! こんな時は花火です! ドカドカーンと打ち上げましょう! 私とポケモンの再会……ついでにちょっとがんばった貴方達の苦労も労うからバルコニーに行きなさい。わかりますか? バルコニー」
「あのボステレサがいる……」
「二階の鏡のある廊下からバルコニーに行けますからね」
そう言って嫌そうな顔をしたトリミアンを連れて行ってしまった。
「……トリミアン、見つけてよかったのかな? あたしがポケモンだったらあんなトレーナーはやだ! ツカっちゃんみたいなトレーナーだったらいいかなー」
「褒められてるのかは分からないけど嬉しいよ」
「でも折角の花火だし…… ほら、はやくはやく!」
日も暮れ始めており、準備が完了する頃には夜になっていそうだった。
あれから数時間が経ち、バルコニーで庭を眺めながらサナと共に花火の準備が終わるのを待っていた。
そして花火が打ち上がるほんの少し前。
「あのね……あたしね。男の子と二人っきりで花火なんて初めてなんだよ」
「それは……光栄だな」
「これから見る花火……ツカサと一緒だから一生の思い出にする! パパとママにも男の子と一緒に花火を見たってお話しなきゃ!」
「……えっ、なにそれこわい」
ツカサがそう呟くと同時に花火が打ち上げられ始め、二人は静かに空を見上げている。
サナが少し距離を縮めて来た事に気がつかないフリをし、肩が触れそうな程の距離に少しだけドキドキしていた。
そして花火が終わり
「はあ……凄かったね! 絶対に忘れたくないから心のアルバムにしまっとくよ!」
「そうだね。やっぱり花火っていいな」
サナはもしかしたら俺の事が好きなんじゃ?と淡い期待を持ちながらも表に出さず同意している。
「トリミアンの為のトレビアン花火! これでよろしいかな?」
いつのまに来たのか、何故か青春している二人をニヤニヤしながら見ていたおっさんがそんな事を言い出した。
「は! そう言えば……」
「あのポケモンの笛が必要なんですが」
「そうそう!」
「はあ……ポケモンの笛ね……ほら。ショボンヌ城の宝物だったポケモンの笛も借金代わり。ほら」
おっさんの指示で執事が急いで出ていき、話を聞いている間に急いで戻ってきていた。
「ポケモンの笛でございます」
「いいかい君達、借りたものは返す! これ大事だからね」
そう言ってツカサに手渡し、おっさんは軽快な足取りでバルコニーから去っていった。
「サナ、色んな思い出を作りたいけど……あの人のこと忘れよーっと」
「まぁ、大人には色々あるんだよ」
「宮殿を守る苦労は想像しかねますので……」
「そうだけど……そうだ、執事さん。メガシンカって知ってる?」
「図書室でそういった本を読んだ記憶があります。今で言うトレーナーが不思議な石をかざすとポケモンが更に進化したとか。これは私からです。ささやかな物ですがどうぞ」
「メガシンカの情報だけじゃなくて技マシンまで……何から何までありがとうございます」
「いえ、それでは失礼します」
何か勘違いしているのかツカサに上手くやるようアイコンタクトで伝え、そのまま去っていった。
「それにしても今の人とショボンヌ城のご主人がお友達だったのに驚き!」
「確かになぁ……金金金、金以外の言葉を知らないのかな」
「カビゴンを起こしたら笛、返さないとね……」
「だなぁ。でも起こすのは明日にして、今日はポケモンセンターに戻ろうか」
「そうだね! じゃあサナ、先に行ってるね! 一緒にご飯食べようね?」
………
……
…
ポケモンセンターに入るとモンスターボールを預け、トレーナーカードを渡していつものように部屋の鍵を受け取っている。
「相変わらずカップルが多くて俺の怒りが限界を越えてスーパーマサラ人になりそう。……嫉妬だってわかるけどいいなぁ。俺もイチャイチャして、その行為を愛とか言ってみたいなぁ」
気心の知れたグリーンにそんな愚痴をメールで送っていた。
部屋に荷物を置いてから食堂に向かい今日は米だと和食をチョイスしている。
ほうじ茶を湯飲みに入れトレーに乗せて空いている席に座ると、後から来たサナが正面に座った。
「いやー、鯖の味噌煮がカロスで食べられる事に感激したわ」
「サナ、あまり和食は食べたことないなぁ」
パスタをフォークでくるくるしながら呟いていた。
「それなら一口どうぞ」
鯖の身をほぐし味噌をつけ、手を添えて差し出している。
「え? あ、あーん……ん、これ美味しい!」
「今度頼んでみるといいよ。おばちゃんから聞いたんだけど、どのポケモンセンターにもあるって言ってたから」
そう言ってから味噌汁を飲み、鯖を食べ始めていた。
「うん、そうしてみる!」
これからの事を話ながら食事をし、食べ終えるとそれぞれ部屋に戻り別れる時におやすみと挨拶をしていた。
「あー、さっぱりした。……メール来てるな。『お前が誰を選ぶかは分からないが、姉ちゃんはやらないからな!』このシスコンである。てか選べる立場じゃねーですし、選ぶ相手もいねーよ」