「真っ白になった視界が戻ったと思ったら知らない町にいた」
エリートトレーナーの女性が少年とバトルをしている所に居り、エリートトレーナーがアブソルをメガシンカさせた事に驚きながらも野次馬に紛れてバトルを眺めていた。
ツカサはバトルが終わり少年のピカチュウが何かを感じ取り走り去るのを見て、少し気になりバレないように後を追って行った。
追いつくと少年とピカチュウがディアンシーを二人の男女の手持ちであるゲッコウガとマフォクシーから庇っている場面だった。
まさかのもう一体のディアンシーに驚きながらも見過ごす訳にはいかないと建物の屋上から飛び降り、ルカリオをボールから出しながら壁を蹴って勢いを殺し華麗に着地して割って入っている。
「少年、ここは俺に任せてディアンシーを連れて逃げろ。ルカリオ、しんそくで二体を纏めて吹き飛ばせ!」
「クォン!」
名誉挽回だと張り切るルカリオは早速マフォクシーを蹴り飛ばし、そのままゲッコウガに襲い掛かっていた。
「ありがとう! 行こう、ピカチュウ!」
「……まぁ、俺もすぐに逃げるんだけどねー。ルカリオ、はどうだん!」
少年達が逃げたのを確認すると地面にはどうだんを撃たせ、衝撃で巻き起こった煙に紛れて少年達の逃げた方へルカリオと共に走って行った。
「あ、さっきの!」
「おう、無事だったか少年……!?」
しばらく走るとディアンシーと仲良く談笑している所に追いつき、少年の仲間と思われる面々を見て驚き目を見開いている。
「オレ、サトシって言います! こっちは相棒のピカチュウ」
「ピッカァ!」
「私はセレナ!」
「あたしユリーカ!」
「僕はシトロンです!」
「……マジか。パラレル的なあれかこれ」
小声で呟きながらツカサの知るセレナより小さなセレナを見て動揺していた。
『先程は私を助けていただき感謝しています』
「ディアンシー……あぁ、そうだった。俺はツカサ、旅をしているトレーナーだよ。立ち話もなんだし、お兄さんが奢るからカフェにでも入らないかな?」
サトシと名乗った少年達を連れてスイーツバイキングがある店に入り、情報収集も兼ねて色々と尋ねていた。
結果的に言えばパラレルワールドが確定し、頭を抱えている所にこの世界ではまだ活動しているロケット団がディアンシーを攫っていくという事も起きている。
皆を先に探しに行かせて支払いを済ませてから探し始め、合流する前にディアンシーをゴージャスボールから出して尋ねていた。
「どうするかこれ」
『この世界の私を助ける事、それが私達が元の世界に帰る事に繋がると思います……私も以前はあの私のような感じだったのでございますか?』
「口調が移ってるぞ。まぁ、あんな感じだったな」
『やはりこれからも皆さんに色々教わらなければなりませんね。姫ではなく女王として』
そんな話をしてからしばらくしてサトシ達と合流し、逃げ出してきたディアンシーも見つけてひと段落ついていた。
結果的にゼルネアスを探す事になり、手持ちにいれておけば良かったと思いながらも同行をする事にしている。
………
……
…
翌日はディアンシーが感じ取るゼルネアスの残したフェアリーオーラを追ってバスに乗り、更に徒歩で夜まで歩き続け野宿をする事になっていた。
夜中にはサトシとディアンシーと共に流れ星にお願いをし、翌朝は軽くバトルをして鈍らないようにしようと一対一でサトシと向き合っている。
「ピカチュウ、ツカサ相手に手加減は出来ないぜ!」
「ピカ!」
ツカサはサトシと意気投合して歳の差なんて気にせずに名前の呼び捨てをお願いしたらしく、早速呼び捨てになっていた。
「ニンフィアがやる気満々でちょい怖い」
「フィア!」
セレナやユリーカにウインクしたりして可愛さをアピールしており、バトルの時に見せる獰猛さの欠片もなかった。
「ツカサのニンフィアかわいー!」
「本当に可愛い!」
「ツカサがちょっと引いているのが気になりますが……」
シトロン達にも呼び捨てにするように違和感なく受け入れてもらえていた。
バトルが始まるとニンフィアはピカチュウを翻弄し、接触した時にメロメロになったピカチュウを触覚で拘束して零距離ムーンフォースでダウンさせている。
「あー、もう……」
「すっげぇ! ツカサのニンフィア、可愛いだけじゃないんだな!」
「ピーカーチュー……」
「サトシにはあれが可愛く見えるのか……とりあえず手当てするからピカチュウはおいで」
ニンフィアがそのままユリーカ達に愛想を振りまきに行ったのを見送り、目を回しているピカチュウに惜しみなく薬を使って手当てをしていた。
ドクターとしての仕事が終わるとブリーダーとしての血が騒ぎ、スキンケアもしておこうと専用のオイルとシートを鞄から取り出すとピカチュウを寝かせてケアを始めている。
「チャア……」
「よし、これでいいな。身体も解れたみたいだし」
「ツカサって何でも出来るんだな! タケシみたいに料理も上手いし、手当てもマッサージも上手だし」
「まぁ、旅に出て長いからね……タケシ?」
「ああ! 一時期一緒に旅をしてたんだ!」
こちらでもそこまで変わらないタケシの話で盛り上がり、テントや焚き火の跡の片付けをしてから近くの船着場に向かっていった。
船上でディアンシーが生み出した一つのダイヤを見てツカサは何かを察したが言わず、ユリーカがディアンシーからそれを譲り受けていた。
船が着いた先にある都市も一応ツカサの居たカロスにも存在しており、戻ったら訪ねてみようと考えている。
その都市の巨大なショッピングモールでは女子チームの試着した服の披露が行われ、戻れたらセレナにプレゼントしてみようと小さなセレナのセンスを参考にしていた。
「俺は服のセンスとか分からないからなぁ……」
それからすぐにディアンシーを追って来たメレシー達に遭遇し、何とか撒いて公園に着くも今度は最初の町で出会った泥棒の女が現れていた。
「マフォクシー!」
「ここは大人の俺に任せてサトシ達は先に行くんだ。行け!」
放たれたかえんほうしゃをバックステップで避け、サトシ達に叫びながらリザードンの入ったボールを投げていた。
「邪魔よ! かえんほうしゃ!」
「残念だがしばらく付き合ってもらうぞ。リザードン、ドラゴンクロー!」
久々のバトルに漲るリザードンはかえんほうしゃの中を突っ切り、マフォクシーを殴り飛ばして木に叩きつけている。
「いいポケモンね。嫌いじゃないわ」
「そいつはどうも」
………
……
…
しばらく戦うも相手は分が悪いと引いてしまい、ファイアローに空を飛んでもらいサトシ達の後を追って行った。
「あれはイベルタル! ……理性がないのか? 急げファイアロー! リザードン、メガシンカ!」
遠くに見えるイベルタルが辺りを破壊しているのが見え、ファイアローに急ぐよう急かしながらリザードンをメガシンカさせていた。
そしてタイミングがいいのかサトシとピカチュウ達が落ちそうになっている所に着いていた。
「すまない、かなり待たせた! リザードン、フレアドライブ!!」
「ツカサ!」
『ツカサ! 無事だったのですね』
サトシを引き上げるのに協力しながらリザードンに指示を出し、イベルタルを相手に互角の勝負を繰り広げている。
イベルタルがツカサ達に放とうとするデスウイングを横っ面を殴って逸らし、自身にヘイトを集めていた。
伝説を相手に一歩も引かず、イベルタルの尾を掴むと背負い投げの要領で地面に叩きつけている。
チラリとツカサ達がサトシを救出したのを見て降りようとしたが倒れていたイベルタルが起き上がり、間髪入れずにツカサ達に向けてデスウイングを放ちそれを防ぐのにリザードンは急降下してツカサ達の壁になっていた。
「リザードン!」
足から石になっていくがツカサ達が無事なのを見て笑い、そのまま全身石に変わってしまった。
『……私は諦めない!』
為す術もないピンチにツカサも焦っていたがディアンシーが皆の前に立ち、キリッとした表情で再び空を飛び回るイベルタルを見ていた。
『ええ、その通りです。決して諦めてはいけません』
その決意の声を聞いたツカサのディアンシーは自らゴージャスボールから出て、こちらの世界のディアンシーの隣に並び立った。
「ディアンシーがもう一体……!?」
「ツカサのボールから出てきました!」
皆の説明を要求するような視線を無視し、メガリングに手を触れていた。
黒かったメガリングがピンクを基調にしたリングへと変貌し、内心溜め息を吐きながらキーストーンに触れている。
『目の前に私が……』
『私達でイベルタルを止めましょう。ツカサ!』
「ディアンシー、メガシンカ!」
「わっ!」
ツカサがキーストーンに触れると共鳴したらしくユリーカが譲り受けたピンクダイヤモンドもポシェットの中で輝き始め、激しい光が二体のディアンシーを包むとその姿を変えていく。
『はぁぁぁぁぁ!!』
『斬り裂きます!』
こちらのディアンシーがダイヤモンドを創り出してデスウイングを防ぎ、ツカサのディアンシーはピンクダイヤモンドで創り出した剣を手にデスウイングを斬り裂いて勢いを殺していた。
「わぁ、綺麗……」
「あー、さっきのかすってたか……」
「ツカサ!?」
リザードンが壁になる瞬間にツカサもサトシ達の壁になっており、リザードンの防ぎきれなかったデスウイングがかすっていたらしい。
「悪い、後は頼むよ。こいつらは巻き込めないから、サトシ達に……」
「ツカサ!」
ボールを投げ渡して心配そうに見てくる面々にニッと笑い、そのまま石像になってしまい……
………
……
…
「……うん、マジで生きててよかった」
『静かだからとツカサ達の方を見て石になっている姿を見た私の気持ちが分かりますか?』
『全くです。ツカサはもう一人の私のパートナーなのですから、心配を掛けてはいけません』
「まぁまぁ。ツカサはオレ達を守ろうとしてたみたいだし、お説教はそこまでにしてやろうぜ」
「ピカ!」
ディアンシー二体にお説教されている所にサトシとピカチュウが割って入り、助け舟を出してくれていた。
そして説明を要求されてしまい、信じてもらえないかもしれないけどと前置きをしてから話を始めた。
「……って訳なんだ」
「異世界の……」
「カロスチャンピオン……女の子だったらお兄ちゃんのお嫁さん候補だったのに!」
「ツカサって凄かったんだな!」
「最初にボク達を見て驚いていたのはそういうわけだったんですね」
慣れているのかは分からないがツカサの話をあっさり信じていた。
「疑わないの? 異世界とか嘘で俺がこのディアンシーを無理矢理捕まえてるとか……」
「だってツカサのディアンシー、石化したツカサを見て取り乱しながらイベルタルと戦ってたからな! 無理矢理捕まえてたらあんな風にはならないぜ!」
「ピカチュ!」
「そうですね。ルカリオもボク達を守りながらもイベルタルに攻撃していましたし、ニンフィアなんて泣きながら縋り付いてましたよ」
「ゲッコウガも私達を守りながらツカサも守っていたものね」
「ファイアローもイベルタルの動きを制限させてたよ!」
皆勝手にボールから出てサトシ達を助けていたらしく、愛され具合の凄さに尊敬の眼差しを向けられていた。
「いや、その……照れる。それとそろそろお別れみたいだ」
預けたボールを受け取りまだ何かいいたげなディアンシーと石化の解けたリザードンをボールに戻した所で帰還する条件が揃ったらしく、全身が少しずつ透け始めていた。
「そっか……短い間だったけど一緒に旅が出来て楽しかったぜ!」
「あのポケモン達も食べられるパンケーキのレシピありがとう! 大事にするから!」
「科学の話が出来て楽しかったです!」
「みんなにするマッサージの仕方、教えてくれてありがとう!」
『ツカサ、そちらの世界の私をお願いします。私も立派な姫……いえ、女王としてがんばっていきます』
消え始め、もう二度と会えないだろう相手にそれぞれが感謝の言葉を贈っていた。
「ありがとう。それじゃあ、俺はこれで」
そう告げると笑顔で消えて行った。
………
……
…
真っ白な視界が戻り目を開くと地下へ続く道の途中の岩の上に寝かされていた。
「夢……じゃないよなぁ。写真残ってるし」
『サトシはああ言っていましたが、まだ私のお説教は終わりません! いいですか、私のパートナーとして……』
スマホに残されたサトシ達との写真を眺めていると、ディアンシーがボールから出てきてお説教の続きをされている。
後二回その内にまた向こう側の世界に。
バンク解禁からゲーフリの無能具合が浮き彫りになりすぎだと思う。
まさか未解禁メガストーンが全世界で十万、大会参加者オンリー配布とか酷すぎるだろこれ。