ポケットモンスターXY 道中記   作:鐘ノ音

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ドクターとして

十四番道路へ向かう連絡通路を通り、十四番道路であるクノエ林道に出るとトロバとセレナが既に来ていた。

 

そしてセレナと久々に勝負をしたが、デュークになる程に戦い続けたツカサが負けるはずもなく圧勝で終わっている。

 

「ツカサとの勝負は楽しいけど、負けてばかりじゃよくないわね……」

 

「ふむ」

 

 

悩むセレナに何か助言しようと口を開こうとしたが、誰かが走って近づいてきたので止めている。

 

「ねえねえ! 二人とも凄い迫力だったね♪」

 

「もうサナったら……いつから見てたの?」

 

「バトル中にちょっと視線は感じてたな」

 

「で、ティエるんは?」

 

「格闘道場ですよ」

 

「へ? 格闘道場……?」

 

「みんなごめんよー。組手ダンスに夢中で遅くなっちゃったー!」

 

 

ようやくティエルノが合流して和気藹々とした空気になり、それぞれが話をして久々の集まりを楽しんでいた。

 

「それでティエルノ、いいポケモンと出会えたの?」

 

「うん、そうなんだ! 理想のダンスチームに近づいてるよ」

 

「凄いね、良かったね! ねえねえ、みんな。サナ、怖い家に行きたいの!」

 

「クノエシティ近くの……? あれってただの噂ですよね」

 

「それよりも俺がシンオウであったガチ怖い話をだな」

妙な宿屋でダークライと遭遇したり、森の洋館で恐ろしい目に遭ったりとオカルトにも精通している。

 

「ねっねっ! みんなで噂かどうか確かめようよ!」

 

「どうせ噂だし、アタシはパス。クノエシティに行く前にポケモンと向き合っておきたいし。……ツカサ」

 

「うん?」

 

「……」

名前を呼んでからやたら熱く見つめ、そのまま何も言わず行ってしまった。

 

「……え? 何? まだ怖い家に行ってないのに既に俺だけ怖いんだけど?」

 

「あっ、ばいばーい! で……怖いの……?」

 

「ティエルノさん、確かめに行きますよ。噂には何かしら理由がありますからね!」

 

 

そしてトロバとティエルノが立ち去り、サナとツカサだけが残っている。

 

「はぁ……ツカサは何で旅してるの? みんなやりたい事をがんばってるのに、サナってば思い出づくり!って何となく旅しちゃってるもん」

 

「考えた事もなかったな。カロスを見て回りながら、ジム巡りがメインだけど」

 

「なーんてね♪ ツカサの旅する理由が聞けてよかった♪」

 

サナもそのまま皆の後を追っていき、その誤魔化しきれていない悩みを抱えた背を見送ってからツカサも進み始めた。

 

 

林道を歩いていくと浅い沼があり、こんな時の為に用意してきた長靴や水に入る為の服を鞄から出して準備している。

 

「よし、後は……」

 

「ヌメー」

 

「おぉ、サンキュー……え?」

 

「ヌメ……」

 

「めっちゃひかえめな野生のポケモンが長靴を取ってくれた件。……手持ちには入れられないけど仲間になる?」

顔しかないが可愛いポケモンの控えめな仕草にキュンと来て尋ねている。

 

「……」

コクリと頷き、そわそわツカサの回りを動き始めた。

 

「ほい」

 

長靴を履き終えると彷徨くポケモンにモンスターボールを宛て、捕獲してパソコンに転送されていくのを見送っている。

 

そのまま図鑑を確認してそれがヌメラという名前なのを知り、旅を終えたら触れ合おうて決めていた。

 

 

そのまま泥濘に足をとられたりしながら進み、トレーナーとも戦いながら歩いているとサナが手招きする姿が見えた。

 

「こっちこっち! ここが噂の……」

 

「怖い家ですね。では入るとしましょう」

 

「ええ!? 入るの!? みんな本気!?」

ティエルノが怯えながら平然とする三人に尋ねていた。

 

「まぁ……俺はサナが入るなら」

 

「噂はその眼で確かめるのが一番ですから」

 

「そっかあ! じゃあ、あたし達だけで入りましょ!」

 

………

……

 

怖い家から出てきたツカサは溜め息を吐きながら呟いていた。

 

「はぁ……怖い話を聞かされて金を取られただけだったな」

 

「……はああ。ある意味本当に怖い家だったよ」

 

「ま、サナさんのしたかったキャンプの代わりになりましたね。ほらキャンプって怖い話をしますから」

 

「暗いのとか怖いのとか、ぼくはもうこりごり……ダンスの練習がいいよ。じゃあみんな、またねえ!」

 

「ツカサさん、また図鑑比べをしてください」

 

そう言ってトロバとティエルノが去り、またサナと二人だけになっていた。

 

「次どうしよっか? やっぱりクノエシティかなー♪」

 

「樹齢千五百年の不思議な大木があるのか……それは是非見ておきたい。サナ、お先に失礼」

 

そう言い残し、夕方になる前に着けるといいなと考えながらクノエシティに向かい始めた。

 

 

 

日も落ち始めた頃にクノエシティに着き、ポケモンセンター近くの看板を眺めている。

 

「『クノエシティ ちょっぴり不思議の街』。まだ時間あるし、軽く見て回ってからポケモンセンターに行こう」

 

 

巨木にジムが作られている街を見て回っていると、オカルトマニアの女性が悩んでいたので話しかけていた。

 

するとツカサなら使いこなせるだろうとゲンガナイトを戴き……

 

「ねえ……あなた……どうやってゲンガーを手に入れたの? まさか……そんなッ……! ポケモンを交換してくれるお友達がいるの!!」

 

「あの、何なら俺と交換しますか……? それでゲンガーに進化したら返しますので」

 

「い、いいの? お願い!」

 

「はい、それじゃあ……」

 

 

無事ゲンガーに進化したのが嬉しくて仕方がない女性に別れを告げ、そのままポケモンセンターに向かっていく。

 

部屋を借りて中に入り鍵をかけ、荷物を置いたり着替えたりしてからベッドに横になった。

 

「オカルトマニアの女性は総じて容姿に無頓着っぽいから困る。……さっきの人も結構美人で胸も大きくて、ゲンガーになったって喜びのあまりに抱きついてきた時はもうたまらんかったなぁ」

 

 

それから二時間程経過し、夕飯も食べ終えのんびりアイスコーヒーを飲んでいる。

 

するとセンターの者達があちこち動き焦りながら連絡している姿が目につき、その騒ぎの元に向かうと激しい裂傷や千切れかけた尻尾のピカチュウの傍で泣き叫ぶ女の子と両親が悲痛な面持ちで立っていた。

 

「あれは酷いな……すぐに手術しないと」

 

「この街には常駐しているドクターが居ないんですって……ミアレや大きい街から来てもらわないといけないとかで、さっきからスタッフが走り回ってるわ」

 

野次馬になっているトレーナー達も薬等ではどうにも出来ない状態で痛々しい様子のピカチュウを見て顔を歪めている。

 

 

「ごめんなさい、通してください……はい、ちょっと通してください」

これは仕方がないとツカサは野次馬達を掻き分け、酷い様子のピカチュウの傍に近づいていく。

 

 

「ピカちゃん、しんじゃやだぁぁぁ!!」

 

「ピ…カ……」

 

「はい、お嬢ちゃん大丈夫だからねー。ピカチュウ、お腹の中は痛い? 少し触るけど痛かったら声を出してね」

 

裂傷には出来るだけ触れないように触診し、痛いと声を上げた場所で内側も少しやられている事が分かって早く手術をしないと不味いと焦っている。

 

基本的に手術をしないポケモンの手術もハザマと呼ばれた闇医者にみっちりと仕込まれており、ツカサはこの若さでドクターとしても十分優秀な存在だった。

 

 

「あなた、勝手に何を!」

 

「俺は旅の途中のドクターです、とにかく手術の準備をお願いします。早くしないと手遅れになりますから」

 

触診をしたり女の子の両親に手術をする事への同意書にサインをしてもらっている最中にようやくジョーイさん達が現れていた。

 

責めるように行ってくるのを見越してドクターの免許を見せて準備をするように言っている。

 

 

「これ、本物……! この若さで!?」

 

「タブンネ、助手に入ってくれそうな人と麻酔を使える人を集めて。ハピナスはラッキーと今から言う道具を準備、ジョーイさんも立ち会ってください」

 

「タブンネ!」

 

ツカサの指示で皆がそれぞれ動き出し……

 

 

 

 

深刻な状態だったピカチュウの手術は深夜まで続き、親子も廊下に並べられた椅子で祈りながら待っている。

 

女の子は泣き疲れ、ツカサに渡された秘密基地用のピカチュウドールを抱き締めて寝ていた。

 

「あなた……!」

 

「……!」

 

 

そして遂に手術中のランプが消え、手術衣を着たままのツカサが自動扉を開けて出てきた。

 

「ふぅ……」

 

「先生、あの子は大丈夫なんですか!」

 

「お前、時間も時間なんだ、もう少し静かにしなさい」

 

「ええ、無事に成功しましたよ。それでも裂傷による傷痕は深いので残ってしまいます。しばらくはセンターに入院、退院後もバトルは担当の者が許可を出すまでは控えてください」

かなり疲れながらも待っていた家族への説明をしている。

 

遊び歩いていたと思われていた期間の積み重ねが活き、勧誘が鬱陶しくなり凄腕の闇医者に師事していた時期の成果も現れていた。

 

 

「ありがとうございます! 本当に……!」

 

「……先生はご立派ですね。正直他のドクターもいない状態で、こんなに若いドクターという事で私は諦めていたんです」

 

「あはは……まぁ、そうなりますよね。しっかりした腕と知識があれば子供でもなれますし、ポケモンドクターでの外科はかなり少ないですし」

基本的に儲からないという点もポケモンドクターの人気がない理由の一つ。

 

「先生もお疲れでしょうから、後日改めてお礼と手術代の支払いをしに来ますので」

 

「あはは、ありがとうございます。それでは俺はこれで」

 

………

……

 

翌朝は眠い目を擦りながら着替え、軽めの朝食を取っている。

 

「なぁ、あの人……」

 

「あ、昨日の……」

 

「昨日のピカチュウどうなったのかな……」

 

昨晩の立ち回りを見ていたらしい者達のヒソヒソと話す声があちこちから聞こえてきていた。

 

 

「……」

クロワッサンを持ち食べながらスースー眠り始めている。

 

 

「……あれ食べながら寝てないか?」

 

「……ねぇ、誰か起こしてあげなさいよ」

 

「さっきジョーイさんに聞いたんだけど、あの年で手術も凄い腕だったらしいよ」

 

「それなら新進気鋭のスーパードクターの寝顔を撮影しておこーっと」

 

 

眠り続けるツカサに何人かのトレーナーが近づき、口元にスティックタイプのお菓子を持っていくと食べるので面白がられてたくさん食べさせられている。

 

そしてタブンネに起こされ、まだ全然食べていないのにお腹いっぱいなのを不思議そうにしながら残りを食べ終えていた。

 

 

荷物を持って預けたボールを受け取りに行くと、すれ違うスタッフ全員が向こうから挨拶をしてきてムズムズしている。

 

「ツカサ先生、おはようございますっ!」

 

「あ、おはようございます」

 

「先生のポケモン、みんな元気になっていますよ!」

 

「ありがとうございます。それじゃあ、これで」

 

「あっ、まだあのご家族……」

 

昨日とは違い目をキラキラさせた何女か謎なジョーイさんからボールを受け取り、さっさとポケモンセンターを後にしていた。

 

予定がズレてしまったがジムに挑もうと巨木の前へと歩を進めていく。

 

「何のジムだろう……窓からめっちゃ見てくる人もいるし。あの振り袖的な服はちょっと見ててドキドキする」

 

 

中に入るとキラキラした部屋に出迎えられ、更にワープゾーンもあり少々骨が折れそうだと思っている。

 

ドールハウスのようだと思いながらワープを繰り返しており、トレーナーも女性しかいないのに気がつき落ち着かなくなりそわそわしていた。

 

そして幾度かのワープを抜けジムリーダーの元に到着している。

 

 

「あらトレーナーさん。ひゅんひゅんワープしながらここまで来はったんね。ほな、はじめましょか」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「うちはマーシュ。使うんはフェアリータイプ、うちのポケモン達ふんわりはんなり強いんよ」

 

「はい……」

疲れが完全に取れていないからか、また眠くなり始めていた。

 

 

クチートにバリヤードと出してきたが、ウトウトしながらモニョモニョ指示を出しているがラプラスは理解して軽く倒している。

 

そして相手が最後にニンフィアを出し、それを見て眼が冴えラプラスに指示を出そうとしたがいきなりこちらのニンフィアが勝手にボールから飛び出してしまった。

 

「あら? うちと同じニンフィア?」

 

「いや、ニンフィアが勝手に……仕方ない。ラプラス、戻って。ニンフィア先生、まさか対抗心ですか?」

 

「フィア!」

 

 

ツカサのニンフィアによるムーンフォースの直撃を受け、吹き飛びながらもマジカルシャインでカウンター。

 

だがマジカルシャインは掠るだけでダメージは全くと言っていい程なく、寧ろそれで闘志に火が点き触覚でペシペシ地面を叩き始めていた。

 

 

「……トレーナーさんのニンフィア、ほんまにニンフィア?」

 

「そのはずなんですけど……」

 

 

「フーッ!」

 

「!」

 

まさかの威嚇をされてマーシュのニンフィアはビクッと怯えていた。

 

触覚の正しい使い方もツカサにしかやらず、寧ろ普段は便利な手足のように使っている。

 

 

「このニンフィアについて掲示板で相談しても、誰も信じてくれないんですよね……」

 

「うちもこんなのはじめて……」

 

「……何だろう今の発言にヒヤッと。ニンフィア、おんがえし!」

 

「!」

チラッとツカサを見て可愛らしくウインクをし、相手のニンフィアを恐ろしい顔で睨み付けた。

 

 

「えっと、あれがニン……フィア……?」

マーシュはもう現実逃避をしてしまいたい気持ちでいっぱいである。

 

 

そしてステップを踏むような動きで高速で迫り、そのまま全身でぶつかっていく。

 

その気合いの入った一撃でダウンし、マーシュの足元で目を回して倒れている。

 

 

「はい、お疲れ様」

 

「あんな……明日晴れやったらそれだけで笑顔になれるのにねえ」

 

「あ、あの?」

 

「ほんまお見事やわ。ほなこれ、フェアリーバッジいいますねん。ほんま綺麗なバッジ……………………ああ、堪忍。見惚れてて渡すん忘れてた……」

 

「これが六つ目のバッジか」

 

「あとこれ、この技マシン。うちからの贈り物やさかい、大事につこおてな」

 

「えっと、これは?」

 

「あー、どないしよ? その技マシンやけど、どんな技か忘れてん。堪忍してな?」

 

「あ、はーい……」

 

「うちのファッションちょっと不思議やろ? ポケモンになりとうて自分でデザインしてるんよ。でもね、ポケモンと気持ちが重なりあうのってポケモン勝負で追い込まれた時なんよ。あれっていったいなんやろね……あっ、ええっ? ううん、なんでもないんよ」

 

「バトルで負けたくないって気持ちが一つになるからだと思いますけど……それでは」

 

………

……

 

「ツカっちゃん!」

 

「ん? おお、サナとトロバ」

 

「おー! フェアリーバッジ、きらきらして可愛い♪ あのね、ボール工場を見学するんだけどツカサもおいでよ♪」

 

「ボールに興味あります! 言い換えれば興味津々です!!」

 

「あ、ニンフィア先輩こいつボールに興味あるとか言い出しましたよ。やっぱ好きなんすねぇ」

 

サナとトロバが走り去る背を見ながらそんな事を呟いていた。

 

 

少し気になりボール工場見学の前に、昨日のピカチュウの様子を見にポケモンセンターへ向かった。

 

「だけど何があったらあんな酷い怪我を……うおっ!?」

 

「〜!!」

 

「……えっ、何が起きたの? どうして俺に金髪の幼女が抱きついてるの? 妹が欲しかった俺の願望が現実になったの?」

 

ポケモンセンターに入り受け付けに向かう途中、いきなり横から幼女が抱きついてきてパニックになっている。

 

 

「ああ、よかった!!」

 

「まだ街におられてよかった。昨日のお礼とこれを返しに来たんですが、もう出てしまったと聞きまして」

 

昨日の両親が高そうな菓子折りとピカチュウのポケドールを持って待っており、ツカサに話しかけながら近づいてきた。

 

 

「あなた方は昨日の……って事はこの子はあの時の?」

 

「はい。それと我が家のピカチュウ、まだ眠っていましたが穏やかな表情でした」

 

「これを是非受け取ってください。ジョーイさんに聞きましたが所属していない先生自身には報酬はない、と。今朝ミアレで購入したチョコの詰め合わせになってしまうのですが……」

 

「わぁ、チョコ大好きなんで嬉しいです。それとそのポケドールはお嬢さんにプレゼントしますよ。たまたま鞄に入っていた物ですし、俺には必要ないですから」

 

まだ脚に抱きついている幼女の頭を無意識に優しく撫で、両親にそう告げている。

 

幼女は撫でられるのが嬉しいのか、頭を更に脚に押し付けもっと撫でろと行動で要求していた。

 

 

「本当に何から何まで……ありがとうございました」

 

「ほら、レイナ。先生もお忙しいんだから離れなさい」

 

「やっ! まだピカちゃんを助けてくれたお兄ちゃんといるの!」

 

「あはは……」

 

そのまましばらく幼女に抱きつかれ頭を撫でながら世間話をし、心地好くなりウトウトし始めたのを見計らって別れを告げボール工場へ向かっていった。

 

 

 

急いで向かうと工場前にサナとトロバが待っていて、慌てて駆け寄っていく。

 

「え? 工場に入れてもらえない?」

 

「あたしもう一度お話ししてくる!」

 

「ちょっと! サナさん!」

 

「また置いてかれて寂しい……さっきの幼女のレイナちゃんの温もりを知ってしまっただけに余計に」

 

 

独り言を呟いていると何か気配を感じ横を見るといつのまにかセレナがおり、ビクッとして後ずさっていた。

 

「あれれ? 今サナぴょんとトロバっちが走っていかなかった?」

 

「よかった、ティエルノもいた」

 

「待ち合わせをしたのにどうしたっていうの……?」

 

「分からんけど中に入れてもらえないんだって」

 

 

そう簡単に説明しているとサナとトロバが工場の方からフレア団の下っ端に追われ、ツカサ達の脇を通って逃げていった。

 

「フレア団……? 何か起きているのかも。今の内に中を調べましょ」

 

「ぼくは二人を追いかけるからねえ! 工場は二人に任せたよお!」

 

「何かあると危ないしセレナは後からな。だから俺が先に……イクゾ!」

 

やたらかっこいいBGMが流れたような気になりながら先行して工場内に突入し、フレア団の下っ端を見つけ戦おうとボールに手をかけたが……

 

「ここはアタシが引き受ける! ツカサは先に行って!」

 

「やだ、かっこいい……わかった、任せるよ」

そう言うとフレア団の下っ端の横をスッと通り、先へと歩を進めていた。

 

「なっ、グラエナ!」

 

「アタシが相手って言ったでしょ!」

 

奥へ進ませないようツカサへ仕掛けようとしたグラエナの前には、セレナのアブソルが立ちはだかっていた。

 

 

そしてツカサはコンベアで流されたり、フレア団を倒したりしながら奥へと進んでいく。

 

「マサラに居た頃はオーキド博士が何度もトレーナーよりポケモンを研究して博士にならないかって言ってきてたなぁ……何でコンベアに乗りながらこんな事を思い出してるんだろう」

降りれそうな場所まで長く、ぼんやりしながら運ばれている。

 

 

オーキド研究所の面々だけはドクターでブリーダーでもあるのを知っており、併設された施設で体調管理や世話をよくしていた。

 

旅の途中で共に大変な目に遭ってヒカリが怯えてしまい、眠気と必死に戦いながら捕まえたダークライ。

 

遺伝子の楔で二体のポケモンを一つにするという話を聞いたメイがツカサに捕まえさせたキュレム。

 

その二体以外にも研究所の併設された施設でのんびり過ごしているが、ツカサやオーキド博士以外は伝説や幻と呼ばれる存在を恐れて近づこうとすらしない。

 

 

そんな風に闇医者の所と研究所を一日置きに行き来する生活が遊んでいるようにも見えていたらしく、一部マサラの住人からは穀潰し扱いをされていたのをツカサは知らなかった。

 

 

最後の部屋には社長らしき人の姿と幹部のようなフレア団の女性が一人、発電所で戦った科学者のような女性二人が何かを話している。

 

「あんたさフレア団の為に働きなさい。そうすればいちいちあたし達がボールを運ばなくて済むもの」

 

「それともお金を払ってフレア団のメンバーになるとか。五百万円くらい楽勝でしょ?」

 

「君達フレア団は何を考えているのだ! モンスターボール独占なんか私は許さないぞ!」

 

「いいじゃない、そんな人放っておけば」

 

「そうね。他の人が使えないよう爆破しちゃいましょう」

 

「……はぁ」

話を聞いていたツカサはやはりフレア団は屑の集まりだと思い、今後も全力で叩き潰す事を決めていた。

 

 

溜め息で気がついたらしく、フレア団の三人は振り向きツカサを見ている。

 

「あらあら侵入者」

 

「侵入者はお前達だろ! おお! 君! 助けてくれ!」

 

「あらあら社長さん必死ね。仕方ない、あたしが希望をぷちっと潰しちゃう。昨日のピカチュウみたいにね」

 

「ああ……そっか。もう謝っても許さねーぞ、この屑野郎!!」

 

 

幹部の女の発言で全てが繋がりブチギレ状態になったツカサは一方的な蹂躙を行い、力の差を思い知らせていた。

 

「なっ、何よ! 冴えない社長の為に真剣にならないでよ!」

強気に見えるがツカサの圧倒的な強さと、ゴミを見るような目に腰が引けている。

 

「ヤダー! 幹部なのにダサーい! いいわよ! 後片付けはあたし達科学者コンビで」

 

「2VS1でやっつけましょ。勝てる確率はあげないと」

 

 

そう言って二人はボールを手にダブルバトルを挑もうとするが、ツカサの余裕の笑みを不思議そうに見ている。

 

「そいつはどうかな?」

 

「それはどうかしら? 遅くなってごめんなさい」

 

「セレナ、ナイスタイミング。これで2VS2だな」

そのままセレナが隣に並び、ボールを手にフレア団と対峙する形を取ってあた。

 

 

「まだいたの?」

 

「関係ないけどね、子供が一人でも二人でも。あたし達のコンビネーションなら更に勝利の確率アップ」

 

「科学者っぽいけど計算苦手なの? ツカサ、一緒に戦おう」

 

「ああ、その為に待ってたんだ」

 

「いくよ」

以心伝心で同じタイミングでボールを手にし、同じ投げ方でボールを投げてポケモンを出していた。

 

 

デュークに上り詰める程でかつての強さを取り戻し今も成長しているツカサと、日々強くなっていくセレナの前ではフレア団も鎧袖一触だった。

 

「ヤダー! あたし達ダサいわね」

 

「確率はあくまでも確率。絶対ではないのよね……」

 

「やっぱ大した事ないな」

 

「フレア団が弱いんじゃなくて私達が強いの……?」

セレナは隣の存在がズバ抜けすぎている為か、自分が強くなっている実感が持てないらしい。

 

 

「ヤダー! 残念、敗れちゃった」

 

「ああもう! モンスターボールもスーパーボールもハイパーボールも奪ったし、ここは引き上げます!」

 

「逃がすと思ってんの?」

ツカサは拳をバキバキ鳴らしながら逃がさないと鋭い目で睨んでいる。

 

「科学者!」

 

「煙幕発射!」

 

 

その言葉と共に視界が真っ白になり、走ってくる音が聞こえていた。

 

「くっ……! セレナ、俺から離れるなよ!」

 

「え? きゃっ!」

 

真っ白な視界で自身やセレナに対する不意打ちや抵抗を恐れ、咄嗟にセレナの腕を掴んで引き寄せている。

 

走り去る音が完全に消え、視界も戻るまでそのまま動かないで警戒していた。

 

 

「……何とかなったか」

 

「つ、ツカサ?」

 

「あ、ごめん」

赤くなっているセレナに謝りながら離れている。

 

「……」

頬に手をあて恥ずかしそうにしている姿は、年相応の女の子そのものだった。

 

 

「……んんっ! 君達のお陰で助かったよ! 君達は若いのに素晴らしいポケモントレーナーだ! よーし! お礼をしよう。マスターボールとでかいきんのたま、どちらか好きな方を選ぶのだ」

 

「つ、ツカサから選んでいいわよ?」

 

「え? あー……じゃあマスターボールで」

使い勝手のいい非売品を選択していた。

 

「お礼のお礼だ。選ばなかった方もあげよう! もちろん君にもね!」

 

「あっ、ありがとうございます……でもいいんですか?」

 

「君達なら正しく使える! そんな気がするからね、あんなフレア団と違って。言っておくがでかいきんのたまの使い方は私も知らないよ。それにしても……フレア団め、ボールを独占して何を企んでいるのだ?」

 

「モンスターボールを奪ったという事はポケモンを集めて何かを企んでいるって事じゃない? 聞いたけど発電所もフレア団の仕業なんでしょ? ポケモン……電気……目的は何?」

 

「うーん、嫌な予感がする……」

様々な組織と戦ってきたツカサの経験が悪い方で働いている。

 

 

そのままセレナと共に工場を出ようとすると外に居た三人が入ってきていた。

 

「ねえねえ今更だけど見学しても大丈夫?」

 

「ううん……フレア団のせいで……それどころじゃないの」

 

「フレア団? 聞いたことあるかも……」

 

「もしかしてですが、さっきの赤いスーツ……?」

 

「そうよトロバ、フレア団は…………」

 

「みんなのモンスターボールを力ずくで奪ったの……?」

 

「……なんと。関わり合いにならない方がよさそうな連中ですね」

 

「そうだねトロバっち。フレア団……酷いんだねえ。どうしようかなあ、タウンマップだと次に行くのはフウジョタウンかなあ」

 

そんな話をし終えると、トロバとティエルノは次の目的地についての話をしながら去っていった。

 

「ツカっちゃんとセレナは凄いんだね! そんな悪い人よりは遥かに強いんだもん! でも無理しちゃダメだからね。じゃーねー♪」

 

フレア団の目的について考え皆の話を黙って聞いていたツカサは、そんなサナの言葉に気がついて手を振って見送っていた。

 

「ありがとう、ツカサのお陰でみんな無事だった。でもアナタに頼ってばかりでは旅の意味がなくなるよね……」

 

「セレナ……頼りきりにならなければいいんだよ。実際今回はセレナに助けられたから、工場も爆破されずに済んだんだし」

悩むセレナにそう声をかけ、一足先に工場から出ていった。

 

 

工場から出るとホログラムメールを受信、ボール工場が襲撃されたが解決したというニュースが届いていた。

 

「はぁ……グリーンさんの言っていた、俺が行く場所には必ず何かしらの悪の組織が活動してる説が信憑性を帯びてきて困るなぁ」

 

「あっ、みんな居たわよ!」

 

「ドクター!」

次の町にさっさと行こうと連絡通路へ向かっていると、センターのスタッフ達がこちらに向かってくる姿が見えた。

 

 

「うわぁ、物凄く嫌な予感がするぞ……」

 

 

そのまま皆に懇願されて一度ポケモンセンターに戻ると来賓用の部屋に通され、そのセンターの責任者やスタッフが座るように促してくる。

 

高そうなカップに入ったコーヒーにクッキーといった物まで用意されているが、手をつけず話を切り出してくるのを待っていた。

 

「……昨日の一件でこのクノエシティにもポケモンドクターを常駐させる事が決まりました」

 

「まぁ、近いと行ってもミアレからは徒歩で二時間以上かかりますし当然かと思います」

寧ろ何で今までいなかったのかを問い詰めたい気持ちで一杯だった。

 

「そこでお願いがあります」

 

「……聞ける範囲でなら」

 

「ドクターの赴任まで二週間かかると言われまして……その期間だけドクターとして、当ポケモンセンターに居ていただけませんか?」

 

「……はぁ。基本自由にさせてもらえて、電話で呼び出した時だけ行くという条件が飲めるのなら構いませんが」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「はい。後は期間中の食堂を無料で利用させてもらえれば」

 

「それはこれから用意するセンターのスタッフ証を食堂で見せれば大丈夫です。写真もトレーナーカードと同じものを使わせてもらいますので」

嬉々とした表情で告げていた。

 

周囲に待機していた者達が白衣、スタッフ証が入った吊り下げストラップ、聴診器といった必要になる物を集めに出ていく姿が見える。

 

 

「あ、それと今日の部屋の鍵を借りたいんですが」

 

「二週間の滞在用に部屋も用意させますのでご安心ください。……ああ、よかった」

 

「あーあ……」

旅が二週間も中断されて憂鬱な気持ちでいっぱいだった。

 

 

ドクターとブリーダーの実技や筆記はしっかり勉強していれば子供でも仮免許の合格は出来るもので、問題はどちらもその後の現地研修だった。

 

ドクターは機械でどうにか出来るレベルを越えたポケモンの手当てをする事が必然的に起こり、普段見慣れたポケモンの手術や酷い怪我に耐えられなくなり挫折する者が多い。

 

それにより合格者は多くても現地で篩にかけられ免許が貰える者は一握りしかおらず、更にその中で外科に進んでなる者は一人いるかいないかレベルでかなり貴重な存在。

 

 

「そう言えば、調べてみたら先生はブリーダーでもあるとか」

 

「まぁ、そうですね。必要だったのでドクターの資格と並行で勉強して取りましたよ」

かなりハードなはずの事も目的の為にがんばれていた。

 

ブリーダーは実技と筆記を合格し、現地研修でどんなポケモンの世話も嫌がらずに出来れば誰でも免許が貰えると一見楽に思える。

 

まず現地研修ではダストダスやベトベトン等の懐くまでは悪臭が酷いものから世話をさせられ、どちらも愛を持って世話をして悪臭が放たれなくなったら合格で免許が発行される。

 

それを知って即諦める者が多く、本当にポケモンへの愛が試される資格でもあった。

 

独立するにも現地研修先の責任者から許可が出てようやくであり、開業資金等の問題からそのまま研修先に留まる者が多い。

 

 

「その、現地ではどのポケモンを?」

 

「最初はベトベトン、ダストダス、クサイハナでした。三人で行ったんですけど、二人がすぐやめちゃって一人で三体を相手に世話をさせられましたよ。それからしばらく嗅覚がおかしくなったんですよねぇ……」

無茶な事を言われ、どうしようか悩んだが言われた通りに世話をしたらしい。

 

 

「それは場所が悪かったのでは? そんなまだ免許もない状態で三体も世話をさせるなんて……」

 

「冗談だったのに本当にやるなんて思わなかったと言われましたよ。お陰でブリーダーとしての太鼓判を押されて、これからもうちに居ないかって誘われましたし」

 

「若いのに凄いですね……」

 

責任者の女性は尊敬しているようだが、ただ単に従姉妹や妹分の少女に雇ってもらえないかと下心全開で本気を出した結果だから褒められたものではない。

 




師事した相手は法外な治療費を請求する凄腕の闇医者。
この闇医者は下の名前はクロオなのは確定的に明らか。

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