ある日の昼下がり、一人でセレナの両親が経営しているカフェに入りのんびりしていた。
「いやー、ツカサ君が休憩に利用してくれるからお昼過ぎなのに満員御礼だよ」
「いつもご馳走になってしまって申し訳ないです」
暇になるとふらりと現れるツカサは名物になっており、コーヒーとパンケーキを毎回頼むからか皆も真似して頼むようになっている。
「ああ、いいのいいの。ツカサ君はある意味客引きみたいなものだからさ」
「テラス席でただ食べて飲んでボーッとしてるだけですけど」
本人に有名人の自覚が全くなく、気持ちがいいからとテラス席でのんびりしていた。
「それが見たいんだってさ」
「うーん……」
それから少し話すとごゆっくりと言われ、パンケーキにたっぷり蜂蜜を掛けて食べていた。
「うーん、全くモテない。グリーンさんはチャンピオンになればモテるぜーとか言ってたのに、知り合い以外に声をかけたりされないなぁ。……アローラ観光に来ないかってククイ博士が誘ってくれてるし、今度行ってみようかな。向こうではモテるかもしれないし」
その時の手紙にZクリスタルという謎の欠片が入れられていたが、それの使い方が分からないからか放置されている。
「あー、でも父さんが赴任してるタツミヤジマにも行ってみたいしなぁ……」
「ピカ?」
カントーでオーキド博士に押し付けられたボールに入るのが嫌いなピカチュウが一緒に来ており、隣の席でツカサが購入した小さなケチャップを舐めていたが不思議そうに見上げてきた。
「ああ、全然帰ってこないんだぜ? 小さい頃からあまり家に居ないから、ピカチュウが来るまでは寂しかったよ」
「ピカピカ……ピカ? ピカチュ?」
「何でホウエンや他の地方に自分を連れて行かなかったのかって? 母さんを一人にしたくなかったし、お前さんはボールに入るの嫌だったでしょ」
「ピーカ」
「だからって……ニンフィアがお前の真似してボールに入るの嫌がるようになってるんだよ」
当たり前のようにピカチュウと話し始めたのを見て皆ギョッとした顔で見ていたが、本当に喋れているようにしか見えない不思議な光景に目が離せなくなっていた。
「ピカピカチュ」
「いや、最近新種っぽいポケモンを見つけはしたけどさ……わたわた言ってるし、何かタイジュの国に行こうとかタンスから毎日出てくるから怖いんだぞあれ」
「ピカピ?」
「……うん、本当はちょっと行ってみたいと思ってる。今夜辺りにでも誘いに乗ってみようかなって」
そんなピカチュウとの会話の翌日、少し雰囲気が凛々しくなったツカサがカフェに現れていた。
「めっちゃ怖かった」
「ピカ?」
「あれを題材にゲームを作るならツカサのワンダーランドになりそう」
ちなみに部屋のタンスは夜になると向こうと繋がり、いつでも行き来出来るようになっている事には気がついていない。
「ピカ? ピカピ?」
「え? 昨日はずっとベッドで寝てた? ………リアルな夢だったのかあれ。これゲームにしませんかって売り込めば絶対売れると思うんだけど、ピカチュウはどう思う?」
「ピカピカピカチュ!」
「おお、それなら体験談をまとめて相談してみるわ」
連日ピカチュウと喋るツカサが気になり、客の一人が自分のピカチュウをボールから出してツカサに話しかけてみるように言って送り出していた。
「ピカチュ!」
「ピッカァ!」
「おお、ほっぺすりすりで挨拶して………うわっ! バチッて来た! バチッて!」
ピカチュウ同士がほっぺすりすりで挨拶をしているのを間近で見ていたが、バチッ!と電気が走り驚いて立ち上がっている。
「ピカ、ピカピカ………ピカピカピカチュ?」
「いや、そう言われてもなぁ………そのお姉さんだって好きな人が出来れば部屋の片付けもちゃんとすると思うよ?」
「ピカァ?」
「疑わないの。ほら、これあげるから戻ってあげなよ」
「ピカピ………ピカチュ!」
ツカサが鞄から取り出したポフレを受け取り、ぺこりと頭を下げツカサの頬にチュッと口づけをしてから戻って行った。
「ポケモンにはモテると自負してる」
………
……
…
当初の目的通りにある程度の整地を終え、残りは自然のままにしてAZと歩き回っていた。
「ラプラスの湖は整地してない場所にあって遠いけど、コイキングの群れがいて凄いんだよな」
「ああ、魚群だな」
「ヒンバス達もいるし、俺のミロカロスもそのヒンバス達を可愛がってるからなー。ただ俺が知ってるヒンバスとはみんな色が違ってるのが気になる。俺がホウエンで捕まえたヒンバスは紫色してたんだけど」
ツカサの中では他のミロカロスが色違いで自分のミロカロスが通常色だと思っており、少しだけ湖のヒンバスを捕まえたいと思っている。
「ほう」
「色違いの群れか……胸が熱くなるな」
「見事なまでにポケモン馬鹿だ」
「いやー、照れるわ」
「褒めてなどいない。私とゲームをしている時に呟いた、ネコ嬢が嫁に欲しい発言でセレナが猫耳を付けて来た日の事は忘れられん」
「あれはどうしたらいいかマジで分からなかった。旅してた時のクールなセレナは何だったの?」
「普段飄々と受け流すツカサが動揺する姿は面白かったが」
「それで思いついたんだけど、ほら俺ってメイド服と和服が好きじゃない?」
「知らないが性癖の暴露とは畏れ入る」
「セレナが居る時にメイド服とか和服っていいよなってAZに言って同意を求めれば着てくれるんじゃないかって」
メイド服はゲームやらで好きになったが、和服はカントーのバッジを集めていた時に妙にエリカに可愛がられてから好きになっている。
ジムに挑んだ時のエリカの視線で執着するタイプなのを直感で察知したレッドが弟分のツカサの話題を出して語り、偶々持っていたグリーン含めた三人で撮った写真を見せてそっちに執着するように仕向けたからだったりする。
そんな人身御供をしたからか罰が当たり、ナツメのエスパーストーカーの餌食になって今も逃げ惑っているが。
「素直に着て欲しいと頼めばいいのではないか?」
「付き合ってもいない男にいきなりメイド服か和服を着てくれないか?って言われたらどう思う?」
「警察に電話だな」
「でしょ? ちなみに変な理想を抱いて欲しくないから、雑誌のインタビューで普通にメイド服と和服が好きって答えてるけど」
少し意地悪な質問にも普通に答えるから逆に記者が戸惑う程で、女性の好みもポケモンを優先しても許してくれる人ならと答えている。
「赤裸々すぎるのも考え物だが」
「それを見たのかエリカさんからめっちゃ写メが届きまくって後悔してる。………家の場所は秘密にしてたのに、レッドさんが匿ってもらう代わりに教えてて俺の怒りが有頂天」
「うむ、スキャンダル待ったなし」
「AZっちは最近シリアス抜けて緩くなったよね。俺には辛辣だけど、ネットスラングとかも使うようになったし」
「ああ、フラエッテと再会出来て安住の地もあるからだ。ちなみに辛辣なのは愛の鞭だ」
「飴だけください」
「ダメだ。それより最近森にいる白くてフワフワして頭にエナジーボンボンが付いている喋るポケモンはなんだ?」
「あれか………夢だけど夢じゃなかったやつだよ。わたわた言いながら飯食って夜にはタンスから帰っていくんだよ」
湖に向かう途中の花畑ではマッシブーンが他の虫ポケモンに懐かれて纏わりつかれ、ツカサがこれ邪魔だなぁと呟いていたのを聞いていたテッカグヤが巨岩を砕いていたりとUB達は完全に馴染んでいた。
「魔王を相手にした俺に怖いものはない」
「厨二病というやつか?」
「ガチだよ! ………肉と木の実が美味しくて沢山食べたんだよなぁ」
つまみ食いしてみた木の実にハマり、ひっそり栽培した木の実を食べ過ぎて全ステカンストしている模様。
「ふむ………ならば流行りの異世界召喚というやつか?」
「それに近い気がする。………おーっすピカチュウ!」
「ピカ? ピカピ!」
「ちょっ、俺にボルテッカーはやめて! ………グフッ!」
「ほう、ピチュー達の世話をしていたようだな」
「アババババ!」
偶々通り掛かったツカサのピカチュウに声をかけるとボルテッカーで腹に突っ込んで来て、そのまま倒れた所にほっぺすりすりされてビリビリ痺れていた。
「ほらお前達もツカサにほっぺすりすりをしてあげなさい」
AZの言葉を聞いてピチューの群れが嬉しそうに向かい、痺れて動けない状態のツカサにほっぺすりすりをしている。
「AZ………後で覚え………アババババ!」
小さくても痺れる事に変わりはなく、それでも避けずに全ピチューのほっぺすりすりを受け入れ切っていた。
痺れが完全に取れるまで三十分程かかり、ビクンビクンしていたツカサをAZは呆れた目で見ている。
「あー、ビリビリした……」
「普通なら入院コースのはずだが」
「ふっ、マサラっ子は強いんだよ。よくレッドさんとグリーンさんと一緒にサイホーンに吹っ飛ばされたっけなぁ……」
「ピカピカ、ピーカ!」
結局付いてきたピカチュウはツカサの肩に乗りながら懐かしい思い出に相槌を打っていた。
目的の湖に着くとスワンナやコアルヒーが湖面を泳ぎ、水中には様々なポケモンが泳いでいる。
「自然だなぁ」
「ツカサ、あそこに金のコイキングがいるぞ」
「マジで!?」
「ん? ……おお! 二匹もいるぞ!」
まさかの色違い二体にAZもテンションが上がり男二人でキャッキャしていた。
「海辺のポケモンは流石にいないかー……あ、そうだ。今度アローラ地方に行ってくるから土産期待しといて」
「ああ、期待しておく」
「ククイ博士が色々案内してくれるらしいから、今からワクワクが止まらないわ」
「ピカピカチュウ!」
「ピカチュウはラプラス枠に入りたいのか。常夏のアローラ、グラサンも買わなきゃ」
………
……
…
あっという間にその日が来て船に乗ってアローラへ向かっていた。
セレナからプレゼントされた野暮ったい眼鏡を掛けているからか誰からも気づかれず、手摺りに寄りかかり海を眺めていた。
今回連れて来たのはカロスを旅した面々に、ラプラスは相変わらず留守番でその枠がピカチュウになっている。
「サインください!」
「ん? 俺?」
「はい!」
手摺りに寄りかかり海を眺めているとシャツの裾を引っ張られ、目を向けるとキラキラした目をした男の子がマジックと未使用のモンスターボールを差し出していた。
「誰かと間違えてるとかは」
「ないです!」
「マジか」
「カロスチャンピオンに勝ったの見てました!」
周りに人が居ないから助かっているが気がつかれたら囲まれてしまうとツカサは焦り、シーッと指を口に当てて笑って見せていた。
「君は礼儀正しいし、将来大物になるかもしれないな。ちょっと待ってね……ほい、これプレゼントするからそのモンスターボールはポケモンを捕まえるといいよ」
余っていたプレミアボールを鞄から取り出し、サインを書いて手渡し頭をくしゃくしゃっと撫でている。
「わぁ……ありがとうございます! あの、写真もいいですか?」
「いいよ。でも最近の子は凄いな、スマホに自撮り棒だっけ? それまで持ち歩いてるんだ」
ここまで来たらサービスだと眼鏡を外してしゃがみ、少年の肩に手を回して抱き寄せるようにして笑顔を見せていた。
「へへ、これ自慢したらあいつら羨ましがるだろうなぁ。ありがとうございました!」
「正式にチャンピオンになったら応援よろしくねー」
握手をして走り去る男の子の背に声をかけ、海風で冷えてきたからか自身も船室に戻って行った。
「何か新鮮だったな」
「フィア?」
「ピカ?」
「こら、寝転がりながらポフレを食べない。俺のピカチュウはニンフィアと気が合ってるから困る」
どちらがパートナーに相応しいかでガチ対決を繰り広げ、ニンフィアがピカチュウの猛攻に最後まで喰らいついてから仲良しになっている。
「向こうには二週間くらい滞在するつもりだけど、ククイ博士が研究所に泊めてくれるらしいのは助かるな」
それから二日が経ちアローラ地方に到着する日が来た。
透き通った海、暑い陽射し、遠くに見える巨大な建造物とカロスでは味わえない物が多い。
そして港に着き
「アローラ! やぁ! 実際に会うのは初めましてだね!」
「あ、アローラ。ククイ博士、初めまして」
白い帽子にお洒落なサングラスをかけ、上半身裸で白衣を着たククイ博士が笑顔で出迎えてくれた。
「うん! さぁ、家に荷物を置いたら会ってもらいたい人がいるんだ!」
「会ってもらいたい人?」
「島キングのハラさんにツカサを紹介したくてね」
「島キング……楽しみです」
ククイとワイワイ雑談をしながら研究所兼自宅に向かって行った。
アローラ到着までのお話。
サンムーンのメインキャラと交流してフラグやらたてても話題にしか出さないつもり。
ククイ博士は普通に出すけど。
発売日に天獄を買ったのにプレイしないで、先日出たばかりのVプレイ中。
久々のZZとジュドーが本当に嬉しい。