異世界から帰って来て一週間、向こうで石化した事に対してこちらのイベルタルに文句を言ったりと忙しい日々を過ごしていた。
「あっちの世界で訪れた町はこっちにもあるんだよな。行ってみようと思ってセレナを誘ったら凄く嬉しそうな笑顔で行く!って即答だった」
「ようやくデートをする気になったか」
「え? ……危ない、サナ達も誘う所だった」
「危うく私の右腕が唸る所だった」
「なにそれこわい。しかしデートか……この百戦練磨の俺には取るに足らないものよ」
「それは初耳だが」
「ゲームだとバッチリだからな」
「ああ、ツカサの女性関係に少しでも期待した私が馬鹿だったか」
最近ではセレナと仲良く買い物をしに行く姿がよく見られ、ツカサは何も考えていないが毎度誘われるセレナはちょっとしたデート感覚だったりする。
「えー」
「ツカサの話を聞く限りだとだが、お前の嫁になれそうな存在は本当に一握りだ。カロスならサナ、セレナ、ジーナ、コルニ……それとカルネ」
「最後の人が予想外過ぎるんですが。てかそれって最近よく訪ねてくるからってだけだよね? てかコルニちゃんもマジかよ。マーシュさんは入ってないんだな」
「ああ。サナとセレナは言うまでもない、ジーナとコルニは自分達よりポケモンを優先するツカサを見て微笑んでいた。マーシュはツカサが苦手にしているのを知っているから省いた。カルネは……婚期の問題」
「あっ……」
気まずい空気の中で畑を耕す手伝いをしているといつものようにセレナがやってきて、休憩しようとAZの方を振り向くと遥か彼方の畑に向かっていく姿が見えた。
「AZ、毎回気がつくといなくなるんだよなぁ」
「ツカサ、今日はおにぎりにしてみたの」
「マジか。てか最近夕飯にお呼ばれする事が多くなってるけど、ご両親に迷惑かけてるよなぁ」
「気にしないでいいわ。寧ろパパとママのポケモンで中々進化をしなかったカブルモとチョボマキを進化させてくれたり、ここ数年庭を荒らしてたディグダ達を説得してくれたりで二人も喜んで迎えてるもの」
夕飯の席でセレナの両親が無理も承知でツカサに相談したようだが、進化に関しては下手な博士よりも詳しいツカサは当たり前のように
「二体が一緒にいる時に電気のようなエネルギーを浴びせると進化しますよ。お手伝いしますか?」
と告げ、少々疑いながらも二人はツカサに頼んでいた。
ボールから出たカブルモとチョボマキがじゃれあっている所にミミッキュの加減した10まんボルトが炸裂し、そのエネルギーを受けて本当に二体が進化を始めてセレナの両親は驚いていた。
「いや、あれはたまたま知ってただけだからなぁ」
「とにかく気にしなくていいの!」
「だけど食費がかかるだろうし、渡そうとしてもご両親受け取ってくれないから困る。カフェ行ってもお代はいいからって言われるし」
街の中心辺りでカフェをしているらしく、セレナ一家と一緒に撮ったツカサの写真とサインを飾るだけでかなり客が増えたらしい。
まだ正式にチャンピオンになった訳ではないのにファンが訪ねて来るようで地域も活性化しており、稀にツカサが訪れるカフェとしてファンに有名になっている。
「ツカサがパパとママに教えたパンケーキがメニューに入って、それが爆発的に売れてるからいいんだって言ってたわ。そのままツカサのパンケーキって名前らしいけど」
「申し訳ないなぁ」
そんな話をしながらセレナのおにぎりを食べ、セレナがツカサの口元についたご飯粒を食べて互いにドキドキしたりとお約束だが順調にフラグが積み重なっていく。
「あー、えっと……あ、そうだ。そういやあの子もカロスにいるって言ってたっけ。今もいるのかな」
「あの子?」
「三年前マサラタウンに来てた母さんの友人の子なんだよね。蒼に近い銀髪で青いフリフリのドレス、泣き虫でマイペースな子だった」
「あ、女の子なんだ」
「マサラタウンの端っこにある豪華な家が別荘だったらしくて、行きたくないのに挨拶しに連れて行かれたっけ。そこでその子の相手をしてたら物凄く懐かれて、俺だけその一家が帰る日まで自宅に帰してもらえなかったっていう」
一ヶ月近く一緒に暮らしていたから様々なマナーやバイオリン等の習い事も共に学び、無駄にハイスペック故に完璧に仕上がったツカサは何処に出しても恥ずかしくない状態で今に至る。
「え……その子のご両親は何か言わなかったの?」
「寧ろ任せておけるって感じで母さんとカントー観光に行ってた。使用人もじいやさんだけだったし、俺は四六時中一緒でまさかの風呂まで一緒だったし」
「三年前ならツカサは十五歳で……その子は幾つだったの?」
「五歳だったよ。兄や兄やって付いてくる姿は妹が欲しかった俺としては最高だった」
「ツカサがお兄ちゃん……何か甘やかされて、それに甘えてダメになりそう」
「アポイントメント取らないと会えないだろうし、向こうから接触してくるの待たないとなぁ」
チャンピオンになった事でカロスにいるのは知られているが、向こう側の予定が合わず接触出来る機会がまだなかった。
「もしかしたら有名で私も知ってるかも……どんな名前の子なの?」
「アリアって名前で」
「……それ会えないと思うわ。カロスでも有数の貴族の一人娘よ、その子」
「え、マジで? 俺の知り合い達ってなんなの? バレンタインにやたら有名で高いチョコを手紙と一緒にくれたりしたけど……毎年のホワイトデーのお返しが手作りピカチュウぬいぐるみと手作りチョコとか失礼だったんじゃないかって」
「それは私が聞きたいわ。お返しはそれでよかったと思うけど、ツカサはお料理以外にお菓子も作れるの?」
「寧ろそっちのが得意。カロスに来るまではマサラタウンに居る従妹に作ってあげてたっけ……カロスに引っ越す時には旅行してて、ちゃんとお別れしてないから次に会った時の反応が怖いけど」
………
……
…
懐かしい少女の話をして数日が経ち、ツカサは庭で新たな仲間達と共に寝転がって日向ぼっこをして過ごしていた。
「ウツロイドがやたら覆い被さってくる」
「♪」
「アママイコだった時は物凄く甘えて来たのにアマージョになってから甘えて来ないから、ウツロイドが甘えて来て嬉しいわ」
心を通わせて互いに互いを受け入れてから甘えてくるようになり、同時に同種のウツロイドだけではなくまだ見ぬウルトラビースト達をも出し抜いてツカサの元に来た事も明らかになっていた。
ウツロイドが見せた断片的な映像で残り六種のウルトラビーストの存在を知り、遭遇した時にどうにか出来るように皆を鍛えている。
はずだったが……
「テッカグヤを筆頭に一気に六種が来た時は流石に怖かったなぁ……まさかのジガルデが本気で助けに来てくれたけど」
「!」
「それがウツロイドの出し抜いた面々だったから話が通じてよかったよ」
100%のジガルデが助けに現れたらしく、ツカサは恐怖よりロボのような見た目のジガルデへの興味が勝っていた。
ちなみにウツロイド以外も既に森に順応しており、いつの間にか居たメロエッタの深夜ライブを見に来る程馴染んでいる。
「♪」
「チャンピオンって名目の時はカロスを旅した時のメンバーを連れて行かないといけないから、それまではお前達と一緒だよ」
チャンピオンに求められるのはカロスを旅した時の仲間達であり、今のツカサの仲間達はプライベートでしか共に居られないと遠回しにカルネに伝えられていた。
更にその時カルネはハチクマンとは別の新シリーズとして大学生になったかつてルカリオキッドだった少年の映画をシリーズ化するという話があると伝え、アクションシーンを楽しみにしているからとBDBOXやらのグッズにサインを要求しながら熱く語っていた。
今は無駄にプレミアが付いているハチクマンシリーズの再販や新シリーズの要望が様々な地方から出ており、ポケウッドもどうにかツカサと連絡を取ろうとしてカルネを頼ったらしい。
「新シリーズはまさかの怪盗、それでいて二代目の敵になったり味方になったりしつつ生身で派手なスタイリッシュアクションとか。……二代目なのにリオルキッドじゃなくてリオルガールとか誰がやるんだろう。ルリちゃんかな?」
イッシュでは色々あってルリと知り合っており、オフの日に一緒に観覧車に乗ってデート的な事をしたりしていたようだった。
何度目かの自由行動で怪しいと疑い後をつけて来たメイに見つかり、付き合ってもいないのに二人と修羅場が起きていた。
観覧車の人に助けを求める視線を向けると任せておけとばかりに頷き、そのまま上手いこと口車に乗せて三人を観覧車に乗せスピードを一番遅くして厄介な客を隔離する名采配を見せている。
「でも既にレディでガールじゃないもんなぁ……」
「ツカサ、新シリーズって本当なの?」
いつの間に居たのかセレナが真上から見下ろし少々興奮しながら尋ねていた。
「らしいよ。それとセレナ、真上に立つから背伸びした大人パンツが丸見え」
「……私、ツカサになら見られても構わないわ」
「いや、それでガン見したら俺はただのド変態になっちゃうから。紳士な俺にそんな事は出来ないっていう」
「とにかく新シリーズの事を早く」
渋々身体を起こしウツロイドに取り込まれたまま話し始めていた。
「舞台はカロスだってさ。カロスへの留学を機にルカリオとも別れてしまったから引退、平穏な日常を過ごしている所から話は始まるみたい」
「これは熱い」
「セレナ、君そんなキャラだった? ……それでハチクマンは一切出ないで、リオが怪盗ゲッコウガ仮面として二代目のリオルガールと敵対する路線らしいよ」
「なるほど。平和な日常と見せかけて前作主人公が悪に堕ちている展開なのね」
「中盤で現れる悪の組織、一時休戦したリオルガールとゲッコウガ仮面が共闘。そして終盤にかつての相棒であるルカリオが現れ……ってのが初期のシナリオだって」
「見なきゃ!」
「ゲッコウガ仮面じゃなくてジョーカーって呼び名にしてくれないかなー。何か分からないけど、怪盗って聞いたらジョーカーがしっくり来る不思議」
何処から情報を知ったのか既に監督へ熱烈オファーをしている金持ちの家は多く、怪盗が盗みに侵入する豪邸を是非我が家で撮影してほしいと外観や内装の写真や見取り図まで添えられたメールが送られているらしい。
「はぁ……楽しみすぎて今日は寝れないでしょうし、サナと朝まで四部作を見ながら語り合わなきゃ」
「身近に熱烈なファンがいると少し怖い」
………
……
…
正式なチャンピオンになる前にカルネと共にバラエティの番組にテレビ出演をする事になり、緊張しながらもカルネに助けられ笑顔で対応していた。
許可を得ていたらしくルカリオキッドだった時の決め台詞と決めポーズをお願いされてしまい、仮面を付けモンスターボールを手に当時よりもキレッキレな動きとよく響く声で決めていた。
直後上がった客席や他のゲスト含めたスタジオの皆からの黄色い声にツカサはかなりビビるも表面には出さず、カルネまで一緒になってキャーキャー言っているのを横目で見て若干頬が引き攣っていた。
収録後にカルネの楽屋に呼ばれゲッソリした顔で座り込んでいた。
「……あぁ、エライ目に遭った」
「チャンピオンになったら更に色々あるわよー。特にツカサは大変でしょうね、男の子だから私より無茶な事も出来そうだもの」
「なる前から辞めたい……」
「私は女優業に力を入れていけるから、ツカサと共演する事もあるかもしれないわね」
「そういうオファーもくるんです?」
「ええ、間違いなく来るでしょうね。ドラマならポケモンドクターに焦点を当てた物とか、監修もお願いされるかもしれないわね?」
「それは別のドクターにやってほしいなぁ……ドクターと言えば外科はどんなに最善を尽くしてもダメだった時、怒りをぶつけられるって言うのもあるのでなる人が少ないんですよね。後日謝りに来る方が多いですけど」
訴えてやるだなんだと散々罵倒して帰り、自宅で怒り心頭のまま調べる内に手遅れな症状で手の施しようがないという事しか書かれておらず唖然とするまでがテンプレ。
申し訳ありませんでしたとすぐに謝りに来る者と、合わせる顔がないと謝罪が書かれた手紙を郵送してくる者の2パターンがある。
「……そうなってしまうわよね」
「だから俺は……」
助かる可能性が上がるならばと研修期間が過ぎるとどこにも所属せずそのまま闇医者であるハザマの元へ向かい、師事する事を許してもらえるまで毎日土下座して頼み込んでいた。
最初の頃は最新の資料を自由にコピーして持ち出せるツカサを利用、ツカサはその闇医者の技術を見て人形やVRで練習して盗むという歪な師弟関係だった。
一年経つ頃には割と普通の師弟関係になり、頼りになる助手として色々な場所に着いて行き腕を磨き続けていた。
「でもツカサの腕は異常だって掲示板に書かれていたわよね。誰もが見捨てざるをえない怪我のピカチュウを救った技術がありえないって」
「まぁ……技術を見て盗んで我が物としましたから。物凄く大変でしたけど今ならゴーストタイプの手術も出来ますよ」
これの発案はツカサでホウエンを旅した時の仲間であるサーナイトの協力で可能になり、それをハザマに話すと目から鱗だと呟き翌日にはスリーパーを捕獲して来た程の革新的な事だったらしい。
メスや器具にエスパータイプの力を使う発想が今でもないらしく、これはまだ二人しかする事が出来ない術式だった。
「え?」
「あ……な、なーんちゃってー」
「怪しい……」
「あ、あー、カルネさんのマネージャーさん遅いなー」
チャンピオン就任後、この会話を盗み聞きしていた者により本当にポケモンドクター物のドラマの主役に抜擢されるとは思いもよらないツカサだった。
後十一人くらい色んな地方に義妹が居るのかもしれない。
メガ石の大会配布が先行なだけになったのは当然の措置だけど、最初から入れとけと言いたい。
吉田沙保里ネキのカイリキーはセブンに貰いに行かなきゃ。