自由すぎる次期カロスチャンピオンは思い立つと即行動する困った存在だった。
「久々のカントーは結構楽しみ」
予約していた飛行機に乗り里帰りを敢行、まだ就任前だから自由に動けるがカロスリーグの者達は大人しくしていて欲しくて仕方がないようだが制限出来ずにいた。
少し値は張ったが小型のポケモンなら連れて乗れる席を予約しており、ピカチュウを連れて席に座らせていた。
他にはゲッコウガ、ルカリオ、リザードン、ニンフィア、レックウザを連れて来ている。
ファイアローはツカサが孵化させたヤヤコマ達の子育てで忙しく、ラプラスは相変わらずの湖から出ない宣言で仕方なく置いて来ていた。
「ピカチュ?」
「ん? ああ、今のカントーチャンピオンはコトネって子だっけ? 知ってる地方のチャンピオンが俺以外女性……公式発行の情報誌でハルカ達女性チャンピオンに対する世の男性陣の意見が『憧れはするけど付き合ったり結婚は絶対したくない』ってなってて面白かったな」
「ピカピーカ」
「あれだな、女性トレーナーは強すぎても弱すぎてもダメって感じなんだと思う。俺は熱いバトルをしてくれて、ちゃんとポケモンを大事にしてくれてるなら何でもいいと思うけどね」
………
……
…
「おー、ピカチュウのクッキー缶だ。ニャースの小判最中、プリンのプリンも買っとこう」
セレナコーデの服と目立たない髪型に新しくプレゼントされた眼鏡で、完全にそこらの兄ちゃんのようになっている。
おみやげを自分用に購入し終えるとそのまま空港から出て……
「怖ぇよ……何でエリカさん待ってんの? 見た事のあるお高そうな黒塗りの車から出てきたから咄嗟に隠れたけど。誰か別の人を迎えに来たか出掛けるとかなら……すっげぇスマホが振動してるし、見たらエリカさんからの着信だしで間違いなく俺」
セレナから情報が漏れている等とは夢にも思っておらず、タイミングを見計らって見つからないよう駅まで走っていった。
電車でヤマブキに向かい、タマムシからタクシーでマサラタウン付近まで来ていた。
そして駅にあるフレンドリィショップで買ったポテトを歩きながら食べている。
「笑顔とWピースが可愛い女の子を助けた話をしたかったけどなー、俺もなー」
「ピーカピカピカチュウ!」
「同い年くらいで下手なカロスのアイドルより可愛かったな。お前もその子が連れてたピカチュウにいいとこ見せたくて張り切ってたみたいだし」
ヤマブキからタマムシまでの近道をするのに裏道を通っていた時に、残党の残党であるロケット団に攫われそうになっていた女の子を発見して助けていた。
誘拐をして資金を得るのが再起の為の一手だったらしく、その一手を通りすがりのポケモントレーナーにあっさり潰され再起不能にされて無事完全解散になっている。
「ピカ!? ピカピカ!」
「ふっ、誤魔化しちゃって愛いやつよ。アイドル目指してるらしかったし、いつかテレビで見かけたりしたら応援だけはしとこう。がんばります!って可愛かったし」
名前は聞かず名乗らずで安全な場所まで送り、去り際に名前を聞かれたが通りすがりのポケモントレーナーとだけ名乗り格好つけて立ち去っていた。
「ピカ、ピカピカピーカ?」
「とりあえずロケット団残党の残党は縛って転がしておいたし、ジュンサーさん達が見つけるだろ。それよりピカチュウのクッキー缶とプリンのプリンを元気付ける為とはいえあげちゃったから、帰りにまた買わないと」
何処までもポケモン関係が優先な所はブレない男だった。
………
……
…
帰郷すると連日連夜お祭り騒ぎが続き、更に鍛錬をサボっていたのがバレて死んだ方がマシといったような目に毎日遭わされていた。
「心臓が止まっても動かしてくれる素敵なお師匠様達。妖怪とかもう怖くないわ」
大体三十分置きに臨死状態になるからか三途の川でサボっている死神の女性と現世から死んだ者達を運ぶ死神の女性二人とすっかり仲良くなり、将来ガチ死亡したら迎えに来て渡してもらう約束をしていた。
「それも今日まで。明日からはカントージムのリーダー達に挨拶して回って……ジョウトのジムはまた今度だな」
時間が足りないと久々に自宅の庭で自転車を整備しながら呟いている。
グリーンはジムリーダーとして忙しいらしく、冷やかしに行ってみたらジムトレーナーに勘違いされ最後にはグリーンとガチバトルまでさせられていた。
そのままテンションが上がり白熱した試合を繰り広げて快勝すると、トレーナーカードを返却した時に停止していたグリーンバッジ取得情報を取得済みに戻してくれていた。
「カロスで有名なショコラティエの店のショコラ詰め合わせをちゃんと沢山用意したけど、やたらたっかいんだよなぁ……美味しいけど俺はマルマインの棒付きチョコとか、おまけにポケモンのカードが付いてるウエハースチョコのがいいや」
いつまでも少年の心を忘れず、ゲーセンでもポケモンのぬいぐるみの入っているUFOキャッチャーやポケモンのカードや衣装等のカードが出る簡易コンテストの筐体に一直線だったりする。
小さな女の子達にアドバイスを貰って遊んでおり、ナチュラルに混ざる青年に警戒した母親達が様子を見に来てまさかのカロスチャンピオンに黄色い悲鳴を上げたりしている。
「そうだ、ゲーセンでカントー限定のカードも手に入れてこなくちゃ」
ポケモンのカードばかり集めて衣装やアクセサリーのカードを配ろうとするツカサに、衣装やアクセサリーのカードでアバターとポケモンを着飾らせないと楽しくないとまだ小さな子供達にマジ説教をされて改心している。
筐体の前で正座をして多数の幼女に叱られているツカサの姿は見ていた誰かに撮影されており、それがアップロードされるとまたカロスチャンピオンかと瞬く間に広まっていた。
「さてと……」
翌朝、まだ寝ている母親にまたいつか帰って来る旨を書き置きして自転車でマサラタウンを飛び出して行った。
「ピッカァ!」
「ニビシティのポケモンセンターで朝ご飯を食べよう。舗装された場所を走り続ければ二時間くらいかな」
「ピピッカピピッカピッカチュウ♪」
「ご機嫌だなー」
「ピカ、ピカピカ?」
「確かに朝の爽やかな空気の中を自転車で走るのは気持ちいいけどさ。結局ミヅキはまーた家族旅行で居なかったし、手紙を書いて投函するしかないのが」
ちなみに一週間の強行でカントーを回り切る予定らしく、今日はハナダのポケモンセンターに泊まる予定だった。
「ピカピカピ、ピカ?」
「明日帰ってくるから待ってればよかったのに、って言われても」
そのままピカチュウと会話しながら自転車を進めて行った。
「ニビはマサラからだと遠いなぁ……タケシんとこにも食べ終わったら行かなきゃ。ゲーセンはハナダでいいや」
まだ朝八時のポケモンセンターで手持ちの皆を預けて朝食をお願いし、ツカサは食堂で朝から焼肉定食をガッツリ食べていた。
そんなツカサの隣には制服姿で透けた女の子が座り、頻りに話しかけてくるが食事中で人前だからチラリと見ただけでスルーしている。
『トキワの森で乗った時は喋ってくれたじゃない!』
トキワの森を成仏出来ずに彷徨っていたようで、目と目があって逸らしたら見えている事に気づかれて憑かれてしまったらしい。
唯一触れるからなのかひんやりした手でボディタッチやらを何度もされ、接触によって過剰に生気を吸われ少々ダルくなっていた。
朝から食べるには重い焼肉定食を食べているのも、今はスタミナを付けるしか対処法がないからだった。
「おかわりしてこよう」
その後もあまりにしつこく話しかけてくるので仮眠の為と部屋を借り、ベッドに腰掛けて隣に座ったのを確認すると容赦のないアイアンクローが幽霊少女に襲いかかる。
「誰もいない時以外は話しかけない、OK?」
『痛い! 熱い! 何で痛くて熱いの!?』
「霊力を流し込んで凄く痛い強制成仏させようとしてるから」
『いやー!!』
「HAHAHA!」
『ごめんなさいー!』
「未練を晴らして成仏するまで剥がせないんだから、最低限のルールは守るように」
『うぅ……でも久々に触れて触ってもらえたし、ご飯も美味しかったなぁ』
憑いているからかツカサの味覚が伝わるらしく、食べる度に嬉しそうに話しかけてきての悪循環だった。
「そうやってふわふわ浮けるの羨ましいけど、さっきから縞々なパンツが丸見え」
『もう死んでるし別に見たければどーぞ』
「そう言われると見たくなくなる不思議。さて軽くシャワー浴びてからタケシの所に行くか……それじゃあ静かにしておくように」
『はーい』
鍵を返しながらピカチュウ達を迎えに行き、その足でニビジムに向かって行った。
「ゲッコウガ、みずしゅりけん!」
「あっ……サンド!」
タケシを呼んで欲しいと告げるも新人ジムトレーナーにチャレンジャーと勘違いされ、仕方なくバトルを行っていた。
ツカサの指示の意図を汲み、ゲッコウガは手加減をして軽くみずしゅりけんでサンドを弾いている。
たったそれだけでサンドは目を回してダウンし、圧倒的な差を見せつけられたジムトレーナーは悔しそうにサンドをボールに戻していた。
「騒がしいと思ったらツカサだったか」
「おっ、タケシじゃん。おっすおっす」
「ああ、久しぶり。君もジムリーダーを呼んでもらいたいと言われたら素直に呼ぶようにな」
「は、はい……」
何も出来ず瞬殺されて自信を失い俯くジムトレーナーにタケシは告げていた。
「だがジムトレーナーになって初のバトルがカロスチャンピオンなのはある意味記念になったんじゃないか? 多分数多いるジムトレーナーでも初だぞ」
「……え?」
「基本的に俺はもうジムでバトルはしないしなー」
タケシに誘われて休憩スペースでお茶をご馳走になり、少し年の離れた友人と楽しい時間を過ごしていた。
「そうか、今日はハナダまで行くのか」
「カスミさんにはエリカさんに誤情報を流してくれるからお礼したいんだよね。カロスに行ってからは無意味になったけど」
「ほんわかした見た目だが、かなり腹黒いからな。しかも一方的だが色々と重い。レッドは上手くツカサをスケープゴートにしたわけだ」
「最初は抱き締められたりしてドキドキしたけど、今じゃ近づかれると別の意味でドキドキするよ……ちなみに俺はナツメさんにレッドの情報を流しまくってる」
「似た者同士か……」
足を引っ張りあうレッドとツカサは幼馴染だけあって遠慮はなく、利害が一致するとグリーンに擦り付けたりもしている。
尚、グリーンは上手く受け流して相討ちにさせるスキルを身につけている。
「ナツメさんは俺にはまだ十一人の妹が世界中にいるとか面白い冗談を言うし、レッドも諦めてくっつけばいいのに」
「ツカサ、俺の家族を見ても冗談だと思うか?」
「いや、でも流石に……」
「まぁ、夢があるじゃないか。きっとツカサのようにポケモン好きなトレーナーかもしれないぞ?」
「それなら大歓迎だわ。……さてと、お茶もご馳走になったしそろそろ行くわ」
「気をつけてな。それとチョコの詰め合わせはありがたく食べさせてもらうよ」
「カントーに帰ろうって思い立ったのが先週で、それくらいしか用意出来なくてごめんねー」
「ピカピーカ」
「ラッシャイ!」
そう言うと出口まで送ろうとするタケシを止め、イシツブテと遊んでいたピカチュウを抱き上げ肩に乗せるとジムを出ていった。
おつきみやまは流石に歩いており、襲ってくるズバットはピカチュウが倒していた。
『可愛いのに凄く強い……』
「そうか、こいつは俺に憑いたからトキワから離れられるのか……」
「ピカ?」
ピカチュウには見えていないらしく、いきなり呟いたツカサを振り向き首を傾げている。
「何でもないよ」
『いいなー、触りたいなー』
「ほら行くぞー」
『はーい、ご主人様ー』
「お前じゃないし、ご主人様じゃない」
吸われ続けている現状早く成仏して欲しく、出来ないなら離れて欲しくて仕方がなかった。
憑かれた事を嘆きながらもピカチュウと共に出口を目指しているとピッピが目の前を通り過ぎていく。
「お、ピッピだ」
「ピカ」
『可愛い!』
「今は助手にラッキー、ハピナス、タブンネが欲しいからスルー」
リーグの者達は教育を終えたその三体をツカサに与えようと動いており、外科のポケモンドクターを増やす為に募集のポスターにも使おうとしている。
「ピカー」
「くっそ汚いピッピもいたよなぁ……普通に喋ってたし、カントーの旅で勝手に仲間に入ってたけど今は何処にいるんだろうな」
『き、汚いピッピ?』
「なんつーか……ピッピとは思えないピッピ。てかあれはポケモンだったのかな? 今でもギエピーって悲鳴を思い出す」
『ぎ、ギエピー?』
汚いピッピも世界を旅しているのかもしれない。
「お、出口が近いな。さっさとポケモンセンターで部屋を借りて今日は休みたいし、ハナダジムはまた明日だ」
置いて行かれないように幽霊少女が抱きつき、ピカチュウが肩に乗ると急いで出口へと走り出した。
しばらくカントーぶらぶら編。
ゲーム本編登場の悪の組織との対戦経歴はこれでコンプのはず。
今年のポケモン映画面白かったなぁ。
映画オリジナル同行者二人も中々良かったし、ホウオウと三犬の圧倒的強者感も好き。
スタッフロールで真っ先に出てきたタケシが何かツボに入って、笑いを堪えるのに必死だった。
買い忘れたモンスターボール型のポップコーンケースを買うのにもう一回映画館に行かなきゃ。