昼すぎくらいにメイスイタウンに着き、ついでに色々見て回っていると試供品のキズぐすりを配っていたので貰っている。
そして現在は噴水の側の掲示板を見ていた。
「『ここはメイスイタウン。川面に寄り添う町』か。夏場は涼しそうだな」
夏は川の側で涼むのもいいなと考えながら橋の方に歩いていく。
橋を渡ろうとすると山男に止められて何か言われたが、笑顔で聞いたフリをして頷き橋を渡っていった。
「草むらが……ん?」
その先にある草むらに足を踏み入れようとしたが、草むらからジーッとこっちを見ているポケモンが目に入った。
片足を上げて横に跳ねるように移動するとポッポも翼を広げながら追いかけてくる。
何でカントーでボールを買ってこなかったのかと後悔しながら草むらに入ると、嬉しそうにそのポッポが目の前に飛び出してきた。
「ケロマツ!」
間髪入れずにボールを投げ、ケロマツをポッポの前に出している。
「ケロッ!」
「後で捕まえたいから今は逃げるぞ!」
そのまま走り出してケロマツを抱えて草むらを駆け抜け、ポッポから上手く逃げ出していた。
そしてケロマツをボールに戻し、背後の草むらを見るとさっきのポッポがジーッと見ている。
「……さてと」
そんなポッポを見なかった事にし、前方にサナとセレナの姿を確認したので近づいていった。
「あっ! ツカっちゃん、一緒にポケモンの捕まえ方を教えてもらお! セレナのパパもママもすごーいトレーナーなの!」
「マジか」
挨拶をした時の意味深な視線はトレーナーだったからなのかと納得している。
「マジだよ! だから捕まえ方や勝負に詳しいんだって!」
「うーん、パパやママがそうでもアタシには関係ないけど。ちょっと見てて」
そう言うとセレナは草むらに入っていった。
そして出てきたホルビーを相手にサナとツカサに捕まえ方のレクチャーをし、見事にホルビーを捕まえて見せていた。
「うわあ、ポケモンがボールの中に!?」
「まあ、サナったら。アナタのフォッコは何に入っているの? 二人にもモンスターボールを分けてあげる」
「セレナ様の優しさはカロス地方を駆け抜けるでぇ……」
ありがたく受け取りながら先日見たDVDの台詞をアレンジしながら吐いている。
「セレナ様……あ、サナにも」
年上の男からの様付けが琴線に触れたらしく、少しボンヤリしてしまっていた。
「これであたしもポケモン捕まえられる?」
「この辺りのならボールを投げれば捕まるわ。それじゃあ、私は先に行くわね」
「うん、またねセレナ! よーし、可愛いポケモンに会ったら捕まえて友達になっちゃお!」
そのまま走っていくセレナを見送り、サナはボールを手にして気合いを入れている。
「セレナ様はニーソとは分かっていらっしゃる」
走り去るセレナのニーソに注目しながらボールを鞄にしまっていた。
そしてポッポの事を思い出して振り返ったが既に背後の草むらから居なくなっており、ホッとしたようなガッカリしたような気分のまま目の前の草むらに入っていく。
ビードル、ジグザグマ、ホルビー、コフキムシと懐かしいのから目新しいのまで飛び出て来るが、今一捕まえたいと思うポケモンが出てこない。
そして……
「あ、セレナも持ってたヤヤコマだ。あの足が何か気に入ったから先制モンスターボール!」
ケロマツを出し、ヤヤコマが驚いている間にモンスターボールを投げつけている。
抵抗もなくそのままあっさりと捕まり、ツカサの手元にボールが戻ってきた。
何が起きたのか分かっていないケロマツをボールに戻し、かわりにヤヤコマをボールから出している。
「ピピピ!」
「えっと、まじめで考え事が多い♀か。特性ははとむね……肩に乗ってきたけど2kgないからまだいいか。よし、戻れ」
肩に乗ってきたヤヤコマをボールに戻し、そのボールをケロマツの隣のホルダーにセットすると歩き始めた。
その場から少しだけ進むと看板があり見てみると
『この先 ハクダンの森』
と書かれていた。
「すっげぇチラチラこっち見てくる少年がいる……」
「! 目があうって事は……ポケモン勝負の始まりさ! 行け、ジグザグマ」
向こうから強引に目をあわせてきた挙げ句、問答無用でジグザグマを繰り出してくる始末。
「ケロマツ」
仕方なくケロマツを出して勝負を受け入れている。
特に見せ場もなく、あわとたいあたりの応酬が続きそのままあっさりと勝っていた。
「なんだ!? 君、強すぎるぞ!?」
「……」
少し可哀想になりながらも120円を受け取り、そのままハクダンの森へと歩を進めている。
………
……
…
入ってすぐの所にある看板を読もうとすると、サナがツカサの後を追いかけてきた。
「待って♪ 一緒に行こっ! 一緒だとなんだかワクワクしそうなんだもん♪」
「いいよ、そろそろ日も暮れそうだし一緒に行こう」
ハクダンの森がかなり広いのに入ってから気がつき、抜けられなければこの地方で初の野宿だと覚悟を決めている。
『ここはハクダンの森。落し物に注意!』
という看板を横目に二人で雑談をしながら森の中を歩き回り始めた。
ピカチュウ、ヤナップ、バオップ、ヒヤップ、ヤヤコマ、ビードル、コクーン、キャタピー、コフキムシと目新しいポケモンは出てこず、捕まえる気がないのでケロマツで倒していた。
捕まえたばかりのヤヤコマも育てようと野生のポケモンと戦わせていると、サナがジーッとこちらを見ているのに気がついた。
「どうかした?」
「指示出すの上手だね♪ 緊張しないの?」
「まぁ、サナやセレナ達より少し長く生きてるからねぇ」
サナが成長するように指示の出し方も新人向けのものにし、ヤヤコマを使う事で信頼関係の築き方も同時に教えようとしていた。
その後はたんぱんこぞうとバトルをしたり、サナの話を聞いたり、間違えて投げたボールでピカチュウを一発で捕獲しながら歩いていると暗くなる前に森の出口が見えてきた。
何故か出口まで後少しという所でセレナが待っていて、さっきの事もありツカサはニーソにしか目が行かなくなっている。
「少し冷静になろう。図鑑にあるこの謎のミラクル交換?ってのを試して冷静になろう」
「ツカサ、セレナがそわそわチラチラ見てるよ」
「えっと、こうして……さっきのピカチュウのボールをセットして、と」
「ツカサー?」
「まぁまぁ、セレナには待ってもらおうよ。何が来るかな……め、メレシー? いわ・フェアリーの複合タイプか……フェアリー? フェアリー!?」
ミラクル交換で来たメレシーの見た事のない新タイプに心底驚いている。
「?」
「俺が二年間も引きこもってる間に新タイプが出てたのか……」
そんな事をぶつぶつ呟きながらセレナの方に歩いていく。
「ツカサ、モンスターボールはある? はい」
「セレナ様の優しさは五臓六腑に染み渡るでぇ……」
さっきまで気づかないフリをして待たせようとか考えていた男とは思えなかった。
「……」
やはりセレナ様という言葉が気に入ったらしく、少しだけ口角が上がっているのがわかる。
「あっ、何かセレナ嬉しそうにしてるよ」
「俺には全く分からんな……さっさと次の町に行ってポケモンセンターに泊まろう。トレーナーカードがあれば宿泊無料だし、安価でご飯も食べられるし」
そのままセレナをそっとしておき暗くなり始めた森を急いで抜けていく。
途中バトルを仕掛けてきたミニスカートにデレデレしそうになったがサナが居るのを思い出し、キリッとした表情で勝利を収めている。
そしてようやく出口に辿り着くとセレナ、ティエルノ、トロバが追いついてきた。
そのまま皆で森を抜けて三番道路、別名ウベール通りに出ると皆はこれからどうするのかを話し合っている姿が見える。
セレナがジムに挑戦するという事以外は聞いておらず、ジムという言葉に遂にリーグへの一歩が始まるのかと気合いが入っていた。
「俺も行こう」
セレナが駆けていったのを見送り、貰った探検心得を鞄にしまうと他の三人を置いてハクダンシティへと向かっていく。
………
……
…
「途中ローラースケートで抜いて行った女の子がいたが……楽しそうだったな」
道中のトレーナーを蹴散らし、ハクダンシティに入ってすぐのポケモンセンターに入っている。
入るとすぐにメレシーをパソコンに預け、ジョーイさんに宿泊の申請と手持ちのポケモンを預けていた。
そのまま併設された食堂で安く夕飯を済ませ、シャワーを浴びてから新しい服に着替えて今日着ていた服や下着の洗濯をしている。
そして乾燥機を使用している間にセンター内をぶらついていた。
「……チッ」
イチャつくカップルトレーナーが何故か多く、羨ましさと妬ましさから思わず舌打ちをしている。
部屋でやれとイラつきながら邪魔なカップルを避けてフレンドリィショップの店員に近づいた。
そこでモンスターボールを10個購入するとおまけでプレミアボールを1個貰え、ついでにアイスコーヒーを購入してカフェスペースの隅の席に腰を落ち着けた。
通りかかったジョーイさんに許可を貰い、携帯端末の充電もさせてもらう事にしている。
「トレーナー専用掲示板にアクセス、と」
スマホでトレーナーカードのIDとパスを入力してアクセスし始めた。
蓋を外しプラスティックのカップの中のコーヒーを混ぜると、中で氷がぶつかりあってカラカラという音がする。
無駄に容姿がいいだけあって真剣な表情でスマホを使う姿は決まっており、同じように泊まる予定のセレナ達が声をかけるのを思わずやめるレベル。
「……有名トレーナーは大変だな。専用のスレとか出来てるし、どこで見かけた系の書き込みまである」
アイスコーヒーで喉を潤しながら閲覧している。
チャンピオンのハルカ、ヒカリ、メイは当然として元チャンピオンに各地のジムリーダーに各博士達にも専スレがある。
他には伝説・幻のポケモンの目撃情報のスレがあったり、進化に関する質問スレがあったりとトレーナー達が盛んに交流していた。
「……そろそろ部屋に帰るか」
ある程度の情報収集を終えると充電器を回収し、アイスコーヒーを飲み干してから乾燥機から洗濯物を回収して部屋に戻っていった。
部屋に戻り灯りを消し、明日の予定をぼんやり考えながら寝ようとするとメールが三通届いた。
「ハルカ、ヒカリちゃん、メイちゃんか……三人共『今どこにいるの?』って寸分違わぬ内容でちょっと怖い。『連絡するの遅れたけど、俺だけカロス地方のアサメタウンに引っ越しました』これでいいだろ」
三人に全く同じ文面でメールを送りベッドの上でボーッとしていると、そのまま寝てしまった。