ポケットモンスターXY 道中記   作:鐘ノ音

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チャンピオンとの戦い、申し分程度の後日

巨大な扉から中に進むと玉座のある部屋に出て、その部屋の中央にある昇降機に乗ると上に昇って行く。

 

到着した部屋は床がポケモンの属性で描かれたステンドグラスのように綺麗な造りになっており、陽の光が入り巨大なレースのカーテンが風で揺られていた。

 

光の向こうに見える姿は……

 

「ようこそ。あたくしがチャンピオンのカルネと申します……なんてね」

 

「カルネさん!?」

 

「ふふふ、お久しぶり。私の代わりにフレア団を止めて、カロスのみんなを助けてくれてありがとう」

 

「いや、あれは成り行きでしたから。時間もなかったので全力でしたけど」

 

「さぁ、遠慮は無用よ! 私も本気、貴方も本気でこのバトルを楽しみましょう!」

 

「俺の全力、ぶつけさせてもらいます!」

 

 

距離を取ると部屋が変わり始め、バトルに適した広くそれでも豪華なバトルフィールドになっていった。

 

ツカサは一対一で全員に出番を与えようと考え、最初にファイアローのボールに手を伸ばしていた。

 

「行くわよ、ルチャブル!」

 

「頼むぞ、ファイアロー!」

 

 

向き合う二体は互いに目を逸らさずトレーナーの指示を今か今かと待っている。

 

「ファイアロー!」

 

「ルチャブル!」

 

名前を呼ぶ声を聞くと同時に空に飛び上がると空中戦が繰り広げられ始めた。

 

鍛え上げられたファイアローはルチャブルの攻撃を避け、かえんほうしゃで牽制しながら隙を探っている。

 

「ルチャブル、シザークロス!」

 

「ファイアロー、ブレイブバード!」

 

ルチャブルの鋭い爪から放たれた一撃を身体の力を抜いた自然落下で避け、それに驚くルチャブルの背後に高速で回り込み蹴落としていた。

 

体勢を整え上空のファイアローを見たルチャブルだが、翼を畳みこちらに高速で突っ込んでくる姿が見え……

 

「くっ……!」

 

「っ!」

 

二人は二体が共に地面に突っ込んだ衝撃で起きた風を腕で遮りながらどうなったかを見ている。

 

風が収まると目を回して仰向けでダウンするルチャブルと、反動で少々飛び方がフラついているファイアローの姿が見えた。

 

 

「ファイアロー、お疲れ様。後で治療するから安心してお休み」

 

「ルチャブル、ご苦労様」

 

それぞれボールに戻すと二人は新たなボールを手にし、目が合うと互いに微笑み同時にボールを投げている。

 

「さぁ、ここからは俺達のステージだ! ルカリオ!」

 

「ガチゴラス、自慢の顎で噛み砕いてあげなさい!」

 

 

ルカリオはいつものように攻防一体の構えを取り、ツカサがメガリングに触れようとしたのを見て首を横に振っていた。

 

ガチゴラスは咆哮を上げて睨みつけるようにしてルカリオを見ていた。

 

「そのままで戦いたい、か……それなら一撃で決めろ! ルカリオ、インファイト!」

 

「こちらも全力で行くわよ! ガチゴラス、もろはのずつき!」

 

ガチゴラスが先制とばかりに脚に力を入れて加速し、頭をルカリオに向け守りを捨てた一撃を叩き込もうとしていた。

 

ルカリオは一度目を閉じて呼吸を整え、再び開くと突っ込んで来るガチゴラスに真正面からぶつかる事を決めて波導を練っている。

 

そしてガチゴラスが射程距離に入った瞬間、突っ込んでくる頭に向かって全力で自慢の拳を叩き込んでいた。

 

凄まじい衝突音が響き、ガチゴラスもルカリオもぶつかり合ったまま身動きを取らず固まっている。

 

「……ルカリオ」

 

「ガチゴラス?」

 

ぐらりとガチゴラスが横に倒れ、ルカリオも右腕を負傷しており、このバトル中は戦う事は出来なくなったのは明らかだった。

 

 

「ルカリオ、今回のバトルはもう戦っちゃダメだ」

 

「ガチゴラス、あのルカリオを実質相討ちに持ち込んでくれてありがとう。お疲れ様」

 

二体をボールに戻すと互いに次のボールに手を伸ばし、また同じタイミングでそれを投げている。

 

 

「ラプラス、お前の出番だ!」

 

「ヌメルゴン、お願いね!」

 

綺麗な歌声を響かせながらラプラスは現れ、相手のヌメルゴンが思わず拍手をしてしまう程だった。

 

「この歌声も特訓の成果かなぁ。……ラプラス、ふぶき!」

 

「綺麗な歌声……ヌメルゴン、りゅうのはどう!」

 

ラプラスのふぶきとヌメルゴンのりゅうのはどうが拮抗していたが、ラプラスの気合い勝ちかふぶきがりゅうのはどうを呑み込みそのままヌメルゴンをも呑み込んでいった。

 

ふぶきが収まった後には氷漬けになったヌメルゴンが残り、溶かして出てくるのではと二人で少しの間様子を見ていたが審判がダウン判定を下して勝利を拾っている。

 

「ラプラス、お疲れ様」

 

「ヌメルゴン、今回は運が悪かったわ」

 

 

残り三体だとツカサは気合いを入れ直してラプラスを回収し、そろそろ特訓の成果を見せようとこの旅の始まりと共に過ごした相棒のボールに手を伸ばした。

 

「やろう、ゲッコウガ!」

 

「ふふ、アマルルガ!」

 

何かをしようとするゲッコウガを見てアマルルガはそれを見届けようと考えたのか、カルネをチラリと見て頷かれるとそのままジッとしている。

 

「これが俺達の絆の力……!」

 

「……!」

 

ツカサとゲッコウガは同じタイミングで同じように右手を上げると握り締め、ゲッコウガは瞳が赤く輝いている。

 

「こうやって誰かに見せるのは初めてだけど……チャンピオン相手なら全力だ!」

 

「!」

 

その言葉を呟くと二人はシンクロし、ゲッコウガがいきなり水柱に呑み込まれていった。

 

唐突に起きた不可思議現象にカルネは目を見開き、アマルルガも驚いたのかチラチラとカルネを見ている。

 

 

「……名前を付けるならキズナゲッコウガ、かな」

 

「!」

 

水柱が収まると姿が変わり水に包まれたゲッコウガが現れ、その包まれていた水もゲッコウガの背に集まっていき大きな水手裏剣へと姿を変えていた。

 

「凄い……メガシンカではないのに同じような力強さを感じる」

 

「ゲッコウガ、上げていくぞ!」

 

「それでもアマルルガなら!」

 

一心同体故に指示も基本的に考えるだけでよく、ゲッコウガはアマルルガの元へ走り出し攻撃を避けながら背中の水手裏剣で攻撃を繰り返している。

 

しかし手練れなアマルルガのフェイントにかかり、長い首を使った打撃を受けて吹き飛ばされていた。

 

「うぐっ……! 悪い、判断を誤った」

 

「!」

 

「ツカサ君?」

 

完全にシンクロしている弊害でゲッコウガの受けた痛みもフィードバックし、咄嗟にガードに使った右腕に激しい痛みが走り抑え堪えている。

 

「……ゲッコウガ、みずしゅりけん!」

 

「アマルルガ、かみなりよ!」

 

フィールドに降り注ぐかみなりを避けながらゲッコウガは駆けていき、背中のみずしゅりけんを投げつけた。

 

それが直撃して集中力が途切れかみなりを落とせなくなりアマルルガはふぶきを起こそうとしたが、その隙を見逃さないゲッコウガのみずしゅりけんが次々に襲い掛かっていく。

 

「ゲッコウガ!」

 

「っ……アマルルガ、次のは避けて!」

 

 

フラつくアマルルガの頭に着地し、そのまま高く跳び上がると掌を空に向け集中していく。

 

二人の想いが乗り特訓の時ですら見た事がない巨大なみずしゅりけんが出来上がり、そのまま真下にいるアマルルガに向けてそのみずしゅりけんを投げつけてツカサの前に着地していた。

 

「ッ!」

 

「くっ!」

 

巨大なみずしゅりけんを弾こうとするアマルルガだが抑え切れず、直撃してダウンした途端にみずしゅりけんがただの水になり辺り一面水浸しになっている。

 

 

「……一週間前はスタミナ面で負担があったのに、今回はダメージ以外の負担がなくなってる。ゲッコウガ、格好良かったよ」

 

「アマルルガ、お疲れ様でした」

 

二人がポケモンに声をかけてボールに戻す間に審判の指示で排水が行われ、あっという間に乾いて残り二回のバトルも安心して行えるようになっていた。

 

 

「さぁ、ニンフィア出番だ!」

 

「パンプジン、がんばって!」

 

 

「フィア、フィーア!」

 

「あの、ニンフィアさん。真面目にお願いします」

 

パンプジンはボールから出てすぐにフィールドに立ったが、ニンフィアはボールから出ながらツカサに触覚を巻きつけて頬擦りをしに戻っていた。

 

ツカサの事が大好きなのが分かりカルネもほっこりした顔で見ており、審判も同じような顔で見ていた。

 

存分に甘えたニンフィアはフィールドに降り立ち、パンプジンをさっさと片付けてやろうという他のニンフィアとは違った好戦的な顔をしている。

 

「んんっ! ニンフィア、シャドーボール!」

 

「パンプジン、タネばくだんで集中させないように!」

 

髪のような部分で幾つものタネばくだんを投げつけ始めたが……

 

「フィア~♪」

 

ニンフィアは爆発する前のタネばくだんを触覚で器用に掴むと逆にパンプジンに投げ返し始めていた。

 

まさかのニンフィアの行動にパンプジンは焦り必死に逃げ惑っている。

 

 

「うわぁ」

 

「えぇぇ……」

 

流石のカルネもツカサのニンフィアのようなポケモンを見た事がなかったらしく、思わずドン引きしていた。

 

パンプジンが転んだのを見てニンフィアはシャドーボールを放ち、起き上がり追いかけてくるシャドーボールから逃げようとするパンプジンに飛びかかり蹴り倒している。

 

そのままシャドーボールが直撃し、パンプジンの意識を刈り取っていた。

 

「ゲッコウガの活躍が霞むかのような一方的なバトルだったなぁ……」

 

「パンプジン、ニンフィアが苦手にならないといいのだけれど……」

 

 

ニンフィアを戻すと次が最後なんだとツカサは息を呑み、トリを務めるポケモンの入ったボールに手を伸ばした。

 

「ふふ、この子が私の切り札。サーナイト、全力で相手をしましょう!」

 

「リザードン、みんながお前の為に道を切り拓いてくれたぞ。だから見せてやろうぜ!」

 

ボールから出たリザードンはサーナイトを見て咆哮を上げ、いつでも行けるとツカサをチラッと見ている。

 

「最初から全力よ。サーナイト、メガシンカ!」

 

カルネがネックレスに埋め込まれたキーストーンに触れると光が溢れ出し、サーナイトが同じように付けていたネックレスのメガストーンも光を放ち混ざり合っていく。

 

光の繭に包まれたサーナイトが光を吹き飛ばすと、その身を優雅なドレスを纏ったかのような美しい姿へと変えていた。

 

 

「さぁ、ツカサ! 貴方も全力を出して私に全てをぶつけなさい!」

 

「今、俺がこいつと出せる全力を……我が心に応えよ、キーストーン! 進化を超えろ、メガシンカ!」

 

二ヶ月間考えていた決め台詞をここぞという所で使いながらキーストーンに触れている。

 

ツカサのメガリングとリザードンのメガストーンから光が溢れ出し、そのまま腕を高く掲げると光が混ざり合いリザードンが包まれていく。

 

 

互いに通じ合っていても今までメガシンカする事が出来ずリザードンは落ち込んでいたが、この晴れの舞台でツカサの為にメガシンカをしたいという想いが更なる高みへとリザードンを導いていた。

 

自分を愛してくれているツカサの想いを感じながら暖かな光に包まれ、その想いに応えようと考えただけで内から力が溢れ出してくる。

 

暖かな光からも力を吸収し、それが満ちたと思った時には包んでいた光が吹き飛び生まれ変わった姿を見せていた。

 

「メガリザードン!」

 

身体が黒く染まり翼の形状も変化し、尻尾の炎が蒼くなり収まりきらない蒼い炎が口の端から漏れ出ている。

 

………

……

 

『な、なんと挑戦者ツカサはゲッコウガ以外にも切り札を持っていたぁぁぁ!』

 

『あの台詞は流行るでしょう。それと今更ですが彼は生放送されている事に気がついていませんよ』

 

『まさかそんな』

 

『そうじゃないとツカサはあんな派手にゲッコウガを見せたり、メガシンカに台詞を言ったりしませんから。インタビューの時に教えれば顔を真っ赤にして目が泳ぐと思いますよ』

 

『それはそれで私的にはいいと思うので楽しみですね!』

 

『いよいよ決着の時が来ましたね。カロスに新たなチャンピオンが生まれるか、このまま押し負けてしまうか……公平に見れない事を謝罪させてください。がんばれツカサ、君なら勝てるよ』

 

『まさかとは思いますが、ダイゴさんはツカサ君とは……』

 

『ご察しの通り、年の離れた友人ですよ』

 

「ツカサの交友関係も問いたださないと」

 

「サナも一緒にやる!」

 

………

……

 

サーナイトは浮き上がるとフィールドを飛び回りながらシャドーボールを放ちリザードンを狙うも、吐き出された蒼い炎に防がれ逆にだいもんじが襲い掛かられサイコキネシスで防いでいる。

 

ホッとしたサーナイトの頭上からリザードンが高速で襲い掛かり、尾で薙ぎ払い地面に向かって叩き落としていた。

 

地面ギリギリの所でサイコキネシスを使って再び宙に浮き、カルネをチラッと見て頷くのを確認すると空に両手を上げてきあいだまを作り出し、追撃しに追ってきたリザードンに向けて放っていた。

 

そのきあいだまをつばめがえしの代わりに覚えさせていたドラゴンクローで引き裂き、サーナイトに追いつくと右腕で胴体を掴み地面に叩きつけてじしんを起こしている。

 

「次が最後の一撃!」

 

「私のサーナイトが手も足も出せていない……!?」

 

「これが俺達の見せる最高の一撃! フレアドライブ!」

 

「近づけさせたらダメよ! ムーンフォース!」

 

かなりのダメージを受けたサーナイトがフラフラと浮き上がり右手を前に出すと月の光が集まり出している。

 

リザードンは蒼い炎を周囲に大量に吐き出し、そのままそれを自ら纏い始めた。

 

月の光が集まるのとほぼ同時に炎を纏い終わり、それが放たれると同時にリザードンもサーナイトに向かって突っ込んでいった。

 

ぶつかり合い始めは拮抗していたが、受けたダメージが大きすぎたらしく徐々にリザードンが押し始めている。

 

「……成敗!」

 

ツカサの言葉に後押しされ、リザードンはムーンフォースを貫きサーナイトごと壁にぶち当たって止まっていた。

 

「サーナイト!」

 

壁にめり込んだサーナイトのメガシンカが解け、リザードンも反動で受けたダメージが大きくフラフラ着地するとメガシンカが解けていた。

 

よくやってくれたと労うとすぐにリザードンをボールに戻し、カルネもサーナイトをボールに戻していた。

 

 

「勝った……んだよなこれ」

 

「ええ、おめでとう! とてもいいバトルだった……あなたとポケモン達、とても格好良かったわ。プラターヌ博士がきっとあなたが私を倒すからって、時間をかけてミアレシティで色々楽しそうに準備していた気持ちが分かったわ」

 

「準備?」

 

「でもその前にもう少しだけ私にお付き合いくださいます?」

 

「それはもちろん」

 

カルネは手招きをしてツカサと共に乗ってきた昇降機に乗り、更に上の最上階へと向かっていった。

 

 

そのまま乗っていると静かで厳かな雰囲気の部屋に着き、誘われるままに降りて着いていく。

 

「ここが殿堂入りの間。ポケモンとトレーナーを永遠に刻んでおく場所」

 

促されて機械に近づくと六つのモンスターボールを填める穴が開いているのが見える。

 

「ここにセットするんですね」

 

「そうよ。ツカサ君、貴方のポケモンへの思い。貴方の為に力を奮い、戦い抜いたポケモンを記録して永遠のものにしましょう?」

 

「はい!」

 

ゲッコウガ、ファイアロー、リザードン、ニンフィア、ルカリオ、ラプラスと仲間になってくれた順にボールを填めていく。

 

カルネがその場を離れ、最後にちょっとした操作をするとスキャンが始まりモニターにツカサが映し出された。

 

それを囲むようにセットした仲間達が映し出され、無事に登録が完了していた。

 

………

……

 

華々しい勝利から一週間が経過し、雑誌の取材やテレビのインタビューその他多くの事に翻弄されながら過ごしている。

 

数日前に行われたプラターヌが国をも動かして催したパレードとカロスエンブレムの授与には信じられない程の人が集まり、レッドカーペットを歩きながら笑顔で手を振ってみせるだけで皆が黄色い声を上げる程の人気ぶりだった。

 

その場に現れバトルをしてほしいというAZ、それを止めようとする警備員達に知り合いだからと言いバトルを受けていた。

 

そして皆が生で見たがっていたゲッコウガを出し、当たり前のように最初から全力の状態でバトルに挑んでいた。

 

「そんなAZは今、我が家にいるんだよなぁ。しかしリーグのチャンピオン戦が全地方で生放送されてたとかなぁ……」

自宅のベッドで横になりながらボーッとして呟いている。

 

「リーグはこれで来期まで挑戦出来なくなったみたいだし、それまではカルネさんがチャンピオンのままなのはありがたい」

 

「ツカサ、朝食が出来た。早く降りてくるといい」

 

「わかったよAZ、フラエッテ」

 

ツカサはニコニコしながら周囲を飛び回るAZのフラエッテにも答え、欠伸を噛み殺しながら下に降りて行った。

 

 




二年前に途中まで書いて放置、サンムーン発表で途中まで書いて放置、発売直前でやる気出して最後まで書いた。

本当ならここから後日談やら、番外編で劇場アニメXY編とかやりたかったけどサンムーン出ちゃうからおしまい。

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