プラターヌが去って少ししてもまだ疲れと怠さが抜けず、そのまま芝生の上に寝転がる帽子を顔に乗せて少し眠り始めていた。
「んん……あー、よく寝た。まだ昼前みたいだし、プラターヌ博士が言ってた宝物を探してみるか」
ホテルや橋を調べてみたが特に何も見つからず、レンリステーションにも足を運んでみている。
「マダムからとんぼがえりの技マシン貰った。流石にこれじゃないよなぁ……ん? これは」
『これを読んでいる君へ。今どんな風になっていますか? なりたい自分になっていますか? そもそもなりたい自分ってどんな自分ですか? 分からないけれど楽しく生きている。そう胸を張って言えるような毎日だと素晴らしいよね。未来のプラターヌへ、未来を夢見るプラターヌより』
レンリステーションのベンチに書かれていたメッセージを見つけ、これが宝物かな?と思いながら捜索を打ち切っていた。
商店や八百屋で食料を購入し、ちょっとした滝の側のベンチに座りタウンマップでエイセツシティまでの道を確認しながら菓子パンを齧っていた。
皆も早めの昼御飯を食べ、デザートにツカサが定期的に作っている凄い虹色ポロックを楽しんでいた。
「迷わなければ今日中には着けるかな。久々に見かけて思わず買ったけど、メロンパン美味しい。このベチャっとしたクッキー生地じゃない、喉に詰まりそうな感じがいいわ」
ゴミ箱に食べ終えた袋を捨て、まだ怠さの残る身体に気合いを入れながらエイセツシティへと向かって行った。
連絡通路を抜けると最後のジムのあるエイセツシティへ続く十九番道路へと出ている。
「十九番道路、ラルジュ・バレ通りか。俺の順路的に最後のジムへ続く道だな。……リーグに挑戦するには手続きが必要みたいだし、挑戦者の人数次第で結構時間かかるらしいのがなぁ」
手続きに一人につき二週間程かかり、無料で提供される豪華な宿泊施設に泊まって待つ者が多い。
そしていざ挑戦となると天狗になっているトレーナー達の大半が四天王に瞬殺され、勝ち残る事が出来ても四人目までに心が折られてしまう者も多い。
「最後のジムも楽しみだなぁ」
「ツカっちゃん♪」
吊り橋を渡っていると誰かから呼ばれ振り返ってみると、先に行ったと思っていたサナが手を振りながら駆けてきていた。
「サナ? 先に行ったんじゃ……?」
「レンリタウンで待ってたの♪ さーてあたし達、これから何をするのかな?」
「デートかな?」
「あ、それもいいかな。でも残念! 勝負だよ! だってあたし達ポケモントレーナーだもん♪」
今までの旅の時よりもトレーナーとしての腕を上げ、伸び悩んでいた壁を越えたツカサはサナを相手に巧みな指示を出して翻弄し勝利を収めていた。
「やっぱりツカっちゃんすごーい! 友達とのポケモン勝負ってほんとドキドキワクワクしちゃう!」
「生き生きとしたポケモン達の真剣なぶつかり合いは楽しいよね」
「うん! ……メイスイタウンの事を思い出しちゃった! あの時からツカっちゃんは強かったよね。ケロマツのあわでフォッコちゃんがやられちゃって」
「あれからまだ半年も経ってないのにかなり懐かしいなぁ」
「ツカサさん、サナさん!」
しみじみと思い返しているとまた誰かが名前を呼びながら走ってくる姿が見えた。
「トロバにティエルノまでレンリタウンにいたのか」
「それで二人で何してたの?」
「何でもないよ。二人は何しに来たの?」
サナは息を切らせながら走って来た二人に不思議そうに尋ねていた。
「サナさんと同じです。博士にツカサさんの事を聞いて必死に走ってきたんです」
「ツカっちゃん! いきなりで申し訳ないんだけどポケモン勝負してくれる?」
「うん、いいよ。さぁ、やろうか!」
ツカサの冴え渡る指示にティエルノも翻弄され、ダンスを交えたバトルスタイルも見切りあっさりと全てのポケモンをダウンさせていた。
「ツカっちゃんになら負けてもそんなに落ち込まないのは不思議だねえ」
「しかしティエルノから勝負を挑んでくるなんて珍しいな」
「セキタイで思ったんだ。ツカっちゃんの事をもっと知りたいって、それにはやっぱり勝負だよねって」
「ティエルノさん、僕達トレーナーは勝負をする事で相手やポケモンの心に触れる事が出来たらいいですね。その前にポケモンを元気にしてあげないと」
そう言うとトロバがサナとティエルノのポケモンを薬等で元気にさせていた。
「よし、次はツカサさん! そしてこの流れで勝負してもらいます」
「おっ、また図鑑?」
「今回は図鑑ではなくポケモン勝負です! 僕もツカサさんの事が知りたいですから!」
サナとティエルノとの二連戦で僅かに負った傷を癒してからトロバとのポケモンバトルを始めた。
これはプレゼント代わりといきなりメガルカリオを呼び出し、トロバを相手に息の合ったコンビプレイでサクッと倒している。
「おみそれしました! それにメガルカリオまで出してもらえるなんて!」
「ルカリオ、お疲れ様」
「ふぅ……だけど僕の何が足りないのでしょう?」
「強い弱いを気にするなんて、トロバひかえめじゃなくなったね♪ ……ってセレナは?」
「そういや居ないな……あの子が一番に挑んできそうなのに」
ツカサはセレナが一番に挑んで来なかった事を不思議に思い、周囲を思わず見回していた。
「メガシンカおやじさんと修行だよ。いつも一緒に居なくても友達だからって」
「では僕達やる事がありますからここで」
そう言うとトロバとティエルノは去って行ったが、サナだけは足を止めて深呼吸をしたかと思うと背を向けたまま話し始めた。
「サナ、旅に出てよかった! みんなと仲良くなれたし、あの時に巡り合ったフォッコちゃんのお陰で色んな所に行けて、沢山の人と出会えて素敵な思い出が作れたもん♪」
「サナ……旅に出て成長したんだな」
「ツカっちゃん、これあたし達から。エイセツシティのジムでもらえるジムバッジで、戦っていなくてもたきのぼりが出来るようになるよ!」
サナはくるりと振り返るとツカサに近づき、秘伝マシン5であるたきのぼりを手渡していた。
「ありがとう。すぐに手に入れてたきのぼりを使うわ」
「えへへ……じゃね! ばいばーい!」
「またね……妹がいたらあんな感じだったのかな。マサラタウンにいる従妹はここ数年会ってないしなぁ」
走り去るサナを見送り、独り言を呟きながらエイセツシティへと急ぎ始めた。
………
……
…
「連絡通路を抜けると雪国だった……マジかこれ」
エイセツシティに入ると雪に覆われており、街中には当然のようにユキノオー達が闊歩してあたる姿が見える。
ユキノオー達はどうやら除雪をしているらしく、ポケモンセンターの近くには多くのユキノオーが定期的に集まっては雪を退けていた。
「サンドパンとコータスを預けたら久しぶりに普通のポケモンじゃ!って騒いでたなぁ……。ジム行ったらジムリーダーは今不在で迷いの森だから、行ってみたらどう?って言われるし」
ポケモンセンターで部屋を借りてジムに挑みに行くとそう言われたらしく、仕方がないと街外れから行く事の出来る迷いの森へと向かっていた。
森に入るとまだ明るい時間帯なのに薄暗く、少々不気味だなと思いながらウロウロしている。
「迷いの森、二十番道路だったんだ……プリンとかサナが好きそう。捕まえておいて、今度交換してあげようかな」
それからプリンを捕まえて迷いに迷った末に森の出口と思われる光が見え、やっと出られると足早にその光へと向かって行った。
森を抜けると花畑があり、髭でふくよかな男性が野生のポケモン達と何かをしていた。
近づくと逃げてしまい男性に話を聞くと、ここはナイショのポケモン村だと教えてくれている。
悪い奴等に酷い目に遭わされたり、心ないトレーナーから逃げ出したポケモンの集まりだとも。
その男性はツカサが優しいトレーナーであると見抜き、ポケモン達に声を掛けると恐る恐る集まって来ていた。
「フィア!」
「うん、自由過ぎる」
ボールから出てきたニンフィアが近づいて来たポケモン達の元に向かい、本来の使い方である触覚で癒しを与えて早速仲良くなっている。
「ほう、お前さんのニンフィアはキラキラして見えるな」
「毎食ご飯以外にポロックを食べてるからだと思いますよ」
ニンフィアが仲良くなって話をしている姿を見ながら男性から話の続きを聞いたり、ツカサ自身の話をしたりしていた。
「ツカサはいいトレーナーだな。おっと自己紹介を忘れていた。俺の名前はウルップ、エイセツシティのジムリーダーだ」
「やっぱりそうでしたか」
「お前さんの挑戦待ってるぞ。その前にこいつらと触れ合ってみるのもいいよな」
「はい。また後でジムの方へ伺います」
去って行くウルップを見送るとボールから他の手持ちの者達を全て出し、それぞれ交流させてその光景を座って眺めていた。
「むみゃあ」
「おや、ニャスパー。俺が怖くないのかな?」
「!」
ニンフィアと楽しく話をして興味を持ったらしく、ツカサに恐る恐る近づき膝の上へ来るとそのまま座り身体を預けている。
そんなニャスパーの頭を優しく撫で、エイセツシティとは違って過ごしやすい陽気の中でウトウトしていた。
撫でながら目を閉じると近づいてくる多数の気配を感じ、そっと開いてみるとトリミアンやヤヤコマ達が傍に来ている。
「ちょっと昼寝を……な、なんだ!?」
「みゃ」
「ん? 落ち着けって?」
「みゃあ」
「ゴン!」
ニャスパーとそんなやり取りをしていると、どこからかカビゴンが現れジーッとツカサを見ていた。
「なんだ地震じゃなくてお前だったのか」
「ゴン!」
「うおっ!」
そのままツカサの隣に来るとズシンと勢いよく座り、スッとオレンの実を差し出してきていた。
「ありがとう。……美味しい」
「……フィア!」
「あー、はいはい。あーん」
オレンの実をハンカチで軽く磨くと皮を剥かずに齧り、その素晴らしい味を楽しんでいた。
そしてカビゴンや他の野生のポケモン達と一緒に齧っていると、ニンフィアがツカサの食べかけに反応して目の前をピョンピョンし始めた。
皆から完全に受け入れられたツカサはカビゴンの腕を枕に昼寝を始め、皆も同じように集まり昼寝を始めている。
………
……
…
「エイセツシティに戻ろうとしたら、めっちゃ引き止められた。また来るからって約束しなかったら帰らせてくれなかっただろうなぁ……ウルップさんと約束したし、まだギリギリ明るいからジムに挑まないと」
中に入ると壁が氷で覆われており、ジムの中も外に負けず劣らず寒くて仕方がなかった。
銀盤の女王を名乗ったエリートトレーナーを倒し、あからさまに置かれたスイッチを踏むと一部の床が回転し始めた。
それを見て思いついたらしく何度かスイッチを踏み、反対側に居る男のエリートトレーナーがいる場所に行けるように回転させていた。
それからは同じようにトレーナー達を倒しては床を回転させ、ウルップへ辿り着く為の道をしっかりと作っていた。
そして
「おっ、来たか。あいつらに随分気に入られたみたいだな。……氷ってのは堅く、そして脆いもんだよ。だがそれがいいんだよ。まぁ、お前さん相手に能書きはいいか。ほら、ポケモンだそうや!」
「よろしくお願いします!」
少し後ろに下がるとボールを手に構え、二人同時にフィールドに向かって投げていた。
「ユキノオー、よろしく頼むわ」
「ルカリオ、最後のジムリーダー相手もよろしく!」
「ゆひょお!」
「クァン!」
ユキノオーの特性で雪が降り始め、その中で二体は対峙してトレーナーからの指示を待っていた。
「ルカリオ、メガシンカ! そしてはどうだん!」
「ほう、メガシンカ! あのお嬢ちゃん達以外に使う者が現れたか。ユキノオー、ふぶき!」
光の繭に包まれルカリオの姿が変わると両手を腰の右下に持って行き、目に見える形で波導が練られていく。
ユキノオーはその隙を逃すまいとふぶきを起こすが素早い動きで背後に跳ばれ、背後のルカリオへ振り向くと同時にはどうだんが放たれ吹き飛ばされていた。
「うわ、予想外の威力……」
「流石にあれを貰ったらダメだな。次はこいつだ、フリージオ!」
ルカリオはゲッコウガがツカサとの絆により変化した姿をボールから見ていたらしく、自分も負けていられないと気合が入っていた。
そして吹き飛ばされて倒れ伏したユキノオーが回収され、フリージオが現れる間にも波導を練り続けている。
「相性は良い、このままもう一度はどうだんだ!」
「避け……! られないわな」
指示と同時に放たれたはどうだんがフリージオのど真ん中に直撃し、地面を何度かバウンドしながら吹き飛び滑って壁にぶつかり止まっていた。
「いつもより調子がいいな」
「うむ、纏う波導がそこらのルカリオとは大違いだ。そしてこれが最後のポケモン、クレベース!」
「ルカリオ、最後までよろしく頼む」
ウルップが最後に出した氷で出来た亀のようなポケモンであり、かなり重そうな見た目をしていた。
「ルカリオ、インファイト!」
「ほう、構えも変わるのか。クレベース、受け切ってみせな!」
波導を纏い守りを捨てた構えを取ったルカリオが跳び、縦に回転しながらクレベースの背中に踵落としを叩き込んだ。
苦しみながらも耐えるクレベースの胴体を蹴り上げて宙に浮かし、渾身の右ストレートで巨体を吹き飛ばしていた。
クレベースは白目を剥いて気絶し、ウルップの前でピクピクしている。
「クレベース、あの一撃だけでも耐えたのは凄かった……硬い氷を砕きやがったな! お見事だよ!」
「勝った……」
「お前さんのポケモン、本当にお前さんが好きなんだな。ポケモンがあんな動きをする事が出来るのも、お前さんの事を信じて愛しているからだよ」
「相思相愛ってやつですね」
「さぁ、これがお前さんにとって最後であって始まりのバッジ、アイスバーグバッジだよ」
「え? 始まり……?」
「お前さんなら当然ポケモンリーグに挑戦するだろう? だからこれが始まりだよ」
バッジを八つまで集めても多数のトレーナーのように驕らず、ポケモンを愛し愛されるツカサに期待をしていた。
「そうでした。そっか、俺はやっと挑めるんだなぁ……」
「おめでとう。それとこの技マシンだよ」
「れいとうビーム……ありがとうございます!」
「堅いものは強いが脆い、しなやかさがいいんだよ。水のように器に合わせ形を変えても、本質は変えない。俺はそれが出来ないから、こおりタイプを愛してるんだよ」
「なるほど……それでは失礼します」
技マシンをしまうと頭を下げ、本日宿泊予定のポケモンセンターにウキウキしながら向かっていった。