コーヒーとお菓子をご馳走になってから発電所を後にし、暗くなった荒野を急いでミアレへ向かっていく。
「なんだあのやたらでかい人は……」
近づいてみると三メートル近くあり思わず見上げている。
「ポケモン……花のポケモン……永遠の命を……与えられた花のポケモン」
長身すぎる男性はそう呟きながらミアレの方へと向かっていった
さっきのは何だったのかと考えながら連絡通路に到着し、再びミアレに足を踏み入れている。
「おー、帰ってきた感が半端ないな。こっち側は見てないけど」
「ツカっちゃん♪」
「ん、サナ?」
「後ろ姿を見かけたから、すごい走っちゃった! あのね! ミアレの停電復旧したんだって! カロス発電所の電気を奪っていた悪ーい人達を誰かが懲らしめたんだって!」
「へー、そうなんだ」
「そんな凄い人っていったい誰かしら?」
「さあ? 青と赤の仮面の男女とかかもよ」
「世の中にはツカっちゃんみたいに強い人がいるんだね! でね聞いて聞いて! タワーに明かりが灯るの! 行こ! ツカっちゃん、ミアレの名物なんだよ!」
「おー、それは見ないとだな」
「ほら! まっすぐ行けばプリズムタワーだからね♪」
街の中心に立つプリズムタワーに話をしながら二人で向かっている。
「ナイスタイミング♪ これから点灯するみたい」
「おー、よかった。それであのタワーの前にいるのは?」
女の子と男の子を見てサナに尋ねていた。
「あっ、シトロンさん! ミアレのジムリーダーだよ! 発明も得意で色んなマシンを作ってるの! ほらほらあの二人……! サナの友達なんだよ!」
「マジかよ。俺も友達になりたいわー」
色んなパイプが欲しいらしく下心満載で友達になりたがっていた。
「あっ! サナさん!」
「やっほー♪」
「そちらは……もしかしてチャレンジャーさん? ゴメンナサイ! もうしばらく待ってもらえますか」
「なんなら明日にしますんで平気ですよー」
「ほら、おにいちゃん」
「よーし! 準備オーケイ! 今こそサイエンスが未来を切り拓く時! プリズムタワー点灯マシン! パワーオン!!」
その言葉と共に点灯されたプリズムタワーは本当に綺麗で、ツカサも思わず感嘆の声を漏らしていた。
「こんな気持ちの時にウットリって言うんだよね……? ツカっちゃんとの思い出、また出来ちゃった♪」
「そうだねえ……」
いつのまにかサナに手を握られている事も気にならないくらい、その綺麗な光景に見惚れている。
「んんっ! ……こちらのプリズムタワーがミアレのポケモンジムになりまーす」
そう言うとジムの中に二人は入っていった。
「凄いよね、シトロンさんのマシン。サナもパズルを解いてくれるマシンをもらったけど、もったいなくて使ってないの。じゃ、ジム挑戦がんばってね♪」
「まぁ、明日がんばるよ」
そのままサナと別れるとプリズムタワー近くのポケモンセンターで部屋を借り、外に出て買ってきたガレットで腹を満たしている。
「明日はジムに行かないでそらをとぶでコボクまで行ってバトルシャトーに挑戦、その後はお洒落ってやつをしにブティックに行ってみるか」
そのままシャワーを浴びてベッドに入り、激動の一日の疲れであっという間に夢の世界へ旅立っていた。
翌朝早くに目を覚まし、カフェでコーヒーとクロワッサンを食べてから部屋に戻り出掛ける準備をして鍵を返してから外に出た。
ファイアローのそらをとぶでコボクに向かい、そのままバトルシャトーで夕方まで休憩を入れながら戦い続けている。
「うーん、いつのまにかデュークになってた。とりあえずミアレのブティックに行ってみるか」
再びミアレにそらをとぶで戻り、メゾン・ド・ポルテに入っている。
色々してかなりスタイリッシュだからか入店を許可され、男物がある二階に上がると色々と選び始めた。
黒の中折れハット、黒のジップ付きシャツ、赤のチェック柄パンツ、茶のローファーに茶のコーティングジップバッグを試着している。
「まぁ、お似合いですよ!」
「これをこのまま購入したいんですが」
「少々お待ちください……合計で五十四万円になりますね」
「端数がないのはありがたいですね。とりあえず一括で支払わせてもらいます」
札でパンパンになっている財布から無作為に五十四万を取り出し、店員に渡して支払いを済ませていた。
「い、一括……し、少々お待ちください!」
他の客もカードではなく現金で支払っている事に驚いており、店員は急いでカウンターに向かい計算をしている。
タグ切ってもらわないとなーと考えながら待っていると、計算が終わった店員と何故か接客をしていない店員達も来ていた。
「申し訳ございませんが、お客様のお名前をお願いします」
「ツカサですが」
「それではツカサ様、今後も当店をご贔屓に……こちら当店の会員証でございます。すぐにお名前を記入させて戴きますので、少々お待ちくださいませ」
「は、はぁ……あっ、ありがとうございます」
付いてきた店員達がタグを切り取っていき、着て帰る事が出来るようになっている。
着ていた服や帽子を店の袋に入れてくれ、そんなに買っていないのにVIP対応をされてそわそわしていた。
それからすぐに会員証を渡され、店から出ると店員一同にお見送りされて戸惑いながらポケモンセンターに向かっていく。
「うーん……現金で支払ったからあの対応? まぁ、いいや。かいふくのくすりにゴールドスプレーを買わないといけないし、次はしばらくないな」
お洒落をして戻ってきたツカサにジョーイさんは驚くも鍵を渡してくれて、また同じ部屋に戻っていった。
………
……
…
翌朝、準備を済ませてすぐにプリズムタワーへ向かっていった。
「タイプは電気だろうしゲッコウガ、ラプラス、ファイアロー、リザードンは出番あるかなこれ。逆にルカリオとニンフィアは酷使する事になっちゃうが」
中に入ると中央にエレベーターがあり、それに乗ると一つ上の階に着いた。
「あっ、この前のトレーナーさん! 早速挑戦に来たのね。あたしユリーカ! ジムリーダーの妹です。ではまっすぐ進んで白いパネルに乗ってください。そうするとあたしがクイズを出しますから答えてね!」
「おおっ、楽しそうな仕掛け。よし」
そのまま白いパネルに乗ると上からモニターが降りてきて何かのシルエットが映っている。
「このポケモンはなーに!?」
「え、どう見てもピ」
「1:エモンガ、2:デデンネ、3:ピカチュウ。正解と思う番号のトレーナーに話しかけてね!」
そのまま三番に向かいトレーナーを倒し、当然正解でユリーカに褒められながら次の階に向かった。
そのまま当たり前のように全問正解で天辺に到着し、シトロンとユリーカが待つライトアップされキラキラとしたステージへと歩いていく。
「あっ! 改めてよろしくお願いします」
「こちらがミアレシティジムリーダーのシトロン! いい? ミアレシティのジムリーダーだからそれなりに……ううん、かなり強いのよ!」
「ユリーカってば戦うのは僕の自慢のポケモン達だよ」
「はーい! それじゃあ二人とも凄い勝負を見せて!」
「うーん、仲が良いんだなぁ。ユリーカちゃんみたいな妹が俺も欲しかった」
気を抜くわけではないが、兄を自慢する妹の姿を見てほっこりしていた。
「ではチャレンジャーさん、お互いベストを尽くしましょう!」
「ああ。それと俺はツカサ、正々堂々戦おう」
二人の投げたボールからエモンガとニンフィアが現れ、ニンフィアはピシピシと触覚で床を叩きながらエモンガを鋭い目で見ている。
「これは……ニンフィア、ムーンフォース!」
「……♪」
「あのニンフィア……笑ってる? エモンガ、飛び回って撹乱してください!」
「エモ!」
空を飛び回り撹乱しながら高速で移動し、そのままニンフィアに電撃を放とうと一瞬止まったのが運の尽き。
その隙に触覚を使い高く跳躍して天井付近まで飛び上がると、天井を後ろ足で蹴りエモンガに突撃していく。
まさかの行動にエモンガは慌てて逃げようとするが既に遅く、突撃してきたニンフィアの触覚が巻き付けられ地に叩きつけられていた。
そしてエモンガがよろよろと立ち上がった所に追い討ちのムーンフォースが放たれ、そのままフィールドから弾き出され目を回して気絶している。
「ニンフィア先生、お疲れ様です!」
「……はっ! レアコイル、お願いします!」
凄い動きをしたニンフィアに唖然としていたシトロンはエモンガを回収するとレアコイルを場に出していた。
「なら俺はルカリオ!」
シトロンがレアコイルを出したのを見てニンフィアをボールに戻し、有利に運べるルカリオを出している。
「シトロン君、ここも一気に決めさせてもらうよ。ルカリオ、メガシンカ!」
「……!!」
「メガシンカ……!?」
「えっ、嘘!?」
兄妹揃って驚愕の表情を浮かべながら、眩い光に包まれていくルカリオを見ていた。
包まれた光を吹き飛ばしメガルカリオが現れ、ボールの中で高めていた自身の波導を一瞬で練り上げてはどうだんを放つ体勢に移っている。
「はどうだん!」
「レアコイル、エレキフィールドです!」
放たれたはどうだんを頑丈な身体で耐えたレアコイルはエレキフィールドを作り出し、足元に電気を走らせていた。
「メガルカリオ、もう一度はどうだん!」
「レアコイル、すぐに避けてください!」
放たれたはどうだんを大きく身を動かして避け、攻撃を仕掛けようとメガルカリオの方を向くが既にその場にはいなかった。
背後から凄まじい衝撃を受け地に落ちながら振り向くと、放ったはどうだんに追いつきそれを蹴った後のメガルカリオの姿が見え、レアコイルはそのまま地に落ちダウンして目を回している。
「今の動きは超格好良いわ……録画しておきたかったなぁ」
「ほえぇ……不正がないように録画してありますから、後でそのデータを渡しますね!」
同じようにメガルカリオの動きに見惚れていたユリーカがツカサの呟きに気づいて配慮してくれていた。
「レアコイル、お疲れ様です。さぁ、これが最後です。行きましょう、エレザード!」
現れたエレザードはメガルカリオを前に堂々としているように見えるが、練度の差が分かるのか足がガクガクしている。
「メガルカリオ、派手に決めよう。インファイト!」
「クァン!」
その指示を聞くと守りを捨てた攻撃の構えを取り、エレザードの懐に飛び込む為にピリピリするフィールドを走り始めた。
それを見たエレザードは襟巻きを開きエレキフィールドから電気を吸い上げ、口を大きく開くと全力で10まんボルトを放とうと狙いを定めている。
「……メガルカリオ!」
「……エレザード!」
懐に飛び込んだメガルカリオの左拳が10まんボルトが放たれる直前のエレザードの顎を下から捉え、そのまま宙に浮いたエレザードの腹に自慢の右拳を叩き込みフィールドから吹き飛ばしていた。
エレザードはそれでもよろよろと立ち上がりフィールドに戻ろうとするも、目を回し再びその場に倒れてしまった。
「……勝ったな」
「お疲れ様、エレザード……貴方達の勝負への想い、刺激されます! 閃きます!」
「あー、お兄ちゃん……負けちゃったじゃん……」
「ユリーカ、負けた事は恥ではないよ。強いチャレンジャーさん……今回はツカサさんから僕達は学べばいいんだから。さあ、勝利の記念にボルテージバッジをどうぞ!」
「これで五つ目か」
「それとこちらの技マシン……」
「はいはーい! 技マシン24、10まんボルト! 安定感あるでんきタイプの技という事で人気なの!」
「ああ! ユリーカったら……今こそサイエンスが未来を切り拓く時! 技マシンを渡すマシン! パワーオン!! って言いたかったのに……。僕はその……強さだけを求めているわけではなくて……好きな発明をしつつ、ポケモン達と過ごす毎日を精一杯楽しみたいです」
「それはいい事だと思うよ。それじゃあ、またね」
軽く挨拶をしてプリズムタワーを出るとホロメールが届き、それを確認している。
『やー。ちょっと話したいからさフラダリカフェに来てくれるかな? 場所はわかる? プリズムタワーに一番近いポケモンセンターがあるんだけど、そこから見える赤いカフェね。じゃあよろしくね!』
「……プラターヌ博士、何の話があるんだろう?」
そのままフラダリカフェに向かい中に入るとプラターヌとフラダリが待っていた。
「ツカサ、こっちこっち! 君が調べたメガシンカの事、フラダリさんと話し合っていたのさ」
「私からもおめでとう。メガシンカを使えるとは私もあやかりたいものです」
「フラダリさん、ありがとうございます」
色々怪しんではいるが素直に礼は言うらしい。
「そういうフラダリさんこそ王家に連なる者の子孫……選ばれし者なんだよね」
「ええ! 王の弟、その血を引くようです。とはいえ三千年も昔の話ですから怪しいものです」
「そういえばツカサ、ホロキャスターをどこで作っているか知ってる?」
「え? あ、はい。えっと、確かフラダリさんのラボでと聞いていますが」
唐突に話を振られて驚きながらも答えている。
「そう! フラダリさんのラボなんだよね。ホロキャスターで得た利益の幾らかで、トレーナーやポケモン研究所をサポートするフラダリさんは立派だよ」
「私は与える存在になりたい。だが世の中には奪う事で自分の強さを示そうとする、愚かな人間も存在する……汚らわしい!」
「……」
ツカサはフラダリを冷静に見極めようとしていた。
「大昔……カロスの王は全てを手に入れようとして、とんでもない兵器を造り破壊の炎を放った……そう伝わっております。今のカロスは美しい! これ以上人やポケモンが増えなければ、奪い合うような愚かな事はないでしょう。とはいえ未来は決まっていない。同じ明日が来るなんて安心をしてはいられないのです。カロスの王がした事で誉められる事と言えば、最終兵器でその時代の穢れも吹き飛ばした事ぐらいか」
「これは?」
そう言い終えるとフラダリが目の前に立ち、おうじゃのしるしを手渡してきて尋ねている。
「聞いてくれてありがとう。それは君の時間を頂いたお詫びだよ」
鞄にしまうとそのまま立ち去るフラダリを見送り、プラターヌの方に向き直った。
「なんと熱い人だ、まるで燃え盛る炎だね。とはいえフラダリさんの言う事はあくまでも一つの考え……正しいとは限らないからね」
「それはまぁ……そうですよね」
「ツカサ! 大事なのは誰と一緒の時間を過ごすかだよ。ポケモン達とカロスを巡る旅を大切にするんだよー!」
「はい!」
プラターヌと別れてフラダリカフェから出て歩いていると、再びホロメールが届いた。
トロバからのもので十四番道路に集まろうという事らしく、今回は時間もかけず大人しく向かう事にしている。