二日目は数戦のバトルが先に行われ、ツカサの試合は満員御礼で会場に入れない人が出る程だった。
相手は色仕掛けで指示を出す時の動揺を誘いながらしっかり育てたポケモンでチャンピオンになったその地方では有名な美少女チャンピオンであり、これは流石のカロスチャンピオンもヤバイかもしれないと思われていたが……
「やーん、スカートが捲れ……」
「メガルカリオ、インファイトでブチ抜け!!」
胸元を露出する等の色仕掛けを一切無視。
容姿に自信のあった相手のプライドはズッタズタ、鍛えたポケモンはボッコボコで最後の一体が倒れた時には涙目になっていた。
そんな相手に興味がないツカサはルカリオとハイタッチをしてからボールに戻している。
そしてインタビューでは
「何で色仕掛けにかからなかったのか? いや、だってバトル中にそんなの気にするわけないでしょ。それに姉さんに女性の胸とかをジロジロ見るものじゃないって言われてますし。見ていいって言うなら見ますよ、これでも男ですからね」
至極真っ当な意見を不思議そうに答えており、近くで涙目で聞いていた他地方のチャンピオンは引っ込んだら改めて見せようと涙を拭っている。
尚このインタビューが行われるまでカロスチャンピオンはホモ、野獣先輩カロスチャンピオン説等色々大変な話題がネット上で起きていた。
他のチャンピオンのバトルを一人控え室でダラダラ見ていると兄弟子がいきなり現れ、手にした山吹色の胴着一式とインナーやら靴やらを手渡されていた。
それじゃあまた明日な、とだけ言われそのまま消えてしまい頭を抱えている。
「はっ、あ、ちょっ! えぇぇ……チチさんの好意で用意してくださったみたいだけど、流石に仕立てたお金は渡さないと」
旦那や長男があまりやらない事を率先して行い、下の子の遊びから勉強までしっかり見て懐かせ、料理も美味く良い肥料を持って来てくれたりと超好印象で最早ナチュラルに家族の一員として迎えられていた。
「すげぇ、いい生地使ってる……これカロスの職人に定期的に作ってもらおう」
以後も何かある度に新調して届けてくれるらしく、今は亀の字が入っているがいつの間にか一家の一員として孫という字にひっそりと変えられる事になる。
「明日はこれ着て最優秀者になろう。最悪でもフリーザ冷凍食品の一年間毎月新作が一ヶ月分届くのが欲しいなぁ……」
他にも車やら服やらブランド物やら色々あるが、ポケモン関係が全くないからかツカサはメディカルマシンと食べ物にしか興味を惹かれていなかった。
「あ、さっきのチャンピオンからまた写真送られて来た。何で俺の知り合う相手は変態か普通かの二択なんですかねぇ……わざわざ自撮りで谷間やら太ももやらの写真を送って来るなんて痴女かな?」
今まで可愛い綺麗エロい等で視線を独り占めするのが普通だったのが普通に無視され、控え室でも連絡先を交換して即お疲れしたーと興味なさそうにされてブチっと何かが切れたらしい。
「早苗とセレナ並だから容姿はいいのに……しかしでかい」
普段は引きこもっていてセレナくらいしか見ていないからかマジマジと画像を見ながら呟いていた。
現在
ポケモン関係>強い者との戦い>>>>>異性への興味
になっているが年相応には興味はあるらしい。
「性格に難あり、このチャンピオンの地方の女性からは軒並み嫌われてて色仕掛けでの動揺を誘うバトルで男からの人気も低い処女ビッチ。えぇ……すっげぇ悪く書かれてる。早くチャンピオン交代してくれとかコメントの数も凄い……あ、カロスの新チャンピオンがうちのチャンピオンだったらよかったのにってコメントは嬉しい」
対戦相手のまとめをスマホで調べてみてドン引きしている。
ツカサ以外のチャンピオンの書き出しは性格に難ありがデフォになっており、ツカサは様々な悪の組織を潰しまくったのが露呈して悪の組織絶対殺すマンと書かれていた。
子供達に混ざりガチャポンを回して被ったのを交換していたり、ゲーセンで幼女先輩達に囲まれて指導されている姿の写真等も載っている。
昨日のピカチュウと頰を寄せ合ってアイスを食べている写真もあり、趣味は子供レベルと書かれてしまっていた。
「大人の趣味ってなんだよ。いいじゃん別にガチャガチャして幼女パイセンに教わってアイス食べても……ピカチュウがオムライス好きだから俺も好きでもいいじゃない」
………
……
…
阿鼻叫喚の料理バトル、ツカサは食べられなくはない絶妙にクソ不味い料理を出され続けて毎回完食してから素で0点評価と厳しいコメントを出し続けていた。
尚最初はツカサの罵倒に近いコメントに会場はされた側を擁護するような騒めきが起きていたが、完食出来ず悶える残り二人の審査員を見て何かを察している。
しかも散々罵倒するようなコメントで半泣きにさせながらも審査員二人がギブアップした残りをしっかり食べていた。
「甘辛苦しょっぱいとかなんなんだよこれ……」
「カロスチャンピオンがんばれー」
「あんなに食べてるし実は美味しいとか?」
観客席から応援や第三者だからこその無責任発言が飛び交っている。
「おう、今実は美味しいとか言った奴に食べさせてやろうか。寒気と鳥肌と吐き気に手の震えに急に視界が真っ暗になったり半端ねーぞ。抽選でそいつ引っ張り出して地獄を見せてやりたい」
「カロスチャンピオン、○○××番ー!!」
「ばっ、やめろォッ!!」
「サンキュー、教えてくれた人超愛してる! よーし、次の一般審査員はこれで決まりだな!」
ぶるぶる震える手でスプーンを口に運びながら精一杯の笑顔で元気に応えていた。
もうチャンピオンからの指名枠はツカサ固定でいいなという判断により逃げられないよう黒服のSPが審査員席の背後に立ち、ツカサは突っ伏してブツブツ呟いていて少々不気味だった。
「……美味しいご飯が食べたいよぅ」
切実な呟きがマイクに拾われて会場が一瞬静まりかえり、がんばれ負けるなと応援の声が上がっている。
「俺このまま食べ続けたら死ぬかもしれんな……」
食べ合わせが最悪過ぎて瀕死状態→少し落ち着くをループしており、種族的にはかなり美味しい状態だった。
『えー、あー……がんばれカロスチャンピオンツカサ! 君が最後の希望だ! 今回のクッキングバトルで君以外のチャンピオンの婚期は間違いなく遠退いたぞ!』
「でしょうね! 会場にいる良い子のみんなはちゃんとお母さんに料理を習おうね! お兄さんとの約束だからね!」
『はい、切実なカロスチャンピオンの叫びでした』
「何でみんな料理下手なの? 旅の時に作らなかったの? 戦うだけでレトルトとかで済ませてた戦闘民族なの?」
リアル戦闘民族の血筋が切ない疑問を呟き続けていた。
基本的にレトルト等で済ませるのが一般的であり、ツカサのように自炊しながら旅をするトレーナーは珍しい方だった。
『さぁ、まだまだ先は長いぞー! カロスチャンピオン、ファイト!』
「楽しいイベントだって聞いてたのに俺だけ楽しくない……」
視聴者や観客達は楽しんでいるからセーフ。
ネット上では一日目から半端ない速度でスレが消費されており、二日目は酷い料理画像が作ったチャンピオンの写真と共にアップされて阿鼻叫喚だった。
「鳥肌がさっきからおさまらないとか病気かな? お願いだから醤油スープとか言う醤油をただ沸騰させた劇物は二度と作らないで」
流石に飲んだら間違いなく死ぬから勘弁してくださいと土下座で拒否をした一品である。
そして……
「もうダメだ……おしまいだ……食べ切れるわけがない……」
押し付けられた生焼けの海老やほぼ素材そのままの野菜の入ったたっぷりのお湯が入った鍋を前にテーブルに突っ伏していた。
「来年絶対クッキングイベントには参加しない。何が悲しくてほぼ生の玉葱やらを丸齧りしないといけないの……素材の味を楽しむってこういう意味じゃないから」
………
……
…
「すっげぇ気持ち悪い……これからまだ何試合かあるとか辛い」
『ツカサ、私の出番はいつになるのですか』
「ディアンシーは最終日付近で当たる統一リーグチャンピオンの時かな。きよひーがちょっと興奮しすぎてダウン、代わりにお前さんが来てくれたのはありがたいよ」
『ツカサの一番のパートナーは私ですからね』
ドヤァっと両手を腰に当てて宣言しており、首からはツカサが加工したディアンシナイトがネックレスのようにして下げられている。
「亞里亞んちに行くのを知った時だけ即来る一番のパートナー」
『ふふふ、嫉妬しなくても私はツカサのパートナー……』
「いや、食い意地はってんなーって」
『レディに対して失礼です!』
「俺の舐めてた飴が好きな味の最後の一個だったからってチューしてまで奪いに来るのはレディとしてどうなの?」
『後々考えてみましたら、あれが私のファーストキスでした』
「食い意地で失うファーストキスとか知りたくなかったわ」
『レモンの味でしたね!』
「そうだよ」
そんな独り言のようで独り言じゃない会話を時間いっぱいまで楽しみ、残り数戦の本日のバトルをこなしに向かって行った。
巧みな指示で魅せながら場をコントロールするバトルと毎回様々なポケモンを使用するツカサの試合は人気があるのか、二日目の午後であるにも関わらず満席で立ち見も厳しいくらいになっていた。
「何かドヤ顔でそこが新米チャンピオンである君の限界だ、なんてバトルの前に言ってたけど……あー、うん。俺に限界はねぇ」
無意識にボソリと呟いたお気に入りの言葉もしっかりマイクに拾われていた。
ちゃんと分析したデータで挑んで来た相手チャンピオンだが午前のデータが午後にはゴミのようなものになっていたレベルで成長しており、それを逆手に取られて一方的に蹂躙される形での敗北で終わっている。
その後の試合でも安定して連勝記録を伸ばし、現段階で歴代最多連勝数を記録していた。
そして本日の予定もなくなり、帰り道にお腹を抑えてフラフラしながら公園に立ち寄ってベンチに座っていた。
「桃色の髪が見えて姉さんかと思って声をかけたら知らないギャルっぽい人で焦ったなぁ……ナンパと勘違いされそうだったから姉と間違えましたって謝って即離れたけど、直後に破壊神を名乗る方とお付きの方が来るとか予想外すぎるわ」
センスや才能が完全に兄弟子タイプ故に興味を持たれたらしい。
そのまま話の流れで軽く遊んでもらったようで、命の危機を感じて赤くなったり神の気を理解して瞬間移動を自分のものにしたりと成長していた。
その直後腹に強烈な一撃を貰って動けなくなり、それを見てつまらなそうに欠伸をしながら今後に期待するよと言い残して帰っていく姿を見送っている。
「……期待されたくなかった」
今後に期待→これからも会いに来る→強くならないと破壊されるかもしれないという考えに至って頭を抱えていた。
「金より強い赤でダメとか……やっぱり毎日限界まで赤になってコントロール出来るようにならないとダメっぽいなぁ」
一番やべー存在との遭遇でツカサの強さがインフレ的に加速していく事になる。
「金の先があるのは壁にぶち当たってるから分かるけど赤より先はあるのかな。まぁ、あっても赤が長く維持出来ないから無理だけど……ゼロがやったっていう修行を本格的にやってみるべきなのかな。」
悩みながらホテルの部屋に戻るとテレビをつけ、冷蔵庫に入れておいた水を取り出して飲みながらベッドに腰掛けている。
「四日目はコンテストバトル、五日目は本戦とは関係ないくじ引きタッグバトル、六日目と七日目は本戦とサインやら握手やらするって聞いたけど……絶対俺の所には誰も来ないパターン。普通に男よりロリからお姉様系チャンピオン達の所に行くよなぁ」
キッズ人気はダントツであり、他にも冷やかしで来る者や知人友人も並ぶので割と一番列が出来る事になる。
「……しかし、この羽根はいつまでもキラキラしてるから不思議だよなぁ」
ホウオウが落として行った羽根は何ヶ月経過しても輝きを失わず、ツカサはいつも肌身離さず持ち歩いていた。
「この大会が終わったらしばらく設備メンテナンスやらで各リーグの休業期間に入るらしいし、その間にホウオウ探しに旅に出ようかな。とりあえずピカチュウだけ連れてひっそりと早朝に出掛ければセレナにも見つからないだろうし」
亞里亞に仕えるメイド達がツカサの知らぬ間に居場所を特定する為の自社開発のアプリをスマホにインストールしており、世界中のどこに居てもスマホを持ち歩いている限りは居場所を把握される仕様。
「スイクン達曰く、羽根が導くらしいし気ままに旅しよう」
「ピカ、ピカピカピ」
「案外近くに居るかもしれないって? 流石にそれはないでしょ」
「ピーカピカピカ」
「もし森に居たらみんな騒いで教えに来るだろうし……まぁ、森の未開部分にホウオウが居るとかだったらガッカリするけど」
『都会はやっぱり面白くないね』
「守護霊なのに好き勝手動き回るのやめない? 寧ろ守護されてる霊だよね?」
守護霊少女にランクアップした元幽霊少女は基本カロスを自由に遊び回っているらしく、よく成仏出来ない霊を連れて来てはツカサに叱られている。
『ふふん、私は自由よ!』
「胸張ってすげぇドヤ顔してるけど、とりあえずおっぱいが足りない」
『死んでて成長しないから仕方ないんですー。大人になってたら大きくなってたのになー』
「まぁ、ヒンヤリした膝枕はいいからセーフ寄り」
『やったー。じゃ、また遊んでくるからね!』
「いや、だから……あぁ、壁すり抜けてった」
色々大変な二日目もようやく終わり、更に大変な三日目へ突入する。
料理を学ばなかった者達の末路。
一番ヤバい方との遭遇は決まってた。
次回更新は未定。
ギリギリ八月更新。
ポケモンの映画、今年は何かメインキャラ多すぎてなぁ。
正直去年のが面白かったと思う。