教室は広く保護者が全員入っても余裕があり、ツカサは邪魔にならないよう隅の方に移動していた。
自分だけ両親が来れないからかしょんぼりしているレイナは授業の準備をしており、他の子供達はチラチラ後ろを見たりソワソワしている。
「……」
流石に超有名人だからか隣のご婦人にチラチラ見られて息を呑まれ、隣のダンディな紳士にヒソヒソと何かを話し確認されて目を見開かれたりしていた。
それが少しずつ伝播していき、子供達より大人達が緊張し始める中ツカサは後何年お兄ちゃんって呼んでもらえるんだろうなと考えながらレイナを見ている。
「はい、おはようございます。今日は授業参観ですがいつものように最後まで授業はありますからね」
『はーい!』
まだお嬢様的な教育はしないらしく、ツカサも知っているような子供達の反応をしていた。
「今日はポケモンの授業の日です。皆さん、自分のパートナーやお家のポケモンは連れて来ましたか?」
『はーい!』
「はい、元気でよろしいです。今回はみなさんのお父様お母様も一緒に受けてもらいましょう。さぁ、皆さん椅子は後ろに用意してありますのでそれぞれのお子さんの所にどうぞ!」
前もって決めていたらしく生徒間の間隔も大きく開いており、皆が椅子を手にそれぞれの子の所に向かっていった。
ツカサも椅子を手にきょろきょろしながら半泣きのレイナの元に向かい、椅子を置いて座りぽんぽんと優しく頭を撫でていた。
「あ……お兄ちゃん?」
「レイナちゃん、久しぶり。ご両親に誘われて来ちゃった」
「うー」
「ほら、先生の話を聞かないと」
ハンカチで目に溜まっている涙を優しく拭き、椅子を少し近づけて前を向くように告げている。
「今日はポケモンがどんな事を考えているかご家族で考えて、それを書いて発表してもらいます! はい、皆さんモンスターボールからポケモンを出してください!」
「ピッカァ!」
「おー、お前さんも久しぶり」
「ピカちゃん」
そのままピカチュウとコミュニケーションを取り二人で話し合いレイナがノートに書いていく。
それから何コマ目かの授業が終わり……
「……レイナちゃん、あの子知ってる?」
「有名なお姉様だよ!」
向かいの校舎の窓に足を掛けパンツ丸見えのまま、双眼鏡でこっちを見ている金髪縦ロールの子を指差して尋ねていた。
双眼鏡越しに眼があったように思え、何か喚いているが取り巻きのような少女達に押さえ込まれている。
すぐに落ち着いたのかまたこちらを覗き見しているが。
「最上級生っぽいのにアグレッシブすぎる」
「ピカチュ」
「優しくしてもらったから大好きなの!」
「あんな謎の高笑いしてたのに面倒見はいいんだ……」
そう呟くと向こうで頷くような動作をしているのに気がついた。
「……え? まさか読唇術身につけてるの?」
そう呟くとコクコクとハッキリ頷いている姿が見えた。
「仮にもお嬢様みたいなのに何つーもん身につけてんだ……寧ろお嬢様だからなのかな」
何とはなしに笑顔で手を振ってみると双眼鏡で此方を見ながら後ろに倒れ、教室が大騒ぎになっているのが分かる。
「それとお兄ちゃんの事が大好きだって言ってたよ」
「ファンなら大切にしないといけないわ」
尚自分だけに向けられた笑顔で手を振られ感極まって気絶した模様。
………
……
…
「何か最終的に俺の話を聞きたいとか先生に言われてずっと話をしてた気がする」
「ピカチュウ語のお話面白かった!」
最近オンじゃなくてもピカチュウの言葉が自然に分かるようになって頭を抱え、同時に自分もピカチュウ語を流暢に喋れる事に気づき愕然としていたようだ。
「みんなピカチュウ連れて来てたからやったんだけどね」
あっという間に大人気になり、何故か父兄の方々や先生も食いついてきて昼までツカサのピカチュウ語の授業が続いていた。
「お兄ちゃんのピカチュウはすっごく強いから、ピカちゃんもみんなのピカチュウも目がキラキラしてたね」
「まさかピカチュウ達が自分のボールを持って来てサインくださいって言ってくるとは思わなかったよ」
ツカサがピカチュウをパートナーにすると底上げがされて伝説や幻並の強さになる不思議な現象が起こる。
パラレルな自分の影響かロコン系、フォッコ系も同じように上がるが気づいていない。
「あっ」
「ん?」
朝に見かけたお嬢様が取り巻きを連れて何か緊張した面持ちでこちらに向かって歩いて来る姿が見えた。
「あの縦ロール凄い似合って違和感全くないなぁ」
「わぁ、綺麗……」
「エレガントな感じを出してるけどさっきアグレッシブな姿を見てるからなぁ……」
「お兄ちゃん、ご飯食べよう?」
「一応お弁当は用意して来たけど席を借りるのに食堂に行こっか」
手を繋ぎ邪魔にならないようすれ違い……
「ツカサ様とお食事が出来るなんて夢のようですわ……」
「いきなり腕を掴まれてここまで連れて来られたんですけどね」
テラスのような場所に連れて来られ、メイドや執事に囲まれて取り巻きの少女達とレイナも含めて椅子に座らされていた。
「ツカサ様はレイナさんの慕うお兄様、私はレイナさんを可愛がっているお姉様……こう考えるとツカサ様は実質私のお兄様ですわね。もうこうなると私はお兄様とお呼びするべきなのでは?」
「ヤバい何か今までにない怖さを感じる」
「ツカサお兄様、食べ物で苦手な物はありますの?」
「これもう何言っても曲げないやつだ……好き嫌いはないよ。好きな物はポケモンウエハースです」
「まぁ! 私も最近ツカサお兄様のカードを当てる為にポケモンウエハースを買っておりますの」
一対一で会話が出来る様にとレイナの相手を取り巻きの少女達がしており、レイナも憧れのお姉様方に可愛がられて嬉しそうに話をしていた。
「……当たった?」
「それがなかなか……」
「最近封入率上げますって確認来ていいよって返事したから手に入りやすくはなると思うよ。まぁ、一箱に一枚の最高レア三種類のうちの一枚だからシングル買いが安定だとは思う……それかトレードする?」
「……? ……! ぜ、是非!」
ツカサが触りまくったカードが手に入るまたとないチャンスにすぐに今までに集めたカードのファイルを持って来るように執事に指示していた。
「……しまった、可哀想な事をしたかもしれない」
自宅まで取りに行くという事だったらしく、今の内に昼食をと食器等が並べられ始めていた。
………
……
…
「俺の作ったお弁当を俺以外で食べて、俺は沢山ご馳走になっちゃったけど」
「寧ろ余らずに済んで助かりましたわ」
食後の紅茶を楽しみながら取り巻きの少女達とお喋りを楽しむレイナを見てほっこりしていた。
「しかしまさかレイナちゃんを可愛がった最初の理由が自分の名前に似てたからって理由はえぇ……ってなったわ。自分がミレイナだからって」
「今は名前は関係なく普通に可愛がっているんですのよ」
「そこは分かってるから大丈夫だよ」
「お父様とお母様もツカサお兄様の大ファンですの。私の話を聞いて今日の父兄参観に来られなかった事を後悔するはずですわ」
「さっき渋い老執事さんが旦那様と奥様の為にお願いしますって懐中時計と香水の瓶をスッと出して来てそれにサインはしたけど」
「お父様は家宝にすると騒ぎますわね。お母様はツカサお兄様のイメージにあう香水を作るようにと言い出すと思いますわ」
「お金持ちで会社経営してる方には毎回その手のはよく言われるなー。フリーザさんはカロス進出してからのCMには毎回俺を使うって契約をリーグ側としてたし……ミレイナちゃんは何ていうかまだ子供って年齢なのに大人っぽいね」
冷凍食品を綺麗に沢山食べる事が出来て知名度があり、何より小さい頃から可愛がってきた存在と肩を並べられる嬉しさから即契約を持ち掛けて今に到る。
「そういう教育を受けて来た賜物ですわ」
「本当俺は一般家庭でよかったと思う」
「ツカサお兄様は既に一般家庭とは認められておりませんわ。引っ越して来た一般トレーナーだったツカサお兄様は一年も経たずにカロスチャンピオンになり、そのまま世界を相手に華麗に大活躍。全てのチャンピオンを降してワールドチャンピオンにまで一気に駆け上がった男性版シンデレラストーリーですのよ」
「完璧で優しいって思われても困るから生放送で色々やってるんだけどね」
スタジオに作った簡易滑り台の上で全身タイツでローションを被り、滑り降りた先にあるトリモチに貼り付くかどうかといった本当にくだらない事を全力で楽しんでいる。
「最近はゲームの生放送が面白くて家族みんなで楽しんでいますわ。あの唐突に歌い始めた真夏の謎かけセンチメンタルボーイが耳に残ってつい口ずさむ事もありますのよ」
「見てくれてありがとう。次はポケモンが喜ぶお菓子作りの生放送だよ」
勝手に決められた放送以外はツカサが正しいブラッシングの仕方を教えたり、こんな症状が出ていたらすぐにポケモンドクターに見せるよう詳しく説明したりと自由に使っている。
真面目なドクター回は視聴者数が減り、ゲーム回は毎回増えている模様。
「……まぁ、私は楽しそうなツカサお兄様が見られるのでしたら何でも構いませんわ」
側に仕えていた執事とメイドが分かるとばかりに頷きおかわりの紅茶を注いでいた。
「ゲスト招こうって俺達三人以外は盛り上がってるけど普通に困るんだよね。あの画面外の二人と話しながら色々三人でやるのが好きだから」
本人とツカサ担当職員とツカサ大好きで広報兼マネージャーの職員はゲストを招くのに難色を示していた。
「楽しそうにお喋りしてから色々始めていますものね」
「少し歳は離れてるけど男友達が増えて本当嬉しくて。頻りにゲーム内で旅行を勧めてくるの本気でやめてほしいけども」
好感度が最大になった骨董品屋から貰った射影機が大事な物に加わり、誤って選択した旅行先という名のホラーイベントでとある双子のNPCを救出するファインプレーを見せたりと嫌がりながらもしっかりと全て終わらせている。
「スポンサーを募集する予定があるのでしたらいつでも連絡をお待ちしておりますわ」
「それとなく話はしてみるよ」
「お父様のお友達でツカサお兄様の大ファンのおじ様はスポンサーになれたと嬉しそうで……」
「ちなみに一番のスポンサーはミスターサタンです」
機材が回を重ねる度に豪華になっており、ツカサの私物であるミスターサタンフィギュアが毎回違うポーズでテーブルに飾られていたりもする。
「それは絶対に勝てませんわね」
………
……
…
そんな楽しい授業参観から数日が経ち、キュウべぇにクッションを買い与えたりスポンサーの話をリーグに伝えて名刺を渡したりしていた。
「リーグの部屋にもあの日以来クッソ高いスーツがズラっと並んでて目眩が……」
「公の場で着るようにと贈られて来たんだよ。それとまた駄菓子の詰め合わせとか飲み物が箱単位でファンから届いてるよ」
「ありがたいなぁ」
「この前コーヒー溢してあまりの熱さに上脱いだよね? あの鍛え抜かれた肉体を晒したからかプロテインも届いてるよ」
「寧ろ高カロリーの食べ物のが欲しい。普通にタンパク質は足りてるからプロテインはいらないや」
「大食いチャレンジの店でお金払うからってチャレンジメニューおかわりしてたもんね」
「お金払えばあの量を自分で用意しないで食べられるんだからありがたいよ。最近は気絶するまでブルーを維持とかいうので毎日死ぬ程腹減るし……てか気絶するまでって言いながら気絶したら起こされて時間までまたブルー維持とか地獄の方がマシなような目に遭ってるからなぁ」
「あれ綺麗だよね。逆立った髪も目も水色に近い青だし、何よりあのオーラ?が清らかで浄められるっていうか」
「神秘的な感じの好きだよね。さてと……嫌だけどロケに行ってくる。また廃城だってさ」
「本当心霊系ばっかになってるね。とりあえずがんばって」
「嫌だなぁ……」
書いてるの消えたり、五行書いて七行消したり色々あって半年経ってました。
ピカピカ言いながらピカチュウと会話する男とか絶対通報されちゃう。
野良スコが本当好きで仕方ないんだけど、周りに知ってる人が居ないから話せない悲しみ。
グラブルは鬼滅コラボ楽しみだなー。